「ぎゃははははは。そりゃあアクセルが悪いに決まってるだろ!」
フィフス・ルナにある食堂で、ヤザンがハンバーガーを食べる手を止めて笑い出す。
そんなヤザンに、俺は自分でも分かる程に不満を表情に出しながら口を開く。
「そう言ってもな。ニナが有能なのは認める。認めるが……一種の頭でっかち、もしくは机上の空論ってところがあるのも事実だ。その辺については、忠告しておいた方がいいだろう?」
今までその辺を誰にも言われなかったのは、幾つか理由が考えられる。
例えば、ニナのいる部署……クラブ・ワークスだったか。そこにいる者の大半は若い女だ。
それこそ宣伝目的でそういう者達を選んだのではないかと思える程に。
とはいえ、アナハイムの者達の話を聞いた限りだと、そういう外見だけで選んだ者達という訳ではなく、優秀な人材が揃っているのは間違いないらしい。
実際、ゼフィランサスという、RX-78-2の正統後継機を開発しているのを見れば、それは間違いではないのだろう。
つまり、クラブ・ワークスというのは才色兼備の集団という訳だ。
……まぁ、アナハイムの上層部がそういう風に狙っているのは間違いないだろうけど。
例えば同じくらい優秀であっても、美人とそうでない者であれば、美人の方をクラブ・ワークスに所属させるといったように。
しかもそのクラブ・ワークスは連邦軍にとっては非常に大きな計画である、ガンダム開発計画……それも1号機のゼフィランサスを任せているのだ。
まさに、アナハイムの目玉や花形部署といったところか。
出来ればルナ・ジオンの兵器開発メーカーであるディアナに引っ張りたいところだが……まぁ、無理だろうな。
アナハイムにしてみれば、クラブ・ワークスはかなり力を入れた部署だろうし。
ただ、そういう風にまだ若い女達を集めているが故に、全てを頭で考えた通りになると思い、現場での行動によっては全く理解出来ない結果となったりもする。
今回の一件は、まさにその典型例だろう。
「まぁ、そうだがよ。ただ、なまじ優秀なだけに、自分達ならどうとでもなると思ってるんだろうな。連邦軍の中で、何人かその辺について声を掛けた奴がいるけど、こっぴどくフラれたらしいぜ」
「お前、それ……単純な注意とかじゃなくて、ナンパとかだったんじゃないか?」
美人揃いだけに、クラブ・ワークスの者達にとっては言い寄ってくる相手には思うところがあるのだろう。
いや、単純にナンパをしてくるのなら断ればいいだけだろうが、お前は分かっていないといったような言い方で言い寄ってくるのは……うん。フラれてもおかしくはない。
「まぁ、多分アクセルが言う通りなんだろうな。俺も詳しい話までは分からないから、その辺については予想でしかないが」
「なら、お前が動いたらどうだ?」
「俺がか? 冗談だろ? 面倒臭いな」
そうヤザンが言う。
とはいえ、俺との模擬戦に出て来た事から考えても、ヤザンは間違いなくフィフス・ルナにいる連邦軍の中ではエースの1人だ。
つまり、それだけの影響力は持っているという事になる。
そんなヤザンだが、戦闘についてはかなり積極的だが、人間関係とかにはあまり興味を持たないんだよな。
いやまぁ、それが面倒臭いというのは分からないでもないが。
「とはいえ、フィフス・ルナにいるのはコーウェン派だろう? そしてアナハイムはガンダム開発計画を遂行している訳で……お互いの関係が悪くなるというのは、可能な限り避けた方がいいんじゃないか?」
「……他の誰かがやってくれるだろうよ」
こいつ、自分でやりたくないからって適当に放り投げたな。
とはいえ、あの模擬戦に出て来たのがエース達であるのなら、ヤザン程ではないにしろ、それなりに腕の立つ者達はいる訳で。
そっちに放り投げても、それはそれで悪くない……のか?
まぁ、ヤザンにしてみれば、それはそれで仕方がないとでも思っているのだろう。
「お互いの関係が悪くならないといいんだがな」
「その辺はもしそうなっても、他の誰かが何とかしてくれるだろうよ」
同じ事を繰り返すな。
とはいえ、ヤザンに人間関係についての調整とかそういうのを期待することが間違いなのかもしれないが。
これでヤザンは面倒見もいいので、部下となった者に対する人間関係についてなら何とかするだろう。
ただ、今回はヤザンの部下という訳ではない。
あくまでもアナハイム……クラブ・ワークスと、一部の連邦軍人の問題だ。
「俺としては、ガンダム開発計画に影響が出ないなら、それでいいんだけどな。……そう言えば、アムロについて詳しい情報を知らないか?」
ふと、以前少し思った、ガンダム開発計画のパイロットにアムロが選ばれないといったような事について思い出し、そう尋ねる。
シーマからも、軟禁されているという話を聞いていたしな。
だが、ヤザンは俺の言葉に少し困った様子で頭を掻く。
「あー……アムロか。結構監視が厳しいらしいな。連邦軍も、戦争が終わった当初はプロパガンダとして、アムロを前面に出したりしたんだが」
アムロの性格を考えると、基本的に目立つのはそこまで好きじゃないしな。
とはいえ、だからといって軟禁されたり監視されたりするのを好むって訳でもないだろうが。
「シーマから聞いた時と変わらないか。……勿体ないな。今この状況でアムロを締め付ければ、後々面倒な事になるだろうに」
もし俺が連邦軍の上層部の軍人であったら、アムロを手元に置いて重用する。
もっとも、アムロはニュータイプだ。
そしてセイラの事を知っていれば、ニュータイプというのは相手の心を読んだり出来るというのを理解している筈だ。
つまりアムロを重用して利用をしようとしているのを、ニュータイプ能力で読まれる可能性がある。
……ルナ・ジオンに協力している俺が言うのもなんだが、アムロの現在の状況というのは、やっぱりニュータイプの存在を全面に出しているルナ・ジオンの存在が、アムロを締め付けている理由になるんだろうな。
いっそ、アムロを無理矢理連れ去るか?
そうも思うも……俺は決してアムロに好かれてる訳じゃないんだよな。
サイド7で、俺が初めてアムロと会った時、アムロはニュータイプ能力によって俺の念動力や魔力か? とにかくそういうのを察知して恐怖し、半ばトラウマのようになった。
1年戦争で俺がホワイトベースと行動を共にした結果、最終的にはそのトラウマも大分克服されたようだったが……だからといって、俺に恐怖を覚えていないかと言われれば、微妙なところだ。
ただ、それはあくまでも俺に対してだけだ。
つまり、俺以外の相手に対してはそこまででもないという事を意味している。
実際、ルナ・ジオンのニュータイプ研究はかなり穏やかな方法で進められている。
フラナガン機関で行われていたような、非人道的な研究は行われていない。
被検者となったニュータイプ、あるいはニュータイプ候補達も、今では喜んで……とまではいかないが、それでも決して嫌々ではない感じで研究に参加している。
ニュータイプをこういう風に研究するのは、良いところもあれば、悪いところもある。
良いところというのは、やはり被検者となるニュータイプが研究を嫌がらない事だろう。
のびのびとした生活が出来るので、ニュータイプの健康的な意味ではこれ以上ない感じだ。
だが……だからこそ、悪いところもある。
人道的な研究だからこそ、研究の進み方そのものは決して早くはない。
同じ研究をするにも、人道的と非人道的な場合では、研究速度にかなりの差があるのも事実なのだ。
他にも、ニュータイプが発する特定の脳波。
具体的には、ミノフスキー粒子散布下でビットとかを自由に操るのに必要な脳波の類は、被検者となるニュータイプが緊張したり、ストレスを感じている時に出やすいらしいし。
もっとも、その辺は個人差もあるし、高いニュータイプ能力を持っていれば普通の状況でもそういう、ニュータイプ独自の脳波を出したりは出来るらしいが。
そしてアムロは連邦軍の中では最高のニュータイプだ。
それこそ普通の状態……ストレスとかを感じていない状況でも、ニュータイプの脳波を出したり出来る。
だからこそ、俺としてはアムロは連邦軍にいるのではなく、ルナ・ジオンにいるのがいいと思うんだが。
「ニュータイプとしては、間違いなく連邦軍よりもルナ・ジオンの方がいいんだがな」
「そうかもしれないが、もしアクセルがアムロを連れ去るような事があれば、連邦軍と本格的な戦いになるぜ?」
「……だろうな」
ルナ・ジオンを……ニュータイプを怖がっている連邦軍にしてみれば、連邦軍最高のニュータイプを、ルナ・ジオンに奪われるというのは絶対に許容出来ない事だろうし。
連邦軍がアムロを飼い殺しにしてるのは、もしルナ・ジオンと連邦軍が戦う必要が出て来た時、アムロを戦力として使いたいからというのもあるんだろうし。
「カイ達のように、1年戦争が終わったらすぐにでもルナ・ジオンに移住してくれば、アムロも今のような待遇にはならなかっただろうに」
「俺としては、ルナ・ジオンと戦いたくないという気持ちと、戦いたいという気持ちの両方があるけどな」
「ヤザンならそうだろうな」
1年戦争時代は、その戦い振りから野獣と呼ばれた事もあるくらいだ。
そんなヤザンだけに、強敵と戦いたいと思うのは自然な事だろう。
……もっとも、自然な事であると同時に、ルナ・ジオンとまともに戦ったらどうなるのかは、ヤザンが一番理解しているだろうが。
「まぁ、ともあれだ。アムロについてはそんな感じだな。もっとも、そのアムロも聞いた話だと鬼教官ぶりを発揮してるらしいけどな」
「鬼教官……か」
アムロと鬼教官というのは、少し似合わないような気がする。
もしくは、軟禁されている状態のアムロがその苛立ちを教え子達にぶつけているのか。
その理由はどうあれ、アムロに鍛えられた者達は相応の技量を持つようになるだろう。
それこそ新人ながらにエース級の活躍をするとか、そういう事になってもおかしくはないくらいには。
「ああ。俺は今度地上に降りる機会があったら、アムロに会いに行ってみようと思っている。その鬼教官がどういうのか、ちょっと気になるしな」
「……いいのか? そうなれば、ヤザンも面倒に巻き込まれることになりそうだけど」
ニュータイプという事で、危険視されて監視され、軟禁されているアムロだ。
そんなアムロに1年戦争の時の戦友であるヤザンが会いに行けば、ヤザンもまた連邦軍から監視されるようなことになる可能性は十分にあった。
ヤザンの性格を考えれば、監視されるのは決して面白くないだろう。
……いや、ヤザンの性格云々以前に、誰でも監視されるのは面白くないか。
そういう趣味を持つ奴なら、歓迎するかもしれないが。
取りあえず、俺はごめんだな。
「ああ、別に構わねえよ。それに……自分で言うのも何だが、コーウェン派は連邦軍の派閥の中でもかなり大きい」
「だろうな」
コーウェン派は、レビル派の後継派閥だ。
勿論、レビル派だったがコーウェン派に入るのは嫌だと、派閥を抜けた者もいるだろう。
そういう意味では、レビル派のように圧倒的な大きさの派閥の時よりも、コーウェン派となった今は派閥の規模そのものは小さくなっているのかもしれない。
しかし、多少小さくなったところで、それでも連邦軍の中でも大きな派閥の1つであるのは違わない。
それを示すように、コーウェンは連邦軍再編計画において、ガンダム開発計画を提案し、それを実行する事が出来ているのだから。
そういう意味でも、大きな力を持っているのは間違いないのだ。
だからこそ、そんなコーウェン派に対して勝ち目もなくちょっかいを掛けてくる者はいない……いない……いや、どうだろうな。
普通に考えれば、そのような相手はいないだろう。
だが、普通に考えられない場合はどうか。
そして俺は、連邦軍の中にそのような者達がいるのを知っている。
強硬派だ。
強硬派にしてみれば、レビル派閥の後継派閥ということで、ルナ・ジオンやシャドウミラーと友好的にやろうというコーウェンの存在は面白くないと思ってもおかしくはない。
そして面白くないと思えば、行動に出るのが強硬派だ。
「強硬派は大丈夫なのか?」
「あー……その件か。何でも最近では、強硬派が1つに纏められつつあるらしい」
「マジか」
ヤザンのその言葉は、俺にとって完全に予想外だった。
何しろ、強硬派だ。
1年戦争の時は、数え切れないくらいにこちらの邪魔をして来た者達。
そんな強硬派が1つに纏まるのか?
そもそもの話、強硬派の多くは自分が気に食わないからという理由で暴れたりする。
そんな者達を纏めても、それこそ纏めた端から組織が崩壊していくようにしか思えないんだが。
「ああ。そして実際、今のところはそれなりに上手く行ってるらしい。……ただ、妙なのがその強硬派の中でも地球出身の連中だけが優遇されてるって事か」
「地球出身を? ……また、随分と無茶な事をするな」
このUC世界において、いわゆるスペースノイドは全人口の半分以上……いや、7割だったか? もしかしたら9割だったかもしれないが、とにかくそのくらいの人数はスペースノイドだ。
地球人、いわゆるアースノイドを優遇するというのは……一体どういう事なんだろうな?