「アクセル、待った?」
そう聞いてくるクーデリアに、俺は笑みを浮かべて口を開く。
「今来たところだよ。……これ、本当にやる必要があったのか?」
このやり取りは、今日のデートをやる上でクーデリアが要望してきたものだ。
クーデリアにしてみれば、こういうやり取りを楽しみたかったのだろう。
「あら、いいじゃない。このくらいの事は」
「まぁ……クーデリアがそれを希望するのなら、別に構わないけどな」
今日のデートは、俺が長期間歳星に行っていたのが理由だ。
まぁ、俺にとってもこのデートは決して悪い事ではない。
何しろクーデリアが言うように、本当に久しぶりのデートなのだから。
「でしょう? ほら、じゃあ行きましょう? アクセルがいない間に、色々とクリュセも変わったのよ」
嬉しそうに笑みを浮かべてそう告げるクーデリア。
クリュセは、アーブラウの植民地……だった場所だ。
蒔苗との交渉の結果、一応所属はまだアーブラウではあるが、以前よりもかなりの自由度が上げられている。
……それをもたらしたのがクーデリアなんだが、そのクーデリアの父親でクリュセの代表首相はどう思っているんだろうな。
一度は娘をギャラルホルンに売り渡そうとしたのに、その娘がクリュセの自由度を今まで以上に上げた。
これはもう、クーデリアに頭が上がらないどころの騒ぎではないと思う。
もっとも、クーデリアにその話をすれば微妙な表情になるので、それを口にするつもりはなかったが。
「なら、どこに行く? どこかお勧めの場所はあるか? 俺は最近のクリュセは知らないから、今日のデートコースはクーデリアに任せる」
「そうですね。普通ならこういうデートでは男が女をエスコートするものですが……たまにはそういうのもいいでしょう」
そう言うクーデリアだったが、恐らく最初からその積もりだったのは表情を見れば明らかだ。
恐らく……本当に恐らくだが、フミタン辺りから色々と吹き込まれているのだろう。
もっとも、フミタンが男女間の関係に詳しいとは思えないが。
フミタンは無表情ではあるが、美人と評しても間違いない。
そして匂い立つような男好きのする身体をしている。
普通ならそういう女はかなりモテるのだが……フミタンがクーデリア命で、男に興味ないんだよな。
特にノブリスを切り捨ててからのフミタンは、完全にクーデリア一筋となっている。
まぁ、それは別に悪い事ではない。
フミタンは基本的に優秀な人材だし、クーデリアの為ならどんな事でもやるだろう。
そういう意味では、フミタンがクーデリアの側にいるのは俺としても大歓迎なのだが……ただ、その優秀さは男女関係にも及んでいるかと言えば、それは否だ。
うん。どういうデートになるのかは分からないが、クーデリアが少しトンチンカンな事をしても気にしないようにしておこう。
そんな風に思っていると、俺の手を引っ張りながら歩いていたクーデリアがとある店を指さす。
「ほら、アクセル。あのお店が人気らしいですよ」
「そうなのか? ……うん? 何か見覚えがあるような、ないような……」
クーデリアが指さした店は、どこか見覚えがあった。
いや、けど俺はこういう店には……
「あ」
そこまで考え、思い出す。
歳星にいた時、ラフタと一緒に行った小物屋だ。
店の名前も同じなのだし、恐らく支店なのだろう。
考えてみれば不思議な事でもない。
俺はマクマードに、火星に投資をするように頼んだ。
そうなると、マクマード以外の者達もマクマードが動いたのならということで、火星に投資をしたり支店を出したりしてもおかしくはないのだから。
この小物屋も、恐らくそういう流れで火星に支店を出したのだろう。
「アクセル? どうしたの?」
クーデリアの言葉に何でもないと首を横に振る。
俺に楽しんで貰おうと思って、クーデリアが選んだデートコースだ。
であれば、わざわざそれを言うようなことでもないだろう。
「いや、何でもない。じゃあ、中に入るか。……というか、こういう店ってデートで入るような場所なのか?」
「人気店らしいし、いいんじゃない?」
そんな会話を交わしながら、店の中に入る。
へぇ……支店だろうと思っていたけど、歳星にある店よりも大きいな。
大きい分、品揃えも歳星の店よりも充実している……と思う。
あまりこういう小物とかには興味がないので、実際にはどうなのか分からないが。
ただ、店が広いという事は当然ながら多くの商品を置けるという事になる。
そういう意味では、俺の考えはそんなに間違っていない……筈だ。
そんな風に思いながら、店の中にいる客を見回す。
するとそこには、俺にとってはちょっと予想外だったことにそれなりに多くの男の姿があった。
勿論それは、男1人で来ているという訳ではない。
俺とクーデリアのように、恋人……あるいは夫婦、もしくは友人以上恋人未満、もしくは単純に異性の友人といった者達がいる。
つまり、男もかなりこの小物屋にいるということになる。
正直なところ、これは驚き以外のなにものでもなかった。
別に男が小物屋に来てはいけないという訳ではない。
ないのだが、そでもこうして見る限りでは驚きでしかなかったのも事実。
「どうしたの、アクセル?」
俺の様子に疑問を抱いたのか、そうクーデリアが聞いてくる。
一体何に驚いているのか、全く理解出来ないといった様子で。
「いや、俺が思った以上に人の数が多かったからな。それで驚いただけだよ」
「そうなの? 私が聞いた話だと、これくらいは普通らしいけど。それにどこと比べて男の人が多いと感じたのかしら」
「あー……色々な場所とだよ」
別にこの店が歳星にある小物屋の支店であると言ってもいいのだが、クーデリアの事を考えれば、それは止めておいた方がいいだろう。
そう思っていたのだが……
「あら、お客さん……」
不意にそう声を掛けられる。
明らかに俺に向けての声だったので、そちらに視線を向けると……
「あ」
その人物を見て、思わず俺の口からそんな声が出る。
何故なら、俺に声を掛けてきたのはこの店の店員……というだけではなく、歳星にある店にラフタと一緒に行った時にいた店員だったからだ。
普通なら、店員について全てを覚えているということはないだろう。
だが、ラフタが小物屋でかなりお気に入りのぬいぐるみを見つけたらしく、それに手を伸ばしたところで他の客も同時に手を伸ばし、結局ちょっとした騒動になった。
その時、その場にいた店員が、この店員だったのだ。
そんな訳で、この店員も俺について覚えていたのだろう。
……ただ、やはり小物店の店員であるという事から、俺はあくまでもラフタと一緒に店に来た男としか認識しておらず、テイワズと同格という扱いになっているシャドウミラーの代表だというのは知らないらしい。
まぁ、そういうのに興味がない者もいるだろうから、それは別におかしくはないが。
クーデリアも簡単ではあるが変装しているので、革命の乙女と知られるような事はない。
「やっぱり、あの時の……今日は違う女性と一緒なんですね」
「ふーん……」
店員の言葉に、クーデリアは意味ありげな視線を向けてくる。
もっとも、クーデリアは俺がマーベルやシーラと付き合ってるのを知っている。
……実際には今の言葉はラフタの事なのだが。
ともあれ、そんな訳で微妙な感じになりながらも、小物屋の中を見て回る。
「このお店、知ってたのね」
「歳星にあったからな。もっとも、歳星にあったのはここよりも小さかったけど。それにさっきも言ったが、ここまで男の客が多いとは思わなかった」
そうして会話をしながら小物屋を見て回り、幾つかの小物を買う。
その中でもクーデリアが特に気に入ったのは、小さな……掌程の大きさのぬいぐるみだ。
何て表現すればいいんだろうな。……こういうのがブサカワっていうのか?
ともあれ、小物屋での買い物を終えると、次に向かったのは服屋。
……個人的にはファッションとかにはあまり興味がないのだが、クーデリアが考えたデートコースである以上、断る訳にもいかない。
もっとも、その店で見たクーデリアのファッションショーは悪くなかったが。
ただ、当然ながらクーデリアの正体が知られると不味いので、ファッションショーは試着室の中で行われた。
それが終わると昼が近かったので、クーデリアお勧めの店で食事をする。
火星……どうせならナデシコ世界の火星丼とか流行らせてみても面白いかもしれないな。
もっとも、文字通りの意味で世界そのものが違う以上、それがこの世界で受けるかどうかはまた別の話だったが。
午後からは、公園でゆっくりとする。
「たまにはこういうのもいいでしょう?」
「そうだな」
どうせなら公園でクーデリアが作ってきた弁当を食べるというのでもよかったのだが、クーデリアの料理の腕はちょっとな。
料理が下手……味付けが驚異というか脅威な訳ではない。
単純にクーデリアは料理をした経験は殆どないので、そちら方面では初心者だという事だ。
元々クーデリアは代表首相の娘として上流階級で暮らしてきた。
そういう生まれだと、基本的に料理をする機会はない。
そして成長してからは、革命の乙女として活動を始め、料理とかそういうのをしているような余裕はなくなったし。
そして今はアドモス商会を率いる社長として忙しく、料理をしている余裕はない。
「見て下さい、アクセル。……子供達が嬉しそうに走り回っています。これは、私が夢見た光景なんですよ」
その言葉にクーデリアの視線を追うと、そこでは小さな子供……5歳くらいか? そのくらいの子供達が嬉しそうに公園を走り回っている。
なるほど、クーデリアが夢見た光景だと言われても納得出来るな。
もっとも、この公園でこうして遊んでいるという事は、それなりに裕福な家庭……上流階級とまではいかないが、中流階級くらいの家の子供なのだろう。
オルガ達が生まれ育ったスラム街の住人には、まだこの公園で遊べるような余裕はない。
それでもクーデリアの行動によって火星……特にアーブラウと関係の深いクリュセには金が回るようになり、スラム街の住人も以前程厳しくはなくなった。
そんな風に思っていると自然と時間が流れ、夕方になる。
「そろそろ帰るか?」
夕日に照らされる公園を見ながらそう言うと、クーデリアは沈黙する。
どうしたのかと、そちらに視線を向けると……クーデリアは、夕日が当たっている関係もあるのか、顔を真っ赤にしながら口を開く。
「その……今日はアクセルと泊まることになっています」
「……なっています?」
「はい。先生……シーラさんやマーベルさんに前もって説明してありますので」
その言葉に、今日のデートに向かう時、マーベルやシーラ達が笑みを浮かべていた理由を理解するのだった。
そしてクーデリアがこうして覚悟を決めている以上、俺にそれを断るという選択肢はない。
「分かった。……ちょっと早いけど、どこかの店で夕食を食べてからホテルに行くか?」
「いえその、ホテルに部屋を取っていますので」
そう言うクーデリアの顔は先程までと違って夕日以上に顔が真っ赤になっているのだった。
「……その……」
ホテルのレストランで夕食を食べた後、俺達は早速部屋に来た。
そして俺が先にシャワーを浴びて待っていたところに、こちらもシャワーを浴び終わったクーデリアが姿を現す。
その男好きのする身体はバスタオルに包まれており、恥ずかしそうにしている。
そんな仕草が余計に劣情を刺激するのだが、本人は分かっていないらしい。
もし分かっていた上でこういう風にしてるのなら、それはそれで……
「こっちに」
そう言い、手を出すとクーデリアは俺の方に近付いてくる。
そして俺の前にやって来ると、意を決したように纏っていたバスタオルを床に落とす。
ふぁさり、と。
そんな音と共に床に落ちるバスタオル。
それによって、クーデリアの美しい裸体が俺の前に広がる。
「その……電気を消してくれる?」
勿体ない。
そう思ったが、クーデリアが恥ずかしそうにしてるのを見れば、そのままにもしてはおけない。
電気を小さな明かりに変えて、俺はクーデリアを抱き寄せ、唇を重ねる。
そのまま数分……息の上がってきたクーデリアをベッドに寝かせると、初めての行為に動けなくなっているクーデリアの緊張を解すように丁寧に、丁寧に行為を重ねていく。
最初は緊張して何が起きているのか分からなかった様子のクーデリアだったが、緊張が解れるに連れてその口から喘ぎ声が漏れ始めた。
その声音が、余計に俺の興奮を刺激する。
そして十分に準備が整ったところで、俺はクーデリアを見る。
何も言わなくても、俺が何を言いたいのかを理解したのだろう。
羞恥か快楽か、顔を真っ赤に染めながら頷く。
そんなクーデリアに唇を重ねながら、俺はクーデリアと1つになり……
バギン、と。
その瞬間、俺の中で何かが……いや、呪いが壊れる音が響き渡るのだった。