「……まさかな」
呟きつつ、俺は横で眠っているクーデリアに視線を向ける。
シーツで隠されているその女らしい身体は、呼吸と共にゆっくりと動いているのが見える。
そんなクーデリアを見つつ、俺は自分を褒める。
クーデリアと本当の意味で結ばれた瞬間、俺の呪いが完全に解呪された。
それが本能的に理解出来たのだ。
シーラが言っていた、最後の一線が魔力だけでどうにかするのは難しいというのは聞いていた。
だが……まさか、クーデリアを抱く事によってその最後の一線をクリア出来たのはかなり予想外。
それを理解した上で、行為を止めなかった自分を褒めてやりたい。
クーデリアにしてみれば、今日は一生に1度の記念日だ。
それを考えれば、クーデリアの事を最優先にしてもおかしくはないだろう。
ともあれ、クーデリアは痛みと快楽と満足感と……その他諸々もあり、疲れ切り、今はぐっすりと眠っている。
その為、今は呪いについて考える時間は十分にある。
「一体何を考えてこういう……いやまぁ、考えてみればそんなにおかしな話ではないのか?」
魔術にしろ、呪術にしろ、そういうのに処女の生き血だったり、髪の毛だったり、そういうのが強い効果を発揮するというのは何かで聞いたか見たかした覚えがある。
だとすれば、伊耶那美大神が死の間際に自分の命を使って俺に掛けた呪いが、クーデリアを初めて抱いたという事で、最後の一線をどうにか出来たとしても、おかしくはない。
おかしくはないが……もし俺がクーデリアとそういう関係にならなかったり、あるいはもしなってもクーデリアが初めてじゃなかったらどうなっていたんだ?
あるいは、処女かどうかというのは関係なく、この世界の女を抱くのが呪いの解除の最後のピースになっていた……いや、ないな。
伊耶那美大神の俺に対する憎悪を思えば、そんな簡単な条件にはしないだろう。
寧ろ呪いを解除する条件を用意していたという方が、驚きではあった。
もっとも、伊耶那美大神にしてみれば、そうするしかなかったのかもしれないが。
例えば俺を呪う上で、何らかの解除方法を設定しないと呪いが発動しないとか、あるいは当初の予定通りの呪いにならないとか。
「ともあれ、呪いが解除されたのは間違いない。……これは大きな進展だな」
正直なところ、出来れば今すぐにでもゲートを設置してホワイトスターに無事を知らせたい。
知らせたいのだが、今日はクーデリアとのデートで、初めて結ばれた日でもある。
そんな記念日なのに、クーデリアが起きたら俺がいない……どころか、ホワイトスターにいるレモンを始めとした別の女達に会いに行ったと知れば、どうなるか。
悲しむか、怒るか。
どちらにせよ、ろくな事にはならないだろうし、それが原因で後々まで問題になる可能性がある。
そうである以上、俺はこのベッドから出るつもりはなかった。
どのみち、明日から忙しくなるのは間違いない。
……あ、そう言えば呪いが解除されてゲートが正常に動くようになったという事は、スキップジャック級やハーフビーク級を技術班に調べて貰えるのか。
わざわざ歳星まで行った意味がなかったな。
いやまぁ、極論を言えば今日の……いや、時間的にもう昨日か? とにかくこうしてクーデリアが俺をデートに誘ったのは、俺が長い間歳星にいたからだと考えれば、決して悪くはない。
それに獅電や辟邪といった新型のMSを貰う事も出来たし。
唯一の難点としては、ジャスレイの尻尾を掴めなかった事か。
歳星の近くで海賊に襲撃されたのも、恐らくは裏にジャスレイがいるだろうとは思うのだが、状況証拠にもならない、俺の勘だけじゃな。
これで何かジャスレイ……もしくはJPTトラストとの繋がりとなる書類なり何なりが見つかればよかったのだが、それもなかったしな。
とはいえ、ゲートが正常に動くようになった以上、テイワズとの関係もまた変わる。
いや、正確には今まではマクマードがシャドウミラー……分かりにくいから火星支部でいいか。その火星支部をテイワズと同等の組織であると言っていたものの、それはあくまでもマクマードが言っていただけだ。
勿論、マクギリスやラスタル達のように、俺達が強者だと知っていればマクマードの言葉にも説得力があるだろう。
だが、表面的な情報しか知らない場合は、俺がマクマードに取り入ってそのように言わせてるとか、そういう風に思ってもおかしくはない。
しかしホワイトスターと繋がった以上、堂々と行動出来る訳だ。
そうなると……あ、いや。でもちょっと待てよ?
今の状況……ホワイトスターがない状況であっても、ラスタルはマクギリス達と正面から戦うのは今のところ控えている。
勿論何らかの切っ掛けがあれば話は別だが、その切っ掛けも出来る限りないようにしてる訳で。
そんな中でゲートが起動し、ホワイトスターと繋がった……つまり異世界の存在を露わにしたらどうなるか。
シャドウミラーの火星支部があるだけでどうしようもないと考えている中、シャドウミラーの本部と繋がったら、それこそラスタルはマクギリスとの衝突を避けるようになるだろう。
人道的に考えればそれもいいのかもしれない。
人が死なないのだから。
だが、そうなるとギャラルホルンにはラスタルの派閥とマクギリスの派閥の2つが依然として残ったままになる。
そうなると、ギャラルホルン内部での色々と面倒があるのは間違いない。
ラスタルが派閥を解体してマクギリスの下につくのなら、問題はない。
問題はないが……それはまず無理だろう。
ラスタルも今まで築いてきた立場があるし、部下もいる。
そうである以上、マクギリスの下につきたいと思っても、それを認めない者が多い。
となると……やっぱり内乱は起こした方がいいのか?
そうなると、ホワイトスターとのゲートについては大っぴらにしない方がいいか。
幸いな事に、ギャラルホルンの火星支部を率いているのはマクギリスの派閥だし、その部下も大半がマクギリスの派閥だ。
だが、ラスタルの派閥がいない訳ではないだろうし、ラスタルがスパイを送り込んでいるという可能性も十分にある。
うーん……こうして改めて考えると、ゲートであったり異世界の存在であったり、そういう件については公表しない方がいいのか?
鉄華団とシャドウミラーはかなり近いし、頻繁に行き来がある以上、隠しようがないので話す必要はあるだろうが。
名瀬は……どうだろうな。
名瀬やマクマードなら特に問題はないと思う。
だが、ジャスレイがいるのがちょっとな。
これでジャスレイが無能ならどうとでもなるんだが、テイワズのNo.2だけあって決して無能という訳ではない。
それは歳星の近くで海賊に襲われたとか、それ以外にも状況証拠的にジャスレイの仕業としか思えないのに、決定的な証拠を残していないのがジャスレイの有能さを示している。
……本人は見るからに小物っぽい奴なんだけどな。
外見と能力は関係ないという事か。
ともあれ、名瀬については後で……エザリアとかに聞いて決めるとしよう。
そんな風に考えていると、やがて眠気に襲われ……そのまま眠りに落ちていくのだった。
目が覚めていく。
意識が底から上がっていくような感覚と共に目が覚めると……
「あ」
クーデリアの口からそんな声が出る。
起きた瞬間に俺と目が合ったという事は、多分俺の寝顔を見ていたのだろう。
……女は寝顔を観られるのを好まないものの、俺は特にその辺は気にしない。
そんな訳で、俺をじっと見ていたクーデリアと数秒見つめ合い……
「その、おはようアクセル」
そう言い、唇を重ねてくる。
重ねられたクーデリアの唇の感触を楽しみつつ、このまま手を伸ばし、朝からもう1度……というのを何とか我慢して、クーデリアが離れたところで口を開く。
「時間はいいのか?」
「その……フミタンから、今日は午後から出てくればいいって言われてるから」
「そうか。ならもう少しゆっくり出来るな」
「……そうね」
ゆっくりという言葉で何を想像したのか、クーデリアはシーツで身体を隠し、頬を赤くしながらそう言う。
「取りあえず、色々と話したい事もあるし……シャワーを浴びるか。この状態だと、ちょっと話をするつもりにもなれないし」
ベッドは色々な意味で酷い状態だ。
血やそれ以外にも諸々の液体によって。
そんな訳で、俺とクーデリアはそれぞれシャワーを浴びる事にする。
このホテルはそういうホテルではないので、シャワー室の中が見えたりとか、そういう事はないのが少しだけ残念だったが。
少し歩きにくそうにしながらシャワー室に向かうクーデリアを眺めつつ、俺は今日の予定について考える。
取りあえず解呪は出来た。
つまり、これでいつでもゲートを設置出来る訳だ。
いや、正確にはゲートの設置は以前から出来ていたけど、呪いによってホワイトスターと繋がらなくなっていたというのが正しい。
ともあれ、解呪してホワイトスターに行けるようになった今、ゲートの設置は必須だ。
ただ、その前にシーラとマーベルに……特にシーラには解呪で助けて貰ったので、話しておく必要があるだろう。
それを抜きにしても、俺の恋人でもある2人だ。
ホワイトスターにいるレモン達と会いたいと思うのは間違いないだろうし。
……これで、内気な性格であれば、多くの恋人と顔を合わせたいとは思わないだろうが、マーベルにしろシーラにしろ、そういう性格じゃないしな。
そんな訳で、それこそ場合によっては今日のうちにでもホワイトスターに行きたいと言うだろう。
クーデリアは……クーデリアは、うーん、どうだろうな。
今日の仕事は午後からって事だったけど、もしホワイトスターに行くのなら、最低でも今日1日は潰れる。
あ、いや。でも魔法球の中に入ればそうでもないのか?
それに時の指輪の受信機も渡さないといけないしな。
そんな風に考えていると、シャワーを浴び終わったクーデリアがシャワー室から出てくる。
昨日のようにバスタオル……ではなく、バスローブ? を着ていた。
つまり昨日は、俺を興奮させる為にバスタオルだったのかもしれないな。
それを言うと、クーデリアがどういう反応をするのか分からないので、ちょっと止めておくが。
「その……アクセルもどうぞ」
やはり色々と照れ臭いのか、もしくはシャワーから上がったばかりだからなのか、頬を薄らと赤くしてそう言ってくるクーデリア。
そのクーデリアの言葉に頷くと、俺もシャワーに入る。
ちなみに時計を見たところ、クーデリアは30分くらいシャワーに入っていたようだった。
シャワーに入る時間としては長いと思うけど、髪の毛とかもしっかりと、念入りに洗う必要があったし、それを考えれば多分早い方なのだろう。
そんなクーデリアと比べると、俺は10分程度でシャワーから上がる。
一瞬……本当に一瞬だけ、昨日のクーデリアのように身体にバスタオルだけを巻いて出ようかと思ったが、そうなるとクーデリアがどう反応するか分からず、会話をするのにも時間が掛かりそうなので、それは止めておく。
バスローブを着て部屋に戻ると、そこでは部屋の中にある冷蔵庫から出した飲み物……まさかこの時間からアルコールじゃないだろうし、お茶かスポーツ飲料か、あるいはジュースか水か。
ともあれ、ベッドから放たれた場所……窓の側にあるソファに座っているクーデリアに近付いていく。
「待たせたか?」
「あら、ここは今来たところよって言えばいいのかしら?」
昨日の待ち合わせの時のようなやり取りをしながら、俺は空間倉庫から取り出した缶紅茶を開けて口に運ぶ。
シャワーに入っていたのは10分くらいだったが、それでも冷たい缶紅茶は美味いな。
そうして缶紅茶を楽しんでいると、クーデリアがジト目を向けてくる。
「……飲むか?」
そう言うと、あっさりと缶紅茶を受け取り、口に運ぶ。
上流階級出身のクーデリアにしてみれば、缶紅茶はそこまで美味いものでもないだろうに。
それでも、嬉しそうに、そして美味そうに飲むクーデリア。
喉が動く様子が艶めかしい。
とはいえ、本人は無意識でやってるようだったが。
「ふぅ。……それで? 何か話があるのでしょう?」
「……よく分かったな」
「アクセルの様子を見てれば分かるわよ」
そんなに分かりやすいか?
そう思いつつ、俺は口を開く。
「そうだな、まずは何から話すか……まぁ、回りくどく言っても意味がないだろうし、単刀直入にでいいか。クーデリアは俺が呪われているのは知ってるよな?」
「ええ。……もしかして、呪いで何かあったの? 呪いが強くなったとか?」
「いや、その逆だ。元々俺が魔力を使って解呪しようとしていたし、それが功を奏してもう少しで解呪というところまではいったんだが、シーラ曰く最後の一線……本当に呪いの最後の最後は魔力だけでどうにかするのは難しいという事だった」
「……でも、解除出来たのよね? それって……っ!?」
自分で言っていて、思い当たることがあった為だろう。
クーデリアの顔は真っ赤に染まっていくのだった。