映像モニタに映し出されたレモンの顔は、相変わらず退廃的な美貌に満ちていた。
背後にいるシャドウミラー……いや、火星支部の面々の多くが男女問わず、レモンの美貌に見惚れているのが気配で伝わってくる。
普段からマーベルやシーラ、クーデリア、フミタンといった、いずれも美人と呼ぶのに相応しい者達と接していても、レモンの美貌には目を奪われてしまうのはおかしな話ではない。
「久しぶりだな、レモン。……狛治を通じて連絡は出来ていたけど、こうして顔を合わせる……いやまぁ、それでも通信だが、とにかくこうして顔を見る事が出来たのは嬉しい」
『あら、随分と嬉しい事を言ってくれるわね。……まぁ、狛治のお陰でアクセルが危なくなっているとは思っていなかったけど。それに予想していたよりも大分早く連絡をしてきたしね』
「その辺は毎度の如く時差だろうな」
俺が……より正確には俺とマーベルとシーラがこのオルフェンズ世界に来てから、何だかんだで既に3年から4年くらいは経っている。
だが、レモンの様子を見るとそこまで時間は経っていないらしい。
狛治にその辺も聞けばよかったかもしれないが……狛治は鬼から使い魔になった影響で一般常識的な意味では、色々と問題があるんだよな。
特に火星の魔法世界で行動しているのもあって、余計に。
……まぁ、魔法界の常識はオルフェンズ世界ではそれなりに通じるかもしれないが。
そんな風に思っていると、再びレモンが口を開く。
『でしょうね。ちなみにアクセルがいなかったのは半年強といったところよ』
「……まぁ、そのくらいなら問題ないか」
不老でなければ、4年と半年というのは色々と問題はあるが、俺とレモンは……というか、シャドウミラーのメンバーは基本的に不老だ。
勿論、絶対に不老でなければならないという訳ではない。
俺が知ってる限りでも、何人かが時の指輪の受信機を使わず、普通に生きて普通に死ぬという者もいるだろうし。
ただ、俺の恋人達は今のところ全員が不老になっているのも事実。
そういう意味で、レモンの言葉は決して間違っている訳でもない。
『それで、どういう世界なの?』
「ガンダム系の世界だ」
『そう。……多いわね』
「否定はしない」
実際、SEED世界、W世界、UC世界、X世界と来て、今度はオルフェンズ世界だ。
ガンダムというのは、恐らくそれだけ原作の多い世界……という事なのだろう。
実際のところ、正確には分からなかったりするが。
ただ、そのように予想出来るのも事実。
『そう。まぁ、いいけど。……それで、今回は何人? まさか、アクセルの事だから0人って事はないでしょう?』
それが何について言ってるのかは、考えるまでもなく明らかだ。
つまり、俺がこの世界で何人の恋人を作ったのかという事だろう。
……別に、俺はその他の世界に行ったら必ず恋人を作っている訳ではない。
実際、鬼滅世界では誰も恋人を作ったりしなかったし。
とはいえ、恋人を作った世界の方が圧倒的に多いのも事実である以上、反論するのは難しいのだが。
寧ろ、新しい恋人を作ったというのを予想しつつも怒らないのだから、さすがレモンと言うべきだろう。
俺が知ってる漫画とかそういうのでは、こういう場合は嫉妬して怒髪天を突くといったような事になってもおかしくはないのだから。
……まぁ、その辺については夜の出来事と関係もあるのだろうが。
夜を共にする女が増えれば増えるだけ、レモン達の負担も軽くなるのだし。
また、今まで俺が新たに作った恋人達は独善とかそういうのがないのも、俺が選んだ女であれば問題ないとレモンが考えてもおかしくはない。
『それで? ……何人?』
俺が黙っているのを見ていたレモンが、そう言葉を重ねる。
これ以上黙っていると、間違いなく面倒になるだろう。
なので、俺はすぐに口を開く。
「3人だ」
『へぇ……それは多いわね』
少し意外そうな様子でレモンが言う。
まぁ、今までで一番多かったのは、ネギま世界の4人だ。
……いや、UC世界もシーマ、モニク、クスコ、クリスで4人だったか。
「一応言っておくけど、このオルフェンズ世界で恋人にしたのは1人だけだ」
『じゃあ、残りの2人はどこから来たの?』
「ダンバイン世界だな。以前説明したと思うが、俺はダンバイン世界で2人の恋人を作った。だが、ダンバイン世界から脱出する為に、その恋人2人はダンバイン世界に残った」
『……その2人が今のその世界にいると? 一体何故?』
「簡単に言えば、その2人もダンバイン世界に残ったとはいえ、そのまま俺ともう再会しないといった事は考えていなかった訳だ。ジャコバ・アオンという……まぁ、分かりやすく言えば精霊とかそんな感じっぽい奴の場所で、何とか俺と再会する機会を待っていたらしい」
正確にはジャコバは精霊ではないんだが……まぁ、似たような存在であるのは間違いない。
「で、丁度そのタイミングで俺が呪いによってペルソナ世界から弾かれた。それをジャコバが察知して、その2人を合流させてこのオルフェンズ世界に送った訳だ」
正直なところ、どうやってジャコバが世界の外の出来事について察したのかは分からない。
分からないが、実際にそのようにやったのだから、俺としてはこのオルフェンズ世界に連れてきてくれた事もそうだし、何よりマーベルとシーラと再会させてくれた事には感謝しかない。
「そんな訳で……まずは、マーベルとシーラ、こっちに来てくれ」
その言葉に、マーベルとシーラが俺の側までやって来る。
『なるほど、アクセルが選ぶだけあって美人ね』
別に俺は外見だけで選んでる訳ではないのだが。
そう思ったが、俺の恋人達は全員が全員極上の美人と評しても構わない外見であるのを考えると、レモンの言葉に反論は出来ない。
「マーベル・フローズンよ」
「シーラ・ラパーナです」
『レモン・ブロウニングよ。よろしくね。お互いに厄介な相手に惚れてしまったようだけど』
「ふふっ、そうね。本当に厄介な相手ね」
「それは否定出来ませんね」
そんなやり取りが聞こえてくる。
相性は悪くないようだったが、俺の悪口で盛り上がるのは……それはそれでどうなんだ?
そして当然のように、後ろに集まっている火星支部の面々はその話を聞いている訳で。
そうなると色々と不味いので話に割り込む。
「それでもう1人、このオルフェンズ世界で恋人になったのが……クーデリア・藍那・バーンスタインだ」
「えっと、あの……私は自分で自己紹介をしなくても?」
マーベルとシーラは自分で自己紹介したのに、クーデリアは俺が名前を呼んだ。
それが気になったらしいクーデリアだったが、別にどうしても自分で自己紹介をしなければならない訳ではないのも事実。
「別にその辺は構わないだろ。……レモン」
クーデリアに答えてからレモンの名前を呼ぶ。
するとレモンは意味ありげな視線を俺に向けてから、改めてクーデリアに視線を向ける。
あ、これは俺が何でここでクーデリアを呼んだのかを理解しているな。
レモンとは付き合いが古い。
……というか、現在のシャドウミラーの中ではレモン以上に古い付き合いはいないんだよな。
レモンと同じくらい古い付き合いとなると、ヴィンデルくらいだが、そのヴィンデルも今はもういないしな。
ともあれ、そんな古い付き合いのレモンだ。
俺が何を考えているのかというのは、当然のように理解していてもおかしくはない。
『貴方がその世界で出来たアクセルの恋人ね。……なるほど、意思の強さは感じられるわ』
映像モニタ越しとはいえ、レモンと視線を合わせ……それでも退かないのを見たレモンは、面白そうに笑う。
無理もないか。
その辺にいる普通の奴であれば、映像モニタ越しであってもレモンと向き合い、そしてレモンが発する圧力に対抗するのは難しい。
だが、クーデリアはそんなレモンの視線を浴びても1歩も退かなかった。
それがレモンには好印象だったらしい。
「クーデリアは、火星において革命の乙女として知られている。今の火星が以前よりも自由なのは、クーデリアのお陰だな。もっとも、それはクリュセだけだが」
アーブラウと関係の深い……というか、アーブラウの植民地だったのがクリュセだ。
クーデリアが蒔苗と交渉したのだから、当然今のような自由になるのはクリュセだけとなる。
他の勢力の植民地となっている場所は、未だに以前のままだ。
そちらについてもクーデリアはいずれ何とかしたいとは思っているらしいが、それも今は難しい。
『へぇ……でも乙女……ね』
意味ありげな視線をクーデリアに向けるレモン。
クーデリアはその言葉で視線の意味を理解したのだろう。頬が真っ赤に染まる。
……無理もないか。
乙女というのは、つまり男に抱かれた事のない者を示す時に使われる表現だ。
しかし、クーデリアは昨夜俺に抱かれた。
それはつまり、革命の乙女であっても、正確には乙女ではないという事を意味している。
もっとも、その辺についての解釈は人にもよるし、わざわざ男に抱かれたと大々的に話す必要もないので、暫くは乙女のままだろうが。
『それにしても、話を聞く限りだと、アクセルのいるオルフェンズ世界というのは色々と大変な世界みたいね』
「そうだな。本当に特殊な世界なのは間違いないよ」
厄祭戦の影響によって、文明が一度滅ぶ寸前まで行ったのだから。
それによって文化とかが中途半端な感じで伝わっていたりするのは、テイワズを見れば分かりやすいだろう。
「そんな訳で、詳しい説明は今夜にでもホワイトスターに戻ってからする。それを他の幹部達にも知らせる必要があるだろうし」
『エザリア達は喜ぶかしら、それとも恨むかしら?』
「どうだろうな。ただ、商売をするという意味では、オルフェンズ世界の火星は決して悪いところじゃない」
植民地としてすら、既に絞りきられたような場所ではある。
だが、ハーフメタルというのは大きいし、火星を中継して異世界の物資とかを売るとなると、必然的に発展するだろう。
シルクロード的な感じの発展と言えば分かりやすいと思う。……ちょっと違うか?
ともあれ、色々と特殊な状況なのは間違いないが、そのような場所だからこそ利益になるのも事実。
『分かったわ。……一応言っておくけど、ペルソナ世界とUC世界にも連絡を入れておくわよ? それと、アクセルは余裕が出来たらUC世界にいるセイラにしっかりと自分で挨拶をしておきなさい』
「……は? 何でだ? レモンからその辺について知らせておけば、わざわざ……」
『いいわね?』
俺の反論を許さない、有無を言わさずといった様子のレモンの言葉。
俺が出来るのは、その言葉に頷くだけだった。
「分かった」
まぁ、UC世界のルナ・ジオンはシャドウミラーとしても大々的に協力しているのだ。
そうである以上、そのルナ・ジオンを治めるセイラに直接会いに行った方がいいというのは、間違いないか。
『全く』
何故か呆れた様子で俺を見るレモン。
……いや、レモンだけではなく、マーベルやシーラ、クーデリアまでもが俺に呆れの視線を向けていた。
何だ? 何かあったのか?
そう疑問に思うも、いつの間にかアウェーの状態になっていた以上は、その状態を変える必要がある。
「とにかく、エザリア達にはオルフェンズ世界の火星とどういう取引をするのか、その辺りについて検討するように言ってくれ」
『そうね。話しておくわ』
後は……他にも色々と話すべき事があるのは間違いないが、だからといって一体何を言えばいいのかとなると少し迷う。
正確には、話したい事は色々とあるが、それをするには時間が足りないという訳だ。
あ、けどそうだな。まずはこれだけは言っておく必要があるか。
「それと、俺の後ろにいる連中は分かるな? あの連中は俺が火星で作ったPMC……シャドウミラーの従業員だ。これからは火星支部とか、オルフェンズ支部とか、そういう風に表現する事もあると思う」
『何でわざわざそういう面倒な事にしたのかしら? どうせなら、シャドウミラー以外の名前を使えばよかったんじゃない?』
「そう言われてもな。今となってはそういう風に思えるが、やっぱりシャドウミラーというのは俺にとっても特別な名前なんだよ」
こういう流れになると考えていれば、恐らく別の名前を使った可能性もある。
しかし……それでもレモンに言ったように、シャドウミラーというのはそれだけ俺にとって大きな意味を持つ名前なのだ。
……元々はヴィンデルと一緒に考えた名前なんだよな。
そういう意味でも、特別な名前なのは間違いない。
『それで? てこ入れが必要?』
レモンの言葉で我に返る。
「ああ、取りあえず事務員が必要だから、ゲートの護衛に使う以外にも何人か量産型Wを出してくれ」
『あら? コバッタはいいの?』
「それについては、今はいい。もう少し状況に慣れてからにするつもりだ」
そう言う俺の言葉に、レモンは分かったわと頷くのだった。