「ビームマシンガンとビームライフル、強襲型としてはどちらの方が相応しい武器だと思うかしら?」
クレナのその問いに、どう答えればいいのか少し迷う。
いや、ここは素直に口にした方がいいか。
「俺が操縦をするのなら、ビームライフル。俺以外が操縦するのならビームマシンガンだろうな」
ビームマシンガンは、多数のビームを広範囲に放つことが出来る。
それと比べて、ビームライフルのビームは一撃の威力は高いものの、それだけに1発撃つだけでエネルギーをかなり消耗してしまう。
ビームライフルを100発100中……もしくはそこまでいかなくても、100発70中くらいであれば、ビームライフルでもそこまで問題はないだろう。
だが、それは一般的なパイロットにしてみればかなり難しいのも事実。
だからこそ、それを行うのなら俺に匹敵とまではいかないが、かなり高い射撃能力が必要だろう。
「そうなると、試作4号機をベースにしたMSは、ビームライフルの方がいいのかしら? ……けど、機構の関係でビームライフルよりもビームマシンガンの方がいいのだけれど。冷却機構についても、ビームマシンガンではしっかりと調整されているし」
「それはつまり、最初からビームマシンガンありきで今の話をしてきたのか?」
「あくまでも今の状況ではの話よ。それに……改修作業をするのを見れば分かるように、ガーベラ……試作四号機のコードネームだけど、このガーベラがベース機になっていると分からないようにするには、ガンダムが使わないような武装の方がいいと思わない?」
「なるほど」
そう言われると、俺も納得するしかない。
今回のテストパイロットの報酬としてルナ・ジオンに……つまり俺に渡される試作4号機をベースにしたMSは、当然ながらガンダムであってはいけない。
何しろガンダム開発計画というのは、連邦軍にしてみれば大金を使って行っている計画だ。
レビルの派閥を引き継いだコーウェンにしてみれば、ここでガンダム開発計画を成功させることによって、自分の足場を固めて影響力を増そうと考えてもおかしくはない。
もっとも、連邦軍再編計画の方にもかなりの資金を奪われているらしいので、そう考えればガンダム開発計画には当初予定していたよりも金は使えていないのかもしれないが。
ともあれ、ガンダム開発計画に連邦軍の金が大量に注ぎ込まれたのは事実。
そして試作4号機は、当然ながらその中で開発された機体だ。
コンセプトの問題で途中で廃棄されたものの、それでも実機を作ったという時点でそこには連邦軍からの金が使われていると思ってもいい。
……もしアナハイムが金を出しているのなら、わざわざここまで小細工をする必要はないのだから。
だからこそ、試作4号機……ガーベラをベースにして開発したMSが、ガンダムであってはいけないというクレナの言葉は十分に理解出来る。
アナハイムにしてみれば、連邦軍にも……そしてルナ・ジオンにも良い顔をする必要があって、テストパイロットをルナ・ジオン軍に求めたし、その報酬としてガーベラをベースにしたMSも譲渡するという事になったのだろう。
しかし、だからこそ今回の一件においては絶対にルナ・ジオンに報酬として渡すMSがガンダム開発計画の系列機であると連邦軍に知られる訳にはいかない。
そう考えれば、ガンダムで使われる事が多いというか標準装備に近いビームライフルではなく、ガンダムではまず使われないビームマシンガンを採用したいというのも分からないではない。
「なら、わざわざどっちがいいとか、聞いてこなくてもいいと思うんだが?」
「今回のガーベラでは無理でも、次……どのような機会になるのかは分からないけど、次に強襲用のMSを作る時の参考にさせて欲しかったのよ」
クレナの口から出た言葉に呆れるも、MSを設計する事に貪欲なのは悪くない。
いっそ、ディアナに来ればいいのでは?
そう思ったが、クレナがそのような事を考えない訳がないか。
その辺については十分に考えた上でアナハイムにいるのだから、俺がここでディアナに誘う必要もないか。
……もっとも、ディアナにはそれこそジオニック、ツィマット、MIPといった兵器メーカーから腕利きの技術者を引き抜いている。
そのような者達がいるからこそ、ギャン・クリーガーやガルバルディβといったように最新鋭のMSをしっかりと開発出来ているのだ。
そこにクレナが今から行っても……意味がないとは言えないが、MSの開発でどこまで実力を発揮出来るのかは微妙なところだろう。
それこそ、場合によっては軍艦を作るように言われるかもしれない。
ナスカ級を見れば分かるように、ディアナはそちら方面が決して強くないのだから。
「話は分かった。じゃあ、ビームマシンガンで構わない。ただ、出来ればビームマシンガンでも、ビーム弾の威力は可能な限り強くして欲しい」
「それは……やろうと思えば出来るけど、そうなるとビームマシンガンとしてのメリットが減るわよ?」
「その辺は腕でカバーするから気にしないでくれ」
そうして会話を交わしていると、不意に部屋の扉がノックされる。
中に入ってもいいと言うと、扉が開いてニナが姿を現す。
「クレナ所長、模擬戦の準備が出来たと報告が。……アクセル中尉も、模擬戦については本当に問題ありませんね?」
所長?
クレナに対するその役職に少し疑問を抱いたものの、すぐニナの言葉に頷く。
「ああ、俺はそれで構わない。それで俺が乗る機体は?」
「パワード・ジムを使って貰います。もう少ししたら地上用にセッティングを変更する予定でしたが、今はまだ宇宙用として使えますから」
「パワード・ジム? 聞いた事がないMSだが?」
「ジム改に試作1号機のバックパック、スラスター、ショックアブソーバーといったパーツを装備した機体です。もっとも、パワード・ジムというのは正式名称ではなく、愛称のようなものですが。ただ、それでもベースとなったジム改と比べると30%程推力が増しています。シミュレータの時のように、アクセル中尉に乗りこなせるといいのだけど」
なるほど、試作1号機のパーツを使ったという事は、ニナがその開発……改修か? とにかく、それに関わっているのだろう。
ニナの性格がどういうものかは、短い時間接しただけでも分かる。
私のガンダムとか言いそうになっていたのを見ると、つまりそれだけMSに強い興味を持っていて……ようはMSオタクな訳だ。
そんなニナだけに、パワード・ジムについても妙な細工をするとか、そういうのはまず考えなくてもいいと思う。
そういう風なのは決して好まないように思えるし。
これで、自分が勝利するのは最優先とか思うような奴だったら、それこそMSに細工をするとか考える必要もあるんだが。
そういうのは気にしなくてもいいっぽいな。
「わかった。ジムなら問題ない」
というか、連邦系のMSは基本的に操縦方法はどの機体でもそう違わない。
勿論、機種によって微妙に差があったりするし、それを抜きにしても、特殊なガンダムとかを考えると、操縦方法が大きく変わったりもする。
そんな諸々について考えると、結局ジムなら問題ないという事になるのは当然だった。
「……負けた理由に機体に慣れていないというのは言われたくないので、1時間ですが機体に慣れる時間を貰えるようにしました」
やっぱり、何気にこういうところがきっちりしてるよな。
本当に俺がそういう言い訳をすると思っているからかもしれないが。
「そこまでして貰えるのなら、まず負けるという事はないな」
「……結果で見せてくれることを期待しています」
俺の言葉を強がりだと判断したのか、それともシミュレータで見ているだけに本当に実力があると判断したのか。
その辺りは分からなかったが、ニナは俺をじっと見るのだった。
パワード・ジムのスラスターによって、宇宙空間を自由に飛ぶ。
なるほど、ジム改と比べて30%の推進力アップというのは伊達じゃない。
ジムとして考えると、破格の機動性だ。
ただ……あくまでもそこまで評価出来るのは直線的な機動性だけで、細かい動きを活かす運動性となると試作1号機のパーツに機体が追いついていないな。
それでもベースとなったジム改と比べると、運動性も上がっているのは間違いないのだが。
ただ……このMSはあくまでもジムだ。
そのジムでここまで操縦性がピーキーなのは、正直なところどうかと思わないでもない。
これが例えばガンダムであれば、ここまで操縦性がピーキーであっても、ガンダムだからという事で納得出来るんだが。
ただのジム……言ってみれば、新人も多く乗るジムにそこまでピーキーなのはどうかと思う。
もっともパワード・ジムに乗り込む前にニナから説明された限りだと、この機体はあくまでも試作1号機のパーツのデータ取りや不具合がないかを確認する為の機体らしい。
つまり、それだけのMSを乗りこなせるだけの実力がある者が乗ってこそ、パワード・ジムの性能を発揮出来る訳だ。
ニナにしてみれば、俺はテストパイロットとしてフィフス・ルナに来た以上、このパワード・ジムに使われている部品を本格的に使った試作1号機の操縦をする事になる訳だ。
であれば……いや、だからこそと言うべきか、ニナにしてみれば俺が本当にテストパイロットを出来るだけの実力があるのなら、このパワード・ジムを乗りこなして見せろと、そう言いたいのだろう。
シミュレータで俺の技量そのものは分かっている筈だが、実機でどう動くのかを見ようというらしい。
そんなニナの態度に色々と思うところがない訳でもないが、ニナが優秀な人物だというのは間違いない。
何しろ、このUC世界においてMSが本格的に使われたのは、1年戦争だ。
つまり、まだ3年くらいしか経っていない。
そんな3年……いや、1年戦争が終わったのが0080だという事を考えると、実質的には2年かそこらでニナはMSの設計を出来るようになったのだ。
これは普通では考えられない事だ。
だが、ニナはそれをやった。
……いや、ニナだけではなく、クラブ・ワークスの面々やクレナもまた同様だろう。
そういう意味で、ニナを含めた面々は天才とまではいかないが、秀才であるのは間違いない。
それこそ、出来ればディアナに欲しいくらいには。
ディアナにも高い技術を持つ者は多い。
何しろディアナの主要メンバーは、1年戦争中にジオニック社を始めとした兵器メーカーから腕のいい技術者達を引き抜いた者達なのだから。
だが……だからこそ、自分達が今まで開発してきたMSを重視するという固定概念がある。
そういう意味で、ジオン軍のMSについては知っていても、自分達で1から開発したニナ達はディアナにとって一種のカンフル剤のような存在となってもおかしくはない。
『どうかしら?』
ちょうどそのタイミングでニナの顔が映像モニタに表示される。
仕事には真面目な性格をしているのは間違いなく、俺に対する不満を表情に出したりはしないで、パワード・ジムの調子を尋ねてくる。
この辺が、ニナの良いところだよな。
まだ会ったばかりだが。
「そうだな。悪くない。ただ、機動性についてはともかく、運動性という点ではかなり扱いにくいな」
『……無理な設計である以上、仕方がないわ。試作1号機の方はそういう事はないから、安心してちょうだい』
「へぇ、その言い方だと、俺がテストパイロットをやるのをもう認めてるように思えるな」
『っ!? 模擬戦の用意は出来ているから、機体の方に問題がないと判断したら戻ってきてちょうだい。ただ、基本的にパワード・ジムの武器はジム系の物になるけど構わないわね?』
顔を赤くしてそう言うニナ。
幾ら俺がその手の事に疎くても、これは分かる。
これは別に、俺を相手にそのような感情を抱いてのものではなく、恥ずかしさや怒りといった、そんな理由だろう。
本音を言えばもう少しニナをからかってみたいとは思うが……まだそこまで付き合いのない中でそのような事をすれば、面倒な展開になるのは間違いない。
「ああ、ジムの武器で構わない。模擬戦ということは、ペイント弾かビームの出力が弱くなっているビーム兵器だな?」
『……ええ、そうよ』
ニナも今の自分の様子は理解しているらしく、この件で何か突っ込まれると思っていたのだろう。
だが、俺がその件で特に何も言わなかった事もあって、ニナはどこか意表を突かれた様子を見せていた。
「じゃあ、もう少し機体の操縦を確認してからそっちに戻る。武器は適当に用意しておいてくれ」
『私の方で決めてもいいの?』
「ニナなら、わざと俺に不利な武器を装備させたり、故障や動作不良の武器を用意したりはしないだろう? このパワード・ジムについて一番知ってるのはニナなんだから、武器はニナに任せるのが無難だと思うが?」
『……分かったわ』
俺の言葉に、ニナは数秒の沈黙の後、そう言うのだった。