「じゃあ、いいか? 問題ないとは思うけど、もし何があっても焦るなよ」
俺はそうシノに言う。
現在シノがいるのは、ゲートの中でも転移する為の場所だ。
そこにシノがいるのは、当然ながらシノがホワイトスターに行ってみたいと主張した為だ。
大雑把に……本当に大雑把にだが、俺達がどういう存在なのかというのを説明し終わった。
もっとも、当然ながらそんな事を言われてもすぐにはいそうですかと受け入れられる訳でもない。
……それでも、量産型Wやコバッタの存在を見れば、俺が嘘を言ってるとは思えない訳で。
そんな中で、それなら異世界という場所に行ってみたいと口にしたのが、シノだった。
他にも何人か興味深そうにしていた者はいるのだが、そのような中でも真っ先にシノが主張したのだ。
それは別に悪い事ではない。
好奇心旺盛なシノの本領発揮といったところか。
ただ……オルガにしてみれば、異世界に行くというのを素直に頷ける訳もなく、色々とシノと話し、それでも結局シノが押し切った形となる。
この辺り、シノは強いよな。
オルガとしても、俺の言葉が事実なのかどうか確認する必要があるというのもあったのだろうが。
とにかくそんな訳で、現在シノはゲートを使ってホワイトスターに転移する事になっていた。
「分かってるって、別に俺が何かする必要はないんだろ? その……転移だったか? それを使ってホワイトスターとかいう場所にいったら、すぐに戻ってくる。それで何か出来る訳がないだろ」
ホワイトスターの転移区画には、既に量産型Wが待っている。
シノが転移したら、すぐにまたオルフェンズ世界に転移させる為にだ。
まずその心配はないと思うが、万が一……本当に万が一だが、転移したシノが好奇心に駆られてホワイトスターの中を好き放題に歩き回るとか、そういう事になったりしないようにだ。
実際にはシノが1人歩き回ったところで、そこまで問題はない。
シノが悪意から妙な真似をするとは思えないし。
だが、それはつまり好奇心に駆られて妙な真似はする可能性があるということを意味してもいた。
そしてシノならそういう風になる可能性が十分にあると。
だからこそ、こうしてしっかりと言い含めている訳だが。
「一応言っておくが、シノがホワイトスターで問題を起こした場合、それはシノだけの話じゃない。このオルフェンズ世界全体にペナルティがあるから、くれぐれも気を付けろよ」
基本的に各世界からホワイトスターに来る事が出来る者はそこまで多くはない。
その最大の理由が、ホワイトスターで問題を起こした者がいれば、そのペナルティはその人物の所属する世界に与えられ事になっている為だ。
最悪……本当に最悪の場合、ホワイトスターの出入り禁止、異世界間貿易に関しても他の世界よりも高値で買って安値で売るという風になる。
いやまぁ、それよりも最悪なのはその世界のゲートを撤去して、完全に接点をなくすとか、そういう感じだが。
ただ、そこまでの事にはそう簡単にはならない。
それに、まだオルフェンズ世界と異世界間貿易の交渉がされた訳でもないし。
今回は何かあっても、取りあえず余程の事でもない限り問題はないといったようになるだろう。
それを言えば、これ幸いとシノが暴走しかねないので口にはしないが。
それに……シャドウミラーにはシノが好きそうな店、具体的には風俗関係の店というのは存在しない。
何しろ、ホワイトスターに住んでいるのは基本的にシャドウミラーだけで、日中はホワイトスターにいても、余程の特殊な事情がない限り他の世界の住人は自分の世界に戻る事になる。
……まぁ、それはつまり、ホワイトスターを経由して他の世界に行けば、そこには風俗店があるという事を意味してるのだが。
女好きのシノにしてみれば、異世界の風俗というのは興味深いだろう。
もっとも、鉄華団も大きくなり、幹部のシノが貰える給料も相応に高額だ。
そうなると、クリュセにある風俗店とかに普通に行ける訳で……わざわざ他の世界の風俗店に行く必要があるかと言われれば、正直微妙なところだろう。
いやまぁ、女好きのシノだけに他の世界の風俗店に興味があってもおかしくはない。
……魔法球の中で恋人達の身体を散々に貪った俺がどうこうと言っても説得力はないかもしれないが。
「じゃあ、やってくれ」
シノが真剣な表情になったのを確認すると、そう量産型Wに言う。
量産型Wは俺の言葉を聞くとすぐに反応し、ゲートの操作を始める。
そして……やがてシステムXNが発動し、ゲートの中にいたシノが姿を消す。
『おおっ!』
それを見ていた鉄華団の面々のうち、何人かがそんな声を上げる。
この世界において、人が一瞬にして消えるという事はまずないのだから。
……もっとも、鉄華団の面々なら俺の影のゲートで移動した事もあるのだが。
ただ、影のゲートも身体がゲートに沈むという行為によって、転移する。
今のように一瞬にして消えるといった事はない。
「兄貴、シノの奴は本当に大丈夫なんですか?」
オルガが心配そうに聞いてくる。
自分から率先して転移したとはいえ、やはりシノの事が心配なのだろう。
「心配するな。……ああ、ほら」
俺がゲートを示すと、そこには再び光と共にシノが姿を現す。
どうやらホワイトスターの転移区画で、きちんと俺の指示通りすぐにシノをこの世界に送り返したらしい。
「うお……マジだ……信じられねえ……」
周囲の様子を見つつ、シノがそう呟く。
そんなシノに真っ先に近付いたのは、ユージンだ。
「おい、シノ。大丈夫か? 本当に問題ないのか? どこか具合の悪いところがあったりしないか?」
ユージンのその言葉に、シノはまだ我に返った様子もなく、それでも口を開く。
「あ、ああ。……何も問題はねえよ。ただ、転移って言ったか? うん、アクセルの影のゲートとかいうのとは全く違う感じだった。それに転移した先にあったのは、どこかの建物の中だったんだよ。もっともすぐにまたこっちに戻ってきたけど」
「マジか。……いやまぁ、信じてなかった訳じゃねえけど」
思わずといった様子で呟いたユージンだったが、その視線が俺に向けられると、慌てたようにそう言う。
ユージンにしてみれば、俺を疑うような事を口にしたくはなかったのだろう。
別にそれくらいはいいんだけどな。
このオルフェンズ世界で、俺の言葉を最初から全て信じろという方が無理だろうし。
そういう意味では、実際に体験をしてきたシノには感謝だな。
鉄華団の仲間……それも信頼厚い幹部が、実際に経験したのだから。
……信頼が厚いか? 取りあえず厚いという事にしておこう。
「シノが無事だった事で、納得して貰えたと思う。……さて、どうする? 異世界に、ホワイトスターに行きたいのなら、全員で行ってもいいが。ただ、この時間だとあまり人はいないんだよな」
「そうなの?」
少し意外そうに言ってきたのは、三日月。
意外なことに、三日月もそれなりに異世界には興味があるらしい。
あ、でも意外って程でもないのか?
三日月は農業に興味がある。
アドモス商会やシャドウミラー、鉄華団と提携しているサクラ農園で色々な植物を植えたりして、研究しているらしいし。
だからこそ、ホワイトスターには火星にはない野菜があるかもしれないと思ったのだろう。
実際、それは当たっている。
ホワイトスターの中では畑とかもあり、そこで野菜も育てられているのだから。
それらの野菜はホワイトスターにある店……超包子を始めとした料理屋で使われている。
他にもエルフ達が自分達の為に作っていたりするし。
三日月にしてみれば、野菜の種類という意味でホワイトスターは宝の山だろう。
中華料理とかは、一般的には使わない野菜とかも使ったりするし。
エルフ達が作っている野菜の中には、門世界からホワイトスターに移住した時に種を持ってきたりした、正真正銘異世界の野菜もある。
もっとも、異世界の野菜だからといって何か特別な訳ではない。
普通に人間が食べても問題はない野菜だ。
「ああ、ホワイトスターは夜になったら基本的に他の世界の者達は自分の世界に帰る事になっている。つまり、今ホワイトスターにいるのはシャドウミラーの人員だけな訳だ」
それでもエルフがかなりの人数いるのだが、ホワイトスターの大きさを考えるとどうしても人口密度は下がる。
ホワイトスターそのものを見学するという意味では、決して悪くはないんだが。
「……オルガ」
三日月がオルガの名前を呼び、視線を向ける。
そんな三日月の様子に、オルガは困った様子を見せ……
「ったく、しゃあねーな。……兄貴、お願い出来ますか?」
「別に構わない。元々今夜はお前達に色々と事情を説明する為に呼んだんだし」
そう言うと、オルガは少しだけ嬉しそうに笑う。
どうやら、何だかんだとオルガも異世界には興味があったらしい。
「じゃあ……一応聞くが、ホワイトスターに、異世界に行きたくないという奴はいるか?」
念の為に、鉄華団の面々にそう尋ねる。
もしかしたら、メリビット辺りは行かないと言うかもしれないと思ったが、反対はないらしい。
恐らく恋人のオルガが行くと言ってる以上、自分も行く必要があると判断したのだろう。
オルガとメリビットは恋人同士だが、同時にメリビットは突っ走りがちなオルガのストッパー的な存在でもある。
だからこそ、ここでオルガをホワイトスターに行かせたら不味い事になるかしれないと、そのように思ってもおかしくはない。
「よし、じゃあ全員だな。……マーベルとシーラはどうする?」
「私はいいわ、いつでも行けるんでしょう? なら、今日はアクセルが鉄華団を案内してあげてちょうだい」
「私もマーベルと同じく、今日は彼等にアクセルを譲りましょう」
2人共オルフェンズ世界に残るという事らしい。
「分かった。じゃあ、こっちは頼む。……何があるとも思えないけど」
もし何かあるとすれば……ラスタルの派閥が奇襲を仕掛けてくるとかか?
もしくは、火星にある他のPMCが攻撃してくるとか。
他にも海賊が襲ってくるというのもあるな。
どれにしろ、面倒な事になるのは間違いない。
ただ、マーベルとシーラがいれば余程の事でもない限り、対処は出来るような気がするんだよな。
それに通信機は渡してあるんだし、もし何か……マーベルやシーラでは対処出来ない事があっても、俺はすぐに戻って来られる。
そして一度戻ってくれば、何があっても対処するのは難しい話ではない。
マーベルとシーラと言葉を交わし、オルガを含めた鉄華団の面々に声を掛ける。
「じゃあ、ホワイトスターに行くから全員さっきのシノのようにゲートの中に集まれ。……ああ、一応聞いておくけど、シノも行くんだよな?」
「当然だろ!」
食い気味に叫ぶシノ。
無理もないか。
シノにしてみれば、少し……本当に少しだけ、ホワイトスターの転移区画を見たものの、すぐにまたオルフェンズ世界に戻ってきたのだ。
そうである以上、今度はしっかりと自分も行きたいと思うのはおかしな話ではなかった。
「分かった。じゃあ、全員用意はいいな? ……やってくれ」
鉄華団の全員がゲートの中に来たのを確認し、量産型Wにそう言う。
すると量産型Wはすぐにゲートの操作をし……次の瞬間、俺達はホワイトスターの転移区画に姿を現すのだった。
「さて、ようこそと言うべきか。ここがホワイトスターだ。正確にはホワイトスターの中でも転移区画だな。ここを通ってオルフェンズ世界を始めとして、色々な世界に転移している。今は俺達以外には誰もいないが、さっきも言ったようにホワイトスターは夜になったら他の世界の者達は自分の世界に戻る事になってるしな」
そう言うが、これは正確ではない、
中には他の世界に行って夜を越す者もいる。
仕事の関係で契約を詰める為とか、違う世界の相手と恋人になったので泊まりに行くとか。
ただ、それでもやっぱり大多数は自分の世界に戻る。
「へぇ……ここが」
ユージンが興味深そうに周囲の様子を見ている。
何故かシノが知ったかぶりをして説明してるが……お前がここに来たのはさっきだし、すぐに戻ってきたよな?
そう突っ込みたくなったが、止めておく。
シノはゲートでの転移に、自分から進んで立候補したのだ。
そしてシノが転移し、無事に戻ってきたことで、鉄華団の面々は問題がないと判断したのも事実。
そうである以上、多少調子に乗るのは許容範囲内だろう。
別にシノが何かシャドウミラーの機密事項を知ってる訳でもないし。
であれば、最初に転移をした功績を考えても、少し調子に乗る程度は構わない。
……後で今の自分の言動を思い出し、頭を抱えるといったことになる可能性もあるが。
俗に言う黒歴史だな。
そうなったらそうなったで面白い。
そんな訳で、俺は暫くシノの様子を眺めているのだった。