「昭弘だ、昭弘がいる!」
博物館の中に、シノのそんな声が響く。
シノが指さしているのは、門世界のオーガの剥製。
……なるほど、言われてみれば似てるか?
勿論、詳細に確認をすれば色々と違うところはある。
そもそも大きさもまた、昭弘とは比べものにならないくらいに大きいしな。
ただし、筋骨隆々といった様子は、言われてみれば昭弘に似ている。
「ぷっ!」
シノの言葉にユージンが思わずといった様子で吹き出す。
他にも何人かが同じように吹き出したり、笑いを堪えたりしているが……当然ながら、笑いものにされた方は面白くない。
あ、オルガも笑うのを何とか我慢してるな。
……もし三日月がここにいれば、どうなったんだろうな。
現在三日月はエルフ達から農業について色々と聞いている。
結局種を持ってくるまでの時間ではどうすることも出来ず、三日月は公園に残る事にした。
俺を神と崇めているエルフ達なので、俺が連れて来た三日月に妙なちょっかいを出したりはしないだろう。
また、三日月もエルフに妙なちょかいを出したりはしない筈だ。
相性は決して悪くないと思うので、特に問題はないと思う。
「ははは。ほら、昭弘……昭弘? え? あ……」
笑っていたシノが昭弘に声を掛けたが、その言葉を途中で止める。
額に血管を浮かばせ、自分を睨み付けている昭弘の存在に気が付いたのだろう。
「このオーガという奴は、生身の人間を相手に強力な攻撃をしたらしいな」
「えっと……うん、そう書かれているな」
「……なら、俺がこのオーガと似てるのなら、同じような攻撃が出来るかどうか、確認してみる必要があると思わないか?」
「いやぁ……別にそういうのは確認する必要は……うわあああああっ!」
シノに最後まで言わせず、昭弘は拳を振り上げてシノを追う。
シノも鉄華団のMS隊の一員として、相応に鍛えている。
見て分かる程の筋骨隆々といった感じではないが、いわゆる細マッチョ的な感じの身体付きだ。
そうである以上、シノも決して生身で弱いという訳ではない。
ないのだが、それでも昭弘と戦うのは不利だと判断してるのか、あるいは博物館で暴れるのは不味いと判断したのか、とにかく逃げている。
「昭弘もシノも、その辺にしておけよ。博物館の物を壊したら、大変なことになるぞ」
そう声を掛けると、昭弘の動きが止まる。
昭弘は昌弘の件もあって、俺にもの凄い感謝の気持ちを抱いている。
それこそ……まずないが、万が一、億が一にも、俺が鉄華団を裏切れと言えば、それを聞くくらいには。
そんな昭弘だけに、今のように言えばすぐに動きを止める。
もっとも、それはあくまでも今だけの話で、博物館から出たら……もしくはオルフェンズ世界に戻ったらどうなるか分からないが。
その後、博物館で色々と見ては驚き……そして一通り見終わると、博物館から出る。
この博物館は一般人にしてみればかなり興味深い展示品が多い。
だが、それでも大規模な博物館といった訳じゃないんだよな。
いっそもっと大々的な博物館にしてみてもいいかもしれない。
もっともそうなると、一体何を展示するのかといった問題もあるが。
マクロス世界なら色々と変わった生き物がいるし、その剥製とか?
もしくは、マブラヴ世界のBETAの剥製……うーん、それを見て気持ち悪くなる者とかいそうだから、それは不味いか?
BETAの外見は生理的な嫌悪感を掻き立てるようなのが多いし。
後は……ネギま世界の魔法世界にいるモンスターの剥製とかどうだろうな。
魔法世界の生き物は特殊な処理をしない限り現実世界では生きて行けないらしいが、剥製にしたら持って来られるんじゃないか?
後は……ダンバイン世界から俺が持ってきた恐獣の死体や素材があるが、あれはオーラバトラーとかの予備パーツとして使ったり、培養出来ないか試したりするから、展示品にするにはちょっと難しいか?
ペルソナ世界のシャドウとか確保出来ていれば、いい展示品にはなったと思うんだが。
こうして考えると、それなりに博物館を大きく出来そうだな。
政治班に要望を出してみてもいいかもしれない。
「兄貴? どうしました?」
外から博物館を見ていると、オルガにそう声を掛けられる。
その言葉で我に返ると、何でもないと首を横に振る。
「気にするな。ちょっと博物館を大きくしたいと考えていたところだ」
「大きく……ですか。興味深いですね」
「そうか? まぁ、今はまだオルフェンズ世界とホワイトスターが繋がったとはいえ、お前達は自由に来る事は出来ないけど……いずれ正式にオルフェンズ世界と異世界間貿易の交渉が締結したら、それなりに自由に来られるようになると思うから、それまで楽しみにしていてくれ」
「アクセルさん、異世界間貿易というのはどのような?」
俺とオルガの会話に割り込むように口を挟んできたのは、メリビットだ。
その目には強い興味の色がある。
……鉄華団は大きくなったが、金銭的には決して余裕がある訳じゃない。
いや、勿論ある程度の余裕があるのは間違いないものの、それでも決してと余裕があると断言出来る程ではない。
それだけに、事務員を纏めているメリビットにしてみれば、金になるのなら自分達も一枚噛ませて欲しいと思うのはおかしくない。
とはいえ、だからといってはいそうですかとは頷ける訳もない。
「言っておくが、異世界間貿易はアドモス商会を通してやる事に半ば決まっているぞ」
「そう……ですか」
残念そうにメリビットが言う。
というか、今のところそれしか選択肢がないというのが正直なところだが。
何しろ異世界間貿易だ。
つまり、俺が異世界の存在だと知っている相手でなければ、異世界間貿易は出来ない。
そして異世界の事を知っていて貿易……つまり商売が出来るのは、アドモス商会くらいだ。
あるいはテイワズやタントテンポ辺りならそういうのに向いてるかもしれないが、まだ異世界の存在については教えていないしな。
正直なところ……本当に正直なところ、テイワズくらいの大きな組織の方が異世界間貿易には向いている。
今はアドモス商会しかないから選んでいるが、アドモス商会は決して大きな会社という訳ではない。
いやまぁ、クーデリアが社長をやっているという事で、革命の乙女に憧れた者達がかなり入社してはいるらしいが、それでもその程度だ。
木星近辺を支配し、火星でも大きな影響力を持ち、地球でもそれなりの影響力を持つテイワズと比べると、どうしても組織力で劣る。
……とはいえ、テイワズには俺を敵視しているジャスレイがいる訳で。
それこそ異世界の事を知れば、一体どういう行動に出るのか分からない。
異世界間貿易で得られる利益の為に、こっちに頭を下げてくるならまだいい。
最悪、ギャラルホルンとかに異世界の情報を流して漁夫の利を得るとか、そういうのをやりかねないんだよな。
まぁ、そうなってもホワイトスターと繋がった今となっては、どうとでも対処は出来る。
ビーム兵器が使えないのは痛いが、シャドウミラーは重力波砲の研究も進んでおり、ビーム兵器と同じくらい……というのは少し大袈裟かもしれないが、それでもビーム兵器よりも少しコストが高いといった程度には研究が進んでいる。
そうである以上、オルフェンズ世界のMSを相手にしてもビーム兵器の代わりに重力波砲を使えば全く問題はない。
それ以外にも、エナジーウィングやフレイヤ、S11ミサイル……といった具合に、ナノラミネートアーマーに対処する為の武器はある。
量産型の兵器についても、コバッタはともかく、メギロートはサークルレーザーとか使えるし。
うん、こうして考えても、やはり俺達がギャラルホルンに負けるといった事ははまずない。
ないのだが……だからといって、無理に戦う必要もないだろう。
マクギリス達がラスタル達と戦い始めてからでも、俺達の介入は遅くない筈だ。
俺達が真っ先に戦闘になったら、色々と……本当に色々と面倒な事になるし。
例えば、このオルフェンズ世界をシャドウミラーがギャラルホルンに代わって治めるという事であれば、そういう風に動いても構わないだろう。
だが、俺としてはそういう面倒な事はしたくない。
量産型Wやコバッタを大量に使えば、そういうのも出来ない訳でもないが、そういう事になれば、間違いなくこちらにとっても面倒なことになる。
それは俺としては絶対に避けたい。
今でさえ、政治班にはかなりの負担を掛けているのだ。
異世界間貿易をする相手としてオルフェンズ世界が増えた程度ならまだしも、シャドウミラーがこの世界を治めるといった事になれば……うん。エザリアが怒り狂うのは間違いないだろう。
それどころか、政治班がストライキを起こしてもおかしくはない。
世界を治めるというのは、それだけ大変なのだ。
なので、出来ればその世界についてはその世界……それでいて、シャドウミラーに友好的な国や組織に治めて貰う方がいい。
オルフェンズ世界では、現在のところ考えられるのは……最有力候補は、やはりマクギリス達の派閥が大きな勢力を持つギャラルホルンだな。
それが無理ならアーブラウか。
ただ、蒔苗がトップにいるのならそれは構わないが、蒔苗の年齢を考えると……いや、蒔苗の次に代表になるのは、恐らく蒔苗の懐刀であるラスカーか? それならもう暫くは安心だが。
とはいえ、蒔苗が追放された件を思えば、少し不安があるのも事実。
後は……テイワズ? けど、テイワズもテイワズでジャスレイが問題なんだよな。
ジャスレイを処分するなり、追放するなりすればともかく。
タンポテンポは、あくまでも知ってるのはジャンマルコ個人であって、組織とはそこまで付き合いがないし、組織の中で跡目争いもあったらしいしな。
こうして見ると、やはりマクギリスがギャラルホルンを率いる立場になるのがベストだ。
……何でか分からないが、マクギリスは俺に対して非常に好意的だしな。
いや、その理由は分かる。
何故かマクギリスは俺をギャラルホルンを作ったアグニカ・カイエルと半ば同一視してるからだ。
一体何故そのように思っているのかは、俺には分からない。
ただ、火星で最初に会った時からそうだったし、恐らくマクギリスにしか分からない何かがあるのだろう。
もっとも、俺にとってはプラスにしかならない事だったので、それに対する不満はないが。
「まぁ、直接取引はしないが、アドモス商会を通しての取引になれば、鉄華団も関与する事が出来るかもしれない、……もっとも、その辺の諸々が決まるのは、まだもっと後の事だけど」
「分かりました。残念ですが、一枚噛めるだけで良しとします」
メリビットが俺の言葉に納得する。
メリビットにしてみれば、鉄華団を繁栄させる為には何でもやるつもりなのだろう。
そういう意味では、鉄華団と協力体制を取っている俺達にとっても決して悪い事ではないのだが。
「そうしてくれ。もっとも、今の鉄華団……というか、火星では異世界間貿易で売れるような物は……すぐ思いつくのは、ハーフメタルくらいしかないが」
テイワズの方でもハーフメタルとはまた違う、この世界特有の希少金属があるらしいから、それを仕入れれば異世界間貿易で使えるかもしれないが。
ただ、それはそれでちょっと難しいだろうと思う。
もしそうなると、テイワズとして異世界間貿易に関わってきそうだし。
俺の存在が公になった後でなら、そういう事になっても構わないのだが。
「MSとかはどうです?」
そう言うオルガ。
真っ先にそれが来るのは、やはり鉄華団らしい。
とはいえ、実際鉄華団は規模を拡大しており、MSの数にも余裕がある。
そういう意味では、MSをというのは悪くないのだが……
「基本的に兵器の類は認められていない」
「……そうですか」
俺の言葉に、心の底から残念そうな様子で言うオルガ。
オルガにしてみれば、真っ先に出てくるのはやはりMSだったのだろう。
だが、それを即座に否定されてしまったのだから、落ち込むのも無理はないか。
「もし異世界間貿易に関わるのなら、その辺も考えておいた方がいい。……まぁ、輸入だけをして、それを売るのでも儲かるとは思うけど」
MSが駄目である以上。MWも当然却下だ。
そうなると他には何があるかと言われると……それこそ、ハーフメタルしかない。
幸いな事に、アドモス商会とシャドウミラー、鉄華団で金を出してハーフメタルの採掘を行っているので、鉄華団がハーフメタルを異世界間貿易の商品にするのは不可能ではないのだ。
その世界特有の物質という事になれば、当然ながら相応の需要もあるだろうし。
オルフェンズ世界では、エイハブ・リアクターに関係する性質しか持たないものの、他の世界では分からない。
例えばギアス世界ならサクラダイトであったり、ネギま世界であればマジックアイテムであったり。
他にも多数の世界にある物質と組み合わせれば、何か全く違う性質を持つ何かが出来るかもしれないのだから。
そんな風に思いつつ、俺は皆と共に公園に向かうのだった。