「ここがいいのではないですか?」
クーデリアがそう言ったのは、シャドウミラーの本拠の裏側。
とはいえ、この本拠地は火星の荒野の中に建てられているので、もしここにゲートを設置しても、移動するのに不便だという訳ではない。
正門程ではないにしろ、裏口もあるのでゲートから出て来た者達が施設の中に入るのに、大きく回り込んだりとかしなくてもいいし。
「そうだな。俺はそれでいいと思う。……マーベルとシーラは?」
「私は構いません」
「私も問題ないと思うわ。先程言ったように、ここならMSの格納庫からそれなりに離れているし」
2人の言葉に、誰も反対する者がいないのを確認し、ここにゲートを設置する事にした。
そんな訳で、早速……そう思ったのだが……
「アクセル、少し待って下さい。どうせなら、皆に何度も説明するのもどうかと思いますし、現在基地にいる者達にはゲートを設置してホワイトスターと繋がるのを直接見せたらどうでしょう?」
シーラのそんな言葉に、動きを止める。
「えっと、本気か?」
「ええ、本気です。このシャドウミラーで働く以上、ホワイトスターと繋がったらその辺について隠すことはまず出来ません。そうである以上、ここはやはり面倒は一度ですませてしまった方がいいでしょう」
「……まぁ、言われてみればそうか」
俺はゲートを設置したらそのままホワイトスターに行って、レモンとかと話をするつもりだった。
だが、何しろ向こうは異世界だ。
そうである以上、シャドウミラーに所属する者達にも色々と説明するのは後回しになる。
その為、実際に目の前でゲートを設置して異世界に通じるようにすれば、全てではないにしろ、多少なりとも事情を説明する事になる。問題なのは……
「恐らく……いや、ほぼ確実にスパイが紛れ込んでるぞ?」
「そうでしょうね。でも、これ程の大きな出来事よ。隠そうとして隠し通せるものではないわ。……それに、恐らくだけどギャラルホルンからのスパイはいないでしょう」
「そう断言出来る根拠は?」
「私の予想です」
つまりは勘か。
もしこれが誰か他の者であれば、例えばそれがオルガや名瀬といった面々であっても素直に信じたりは出来なかっただろう。
だが、シーラであれば話は違う。
バイストン・ウェルにおいては、聖少女と呼ばれる事もあったシーラだ。
それ以外にも、エレが強いオーラ力の感受性とかそういうのがあったが、シーラもまた同じようにオーラ力を操る術に長けている。
それはダンバイン世界において、最後の最後で俺を鬼滅世界に送ったのを見れば明らかだ。
そんなシーラの勘だと言われれば、俺もそれに納得するしかない。
それに……人を雇う時も、スパイかどうかというのはある程度調べているし。
あからさまにスパイだと分かる者達は、当然ながらその時点で排除している。
もっとも、それはあくまでも採用試験に落としているという意味で、物理的に処分するといった事はしていない。
「分かった。なら、働いている者達全員を一度ここに集めてくれ。後は……そうだな、どうせならスキップジャック級に乗ってる連中も通信で呼んで欲しい。どうせやるのなら、そっちもやってしまおう」
その言葉にマーベルとシーラが頷き、行動に移るのだった。
「さて、集まって貰ったのは他でもない。これから皆にはとてもではないが信じられない話をする。最初は一体何を言ってるのかと思うだろうが、最後まで聞いてくれ」
これからゲートを設置する場所に集まってきた面々、そしてスキップジャック級から繋がっている映像モニタに向かってそう言う。
ちなみにシャドウミラー……ホワイトスターの方のシャドウミラーでなら、空中に映像スクリーンを浮かべてそれで通信が出来たりするのだが、オルフェンズ世界の技術でそういうのはない。
結果として、建物の中から延長ケーブルとかを使って通信用のモニタを持ってくるといった事をしている。
俺の話を聞いた者達は、それぞれざわめいている。
火星支部にいる従業員は、鉄華団と違って大人が多い。
鉄華団の場合は、オルガがスラム街出身という事もあってスラム街にいる孤児達がオルガの下で働きたいと多く集まっているが、俺達は色々な意味で特殊だしな。
……その特殊な理由についてを、これから説明する訳だが。
「さて、まずは……そうだな。何から話すか。繰り返すようだが、これから話す内容は常識ではとても信じられるものではない。それを理解した上で、取りあえず最後まで反論とかそういうのをせずにいてくれ。……そうだな、まずはこれから話しておくか。俺は……そしてシーラとマーベルも異世界からやって来た、異世界人だ」
ざわり、と。
俺の言葉を聞いた者達がざわめく。
異世界人という言葉の意味を理解して驚いている者。
そもそも異世界人という言葉の意味すら理解出来ず、戸惑った様子を見せている者。
色々な意味でざわめいているが、先程の俺の言葉を理解している為か、今のところは即座に反論はない。
まずは俺がどんな説明をするのか、待っているのだろう。
「知ってる者もいるし、知らない者もいると思うが……俺は魔法を使える。こういう風にな」
パチンと指を鳴らすと、右手が白炎となり、そして炎獣が生み出される。
いつもは部屋の中とかでやっているのでリスとか犬とか猫とか鳥とかの炎獣だったが、ここは外だ。
大きさを特に気にする必要もないので、獅子や虎、馬といった炎獣から、ドラゴンやグリフォン、ペガサスといった炎獣を生み出す。
ざわり、と。
それを見ていた者達が再びざわめく。
幻影だと、そう思う者もいるかもしれないが……間近で見れば、炎獣の存在感というのは圧倒的だ。
そもそもの話、幻影を見せるというのは一体どうやって全員に幻影を見せるのか。
麻薬とかそういうのを使ってか?
だが、生身で幻影を見ている者だけではなく、スキップジャック級から映像モニタでこの様子を見ている者もいるのだ。
そのような者達に一体どうやって幻影だと見せるのか。
……まぁ、合成の映像とかそういうのでどうにか出来るかもしれないが。
「ともあれ、これで俺が魔法使いだというのは分かって貰えただろう。そして多くの者には地球で細々と暮らしていた魔法を使える一族だと言ったと思うが、先程も言ったように俺は異世界人だ。この魔法という技術は、異世界由来のものだ。……そもそも、俺がこの世界に来たのは色々なトラブルが重なった結果だった。そのトラブルによって俺達は元の世界に戻れなかったが、ちょうど昨日、そのトラブルが解決して元の世界に戻れるようになった」
そう言うと、従業員達は心配そうな、不安そうな表情を浮かべる。
無理もない。シャドウミラーがここまで大きくなったのは、突出した戦闘力を持つ俺とマーベル、事務仕事を纏め、高いカリスマで艦長も出来るシーラがいての事だ。
そんな俺達が元の世界に戻れると口にしたのだから、自分達は見捨てられるのではないかと、そう思ってもおかしくはない。
……唯一、話を聞いているクーデリアだけが俯いているが、その顔が真っ赤に染まっているのは、見えている耳が赤く染まっている事からも明らかだろう。
無理もない。
俺に掛かっていた呪いの解呪の最後のピースが、クーデリアを抱く事……もっと正確に言えば、クーデリアの初めてを俺が貰う事だったのだから。
はっきりと言った訳ではないが、今の俺の言葉は昨夜クーデリアを抱いたと宣言したようなものなのだ。
それを理解出来るのは、呪いとかの諸々について詳しく知ってる者達だけなので、そういう意味ではかなり限られているのだが。
「安心しろ。元の世界とこの場所が繋がる……自由に行き来出来るようになるのは間違いないが、だからといってこの会社を潰そうとかは考えていないから」
そう言うと、多くの者が安堵した様子を見せる。
どうやら、仕事がなくなるかもしれないと心配していたのだろう。
無理もないか。シャドウミラーの給料はかなり良いし。
特に事務職は、人数が足りない事もあってかなりの高給取りになっている。
とはいえ、それもゲートを設置すれば量産型Wやコバッタで対処が可能になるのだが。
「さて……百聞は一見にしかずとも言う。いつまでも俺がここでどうこう言ったところで、それが口だけであって事実ではないと思う者も多いだろう。その為、実際にゲートを設置して、ここで異世界と繋げてみせる」
俺の言葉に再びざわめくが、俺はそれをスルーし、空間倉庫からゲートを取り出す。
以前と同じように、コンテナ状になっているゲート。
それを起動すると、コンテナが展開していく。
そんな光景だけでも、見ている者の中には驚く者もいる。
これは別にそこまで驚くような事でもないと思うんだが。
あるいは、ゲートが展開されるのではなく、空間倉庫から取り出したのが驚いた理由だったりするのか?
……まぁ、昌弘を始めとした元ブルワーズ組は俺が魔法を使えるのを知ってるし、空間倉庫についても知っている。
周囲がざわついている間にゲートの設置が完了する。
ここまでやって今更の話だが、呪いが解呪したにも関わらず、まだホワイトスターと連絡が出来なかったらどうなるんだ?
というか、呪いの解呪そのものが実は俺の気のせいだったりしたら。
今回の一件を試す前に、ニーズヘッグに乗っておくべきだったな。
もし呪いがまだ解呪されていなかったら、操縦しようと思った時点で激痛が走っただろうし。
……まぁ、今更か。
もしこれで本当に駄目だったら、それこそ適当に言って誤魔化せばいいだけだし。
そんな風に思いながら、設置されたゲートに近付く。
後ろからは、この場に集まっている多くの者の視線を感じる。
そんな視線を感じつつ、ゲートを起動すると……普段通り、俺が知ってるようにゲートが起動し始め……
『……え? アクセル隊長? ちょっ、マジか!? おい、誰かすぐレモン様に伝えろ! アクセル隊長から連絡が来た!』
空中に浮かんだ映像スクリーンに、顔馴染みの技術班の男の顔が映る。
本人は思い切り慌てているようだったが。
というか、俺は隊長でレモンは様付けか。
まぁ、技術班の男だとすれば、そうなってもおかしくはないか。
「レモンに連絡を頼む。それと量産型Wとコバッタを少しこっちに寄越してくれ。ゲートを守らせておく」
『はい、分かりました。でも……メギロートやバッタはいいんですか?』
「それだと目立つしな。ああ、ちなみにこの世界はオルフェンズ世界だ。ガンダムの世界だよ。俺はそこで海賊を乗っ取って、現在はPMCをやっている。社名はシャドウミラーだ」
『えっと……その、一体何から突っ込んだらいいのか……とにかく、すぐにレモン様に連絡をするので、詳しい話はそちらにお願いします』
投げたな。
いやまぁ、この短時間で一気に大量の情報を教えられたのだから、そういう風に反応してもおかしくはないと思うけど。
『それで、その……ガンダムの世界って言ってましたけど、何か独自の技術とかは……』
やはり技術班らしく、その辺については気になるらしい。
こっそりとそう聞いてくる。
「そうだな。この世界には色々と特殊な技術があるな。半永久機関のエイハブ・リアクターとか、高硬度レアアロイという特殊な金属とか、欠点は大きいがMSを自由に動かせる阿頼耶識システムとか。後はこの世界特有のハーフメタルという金属とか」
『おお!』
俺の口から説明される内容に、映像スクリーンに映し出された男は興味津々といった様子で目を光らせる。
この辺、技術班らしいよな。
「まぁ、その辺については後々だな。取りあえずゲートを設置した以上、守る必要がある。ただ、ゲートを設置したのがPMCの会社のすぐ側だから、そこにいきなり建物が出来たりすると目立つし、メギロートやバッタなんかを置いておいても、もの凄く目立つ」
メギロートもバッタも、見るからにMSじゃないしな。
……あ、でもMWとかと言い張れば何とかなるか? ……難しいか。
いや、けど独自開発したMWだと言い切れば……パイロットがどこにいるのかとか、突っ込まれるとちょっとな。
外部からの操縦とか、そういう感じにするか?
シャドウミラーの件が大々的に知られた上でなら、メギロートやバッタを使っても問題はないだろうけど。
『分かりました。すぐに用意をします』
この男にとっても、折角設置されたゲートを破壊されるような事になってしまえば、未知の技術に触れる機会がなくなってしまう。
だからこそ、このゲートが何者かに襲われたりしないように、護衛を送ってくるのだろう。
実際、その会話が終わって1分もしないうちに2人の量産型Wと6機のコバッタがゲートで転移してくる。
その瞬間、背後からざわめきが聞こえてきた。
俺の転移魔法について知らない者達……いや、これは科学力で魔法ではないから、影のゲートを知っていても驚くか。
ともあれ、そんな面々に向かって声でも掛けようとしたところで……
『アクセル』
映像モニタにレモンが映し出され、そう声を掛けてくるのだった。