一通りガンダム開発計画のMSについて考えると、セイラに向かって口を開く。
「随分と大きな計画になるようだな」
「そうでしょうね。もっとも、それはアクセルも知っていたのでは?」
そう言われ、頷く。
実際、コーウェンからガンダム開発計画については以前話を聞いている。
とはいえ、詳細については今日初めて知ったのだが。
「ただ、ガンダム開発計画について幾つか疑問がある。汎用型は特に問題ないとして、核兵器運用のガンダムについては……1年戦争が終わっている以上、既に南極条約も失効してるんだから、開発してもおかしくないとはいえ、表沙汰になれば問題になるのは間違いないだろう?」
「そうね。でも、それを考えた上でも開発する必要があると考えたのでしょうね。……私もそこには思うところはあるけど」
だろうな。
そう言おうとして、止めておく。
1年戦争が始まった時、まだセイラは一般人だった。
だからこそ、ジオン軍が核兵器を大量に使ったのを一般人の立場として知っているので、忌避感があるのだろう。
もっとも、地球で核兵器を使うよりは宇宙で核兵器を使った方がいいのだろうが。
放射能とかの心配も地上程じゃないしな。
「連邦軍としては、何かあった時の事も考えて核兵器を運用する為のガンダムを作るというのは納得出来ないでもない」
もっとも、その何かというのの筆頭はルナ・ジオンなんだろうが。
ジオン共和国も連邦以外の国として成立はしているものの、実質的には属国に近いし。
それと比べると、ルナ・ジオンは連邦にとって明確な脅威だ。
仮想敵国と言ってもいい。
それは連邦軍にいる強硬派だけではなく、穏健派にとっても仮想敵国という扱いなのは間違いないだろう。
実際、ルナ・ジオン……もしくはその上にいるシャドウミラーは、1年戦争において大きな活躍をしてるし。
だからこそ何かあった時の為には対処出来るように考えているのはおかしな話ではない。
「アクセルの言う通りでしょう。……仕方のない事とはいえ、あまり良い気分ではありませんが」
「最近、強硬派はどうなっている? 以前は何度かちょっかいを掛けてきた事があったけど」
「上の方から命令が下ったのか、最近はあまり手を出してきたりはしませんね。……とはいえ、今はいいですが、そのうち爆発しそうなのが少し心配なのだけれど」
強硬派の無謀さを知っている身としては、セイラの考えも分かる。
いずれそのうち暴走しそうだよな。
「核兵器運用のガンダムはいいとして、MA的な存在だが……ビグ・ザムの件とか、シャドウミラーのMAについて知っていれば、分からないでもない。で、最後が強襲用だが……何でだ、これ?」
「アナハイムでもそう思ったのでしょうね。最終的には強襲用のコンセプトは汎用型のコンセプトに統合されたそうよ。ただ、これは私……というか、アクセルにとっても悪い話ではないでしょう」
「ん? 具体的には?」
「今回のテストパイロットの件を引き受けてくれた時、譲渡するのはこの強襲用……正確には試作4号機ね。その試作4号機をベースにしたMSという事らしいわ」
「……なるほど。そう来たか。というかこれは率直な疑問なんだが、何だって強襲用MSを作ろうなんて思ったんだ? ジオン軍のケンプファーがかなり高性能だったからか?」
「どうでしょうね。その辺は私にも分からないわ。あるいは連邦軍からの要望だったのかもしれないし」
「……なるほど。ケンプファーのようなMSに被害を出した連邦軍だからこそ、同じようなコンセプトのMSを欲した。そう言われれば納得出来ないでもないな」
そう考えると、強襲用MSの価値は最初にそれを作ったジオン軍よりも、そのケンプファーによって大きな被害を受けた連邦軍の方が評価は高いのかもしれないな。
「もっとも、今回の報酬についてはあくまでも試作4号機をベースにしたMSになるという事だから、ガンダムのまま来る訳じゃないと思うけど」
「それは仕方がないだろう」
連邦軍にとっては、トップシークレットの内容だろうガンダム開発計画。
その1つをそのまま譲渡するというのは、間違いなく問題になる。
それこそ、場合によってはアナハイムが罰せられるような事になってもおかしくはない。
となると……外見とかはガンダム系ではない感じになって来るのか。
それはそれで楽しみなのは間違いない。
「ちなみに、基本的にアナハイムで開発したMSはルナ・ジオンも1機ずつ譲渡する事になっていたと思うんだが、ガンダム開発計画のMSはどうなるんだ?」
「難しいでしょうね。もしそうなれば、明らかに連邦を敵に回すでしょうし」
「とはいえ、もし俺がテストパイロットとして行くのなら、結局俺が乗る以上はデータは貰えるだろう? ……それに結局のところ、表沙汰にしなければいい。具体的にはルナ・ジオンで運用するのではなく、ホワイトスターに保存しておくとか」
ガンダム開発計画として開発されるガンダムだ。
間違いなく色々な新技術が使われているだろうし、その技術の資料的な意味でも機体は確保しておきたいところだ。
「それに……テストパイロットの件でアナハイムがこっちに連絡をしてきたという事は、その辺についても考えてると思うがな」
「ハモンやシーマからもその辺りについては聞いているわ」
「だろうな」
ルナ・ジオンの諜報組織に関わっているハモンや、ルナ・ジオンの象徴の1人として独自の情報網を持つシーマだ。
その辺りの情報については知っていてもおかしくはない。
「なら、取りあえずガンダム開発計画の機体は1機ずつ貰えるように手を打ってくれ。それで……テストパイロットの件だが、どうしたらいいと思う?」
「どうしたらとは? アクセルがテストパイロットをするのでしょう?」
「そのつもりだ。ただ、セイラも知ってると思うが、俺は現在オルフェンズ世界でPMCを率いている。数日程度ならともかく、ずっとテストパイロットをやるという訳にはいかない」
特に、現在はいつギャラルホルンの内乱が起きるのか分からない。
もし内乱が起きた時に俺が参加出来なければ、オルフェンズ世界のこれからの事を考えると、色々と不味いのは間違いない。
「その辺については、シーマから少し話を聞いてるわ。テストパイロットについては、フィフス・ルナではなく、どこか別の場所でやろうと思っているけど……どこがいいかしら?」
「最善なのは月だが……そもそもMSのテストパイロットというのは、宇宙での運用についてだろう? だとすれば、月じゃなくて月の周辺にある宇宙要塞とかはどうだ?」
月の周辺には、バルジやリーブラ、ジェネシス、ピースミリオンといった宇宙要塞が存在している。
……ピースミリオンは実際には宇宙要塞ではなのだが、そういう風に使えるのも間違いないし。
そのような場所を拠点として使えば、月からは近いし宇宙でMSの運用についても十分に出来るのは間違いなかった
「難しいでしょうね」
だが、セイラは俺の提案にそう言ってくる。
とはいえ、それは意外でも何でもない。
いや、寧ろ十分に納得出来る事だった。
何しろ、アナハイムがフィフス・ルナでガンダム開発計画を進めているのは、月でそれをやるとルナ・ジオンにそのデータを奪われるかもしれないと感じたからだろう。
……実際、アナハイムからの行動はそれを前提としている以上、決して間違ってはいないのだが。
ただし、それにしても表立って出来ないからこそ、フィフス・ルナで行動しているのだ。
そんな中で月の周辺にある宇宙要塞とかで運用テストをするとなると、連邦軍がそれに賛成をするとは思えない。
「やっぱりか。そうなると……ペズンはどうだ?」
「月やその周辺よりはいいでしょうけど、それでもルナ・ジオンの拠点であるというのは代わらないわ。連邦軍が承知すると思う?」
現在ペズンは当初あった場所から地球の側に移動し、ルナ・ジオンが地球に下りる際、あるいは地球から宇宙に来た際の中継地となっている。
また、連邦軍が何か妙な行動を起こした時は、それを可能な限り早く察知する為の場所でもあるのだ。
そうなると、つまり連邦軍にとっては月と同様……場合によっては、それ以上に警戒すべき場所と認識される。
実際、ペズンにはサイクロプス隊を始めとして、精鋭も相応にいる。
精鋭だけではなく、無人機のメギロートやバッタもいるし、軍艦としてカトンボとかもある。
そういう意味では、連邦軍にとって……より正確には強硬派にとって、目の上のたんこぶの如き存在だろう。
もっとも、そんなペズン以上に目障りなのは、やはり地球にあるハワイだろうが。
連邦政府や連邦軍にとって、ハワイというのは地球に唯一存在する連邦以外の国の領土だ。
地政学的な意味でもハワイというのは非常に大きな意味を持つ。
……ましてや、ハワイにはギニアスがいて、アプサラスを開発している。
他にもソロモンの悪夢のガトーや荒野の迅雷の異名を持つヴィッシュがいるのだ。
異名持ちではないが、ノリスとかもいるし。
そういう意味で、ハワイは一大拠点となってもいる。
それでいながら、観光地としても発展しているので、連邦にとっては余計に痛し痒しといったところだろう。
実際、ルナ・ジオンにとっても地球における唯一の領土という事で、水中用MSを大量に配備しているので、防御力に関してはちょっとやそっとではどうにもならないくらいのものなのだが。
「そうなると、やっぱりフィフス・ルナで行くのか。ただ……だとすれば、ニーズヘッグを収納する部屋を作って貰って、それを使ってシステムXNで転移をするか?」
量産型のシステムXNは、同一世界間での転移しか出来ない。
例えば、このUC世界において、月と木星の貿易で使っているのは、それだ。
シャドウミラーで開発した外部武装追加ユニットのファブニールに搭載されているのが、その量産型のシステムXNだな。
それと比べて、ニーズヘッグに装備されているのと、ホワイトスターにある転移区画にあるシステムXNはオリジナルだ。
この世界から他の世界に直接転移する事は不可能だが、ホワイトスターに直接転移をするといった事は出来る。
そういう意味では、例えばフィフス・ルナにニーズヘッグの入る大きさの空間を用意して貰って……駄目だな。
連邦軍にしろ、アナハイムにしろ、ニーズヘッグには興味津々なのだ。
そうである以上、もしニーズヘッグを手に入れる……いや、それは無理でもニーズヘッグのデータを少しでも入手出来るのなら、あらゆる手段を使ってちょっかいを出してくるだろう。
フィフス・ルナが連邦の管轄である以上、ニーズヘッグ用に用意されたという場所であっても、色々な……それこそ無理矢理であっても理由をつけて、介入してきてもおかしくはない。
そんな状況を考えれば、やはりフィフス・ルナにニーズヘッグの転移用の場所を用意するのは難しい。
「それもいいかもしれませんが、出来ないのではなくて?」
セイラにそう言われると、俺としても頷くしかない。
「そうだな。そうなると……考えられるのは、ペズンからフィフス・ルナまで通うとかか?」
連邦やアナハイムの影響力の強いフィフス・ルナにニーズヘッグを待機させるのが無理なら、他にそのような場所を用意するしかない。
そしてフィフス・ルナから一番近い場所でそのような場所となると、やはり真っ先に思い浮かぶのはペズンだった。
フィフス・ルナもペズンも、双方共に地球に近い場所にある。
勿論フィフス・ルナとペズンはそれなりに離れているが、それでも月からフィフス・ルナに向かうのとペズンからフィフス・ルナに向かうのとでは、大きく違ってくる。
「アクセルにとっては面倒かもしれませんが、それが最適なのは間違いないでしょう」
セイラも俺の言葉に頷く。
そうして話は大雑把に決まる。
もっとも、話が決まると言っても、それはあくまでも俺達の側で決めた事だ。
アナハイムにもこの条件でいいのかどうか話を通す必要がある。
……もっとも、この話を持ってきたのがアナハイムである以上、こちらの条件を断るという可能性は低いが。
「とはいえ、アクセル・アルマーとして行くのは不味いか」
飲んでいた紅茶をテーブルに置くと、椅子から立ち上がる。
そしてテーブルからすこし離れたところで、指を鳴らすと同時に全身が白炎に包まれ……
「この姿で行くのはどうだ?」
「……えっと……それはさすがに無理ではなくて?」
驚きに目を見開くセイラというのも珍しいな。
無理もないか。今の俺は10歳前後の姿だ。
まさしく子供である以上、テストパイロットを……それも連邦軍にとって重要な意味を持つガンダム開発計画のテストパイロットをやらせたいとは思わないだろう。
「それもそうだな。じゃあ、こっちだ」
再びパチンと指を鳴らすと、今度は10代半ばの姿になった。
この年齢でもまだちょっと厳しいかもしれないが、この外見で18歳くらいだということにしておけば、問題はないだろう。