「エイハブ・リアクターの反応が……15! MSが出て来ました!」
「ようやくお出ましか」
部屋の中に響く声に、オルガがそう言う。
そう、夜明けの地平線団が火星に降下させた戦力の中にMSがいるのは分かっていた。
だからこそこうした戦いの中でいずれMSが出てくると思っていたのだが……どうやら、今がその時らしい。
「MWの戦いだと不利だと判断したんだろうな」
「そうですね。……兄貴、うちだけじゃなくて、シャドウミラーのMS隊も出撃させても?」
「ああ、構わない。出来れば敵のMSはあまり傷つけないでくれ……と言いたいところだが、まずは生き延びるのを優先させてくれ」
MSは高く売れる。
特に夜明けの地平線団から奪ったMSだと、元手は0だ。
いやまぁ、修理するのに相応の金額は掛かるんだが。
それにコックピットも阿頼耶識と通常の物で違うし。
その辺を考えると、結局のところ売るにはそれなりに金が掛かる。
それは間違いないのだが、同時にそれを売れば修理費用と比べても明らかに高値で売れるんだよな。
エドモントンの一件やら、ギャラルホルン同士での内乱になりそうな件やら、それ以外にも諸々とあるのだろうが、とにかくギャラルホルンの影響力が以前までと比べると下がっているのは事実。
その影響もあって、海賊とかが派手に動いている。
夜明けの地平線団の今回の一件も、それが関係していないとなると嘘になるだろうし。
他にもアーブラウが独自の軍隊を作っているのを見て、それに倣うように……もしくは対抗するように、他の国や勢力でも独自に軍備を用意する者達も増えている。
それは火星でも同様で、PMCとかはその辺が特に大きい。
そんな訳で、MSはまさに売り手市場と言っても過言ではない状況になっている。
だからこそ、出来ればMSは可能な限り確保したいと思うのは当然の事だった。
……あるいは、ノブリス辺りに売ってもいいかもしれないな。
以前は俺達を嵌めたノブリスだったが、既にその落とし前は付けている。
結果として、ノブリスは財産の大半……いや、ほぼ全てを失ったのだが、それでもアーブラウ軍の件に関わり、それなりに利権を手に入れている。
それによって、まだ完全ではないにしろ、以前……俺達に落とし前として多くの金やら物資やらを奪われた時と比べると、大分財産も戻ってきている。
それだけに、武器商人としてMSを売るルートも持ってる訳だ。
あるいは、それこそアーブラウ軍に売るのかもしれないが。
今のノブリスにとって、アーブラウ軍というのは非常に大きな割合を占めている。
だからこそ、アーブラウ軍に潰れられるのは困る訳で、自分の利益を確保する為に、アーブラウ軍を育てるのに必死になってる訳だ。
そういう意味では、やはりもしMSを入手してもそっちに売るのかもしれないな。
「シャドウミラーのMS隊……というか、えっと、これは……グリムゲルデが夜明けの地平線団のMS隊と接触。それから少し遅れて、うちとシャドウミラーのMS隊が戦場に到着します」
グリムゲルデというのは、マーベルの乗っているMSだ。
ガンダム・フレームよりも希少な、ヴァルキュリア・フレームのMS。
小型で軽量。
つまり、速度や運動性に優れたMSではあるが、小型である分だけ一撃の威力は足りない。
その辺りは操縦技術で補うしかない訳で。
普通なら扱いにくい機体だったが、オーラバトラーを使っていたマーベルにしてみれば、その辺りは慣れたものだ。
「グリムゲルデ、敵MSを撃破!」
即座にそんな報告が入る。
「……凄いですね。接触してすぐに相手を撃破するなんて」
「一応言っておくが、グリムゲルデに乗ってるのはマーベルだぞ」
クーデリアにそう言っておく。
多分分かっているとは思うが、それでももしかしたら分からないかもしれないと思っての言葉だ。
「そうなんですか!?」
そして驚きの声を口にするクーデリア。
ただし、部屋の中にいる者達の邪魔にならないよう、驚きの声を上げつつも、それは小声だ。
「ああ。かなり希少なMSだ。マーベルの適性にもあってるし……多分、この世界全体で見ても、間違いなく上位に位置する強さを持つと思う」
そうして話している間に、報告が続く。
「鉄華団のMS、押して……あ、シノさんの獅電が敵に囲まれてます」
「ったく、シノの奴は……他の奴にフォローさせろ。それと一旦退いたMW隊も、補給をすませたら後方からの援護射撃だ!」
オルガの指示に、すぐに通信を担当している男が行動する。
すると、ちょうどそのタイミングでビスケットが中に入ってくる。
「オルガ、避難は終わったよ。取りあえず心配ない!」
ビスケットの声に、オルガは……そしてクーデリアも安堵した様子を見せる。
「MW隊の反応が遅いのは、新人達がメインだから仕方がないが……おう、ビスケット、助かる」
オルガの言葉にビスケットは頷くと、俺やクーデリアに向かって頭を下げてきた。
にしても、シノ……いやまぁ、今はまだフォロー可能な状態だから、そんなに問題はないんだろうけど。
ただ、シノがとなると、まさか……もしかして……そんな風に思ってしまうのは、仕方がないと思う。
いざという時に失敗をするタイプだし。
もしかしたら、今がそのいざという時という可能性も十分にあるのだから。
これが昭弘辺りなら心配はいらないんだが、その昭弘は、現在MWに乗っている。
これは仕方のない事でもあった。
何しろMW隊は新人が多い。
それだけに、それを纏めるのは相応の実力のある者でなければ駄目なのだから。
もし中途半端な奴に任せたりしたら、それこそ鉄華団のMW隊はすぐに崩れてもおかしくはない。
そういう意味では、昭弘をMW隊に回すというのは悪くない判断だと思う。
実際、シャドウミラーのMW隊の中には本来ならMSのパイロットである者が何人かいるし。
そういう意味では、シャドウミラーと鉄華団は双方共に全力という訳ではなかったりするんだよな。
……これが半ば新兵の訓練の為である以上、ある程度のリスクは必要なのだ。
勿論、本当にどうしようもなくなったりした時には、俺が出撃するつもりだったが。
ただ、戦場にはマーベルがいる。
それを思えば、恐らく大丈夫だとは思うが。
幸いな事に、夜明けの地平線団のMS隊はそこまで数が多くはない。
……いや、MSが15機ってのは海賊としてはかなりの戦力なのは間違いないが。
恐らくだが、本来ならもっとMSの数は減らす予定だったのではないかと思う。
だが、敵の中にシャドウミラーがいる以上、中途半端な数のMSでは意味がない。
結果として、それなりの数が……
「これは……別働隊です! 新たにエイハブ・リアクターの反応が6!」
そう報告する男の言葉に、俺はどうする? とオルガに視線を向ける。
もし手が足りないようなら、俺が援軍に出てもいい。
そう思ったのだが……
「問題ありませんよ。……ミカが来た」
そうオルガが言うと同時に、再び報告の声が響く。
「新たにエイハブ・リアクターが1! これは……バルバトスです! 三日月さんです!」
それはオルガの言葉が真実だと示す為の言葉。
というか、オルガは一体どうやって今の状況で三日月が戻ってきたと分かったんだ?
三日月が来たという報告が来るよりも前に、オルガは三日月が来ると断言していた。
……もしかしたら、何か俺には分からないような特殊な繋がりでお互いの存在を把握出来るのかもしれないな。
X世界にいた、あのフロスト兄弟のように。
まさかな。
ともあれ、三日月が来たのならもう心配はいらない。
別働隊の存在は厄介だったが、三日月のバルバトスがいれば、対処は難しくはないだろう。
そんな俺の予想を裏付けるように、別働隊のMSは次々と動きを止めていく。
正確にはエイハブ・リアクターの反応はそのままだが、コックピットを潰された感じだ。
何しろエイハブ・リアクターは、壊す事が出来ないと言われているのだから。
オルフェンズ世界において、それは常識だ。
……もっとも、それがシャドウミラーであれば、また話は別だったが。
恐らくだが、シャドウミラーの機体ならエイハブ・リアクターを壊したりも出来るだろう。
だからといって、そういう事をしても意味はないので、やるつもりはなかったが。
そして別働隊が全滅し……
「夜明けの地平線団、撤退します!」
「よし、すぐに追撃を始めろ!」
そう指示を出すオルガだったが……
「えっと、その……バルバトスが高所から落下した衝撃のせいで壊れてしまったそうです」
「……ミカ……」
その報告に、オルガは天井を見ながら片手で顔を覆う。
まぁ、鉄華団は夜明けの地平線団との戦いでそれなりにダメージを受けている。
死人は0のようだったが、怪我をした者、MSやMWがダメージを受けた者は多いだろう。
だからこそ、三日月のバルバトスという鉄華団最強の戦力を追撃に回そうとしたのだろうが……
「なら、俺が出る」
「……いいんですか、兄貴?」
「ああ。夜明けの地平線団の戦力はもう撤退した。そうである以上、ここが襲われる事はもうないだろう。ただ、それでも万が一があるから、鉄華団のMS隊とMW隊、それとうちのMW隊をここの護衛に残す。うちのMS隊だけは俺と一緒に追撃する」
「……分かりました。申し訳ありません、兄貴」
「気にするな。鉄華団も十分にその役目は果たしたんだ。そう考えると、別に謝るような事はない」
そう言い、俺は部屋を出る。
「アクセル、気を付けて」
背後から掛けられた声に、軽く手を振りながら。
建物から出ると、空間倉庫からミロンガ改を取り出し、コックピットに乗り込み、機体を起動する。
「さて、行くか」
気楽に呟く。
普通に考えれば、MSを使った戦闘……命懸けの戦闘に向かうのだから、そこまで気楽な言葉を口にするのはどうかと思うかもしれない。
ただ、俺は混沌精霊で、この世界においてはもし……万が一にもミロンガ改が撃破されるような事があっても、そしてコックピットを潰されるような事があっても、俺にダメージを与える事は出来ない。
また、それを抜きにしても夜明けの地平線団は撤退をしている。
そして戦いの中で一番戦果を挙げられるのは、敵が撤退している時だ。
だからこそ、今ここで撤退する夜明けの地平線団の戦力は可能な限り減らしておきたい。
今回の一件で、シャドウミラーと鉄華団は明確に夜明けの地平線団と敵対した。
そうなると、ここで撤退している戦力をそのまま逃がせば、その戦力は宇宙にいる本隊と合流するだろう。
合流されてしまうと、この後……宇宙での戦いになるだろうが、そこでの夜明けの地平線団との決戦において、敵の戦力が増してしまう。
だからこそ、ここで敵の数を減らしておくのは重要だった。
テスラ・ドライブによって空中に浮かび上がったミロンガ改は、そのまま戦場となっている場所に向かう。
夜明けの地平線団の目的は、ハーフメタルの採掘場だった。
だからこそ、戦場となったのは俺達のいた場所からそこまで離れてはいない。
空を飛び始めてからすぐに戦場となった場所に到着し……そこでオープンチャンネルで声を掛ける。
これは味方に指示を出すと同時に、夜明けの地平線団がオープンチャンネルの通信を傍受すればプレッシャーにもなるだろうという思いからの行動だ。
「アクセル・アルマーだ。シャドウミラーのMS隊は俺と一緒に撤退した夜明けの地平線団の部隊を追撃する。鉄華団のMS隊は、バルバトスを運ぶのと、それと念の為に施設の護衛に回ってくれ。MW隊はシャドウミラー、鉄華団問わずに施設の防衛だ。……行くぞ」
そう言い、俺は夜明けの地平線団の撤退した方向に向かって移動を開始する。
その場にいた者達も俺の指示に従い行動に移る。
『アクセル、どこまでやるの?』
マーベルからの通信。
映像モニタに表示されたマーベルに対し、端的に口を開く。
「殲滅だ。……まぁ、降伏するのなら、受け入れてもいいが」
ちなみに降伏した敵がどうなるのか……どうだろうな。
ヒューマンデブリとして売りに出してもいい。
あるいは、それこそハーフメタルの採掘工場で働かせてもいいし。
もしくは、タービンズやテイワズ、タントテンポにヒューマンデブリとして売ってもいい。
他には……ああ、そうだな。いっそギャラルホルンに海賊だとして突き出すのもありか?
ギャラルホルンの火星支部の長官は、マクギリスの派閥……革命派の者だ。
そうである以上、海賊を渡せば、それを捕らえたという事で火星支部の長官は手柄になる。
もっとも、夜明けの地平線団とはいえ、雑魚でしかない。
幹部とかなら話は別だろうが、こういうのに派遣されてくるくらいだし、半ば捨て駒的な存在として扱われていてもおかしくはない。
一応手柄ではあるが、その場合はあくまでもちょっとした手柄程度だろうな。
『分かったわ』
俺の言葉にマーベルは頷き……そしてシャドウミラーのMS隊は夜明けの地平線団の追撃を始めるのだった。