「ここが魔法球……」
クーデリアの言葉が周囲に響く。
クスコ、クリス、ゆかり、美鶴の4人が来るまでの間に、クーデリア、マーベル、シーラもレモンを含めた者達と会話をする時間がそれなりにあり、魔法球についても色々と聞いていたらしい。
……もっとも、魔法球を一番多く利用する機会が、俺との夜の行為の疲れを取る為と聞かされた時は、信じられないといった表情を浮かべていたが。
まぁ、うん。クーデリアは昨日俺に抱かれたばかりで、その時は初めてだった事もあってかなり気を遣っていたし、マーベルやシーラとの行為の時もクーデリアの時程ではないが手加減をしていた。
そういう意味で、この魔法球を使う理由とかその辺についての実感はまだないのだろう。
ちなみにこの魔法球は、何気に俺も初めて見る魔法球だ。
どうやら俺がいない半年の間にネギま世界から入手した物らしい。
元々、以前から複数の魔法球を入手しようとしていたので、その中の1つなのだろう。
今までの魔法球は基本的に技術班が使っていた。
しかし、この魔法球はバカンス用に設定されているらしい。
エヴァの持っていた魔法球の中にも、海であったり、砂浜であったり、そういうのがあったが、それと似たような感じだ。
一番使っているのは、政治班らしいが。
まぁ、それは無理もない。
政治班は精鋭揃いではあるが、人数はどうしても少ない。
その為、仕事をしつつ1時間の休みをとっては、この魔法球の中でゆっくりとしているらしい。
この労働環境は、どうなんだろうな。
ブラック……と言ってもいいのかもしれないが、外の1時間で中は48時間……丸2日の休みを取れるのだ。
そう考えれば、ブラックではなくホワイトではないかと思えてしまう。
その辺の判断は人それぞれなので、何とも言えない。
なお、ルリとラピスは当然だがここにはいない。家に残っているのだ。
「さて、じゃあ……そろそろいいかしら? アクセルがオルフェンズ世界においてどういう経験をしてきたのか、オルフェンズ世界がどのような世界なのかを、話して貰いましょうか。この話の内容をシャドウミラーの他の部署にも流すから、そのつもりでしっかりと話してちょうだい」
レモンのその言葉に頷き、俺はペルソナ世界から追放され、ジャコバ・アオンに助けられてからの諸々を説明する。
また、時にはマーベルやシーラからの追加の情報が入ったり、オルフェンズ世界で生まれたクーデリアが、補足をしたり。
そんな感じで話を続け……やがて一通りではあるが、話が終わったのは2時間程が経過した後での話だった。
「色々と驚いたけど、一番驚いたのはアクセルに義理とはいえ兄弟が出来た事ね」
一通りの話が終わったところで、やがてマリューが驚きと共にそう言う。
「そうだな。……ホワイトスターと行き来出来ない時であればともかく、こうしてゲートが設置されてホワイトスターと移動出来るようになった今、その兄弟分の杯をどのように考えればいいのか、悩みどころだな」
コーネリアがそう言う。
まぁ、義理の兄弟についての話をどうするべきかというのは、ちょっと考え物だな。
多分大丈夫だとは思うが、もし万が一にも名瀬やオルガが俺の義兄弟だというのを利用してシャドウミラーを使おうとする……そういう可能性も、まずないとは思うが、それでも絶対にないとは言い切れない。
そんな諸々についてを考えれば、やはりその辺りはしっかりと考えておいた方がいいのかもしれないな。
とはいえ、今のこの状況で一体何をどうすればいいのかは、ちょっと分からないが。
「名瀬はともかく、オルガには明日にでもゲートの事について説明するつもりだ。鉄華団の拠点とオルフェンズ支部の拠点は近いし、それなりに多くの者が行き来している。そうなると、ゲートの存在を隠し通す事はまず不可能だし」
寧ろ、こうして魔法球にいる今、鉄華団から昭弘とかがやって来て、ゲートを見て驚いている可能性もある。
量産型Wやコバッタがいる以上、妙な事はしないと思うが。
取りあえず鉄華団の面々にゲートについて……その先にあるホワイトスターについて隠すのは難しい。
「その点については、アクセルの直感を信じるしかないが……まぁ、その時点で大丈夫だとは思うが」
コーネリアは俺の直感に信頼を置きすぎではないか。
そのように思わないでもなかったが、実際に俺の直感……より正確には念動力だが、それが今まで数え切れないくらいに俺を助けてきたのは間違いない。
そういう意味では、コーネリアの判断は決して間違っている訳ではないのだろう。
「ああ、オルガについては大丈夫だとは思う。名瀬も……名瀬個人であれば大丈夫だとは思うし、その上司のマクマードも俺と敵対するのがどういう意味を持つのかは分かっている筈だが……」
「ジャスレイでしたわね」
あやかの言葉に頷く。
「ああ、そのジャスレイだ。……実際、以前歳星に行った時も裏で色々と動いていたしな」
歳星の近くで海賊に襲われたり、地球で行われているアーブラウの国軍の件についても恐らく自分の手の者なのだろう人員を送ってきたり。
金儲けについては才能があるのかもしれないが、それでも正直なところ厄介な存在なのは間違いない。
これで正面から明確に敵対してくれば、こちらとしても相応に対処出来るのだが、ジャスレイは以前の一件……俺が初めて歳星に行った時の一件から、俺と正面から戦えば勝ち目がないというのは理解している。
その為、俺に危害を加えようとしてはいるが、決して自分との繋がりが知られないように行動しているのだ。
歳星の近くで襲撃してきた海賊も何人かは捕らえたが、結局ジャスレイとの繋がりは分からなかったしな。
……こうしてゲートを設置してホワイトスターと自由に行き来が出来るようになった以上、いっそジャスレイは処分してしまってもいいのかもしれないな。
そうなればそうなったでテイワズで騒動が起きそうだが……名瀬がいれば、ジャスレイのテイワズのNo.2という地位を奪うのはそう難しくはないだろうし。
うーん……こうして考えていても、ジャスレイが妙な行動をするよりも前に先手を打った方がいいような気がしてくるな。
「アクセル君、シャドウミラーの政治班という事で、私がテイワズと交渉してもいいかしら?」
あやかに続けて千鶴がそう言ってくる。
千鶴の能力を考えれば、全く問題はないと思う。
ただ、ジャスレイはどういう訳か女を見下しているんだよな。
……いや、どういう訳かじゃないか。
ジャスレイのライバルとなる名瀬のタービンズは、名瀬とその妻、後は子供達の組織だ。
つまり名瀬のハーレムな訳だが、そんな組織が力を付け、自分達の立場を危うくしている。
それが分かっているからこそ、名瀬が嫌い、名瀬に協力している女が嫌い、女が嫌い。
そんな風になったのだろう。
これはあくまでも俺の予想だが、そんなに間違ってはいないと思う。
あるいは最初から女を見下していたところで、名瀬の一件があって女嫌いが強くなったのか。
あ、いや。別に女嫌いって訳でもなかったな。
以前誰かから聞いた話だが、JPTトラストの系列会社には水商売関係もあったらしいし、ジャスレイが女を侍らせているというのも、それなりに聞いた事があった。
ともあれ、そんなジャスレイである以上、千鶴が政治班として……つまり交渉人として歳星に行ったりすれば、面倒な事態になりかねない。
もっとも、千鶴も俺の恋人であり、政治班としてしっかりエヴァの訓練を受けている。
それに俺がネギま世界に行った時、魔法使いの従者として多くの戦いに関与してきている。
ぶっちゃけ、拳銃とかでどうにかしようとしても、千鶴を相手にどうにかするのは不可能に近いだろう。
生身で……それが例え銃火器の類を使っても、千鶴より強い奴はオルフェンズ世界にはいないだろうし。
勿論MSが相手となれば、話は別だが。
MW程度であれば、それに対処も可能だろう。
「千鶴が行くよりも、レオンの方がいいかもしれないな。面倒を起こさないという意味で」
「……彼の場合、交渉で面倒を起こしそうな気がするのだけど」
はぁ、と。
千鶴は頬に手を当て、息を吐く。
色っぽい、もしくは艶っぽい……それこそ未亡人染みた強烈な色気がそこにはあった。
とはいえ、それを言えば長ネギを出してくるので口にする事はないが。
ただ、千鶴はある意味で念動力を持っている俺以上に勘が鋭く……
「アクセル君?」
「いや、何でもない。ただ、レオンなら相手に侮られる事もないだろうと思っただけだ」
千鶴の言葉に即座にそう返す。
そんな俺の言葉に納得したのか、それとも今は見逃しただけなのか。
その辺は分からなかったが、千鶴がそれ以上俺のことを追及してくる様子はなかった。
「でも、侮られなくても問題を起こしては意味がないんじゃない?」
凛がそう聞いてくる。
凛もまた政治班だけに、レオンについてはよく知っている。
それだけに、レオンの交渉方法では問題を起こしかねないというのを理解しているのだろう。
レオンの交渉は、基本的に強気なものだ。
それこそ、シャドウミラーの力を十分に活かした交渉となるのは間違いないだろう。
本当に力がある者は下手に小細工をせず、ただ粛々と前に進めばいいだけだというのを、以前何かで聞いた覚えがある。
レオンがやるのはそれだ。
勿論、そうした上でシャドウミラーが一番有利になるように行動するだろう。
それは、シャドウミラーとしては助かる。
オルフェンズ支部のシャドウミラーもその恩恵に与る事は出来るだろう、
しかし……その辺の状況を考えた上でも、やはりレオンだとやりすぎのような気がする。
テイワズはジャスレイはともかく、マクマードや名瀬は義理や人情を重視する。
そうなるとレオンとの相性は決して良くない。
となると、エザリアか?
シャドウミラーの政治班を率いるエザリアだけに信頼性もあるが、レオン程ではないにしろ、攻めの交渉を得意としてるのも事実。
そうなると……
「あら、私の出番かしら?」
頬に手を当て、そういう千鶴。
まぁ……実際、千鶴にそういうのが向いているのは間違いないのだ。
もっとも、場合によってはレオンよりも攻撃的な交渉を行うのだが。
……マクマード相手に、長ネギを出したりしないよな?
何となくそんな場面を想像出来てしまうのだが……うん、これは気のせいか。
「まぁ……誰が行くのかは、政治班で決めてくれ」
結局俺がやったのは、政治班にそのまま投げる事だった。
とはいえ、俺は別に政治の専門家という訳ではないし、政治班には政治の専門家が揃っている。
そう考えれば、俺の判断は決して間違いという訳でもない筈だ。
「ともあれ、時間はたっぷりとあるんだし、そこまで急いで決めなくてもいいでしょう」
レモンのその一言で、話は棚上げされるのだった。
その後、色々とオルフェンズ世界についての話をしたのだが、やはり技術については色々と興味深そうにしている者もいる。
かと思えば、少し離れた場所ではクーデリアが凛やあやかと共に火星の経済について話している。
そしてシーラはエリナやモニク、美鶴と一緒に何かを話しており、マーベルはゆかりやクリスと話している。
勿論、それだけという訳ではなく、誰かが話に割り込んでは少し話し、離れるといったような事にもなっていた。
「アクセル」
ゆっくりとしている俺に声を掛けてきたのは、シェリル。
どこから用意したのか、手にしていたジュース……幾つかの果実がコップの縁に飾られている、いかにも南国風のジュースを俺に手渡す。
「悪いな。……うん、美味い」
ストローでジュースを飲むが、いわゆるミックスジュースなので、特定の何かの味といった感じではない。
これぞ南国のジュースだと言われれば、そういう風に思えるけど。
「それにしても、オルフェンズ世界ね。……私の出番はありそう?」
「どうだろうな。CDとかそういうのはないし、音楽のダウンロードとかもちょっと難しいと思う。ギャラルホルンの拠点とかでなら出来るかもしれないけど」
火星の現状を知ってる身としては、ネットを使ってシェリルの歌を広めるという事は出来ない。
「となると、X世界の時と同じようにライブをする必要があるのかしら?」
「そうなるな。幸いだが、オルフェンズ世界の治安はX世界と比べるといい。もっとも、スラム街とかに行けば、話は別だが」
スラム街というのは、どのような世界であっても決して安全な場所ではない。
いやまぁ、そこで生まれ育った者にしてみれば、安全なのかもしれないが。
ただ、シェリルの場合は……歌詞や曲が思い浮かべば、その場でいきなりそれを書き出す。
そういう意味では、危ないんだよな。
もっとも、当然ながらシェリルもエヴァによって鍛えられているので、スラム街の住人が妙な事を考えても、どうにか出来る相手ではなかったが。
寧ろシェリルは敵対した相手にはそれなりに容赦がないので、攻撃した者達は悲惨な目に遭うだけだろう。
そんな風に思いつつ、俺はシェリルとの一時を楽しむのだった。