ニナとの話を終えると、取りあえず今日はペズンに帰るという事になった。
そしてフィフス・ルナの宇宙港で待ってたナスカ級に乗る。
「そう言えば、今更……本当に今更の話だと思うが、ナスカ級でフィフス・ルナに来てもよかったのか? 具体的には、連邦軍だが」
ナスカ級は、ルナ・ジオン軍の主力艦だ。
それもこのナスカ級はまだそこまで多くの数はない。
そんなナスカ級だけに、連邦軍に見せてもいいのかどうか。
ルナ・ジオンは連邦にとって仮想敵国だが、同時に連邦もまたルナ・ジオンにとっての仮想敵国だ。
ましてや、連邦軍の中には強硬派がいる。
強硬派という存在は、1年戦争中にも多かった。
……これは、ある意味で仕方がないだろう。
ジオン公国が行ったコロニー落としとかによって、連邦が受けた被害は非常に大きかったのだから。
その報復をするという意味で、強硬派となる者が多くなるのは仕方がなかった。
もっとも、それで暴走した強硬派もかなり多かったのだが。
ともあれ、1年戦争が終わった今となっても強硬派が増えるのは……どうなんだろうな。
あるいは1年戦争の時に受けた恩恵を忘れられないとか?
ともあれ、そのような強硬派が存在する以上、連邦軍をルナ・ジオンが仮想敵国と認識するのはおかしくないだろう。
幸いなことに、このフィフス・ルナはコーウェンの派閥の力が強い。
もし強硬派の力が強ければ、それこそナスカ級を拿捕しようと考えても、俺は何も不思議には思わなかっただろう。
そうなった場合、当然ながら艦長も素直に引き渡すとは思わなかったが。
ただ、コーウェン派の拠点であっても、当然ながら連邦軍にしてみればルナ・ジオン軍の新鋭艦だけに、取れるデータは取っているだろう。
俺が知ってる限りでは、連邦軍は1年戦争が終わってから新鋭艦は作っていない。
いや、連邦軍再編計画で新鋭艦を作ってるんだったか?
ただし、その新鋭艦は大艦巨砲主義がメインとなって動いており、だからこそMSの運用能力はないんだとか。
……まぁ、そういう軍艦も使い方次第だとは思う。
思うんだが、今のこのUC世界でMSの運用能力を持たない軍艦というのは……どうなんだろうな。
そういう意味では、MS運用能力を持った新鋭艦という意味で、ナスカ級はコーウェンにとって気になるのは間違いない。
コーウェンにしてみれば、ナスカ級はムサイ級の後継艦のように思っているだろう。
海上艦をそのまま持ってきたような連邦軍のサラミス級やマゼラン級と違い、ジオン軍ではMSにしろ軍艦にしろ、曲線的な物が多い。
そういう意味では、ナスカ級も曲線的な外見をしているのだから、ムサイ級の後継艦と思ってもおかしくはない。
実際、ルナ・ジオン軍として行動している上でムサイ級を始めとしたジオン軍の艦艇はかなり積極的に運用しているのも事実だし。
実はナスカ級はSEED世界、異世界のMSを使う軍隊が運用していた艦だと言っても、それを信じられるかどうか。
ちなみにこのナスカ級。当然ながら、UC世界で使う上で相応に改修されている。
まず一番大きな違いは、動力炉だろう。
SEED世界のナスカ級と違い、UC世界のナスカ級は核融合炉を使っている。
特に核融合炉について、ルナ・ジオンは研究が発達している。
その為、ナスカ級に使われている核融合炉も、かなり大出力のものだ。
そのおかげで、メガ粒子砲の数は相応に多い。
それだけではなくミサイルもある程度装備し、近接戦闘用の対空砲も多数あり、MSはそう簡単に近づけないだろう。
後は……そう、MSの運用能力も上がっている。
SEED世界のナスカ級は、MSは6機しか搭載出来ないが、UC世界で改修されたナスカ級は最大9機まで運用出来る。
電磁カタパルトはそのまま……より正確にはUC世界のMSで使えるように微調整してるらしい。
ちなみにビグロやヴァル・ヴァロ系のMAも一応運用出来るようにはなっているものの、当然ながらそうなるとMSとかの運用は難しくなるか、搭載出来る機数が減る。
まぁ、それでもビグロ系のMAが運用出来るのは大きいだろう。
「アクセル代表の送り迎えをするとなると、やはりこのくらいはする必要があるかと。それに、連邦軍に対する示威行為でもあります。……連邦軍の中には、ルナ・ジオンを下に見る者も多いようですから」
「そういう奴もいるだろうな。特に1年戦争で被害に遭った者達にしてみれば、ジオン公国も、ジオン共和国も、ルナ・ジオンも……どれも似たようなものだろうし」
この辺りは、仕方がないとも思う。
……とはいえ、連邦政府は宇宙に対する移民を途中で打ち切った。
そういう意味で、スペースノイドは棄民と言われてもおかしくはない。
そう考えると、どっちもどっちって感じはしないでもないんだけどな。
「あまり良い気分ではありませんね」
「だろうな。とはいえ、その辺はこれからの歴史次第だ。ルナ・ジオンの存在によって、連邦やジオンがどう動くのか。その辺は俺にとっても興味深いところだよ」
そんな風に会話をしながら、俺はナスカ級がペズンに到着するのを待つのだった。
「んー……戻ってきたって感じがするな」
オルフェンズ世界の火星の景色を見ながら、そんな風に呟く。
ペズンに戻り、ニーズヘッグを使ってホワイトスターの転移区画に。
そこからニーズヘッグから下りて、生身でオルフェンズ世界に。
こうして戻ってくると、火星の景色を何となく懐かしく思える。
何だかんだと、数年はオルフェンズ世界にいたんだし、火星でシャドウミラーというPMCを作ったりしたので、そういう意味では懐かしく思うというのも、そんなにおかしくはないのだろうが。
ゲートの護衛をしている量産型Wやコバッタを一瞥してから、俺は建物に向かう。
すると建物の運動場では、ちょうど模擬戦をしているところだった。
勿論、MSを使った模擬戦……ではなく、生身での模擬戦だ。
基本的にMSでの戦いが主なのは間違いないが、生身での戦いをする機会もそれなりにある。
ただ……その模擬戦の様子を見て俺が動きを止めたのは、模擬戦をやっているメンバーの中にムウがいたからだ。
そのムウは、オルフェンズ支部の面々10人程を相手に1人で戦っている。
それでいながら、有利なのは……圧倒的に有利なのはムウの方だ。
「アクセル? 戻ってきたのですか?」
模擬戦を見ていると、丁度そこに書類を持ったシーラが通り掛かった。
「ああ、ついさっきな。……で、何でムウがオルフェンズ世界に来て模擬戦の相手をしてるんだ?」
「何でも暇潰しとか」
「……ムウらしいと言えばらしいな」
実際、魔力や気を使う事も出来ない相手との模擬戦は、暇潰しでしかないだろう。
これで本家の方のシャドウミラーの面々を相手にすれば、魔法や気を使った攻撃が乱れ飛び、とてもではないが暇潰しで相手は出来ない。
もっとも、ムラタのようにそういう戦いを楽しむ者も相応にいたりするが。
「アクセルの方は今日はもういいのですか?」
「ああ。UC世界での用事は終わらせてきた。こっちにとっては、それなりに悪くない話だったしな」
試作4号機をベースにしたMSを貰えるというのも大きいし、ガンダム開発計画の試作1号機のゼフィランサスを操縦出来るというのも悪くはない。
ニナとの関係も、最初はどうなるかと思ったが、きちんと実力を見せたら大分対応も友好的になったし。
唯一の難点は、ニナがMSオタクであるという事だろう。
今はまだそこまで暴走していないが、実際にゼフィランサスが完成したら……うん。間違いなく暴走しそうだ。
まぁ、その辺については今は考えないようにしておく。
もしかしたら、いずれ何とかなるかもしれないし。
「そうですか。……そう言えば、量産型Wとコバッタ、助かっています」
「だろうな」
シーラの言葉にそう返す。
既にオルフェンズ支部では、量産型Wやコバッタが働き始めていた。
それで最も助かっているのは、事務仕事だ。
ただ……問題がない訳でもない。
ヘルメットを被って顔が見えない量産型Wと、明らかに独立して動いているコバッタ。
それを見れば、当然だが一般人なら驚く。
驚くだけならいいが、オルフェンズ支部で働く者の中にはクリュセに自宅を持っている者もそれなりにいた。
一応、寮というか社宅というか、そんな感じでこのオルフェンズ支部には住居もある。
ただ、そこまで広い訳でもないし、それこそ家族や恋人と一緒に暮らしている者にしてみれば、クリュセに自宅があるのはそうおかしな話ではない。
そんな中で、家族や恋人、友人といった者達に、量産型Wやコバッタの話をしたらどうなるか。
当然の話だが、俺は量産型Wやコバッタについては部外者に事情を話すのを禁止している。
そして最悪の場合、首にするとも。
だが……酒を飲んで気が緩んだ時、あるいはここだけの話といったように優越感に浸りたい時、娼館での寝物語……いわゆるピロートークで。
他にも色々な理由で、量産型Wやコバッタについての情報が流れる可能性は十分にあった。
まぁ、俺も情報漏洩については厳しく当たると口にはしたが、全員が全員それを守るとは思っていない。
もしくは、何かで噂を聞いた者が多額の情報料を支払うといった事になった時、それを断れる者が一体どれくらいいるのやら。
雇う時の面接でその辺は十分に考慮したつもりだが、だからといって絶対に金に転ばないとは限らない。
いずれ……それがいつになるのかは分からないが、それでもいずれ情報が漏れるのは半ば確信していた。
ただ、出来ればそれが可能な限り後になって欲しいとは思うが。
「じゃあ、俺はちょっと訓練場に顔を出してくる。何でムウがいるのか、その辺についても聞いておきたいし」
「分かりました。では、私は仕事に戻ります。……今日はホワイトスターの方に戻るという事でいいのですね?」
シーラの言葉に頷きを返す。
当然ながら、ホワイトスターと行き来が出来るようになった以上、オルフェンズ支部で寝泊まりをする必要はない。
そんな訳で、日中はオルフェンズ支部で仕事をして、夜はホワイトスターに戻るといった感じか。
……これは一種の通勤と考えてもいいんじゃないか?
そう思いつつ、訓練場に向かう。
するとそこでは、ちょうど何度目かの模擬戦が終わったところだった。
「よう。アクセル。もう戻ってきてたのか?」
「ああ、やるべきことはやったしな。……というか、やるべきことがなかったと表現した方が正しいと思う」
何しろUC世界でガンダム開発計画のテストパイロットをやる為に行ったのだが、肝心のゼフィランサスはまだ完成していなかったのだから。
試作1号機のゼフィランサスが完成していないという事は、試作2号機の方もまだ完成していないと思っていいだろう。
そんな訳で、暫くはせいぜいがゼフィランサスのパーツのデータ取りとかそういう意味で、パワード・ジムを操縦するくらいか。
そのパーツについても、すぐに出来るような物じゃないし。
「ふーん。……まぁ、UC世界は色々と大変そうなのは間違いないしなぁ」
「それは否定出来ない。SEED世界のように、平和が続けばいいんだけど、そういうのも難しそうだし」
SEED世界は、俺が介入したプラントと地球の戦争が終わってからは、特に騒動が起きていない……あ、いや。ブルーコスモスやその裏にいるロゴスだったか。そういう連中の暴走や摘発とか、そういうのがあったな。
とはいえ、それだけで、大規模な戦闘とかそういうのは起きていない。
原作でも、多分1作で終わったんだろうな。
それと比べると、UC世界は1年戦争だけでも多数のイベントがあったし、それが終わってからも水天の涙だったり、ガンダム開発計画があったりするのを考えると……うーん、その辺はどうなんだろうな。
「一度の戦いで平和になったとなると、鬼滅世界やX世界なんかもだろう?」
「鬼滅世界はともかく、X世界はどうだろうな」
俺が介入した戦いの後は特に問題は起きていないようだが、恐らく俺が介入したのはX世界の作品の2作目だろう。
そしてX世界の1作目はジャミルが主人公だった可能性が高い。
ルチルの件もあるしな。
……そう言えば、最近ルチルを見ていないが、どうなんだろうな。
まぁ、レモンとかから何も聞いていないという事は、上手くやってるんだろう。
「とにかく、この世界もまたそろそろ動きがありそうだし……そうなると、UC世界とこっちの世界を行ったり来たりといった生活になりそうだな」
「こっちについては、最悪俺達が出てもいいぜ?」
そう言うムウは、やる気満々といった感じだ。
無理もないか。最近シャドウミラーの実働班として出撃はしていないし。
最後に出撃したのはいつになる?
そう考えると、マクギリスとラスタルが戦う時、シャドウミラーの実働班を出してもいいかもしれないな。
そんな風に思いつつ、俺はムウと話を続けるのだった。