「は? 石動が? 何でまた?」
『多分、俺達が夜明けの地平線団とぶつかるのを見越していたんだと思います。兄貴の力を知っていれば、万が一にも夜明けの地平線団如きに負けるとは思わないでしょうし』
映像モニタに表示されたオルガの言葉に、そういうものかと納得し、ミロンガ改の手で持っているサンドバルのユーゴーに視線を向ける。
サンドバルを捕らえたとオープンチャンネルで宣言し、結果として夜明けの地平線団はその大部分が降伏する事になった。
中には戦場の端にいたのを利用し、素早く逃げ出した者達もいたが……まぁ、それはそれで仕方がない。
夜明けの地平線団という大規模な海賊が消滅したのだから、小さな海賊が新たに作られても、誤差の範囲内だろう。
そういう小さな海賊団なら、地球から火星にある高密度デブリ帯に潜伏している可能性もあるし、そうなればエイハブ・リアクターの採掘の時に襲ってきて撃退出来るかもしれないな。
……ちなみに、ブルワーズから出て行った者達の中でも、夜明けの地平線団に合流した者達がいた筈だ。
その中の一部は、以前俺達が高密度デブリ帯で行動している時にちょっかいを出してきたから撃破したが、あれが全員であるとは限らないだろう。
そうなると、もしかしたら降伏した者達の中には元ブルワーズがいる可能性は否定出来ない。
そういう連中は、それこそ即座に逃げ出してもおかしくはないと思うんだが。
この状況で俺達に捕らえられるというのがどういう事かは理解出来ている筈だろうし。
「石動が来ているのなら、それこそ戦力を持ってくるとか、もしくはアリアンロッド艦隊の対処をしてくれるとかしてもいいと思うんだがな」
『こちらの戦力を信頼していたという事でしょう。……それに実際、もし石動が戦力を率いてきた場合、アリアンロッド艦隊との間で騒動になっていた可能性も否定は出来ませんし』
「だろうな。ラスタルは俺と敵対すると決めたようだし。石動がいれば、これ幸いとドサクサ紛れに撃破していた可能性も否定は出来ない」
石動はマクギリスの腹心だ。
仲間という意味では、ガエリオやカルタといった面々がいるが、それはあくまでも同格の仲間だ。
それに対して、石動はマクギリスの明確な腹心でもある。
勿論、マクギリスの腹心という立場である以上、それは有能な人物に決まっている。
マクギリスの性格から考えて、有能ではない……それこそ無能な者をわざわざ腹心の部下にしたりはしないだろうし。
そうなると、ラスタルの派閥と敵対しているマクギリスの腹心という事で、ラスタルの主力たるアリアンロッド艦隊の者達にしてみれば、戦闘のドサクサに紛れて石動を殺そうとしてもおかしくない。
『それにしても……ラスタルが兄貴と敵対するのを決めたというのは、本当ですか?』
「ラスタルの部下のエースが、俺に向かって普通に攻撃をしてきたし……後は誰なのか名前はちょっと分からないが、新型機に乗っている、恐らくはお偉いさんが俺を狙って銃撃してきたしな」
今にして思えば、あの銃撃してきた奴も捕らえておいた方がよかったのかもしれないな。
いや、これはたらればか。
もしあそこで俺がそういう行動に出ていれば、サンドバルと戦っていた女がどういう行動に出るのか分からなかったしな。
結果的には、俺があの銃を撃ってきた奴を無力化して、その上で捕らえるようなこともなかったからこそ、あの女はサンドバルとの戦いを途中で放り投げ、あの男を半ば強引に連れ去ったのだ。
そう考えると、やはりあの選択は間違ってなかったとは思う。
『けど、ラスタルが兄貴を明確に敵と見なすのは……うーん、何だか腑に落ちないんですよね。俺のところに入っている情報からすると、ラスタル・エリオンという男は間違いなく有能です。そんなラスタルが、兄貴を敵に回すというのは……』
悩んだ様子を見せるオルガ。
正直なところ、オルガの言うことも分からないではない。
ラスタルも俺と敵対するというのが一体どういう意味を持っているのかは十分に理解している筈だ。
俺がクーデリアの護衛として地球に行った時、アリアンロッド艦隊は何度も俺達と戦った。
その結果として、アリアンロッド艦隊が受けた被害はかなりのものになる筈だ。
それを分かっているからこそ、ラスタルは俺達を容易に敵にするといった事をするとは思えない。
思えないが、それでもあの女のエースがそういう選択をしたのは間違いないし、その上であの銃を撃っていた奴も明確に俺を狙ってきた。
だからこそ、俺としてはラスタルを敵と認識したのだ。
「まぁ、向こうが何を考えていようと、俺に攻撃をしてきたのは間違いない。石動を通してマクギリスにはその辺についても説明するよ。それでマクギリスがどう動くのかは分からないが。それより、夜明けの地平線団の件だ。……石動が来てるのなら、サンドバルは勿論、他に降伏した連中も向こうに任せてもいいのか?」
『その辺は交渉次第でしょう。サンドバルは確保したいでしょうが、それ以外の者達はそこまで欲しくはないと言うかもしれませんし』
この場合、捕虜にした者達は以前考えたようにヒューマンデブリとして売り払うのが一番だろう。
ただし、この人数をヒューマンデブリとして売るとなると、色々と面倒な事になるだろう。
夜明けの地平線団の人数を考えれば、やはりそれはかなり面倒な事になるだろう。
……いっそ、シャドウミラーが行っている、ハーフメタルの採掘をやらせてみるか?
ただ、問題なのは機械を使って採掘作業をするとなると、その機械は使いようによっては武器となる可能性が高いという事だろう。
暴動とか、そういう事になると面倒なんだよな。
それに……バッタやメギロート、イルメヤ、量産型Wを使えるようになったのは大きい。
ハーフメタルの採掘は、そういうのを使えば、普通に人を使って採掘作業を行うよりも大分楽になるんだよな。
ただ、ハーフメタルの採掘については、アドモス商会を通してクリュセの中でも仕事のない者達を優先的に雇用しているという一面があるのも事実。
それによって、クリュセの失業率に多少なりとも良い影響を与えているのだから。
勿論、仕事というのは幾らあっても構わない。
例えば、アドモス商会を通して雇っている者達がいて、その上で夜明けの地平線団の捕虜にもハーフメタルの採掘作業をやらせるというのは悪い話ではない。
ただ、もし本当にそのようなことをやるのなら、採掘場を綺麗に分ける必要があるだろう。
仕事としてやっている者達と、捕虜となった元海賊達を一緒に場所で採掘作業をさせる訳にもいかないだろうし。
まぁ、その辺についてはやっぱり石動と話してからだな。
もしかしたら、捕虜にした海賊達は全員引き取ってもいいと言ってくるかもしれないし。
『そう言えば、兄貴。今回の一件で夜明けの地平線団のMSや軍艦を大量に入手したけど……どうします? 売るにしても、これだけを売るとなると……整備もする必要がありますし』
オルガがふと思いついたように言ってくる。
とはいえ、実際これはどうするべきかしっかりと考えておく必要もあるだろう。
「整備とかせず、そのままの状態で売りに出してもいいんだが……そうなると二束三文になるだろうしな」
海賊が使っていたかどうかというのを気にする者はあまりいない。
だが……それは綺麗に掃除がされており、整備もしっかりとされている物ならの話だ。
夜明けの地平線団が使っていたままの奴をそのまま、それこそ掃除や修理、調整といった事をせず、そのまま売りに出すといった事をすれば、買い取る者はいるだろうが、間違いなく安く買い取る……いや、買い叩くだろう。
『でしょうね。けど、量が量なのを考えると、俺達だけでどうにかするのはちょっと難しいと思いますけど。兄貴はどう思います?』
「やろうと思えば出来るとは思う。ただ、それをやると人目を引き付けるのは間違いないんだよな」
具体的には、それこそメギロートやバッタを使って宇宙空間にある夜明けの地平線団のMSや軍艦を確保し、俺が空間倉庫に収納しておく。
空間倉庫の中に入れておけば、機械部品の劣化とかそういうのを気にしなくてもいい。
そうして余裕のある状態でMSや軍艦を出しては修理し、売っていく。
この手段の良いところは、一気に大量に売りに出す必要がなく、時間的な余裕がある事だろう。
大量に売りに出せば、どうしても安くなる。
それを避けられるというのは、大きな意味を持つ。
また、空間倉庫の中に収納出来るので、場所を取らないという点でも大きな意味を持つ。
欠点としては、オルガに言ったようにどうしても人目を引くというのがあった。
メギロートやバッタを使おうものなら、一体それは何だ? と追及されてもおかしくはない。
そういうのを使えるという時点で大きなアドバンテージなのだが、それを知られるというのは、出来れば避けたい。
いやまぁ、今の状況でもいずれ近いうちに情報は流れるのは予想出来るのだが。
ただ、それでもその時は出来るだけ遅い方がいいのも事実。
特に今は、ラスタルとの敵対が決定的になったし。
『ともあれ、詳しい話は石動と会ってからってことになるでしょうね。……うちからもビスケットを行かせたいと思うんですが、構いませんか?』
「ああ、それは別に構わない。今回の一件はシャドウミラーと鉄華団が協力して行った戦いだしな。それは当然の権利だ。ただし、MSを確保する際にアリアンロッド艦隊が使っていた新型のMS……レギンレイズという名前らしいが、それについてはこっちで貰うけど構わないか?」
『構いませんよ。それを倒したのは兄貴ですし。兄貴が倒したのを寄越せなんて事は言えませんしね』
以前、ハーフビーク級を持って来た時、ラスタルからはMSのフレームも渡された。
恐らくは、あのフレームをMSとしてきちんと完成させたのがレギンレイズなのだろう。
フレームはあるが、本物のレギンレイズがなかった事を思えば、今回の一件は悪くない。
幸いなことに、俺を銃撃してきた男の護衛は全員始末した。
その分のレギンレイズは確保出来る。
それはシャドウミラーにとって、非常に大きな意味を持つ。
『それにしても、レギンレイズですか。……グレイズの次世代機ですよね』
「そうなるな。まぁ、ギャラルホルンにも色々と事情があるんだと思うが」
グレイズは間違いなく高性能なMSだった。
それはギャラルホルンにおいて、それなりに長い時間グレイズを使い続けていた事からも明らかだろう。
もっとも、その辺には他の組織だと新型のMSを作れないという状況も影響しているのだろうが。
何しろオルフェンズ世界におけるMSの動力炉となるエイハブ・リアクターは、ギャラルホルンでしか作れない。
以前はフレームもギャラルホルンの独占技術だったが、今となってはテイワズでも独自にフレームを作れるようになっているし。
とはいえ、まだ技術的に未熟なところも多く、テイワズのフレームで作られたMSは決して性能が高い訳ではない。
それこそ獅電はグレイズよりも性能が低いし。
だが……それでも、フレームを作って独自のMSを作れるようになったというのは大きい。
このままだと、いずれはエイハブ・リアクターも作れるようになるかもしれないな。
ともあれ、そうしてMSがギャラルホルンの独占技術ではなくなった。
また、エドモントンでの……いや、俺達が地球に来てからの諸々についても、ギャラルホルンの権威を失墜させるには十分だったし、マクギリスの義父である前ファリド家当主がアーブラウにおいて暗躍していたのも関係してくる。
そんな諸々によってギャラルホルンの権威は間違いなく地に落ちた。
……いや、地に落ちたという表現は相応しくないかもしれないが、それでもかなりの権威低下があったのは間違いないだろう。
だからこそ、新型MSを開発してギャラルホルンはまだ大丈夫だというのを示したかったのかもしれない。
その辺りを抜きにしても、アリアンロッド艦隊がシャドウミラーや鉄華団に負け続けたというのもあるし。
負けた以上は戦力を高める必要がある。
そうなると、長年使われていたグレイズよりも高性能のMSを開発する必要があり、それで開発されたのがレギンレイズな訳だ。
実際戦ってみた結果、あの女エースが使っていたレギンレイズの動きはなかなかだったし、俺が倒した護衛のレギンレイズも悪くはなかった。
……ただ、あの俺に向かって射撃をしてきた奴のレギンレイズは……うん。どんなに高性能なMSを使っても、パイロットの腕が2流、3流であれば意味はないという事か。
実際、あの男の射撃は下手に回避しようとした方が命中しそうだったしな。
護衛をされていた事や、女エースがサンドバルとの決着を捨ててでも確保して逃げて言ったという事を考えると、相応の地位にいる者なのは間違いないんだろうが。
そんな風に思っていると、スキップジャック級の姿が映像モニタに映し出された。