取りあえず魔法球での時間を楽しんだ後、俺はオルフェンズ世界に戻った。
UC世界に行ってセイラに挨拶をし、ガンダム開発計画の件について話を聞いてもよかったのだが、やはりまずはオルガに色々と事情を説明しておく必要があったのだ。
名瀬についてどうするのかは、まだ決めていないが。
鉄華団の拠点を考えると、やはりどうしてもここは最初にオルガに話をしておく必要がある。
そんな訳で、オルフェンズ世界に戻ってきた俺は鉄華団の拠点に通信を入れる。
ちなみにマーベルとシーラはそれぞれ自分の仕事に戻っており、クーデリアもまたアドモス商会の仕事があるのでクリュセに戻っている。
客観的な時間では、昨夜俺に初めて抱かれたクーデリアだったが、魔法球の中で2日間すごし、その時に行われた行為で痛みとか異物感とか、そういうのは既になくなったらしい。
ただ、クーデリアの場合はアドモス商会の仕事があるから、ホワイトスターに行く機会がどうしても少なくなるんだよな。
つまり、エヴァとの戦闘訓練はかなり難しくなる。
出来れば早い内にクーデリアにも魔力や気を使った身体強化であったり、生身でも相応の戦闘力を持って欲しいのだが。
数日くらい仕事を休んで、魔法球を使えば……うーん、どうだろうな。
魔力や気は、感じ取れるようになるまでが大変なんだよな。
だが、それを感じ取れるようになれば、一気に戦闘能力が高くなる。
だからこそ、クーデリアも最初は魔法球で魔力や気を感じられるようになるのを優先した方がいい。
とはいえ、アドモス商会の仕事もある以上、そう簡単に休日を作る訳にはいかないが。
俺とのデートの件でも、前もってかなりの仕事を前倒しにして片付けていたらしいし。
そんな訳で、数日の休みを作るのはかなり大変なのは間違いない。
かといって、現在のクーデリアは命を狙われてもおかしくはない。
一般的な火星の住人にとっては、クーデリアは革命の乙女として人気は高い。
だが、それが面白くないと思っている奴もいるだろうし、クーデリアという存在のせいで不利益を被っている者も相応にいる。
そのような者達にしてみれば、クーデリアは出来れば死んで欲しい相手なのは間違いない。
だからこそ、何かあった時の為にクーデリアにはしっかりと強くなって欲しかった。
まぁ、その辺はおいおいか。
気分を切り替え、鉄華団の拠点に通信を送る。
するとすぐに映像モニタに見知った顔が表示された。
『あら、アクセルさん。どうしました?』
映像モニタに映し出されてたのは、メリビット。
オルガに色々と話をするとなると、メリビットにも話をする必要があるんだろうな。
オルガの恋人というのもあるが、それ以上にメリビットは鉄華団の中で事務職の重要な部分を任されている女だし。
そうである以上、これからのシャドウミラーとの関係についてもしっかりと話しておく必要がある。
幸いなことに、メリビットは既に完全に鉄華団の所属だ。
以前はテイワズから派遣されているという立場だったのだが、オルガとくっついたのを切っ掛けに、正式にテイワズを辞めて鉄華団の所属となったのだ。
「オルガはいるか?」
『ええ、今は仕事をしてますから。少し待って下さい』
そして30秒程が経過すると、映像モニタにオルガが映し出される。
以前にも何度か見た、慣れないスーツ姿。
……ただ、それなりにスーツを着ている時間が長いこともあってか、以前と比べるとスーツに着られているのではなく、スーツを着こなしているように思える。
『兄貴、どうしたんです?』
「ちょっと話があってな。それも簡単に通信で話せるようなものじゃなくて、重要な話だ」
『……何がありました?』
オルガの表情が真剣なものになり、そう俺に聞いてくる。
オルガにしてみれば、俺が今のような事を言うのは予想外だったのだろう。
「ちょっと相談……というか、オルガに言いたい事があってな。いや、オルガだけじゃない。鉄華団の幹部級全員に対してだ」
『……分かりました。兄貴が何を言いたいのかは分かりません。ですが、兄貴がそう言うのなら、俺はそれを断る事は出来ませんね』
「悪いな。それで今すぐ……って訳にはいかないだろうが、今日の夜、鉄華団の仕事が終わったら鉄華団の幹部級と一緒にシャドウミラーまで来てくれ。その時、全員に話す」
その言葉に、オルガはすぐに頷く。
『分かりました。では……全員の仕事が一段落してからとなると、午後8時くらいになりますが、それで構いませんか?』
「ああ、それで構わない」
そうして今日の夜の事について決めてから少し話をして、通信を終えるのだった。
夜、その日のシャドウミラーは俺が異世界人だという件でかなり動揺していたが、それでも何とか最低限の仕事は行われた。
そして恐らくは、何人か入っているのだろうスパイ達から雇い主に連絡がされてるんだろうなと思いつつ、俺はマーベルとシーラと共に建物の前でオルガ達を出迎えていた。
やって来たのは、オルガ、三日月、ビスケット、ユージン、シノ、雪之丞、メリビット。
てっきりデクスター辺りは来るのかと思ったし、他にももう少し人数が多くなるだろうと思っていたのだが、予想していたよりも人数は少ないな。
いやまぁ、人数が少ないのはそれだけ秘密が漏れる心配がないという事を意味してるのだが……ただ、スパイから異世界人とかそういう話は間違いなく広まるだろうし、今更という感じがしないでもない。
「兄貴、わざわざすいません」
車から降りたオルガが、俺に向かってそう言ってくる。
他の面々も、そんなオルガの後ろにいる。
何人かが、警戒の視線を俺に向けているのが分かった。
……無理もないか。夜にわざわざ呼び出す、それも鉄華団の中でも幹部を集めてとなると、俺が何か企んでいると思ってもおかしくはない。
そして鉄華団にとってオルガは、決して失ってはいけない存在だ。
そう考えると、今のような不自然な状況に疑問を持つのはそうおかしな話ではなかった。
ちなみに最も俺を警戒しているのは、三日月だったりする。
もし俺がオルガに向かって何か妙な事を考えていると判断したら、即座に俺を攻撃してもおかしくはない。
別にそんなつもりはないので、俺としてはそこまで怯える必要はないのだが。
「気にするな。俺が呼び出したんだし。……さて、色々と言いたい事もあるだろうが、まずは実際に見せた方がいいだろう。こっちだ」
そう言い、俺はマーベルとシーラと共に建物の中に入るのではなく、裏側……ゲートが設置された場所に向かう。
最初は何故わざわざそのような場所に行くのかと疑問に思っていた様子のオルガ達だったが、シャドウミラーの拠点の裏に設置されているゲートを見て、その動きを止める。
「えっと……兄貴、あれは……?」
「あれはゲートという。簡単に言えば、異世界……いや、世界の狭間にある俺の拠点に転移する為の装置だ」
「……は?」
俺の言葉の意味が全く理解出来ないといった様子のオルガ。
いや、それはオルガだけではなく、他の面々も同様だった。
唯一。三日月だけは話の流れから俺達がオルガに危害を加えようとしている訳ではないと思ったのか、安堵した様子だったが。
そんな中、オルガ達以上に理解出来ないといった様子なのは、メリビット。
無理もないか。
メリビットはオルガ達と違ってテイワズで働いていた。
つまり、一般常識については鉄華団の中で最も詳しい。
それだけに、異世界とかそういう言葉を聞いても信じられなかったのだろう。
「信じられないかもしれないが、まずは話を聞いて貰うか。俺とマーベル、シーラはこことは違う世界、異世界からやって来た」
そう言い、大雑把にだが事情を説明する。
俺が他の世界で神と戦って勝ったものの、その神が命を使った呪いを俺に掛け、結果として俺はその世界から追放された事。
そして以前言ったダンバイン世界にいたジャコバ・アオンという存在によって助けられた、マーベルとシーラと一緒にこの世界に飛ばされた事。
その転移した先がブルワーズの母艦で、ブルワーズと戦いになって乗っ取った事。
いつまでも海賊をやってる訳にもいかないので、火星でPMCをしている事。
そんな諸々について説明する。
「俺が魔法を使うのは知ってるな? 俺が魔法を使えるのも、俺がこの世界の人間ではなく、異世界からやって来たからだ。魔法の存在する世界で魔法を使えるようになったからだな」
色々と説明したが、魔法についての説明が一番分かりやすかったらしい。
無理もないか。
異世界がどうこうと言ったところで、実際に異世界を自分の目で見た事がある訳でもないのだから。
それと比べると、魔法は今まで何度も見ている。
それだけに、俺の言葉にも強い説得力を感じるのはおかしな話ではなかった。
「その……兄貴。話は分かりましたが、ゲート? とかいう奴の側にいるのは何です?」
俺の説明を完璧に理解したという訳ではないのだろう。
しかし、それでも取りあえずという事でオルガが聞いてきたのは、ゲートの側にいる量産型Wやコバッタ……特にコバッタについてだった。
「あれは量産型Wという人造人間と、コバッタという無人機だな」
「えっと、人造人間ってなんです?」
「人造……つまり、人が造った人間だ。簡単に言えば、人の形をした機械だと思って貰えば分かりやすい」
「なるほど、そういうのがあるんですね」
思ったよりも驚かないな。
このオルフェンズ世界の技術力的に、人造人間の製造は不可能だ。
だからこそ驚くのかと思ったが、それに驚いたのは寧ろメリビットだった。
さっきも常識的な意味で驚いていたが、人造人間という言葉にもかなり驚いたらしい。
「アクセルさん……本当にそんなことが……?」
「ああ、そうだ。シャドウミラー……俺がこの世界、オルフェンズ世界と呼称してるが、この世界で作ったシャドウミラーじゃなくて、本家本元、世界の狭間に本拠地のある国としてのシャドウミラーでは、量産型Wは普通に使われている。寧ろ主戦力に近い存在だ」
これは少し大袈裟だが、決して嘘ではない。
シャドウミラーの戦力として、エース級が集まった実働班は極めて強力な戦力だが、量産型Wは質と量を併せ持つ存在だ。
大量に製造する事が出来て、エース級には及ばないものの、準エース級に近い操縦技術は持っている。
生身の戦いでも、魔術としてガンドが使えるし、一般的な魔法も相応に使える。
唯一の難点は、やはり頭部を覆っているヘルメットだろう。
エキドナのような特別製はともかく、量産型Wの名前通り量産型である以上、頭部には機械を埋め込まれており、それを隠す意味でもヘルメットは必須となる。
……まぁ、数万、数十万、数百万、数千万、数億……そんな数の量産型W全員に顔を与えるというのは、とんでもない労力になるのは間違いないだろうし。
そういう意味では、画一化されているヘルメットというのは決して悪くはない。
コスト的な意味でも、能力的な意味でも。
それこそ、このオルフェンズ世界に生身で量産型Wに勝てる人材がいるかと言われれば……正直微妙なところだろう。
操縦技術という意味では、三日月を筆頭に量産型Wに勝てる者も相応にいるだろうが。
「で、アクセル。量産型Wってのは分かったけど、あのちっこいのは?」
シノの問いに、俺はコバッタに視線を向ける。
「コバッタだ。無人機だな。ああ見えて、色々と便利だぞ」
「……そうなのか? 見た感じ、そうは思えねえけど」
「雑用の類は殆どやってくれるし、簡単なものだが自衛用の兵器もある」
「マジか」
俺の説明に、シノが……いや、シノ以外の他の面々もコバッタに視線を向ける。
まぁ、それも無理はないか。
雑用というのは当然ながら面倒なものだ。
中にはそういうのを楽しめる者もいるが、大半の者にとって、雑用は雑用でしかないだろう。
だからこそ、それを自動的にやってくれるのなら、ありがたいと思う者は多いだろう。
「な、なぁ、オルガ。どうせなら、あのコバッタだったか? あれ、俺達にも借りられないか、頼んでみるってのはどうだ?」
ユージンがオルガにそう小声で言ってるのが聞こえてくる。
コバッタについて聞いてきたシノではなく、まさかユージンがそういう風に言うのは少し意外だったな。
「聞こえてるぞ」
その言葉に、ユージンがビクリとする。
ユージンは鉄華団の幹部だが、だからこそ色々と雑用もしなければならない。
しかし、それは好んでやりたい訳でもない。
なら、もしそれをコバッタに任せることが出来たのなら……そう思うのは分かる。
そして実際、その判断は間違ってはいないが……
「一応言っておくが、貸す事は出来る。ただ、その場合はコバッタが知った事は俺達に普通に知られるというのを理解した上で、それでも貸して欲しいというのなら、構わない。……どうする?」
そんな俺の言葉に、ユージンは微妙な表情を浮かべるのだった。