「……そう、なるほど。アクセルの解呪が出来たのは良いことだと思います」
そう言いながら、シーラは顔を赤くしているクーデリアに視線を向ける。
マーベルもまた、どこか呆れたような……それでいて面白そうな笑みを浮かべて俺とクーデリアを見ていた。
ホテルでクーデリアを抱いた事が解呪された理由だと話してから、既に1時間程は経過している。
だが、それでもクーデリアはまだ顔が赤いままだ。
クーデリアにしてみれば、自分の初めてで俺の呪いが解けたというのは、嬉しいと思うと同時にやはり恥ずかしさもあるのだろう。
「それで、だな。呪いが解けた以上はゲートを設置してホワイトスターに一度戻りたいと思う」
「……アクセルの気持ちを考えれば、それはおかしな話ではないでしょう。ですが、当然私達も一緒に行けるのですよね?」
「勿論私も行くわよ」
シーラが当然のように自分もホワイトスターに行くと言い、それにマーベルも続く。
「私も……えっと、その、行きたいのですが、午後から仕事が……」
クーデリアは続いて自分もと言いたい様子だったがものの、困った様子だ。
実際、フミタンや秘書の……何だったか。ククビータ? 確かそんな名前だったと思うが、そっちからも午後からは仕事に来るようには言われているのだろう。
そして今の時間が、午前10時くらい。
後2時間でホワイトスターに行って色々な説明を付けたりとか、そういうのは難しいだろう。
それにゲートの件について……より正確には俺が異世界の存在で、ゲートを使えば異世界と行き来出来るというのを、どの辺まで話したらいいのかもまだ決めてないし。
クーデリアにしてみれば、異世界……ホワイトスターと自由に行き来が出来るようになるというのは、火星の発展という意味ではこれ以上ない福音だろう。
それは俺も否定しない。
否定しないが、ラスタルがそれを知ったら内乱が起きないかもしれないと考えると、取りあえず内乱が起こるまでは大々的に発表するのは控えた方がいいだろう。
「フミタンは俺が異世界から来たのを知ってるが、ククビータとかいう女は知らないんだよな? そうなると、今はまだこの件は大々的に知らせたくはない」
「……そう、ですね。アクセルの心配も分かります」
一応、ホテルでその辺についての話はしてある。
なので、クーデリアはゲートやホワイトスターについて、今はまだ大々的に公表しないというのには納得している。
もっともそれはあくまでも今で、時期が来たら公表して火星の経済発展に協力するというのは約束している。
クーデリアが納得しているのは、その辺の理由もあるのだろう。
「そうすると、どうする? クーデリアは今日はホワイトスターに行かないか?」
「それは嫌です」
きっぱりとそう言うクーデリアは、一歩も退く様子はない。
「そうなると……取りあえず、フミタンに今日は仕事にいけないと連絡をした方がいいんじゃないか? 仕事がある以上、本来ならそれを明日に回すというのは難しいかもしれないが」
ただ、今日の昼までは仕事がないというのを考えると、午後の仕事もそこまで多くはない……といいなぁ、とは思うが。
「そうですね。……少しアドモス商会に連絡を入れてきます。通信機を貸して貰えますか?」
「ああ、構わない」
そう言うと、クーデリアは部屋を出ていく。
部屋に残ったのは、俺とマーベルとシーラ。
「それで、アクセル。ゲートを設置するという話だったけど、どこに設置するの?」
「やっぱりこの拠点の近くだな。下手に離れた場所に置くと、それを目当てに余計なちょっかいを掛けてくる奴もいるだろうし」
現在の火星は落ち着いている。
落ち着いているが、それはあくまでもクリュセを中心としたアーブラウと関係のある地域だけだ。
その地域にしても、俺達以外にも幾つものPMCが存在するのは間違いなく、そのような連中は自分達の稼ぎを少しでも上げる為にシャドウミラーや鉄華団にちょっかいを出してこないとも限らない。
だからこそ、ゲートを守りやすいようにする為にこの拠点の側に設置する必要があった。
「それと、アクセルの拠点であるホワイトスターに戻るのなら、シャドウミラーにいる人達にも説明をする必要はあるでしょう。後は鉄華団とタービンズ……いえ、テイワズはどうするのですか?」
シーラのその問いに、少し考えてから口を開く。
「鉄華団には隠しておけないだろう。昭弘を始めとして、それなりにここに来る奴も多いし。それに違う会社ではあるが、連携して仕事をしたりする事も多いしな。取りあえず全員とは言わずとも、幹部達には説明をしておく必要がある」
「そうなると、魔法使いの話についても説明する必要があるわよ?」
「だろうな。マーベルの言う通り、ゲートが使えるようになった以上、その辺についても説明する必要がある」
現在の俺達……俺とマーベルとシーラの3人は、地球の辺境というか、秘境で生まれ育った事になっている。
特に俺が使う魔法は、魔法使いの存在も考えると、実はそういう集団がいたとか、そういう説明をする必要があったのだ。
当時は呪いの件もあってゲートとかを使えなかったし、その状況で異世界から来たとか言っても決して信じて貰えず、面倒な事になるだけだと思っていたし。
だからこそ、解呪が出来た今となっては異世界の説明も出来るので、実は異世界から来ましたという事を話してもいい訳だ。
……それを聞いたオルガとかがどう反応するのかはちょっと分からないが。
騙していたなと怒るか、そういう事なら仕方がないと納得するか、もしくは特に気にしないか。
正直なところ、その辺りは分からない。
分からないが、それでも最悪の結果については考えておくべきだろう。
特にオルガは義理や人情を大事にする。
そういう意味では、俺の行為はある意味で裏切りと認識されてもおかしくはないのだから。
「どうするの? すぐに知らせる?」
「いや、今日はマーベル達が来るんだろう? なら、明日以降だな。……あるいは明後日以降になるかもしれないが」
狛治から聞いた話によれば、時間の流れはこっちの方が早い。
それでもこのオルフェンズ世界において結構な時間が経っているのを思えば、それなりの時間は向こうでも流れている筈だ。
そうなると、俺も一家団欒はしたい。
……それに俺がペルソナ世界での戦いの最後の最後で世界から追放されたという事で、美鶴やゆかり、他にもあの場にいた多くの者達が心配しているだろうし。
狛治経由で連絡をして、大丈夫だというのは知らせていた。
そういう意味では、最悪の結果という事にはならない。
だが、それでもやはり俺が普通では考えられない手段でいなくなったのは間違いない以上、心配をするのは間違いないだろう。
そんな諸々の対応を行うと、それこそ今日は勿論、明日も難しい。最悪、鉄華団に知らせるのは数日後になってもおかしくはなかった。
「それは仕方がないでしょうね。……あら」
マーベルが扉に視線を向ける。
俺も気配で気が付いていたので、扉が開いてそこからクーデリアが入ってきても、特に驚くような事はない。
「取りあえず、今日1日の休暇は貰えました。幸い、今日は急いで行う仕事はありませんでしたので。……ただ、明日は他の会社の社長との面会が入っていますので、休む事は出来ません。私の都合で会社に損害を与える訳にもいかないでしょうし」
「その辺は心配するな。取りあえず今日だけでどうにもならなくても、別にずっとホワイトスターにいなければならないって訳でもない。時間のある時にホワイトスターに顔を出してもいいしな」
魔法球を使えば、ある程度の時間的な余裕はあるし。
ただ、魔法球を使う以上はこれを渡しておかないといけないか。
そう考え、俺はテーブルの上に3つの指輪を取り出す。
……ただし、これは時の指輪ではなく、それを模した受信機だ。
何だかんだと恋人が多く、本物の時の指輪のストックが……
一応、フェイトに探して貰ってはいるものの、時の指輪は身に付けていれば不老になれるという、かなり希少なマジックアイテムだ。
それだけに、ネギま世界でもそう簡単に見つかる物じゃないんだよな。
なので、今は時の指輪とそっくりの形にした受信機を渡す事しか出来ない。
「これは?」
3人を代表して尋ねるシーラ。
他の2人も期待の視線を俺に向けている。
「これは時の指輪……正確には、その受信機だ。ゲートを設置してこの指輪をしていれば、ゲートのある場所では不老になれる」
不老という言葉に、3人が揃って反応する。
女にとって、年齢というのは大きな意味を持つ。
もっとも蒔苗の例を見れば分かるように、このオルフェンズ世界においては寿命を延ばす技術はかなり発展している。
それだけに……いや、それだからこそなのか、クーデリアの目には強い驚きの色があった。
「話したかどうか忘れたが、俺は人間ではなく混沌精霊だ。寿命も当然のようにないも同然となっている。……まぁ、この受信機にも言える事だが、あくまでもこれは不老であって不老不死じゃない。年は取らないが、怪我とかそういうのでは普通に死ぬから注意しろ」
そう言いながらも、ホワイトスターと行き来出来るようになれば、この3人……あるいはクーデリアの場合はフミタンもいるので4人になるかもしれないが、とにかくエヴァの訓練を受けることになるだろう。
魔力や気を使えるようになり、エヴァの訓練を受ければ、そうそう死ぬような事はない。
もっとも、魔力や気はそう簡単に使えるようになる筈もなく、魔法球が必須となる。
そして魔法球を使う上で、時の指輪の受信機も必須となるのだが。
「分かったわ。……アクセル、この受信機というのを貰えるのは、私達だけなの?」
クーデリアのその問いが何を意味してるのかは、俺にもすぐに分かった。
「フミタンか」
クーデリアが小さい頃から一緒にいたフミタン。
実はノブリスが送ってきたスパイではあったのだが、今のフミタンはそのノブリスを切り捨て、クーデリア一筋となっている。
それだけに、クーデリアも不老になるのならフミタンもと、そう考えてもおかしくはない。
「それは問題ないぞ。ただ、指輪型じゃなくて他のシャドウミラーの面々が使っているのと同じタイプの受信機になるが。具体的には、ネックレスとか腕輪とか、そういうのだな」
基本的にシャドウミラーに所属する者には無条件で与えている物なので、問題はない。
クーデリアもシャドウミラーの所属という事にはなるんだろうし。
そうなれば、クーデリア命のフミタンもシャドウミラーの所属となるのを断ったりはしないだろう。
戦闘訓練も……まぁ、本人が望めばやっても構わないと思う。
クーデリアと一緒にいるという事は、何者かに狙われる可能性も十分にあるのだから。
特に今のクーデリアは、革命の乙女として火星だけではなく地球でも有名だ。
そんなクーデリアを邪魔に思っている奴は、俺が想像しているよりも多いだろう。
だからこそ、クーデリアを殺そうと思う者もいる筈だ。
クーデリアにもエヴァの訓練を受けさせるつもりだが、それでも何かあった時、鍛えたクーデリアと同等の実力を持つフミタンが一緒にいれば、より危なくなくなる筈だ。
まぁ、その辺については諸々の騒動が一段落してからの話になると思うが。
「ありがとう、アクセル。……感謝します」
フミタンの分も用意するという俺の言葉に、クーデリアがそう感謝の言葉を口にする。
正直なところ、別にそこまで気にするような事でもないと思うんだが……まぁ、その件について俺がどうこう言うのも何なので、止めておく。
感謝してくれるのなら、それはそれで構わない。
「まぁ、その件はともかくとして……じゃあ、いつまでもここにいる訳にもいかないし、そろそろ設置する場所を決めるか」
この拠点の近く……というか、すぐ側にゲートを設置するのは決まっているのだが、それでも具体的にどこに設置するのかまではまだ決めていない。
そうである以上、その場所を早く決めてしまう必要があった。
「MSの格納庫の近くは止めておいた方がいいわね。うちなら大丈夫だとは思うけど、新人が操作に失敗して、そのゲートというのに攻撃をしたりする可能性も考えると」
マーベルの言葉にMS隊を率いているだけに説得力があった。
昌弘を始めとした子供組だったり、大人でも普通のコックピットでMSの操縦をしている元ブルワーズの者達ならそのような事はまずないが、最近は新たに雇っている者も増えている。
当然ながらMS隊にも新人はおり、そのような新人がミスをするという可能性は十分にあった。
あるいは……本当にあるいはの話だが、中にはどこかの勢力から入ってきたスパイとかがいるかもしれず、そういう連中がミスった振りをしてゲートを攻撃する可能性も十分にあった。
もっとも、ゲートを設置したら当然のように量産型Wやコバッタ、場合によってはメギロートやバッタにゲートを護衛させるつもりではあったが。