『来ました! 夜明けの地平線団です!』
通信があったのは、結局ハーフメタルの採掘現場の視察最終日……正確には、最終日になって日付が代わった、午前3時すぎ。
草木の眠る丑三つ時……という表現もあるが、それは午前2時くらの筈だから、それよりは少し遅い感じか。
とにかくこんな真夜中の攻撃というのは、海賊らしくていい。
それだけこっちを警戒しているという事なのだろうが。
採掘施設の中にある一室で待機していた俺は、その言葉に笑みを浮かべる。
「ようやくお出ましか。……オルガ、そっちの準備はいいな?」
「はい、問題ありません。それにしても、こうして待ち構えている場所にわざわざやって来るなんて……夜明けの地平線団は一体何を考えてるんでしょうね?」
「自分達が負けるとは思ってないんだろ。……まぁ、それも理由のないことではないけど」
実際、夜明けの地平線団は海賊としては桁違いに大きい。
このオルフェンズ世界において宇宙海賊はそれなりに多いものの、恐らく夜明けの地平線団よりも規模の大きい海賊というのはいないだろうと思えるくらいには。
……もっとも、それはあくまでも規模の話だ。
この世界において、MSの存在は圧倒的なまでのアドバンテージがある。
小さな海賊の中には、腕の立つMSパイロットがいて、その1人の……あるいは少数のMSパイロットがいれば、夜明けの地平線団と互角に戦っても勝利出来る可能性は十分にあった。
まぁ、その夜明けの地平線団も俺達とぶつかったことで、消滅してしまうことが半ば決まったんだが。
とはいえ、マクギリスから入った情報によると火星に下りた夜明けの地平線団はあくまでもその一部でしかなく、本隊は宇宙で待機したままらしい。
つまり、大規模な夜明けの地平線団の最大の長所を完全には発揮出来ない事を意味している。
まぁ、数が多いという事は、その数の中に才能のある者がいるという可能性も否定出来ないということを意味しているので、ある程度腕利きの奴はいるかもしれないが。
「なら、夢を見ている連中に、現実を見せてやるとしましょう。……MW隊はどうします?」
「経験をさせるには悪くないだろうし、出しておけ。最初からMSを前面に出すと、向こうも即座に逃げるかもしれないし」
「……逃げますか?」
「向こうもこっちの戦力については十分に理解している筈だ。雇い主のアリウムもそうだが、他の組織とかからも情報は集めている筈だし」
シャドウミラーと鉄華団は、それこそ色々な相手と戦ってきた。
当然ながら、その分だけ俺達が戦っているのは多くの者に見られている訳だ。
だからこそ、俺達の戦いの情報を入手するのはそう難しい事ではない。
夜明けの地平線団ともなれば、繋がりもそれだけ多いだろうし。
「それでも襲ってきたって事は、それだけ自信があるからですかね?」
「だろうな。そもそもの話、夜明けの地平線団の目的は俺達に勝つんじゃなくて、ハーフメタルの採掘現場に被害を与える事だ。それをやったら、さっさと引き上げるつもりなのかもしれないな」
こっちにしてみれば、それはそれで厄介なんだよな。
もっとも、数がそこまで多くないというのは俺達にとってもラッキーだけど。
「とにかく、出撃準備だ。俺はクーデリアに知らせた後で出撃する」
「兄貴? 出るんですか?」
「ああ」
「けど……兄貴が強いのはこれ以上ないくらいに知ってますが、今回は新人達を鍛えるんでしょう? そうなると、兄貴が出るのは不味いんじゃ?」
「……なるほど。それもそうか」
つい、いつもと同じように出撃しようとしたが、今回出撃するのは新人がメインだ。
勿論MS隊も用意しており、そこにはマーベルや昌弘といった腕利きがいる。
そして敵は夜明けの地平線団の全機ではなく一部。
となると、オルガの言うように俺が出撃する必要はないか。
それに……万が一、本当に万が一だが、こっちの防衛線を抜いた奴がいたり、もしくは別働隊がいたりした場合、俺がここにいれば対処出来るというのも大きい。
「じゃあ、俺はこっちに残る。オルガはどうする?」
「俺もここに残りますよ。……戦力としてはそこまででもないので」
息を吐きながら、オルガが言う。
とはいえ、その気持ちは分からないでもない。
オルガも元CGSであった以上、阿頼耶識の手術をしている。
だが、MSのパイロットとしては……腕が悪い訳ではないが、突出して良い訳でもない。
実際に戦うのは三日月で、オルガは後ろから指示をするといった役割分担なのだろう。
それは鉄華団になっても代わらない。
いやまぁ、それでもMWに乗って前線で指示をしたりも以前はしていたが。
今となっては、前線は仲間に任せて後方で指揮をしたり、あるいは鉄華団の運営に全力を注いでいる形だ。
もっとも、こっちについてはオルガの恋人のメリビットもかなり頑張っているらしいが。
メリビットにしても、既にテイワズを辞めて完全に鉄華団の一員となっている。
しかも恋人のオルガが鉄華団の社長である以上、必死に頑張るのは当然だろう。
もっとも、メリビットは元々かなりやり手の……何だったか。キャリアウーマン? バリキャリ? まぁ、そんな感じの人物だ。
それだけに、成長著しい鉄華団の運営というのはやり甲斐があるのだろう。
「分かった。じゃあ俺は早速クーデリアに知らせてくるから、ここで指揮を頼む」
「任せて下さい。……兄貴、警報はどうしましょう?」
「その辺はクーデリアと話をしてからだな」
警報を鳴らせば、当然ながら視察に来ている者達にも襲撃の件は知られる。
避難をさせるのならそれもいいが、いっそ警報を出さないで避難もさせず、何もなかったという風にするというのも1つの手だ。
もっとも、その場合は上手くいけば何もなかったという事になるが、もし襲撃の件について知られると、それはそれで不味い事になるんだよな。
なら、いっそ全員避難させた方がいいか?
けどそうなると、襲撃については知られるんだよな。
勿論、襲撃があってそれを無事に撃退したとなれば、それはそれで評価が高まるだろう。
ただ、中には襲撃された件そのものを問題視するような奴もいるかもしれない。
問題のある面子はフミタンとククビータが弾いたが、それだけに今回視察に来ているのは、真剣に現状をどうにかしようと考えている者達だ。
それだけに、海賊の襲撃があったと聞けば問題視する奴がいる可能性は十分にあった。
ともあれ、その辺の判断はクーデリアに任せるとして、俺は部屋を出る。
そしてクーデリア達が泊まっている部屋に向かい、扉をノック。
すると夜中という事もあり、数分が経過してから扉が開く。
顔を出したのは、クーデリアとフミタン。
「アクセル、何かありましたか? ……夜這いに来たとかではないですよね?」
「そういう冗談を言えるのなら問題はないな。襲撃だ。情報にあった夜明けの地平線団だ」
そう言うと、クーデリアの表情はすぐに真剣なものになる。
「お嬢様、すぐに着替えを」
「ええ。……それで、アクセル。対応の方はどうなっていますか?」
「既に迎撃の準備は整っている。それでクーデリアに質問なんだが、視察団の連中をどうする?」
急いでいるという事で……いや、それとプラスして扉を閉めると話がしにくいというのもあって、扉は開けたままクーデリアは着替えている。
普段であれば、クーデリアもこういう事はしないだろう。
だが、今は緊急の時だ。
また、廊下にいるのが俺だけというのも、クーデリアが扉を開けたまま着替えた理由だろう。
何しろクーデリアは俺に自分の全てを見せているのだから。
……もっとも、まだ俺がクーデリアを抱いた回数は少ないので、肌を見せるのがそこまで平気という訳でもないのだろうが。
「どうするとは、どういう事です?」
部屋の中から聞こえてきたクーデリアの問いに、先程の考えを話す。
するとそれを聞いたクーデリアは、即座に判断する。
「警報をお願いします」
「いいのか?」
「はい。視察に来た方々に何かあってはいけませんから」
クーデリアにとってそれは当然の判断なのだろう。
「分かった。じゃあ、ちょっと待っててくれ。オルガに伝えてくる。その間に着替えて、準備を頼む」
「分かりました」
言葉を交わすと、俺は即座にオルガのいる部屋に向かう。
「兄貴?」
「クーデリアからの連絡だ。警報を出して、視察団を避難させるようにとの事だ。そっちに人を派遣してくれないか?」
「分かりました。こっちで人を……そうですね。ビスケットを派遣しておきます」
「頼む」
オルガとの話を終えると、再びクーデリアの部屋の前に戻る。
するとそこでは既に着替え終わったクーデリアの姿があった。
いつものスカートではなく、動きやすいズボン。
今は少しでも動きを妨げる格好はしない方がいいと判断したのだろう。
「アクセル、これからどうしますか?」
「オルガのいる部屋に向かう。既に迎撃の戦力は出ているから、そこでどう動くのかを決めよう。……ククビータはどうした?」
部屋の前にいるのは、クーデリアとフミタンだけだ。
ククビータはどうしたのかと聞くと、クーデリアはすぐに口を開く。
「彼女はクリュセに戻っています。アドモス商会の方にも人を置いておく必要があるので」
「ああ、なるほど」
言われてみれば納得出来る。
勿論、アドモス商会はクーデリア、フミタン、ククビータの3人だけで運営している訳ではなく、結構な人数が雇われていた。
それは間違いないが、それでもトップがクーデリアで、フミタンやククビータがその秘書的な役割なのだ。
言ってみれば、No.2といったところか。
副社長とか専務とか取締役とか、そういうのはいないんだよな。
まぁ、それもアドモス商会がそういう会社だと言われれば納得出来るんだが。
「なので、彼女についての心配はいりません。今はそれよりも、夜明けの地平線団についてです」
「分かった。じゃあ、行くぞ」
クーデリアの言葉に頷き、俺はオルガのいる部屋に向かうのだった。
「で、どんな様子だ?」
部屋に入ると即座にオルガに尋ねる。
するとオルガは部屋の中にいる他の面々に軽く指示を出してからこちらに視線を向けてくる。
「取りあえず予定通りです。……MWと一口に言っても、性能が違いますからね」
「だろうな」
オルガの言葉にそう返す。
シャドウミラーや鉄華団で使われているMWは、その多くがギャラルホルンで使われているMWだ。
ギャラルホルンで使われているMWは、一般的……それこそ普通のPMCや海賊が使うMWと比べると大きめで、その分性能も高い。
MWが大きいとなると、それはつまり被弾面積も上がるという事なのだが……それを込みで考えても、ギャラルホルンのMWは高性能だ。
勿論、MWが高性能であっても操縦するパイロットの腕が悪ければ、意味はないが。
だが、シャドウミラーも鉄華団も、MWのパイロットはしっかりと鍛えられている。
そのお陰で、オルガもこうして安心して見ていられるのだろう。
……それでも、MWに乗ってるのは新人だったり、まだ戦場に慣れていないような者達が大半なので、それだけで完全に安心が出来るという訳でもないのだが。
「MWの違いでそこまで戦局に影響するのですか?」
クーデリアのその問いに、オルガが俺に視線を向けてくる。
どうやら俺に説明しろという事らしい。
オルガは指揮を執っているので、仕方がないが。
「そうだな。一番大きいのは、ギャラルホルンのMWに搭載されている武器は他のMWより威力も射程も上だったりする事が多い。つまり、こっちの射程で攻撃しつつ、相手の射程範囲外から攻撃する事が出来る訳だ」
「……一方的に攻撃出来ると?」
「正解。もっとも、射程の違いがあるとはいえ、それはそこまで極端なものじゃない。相手のMWのパイロットの技量が高ければ、攻撃を回避しつつ距離を縮めて攻撃してくるという可能性は十分にあるが」
これが厄介なところなんだよな。
何しろ、シャドウミラーも鉄華団も、新人は全員阿頼耶識の手術を受けていない。
それと比べると、夜明けの地平線団はヒューマンデブリに阿頼耶識の手術を受けさせていてもおかしくはない……というか、ほぼ確実に受けさせているだろう。
とはいえ、阿頼耶識の手術を受ける事が出来るのは、あくまでも子供だ。
そうなると大人のパイロットは阿頼耶識ではなく普通に操縦しているという事になる訳で……そういう意味では狙い目かもしれないな。
地球での戦いで、俺達と鉄華団が大々的にギャラルホルンに勝利して、その結果ヒューマンデブリの使い勝手の良さに気が付いた者は多い。
そういう意味では、ヒューマンデブリが多くなった理由は俺達にあるのかもしれないが……だからといって、あの状況では他にやりようがなかったのも事実。
そんな風に思いつつ、俺はオルガの指揮を見守るのだった。