「地球の件……どう思いますか?」
オルガのその問いに、俺は少し考えた後で口を開く。
「石動との話の中で可能性が高いのは、やっぱりラスタルが裏で糸を引いているという事だろうな」
何らかの証拠がある訳ではない。
しかし、状況証拠といった意味ではラスタルが怪しいのも事実。
「そうですか」
「シャドウミラー地球支部では情報を集めるように指示を出してるが、鉄華団の方はどうだ?」
「それが……特に問題がないと、自分達に任せて欲しいと言ってくるばかりで」
「そうなのか? 情報については何も上げてきていないと?」
「はい。ただ……連絡をしてくるのはラディーチェなんですよね」
「ラディーチェ? それは確か、テイワズから派遣された奴じゃなかったか?」
俺の言葉にオルガが頷く。
ラディーチェというのは、ジャスレイの手の者の可能性が高かった筈だ。
「他の奴はいないのか? 一応、鉄華団の地球支部を率いているのはチャドだった筈だろう?」
「……蒔苗の爺さんのテロに巻き込まれて。今の鉄華団の地球支部で上に立って指示出来るのは、ラディーチェしかいないんですよ」
「それは不味くないか?」
今回の地球の騒動、後ろにいるのはラスタルだと思っていた。
だが、オルガの言葉を聞くとジャスレイの手の者の可能性が高いラディーチェが関与している可能性も否定は出来ない。
「はい。なので、人を派遣したいと思っているのですが……ラディーチェからの話だと、現在の混乱で共同宇宙港も使えるかどうか分からないという事で。どこまで本当なのかは信じられませんが」
とはいえ、その言葉が信じられないからといって地球に向かったら、実際に共同宇宙港が利用出来ない可能性もあるのか。
そうなると、最悪の場合は地球に行った意味がなくなる。
いやまぁ、ギャラルホルンで使っているあの装備……地球に降下出来るシールドもあるから、降下する気になれば降下も可能だろう。
ただし、そうなると後が続かなかったり、戦いに乱入したとして面倒な事になる。
となると……手を出すか?
結局のところ、現在問題なのは蒔苗が意識不明の重体だからだ。
蒔苗の意識が戻れば、諸々は回復する。
そしてシャドウミラーにはその辺を回復出来る方法があるのも事実で、ニーズヘッグを使えばゲートを使わずとも即座にホワイトスターまで転移が可能なのだ。
あるいは……いっそ、シャドウミラーの力を堂々と見せつけるという手段も……いや、それは早いな。
「やっぱり、戦争で圧勝して即座に終わらせた方がいいのか?」
「それは……まぁ、出来るのならそれがいいかもしれませんけど。ただ、そうなると色々と面倒なことになりますよ?」
「そうかもしれないな。けど、それを黙らせるだけの圧倒的な力で戦場を支配したら、どうなると思う?」
俺の口から出た言葉が予想外だったのか、オルガは驚きから何も言えなくなる。
そしてたっぷりと数分沈黙した後で……
「出来るんですか?」
「やろうと思えば出来るだろう。幸い、今の俺はニーズヘッグも使えるようになったし」
俺の操縦技術を最大限に利用出来る、ニーズヘッグ。
呪いが解呪された事によって、これを使えるようになったのは大きい。
「とはいえ、やるにしても情報を集めてからだな。……そっちはラディーチェの妨害で情報が入ってこないのなら、こっちで情報を集めよう」
ラディーチェがいれば、鉄華団の本部と地球支部の間の連絡を遮断出来る。
それは間違いないが、だからといってそれはあくまでも鉄華団限定なのだ。
何しろ、ラディーチェは鉄華団に事務員が少ないという名目でジャスレイが送り込んできた男なのだから。
……まぁ、表向きにはジャスレイとラディーチェの関係はないのだが。
ただ、名瀬からの情報では、恐らく間違いないと思われた。
そんな訳で、ラディーチェがちょっかいを出せるのは、あくまでも鉄華団だけな訳で……シャドウミラーの方はそれなりに人数が足りている以上、手を出す事は難しい。
つまり、シャドウミラー経由なら地球の情報はしっかりと入るのだ。
正直なところ、ラディーチェを送ったジャスレイはともかく、送られたラディーチェの方は一体何を考えているのか分からない。
こうして半ば捨て駒として送られてきたとはいえ、それでも役に立つと思えるだけの能力を持っているのは間違いないと思うんだが。
その割には、シャドウミラーにはちょっかいを出さないのか?
「とにかくこっちで情報を集めるが……出来れば、ラディーチェは生け捕りで確保したい」
「兄貴!?」
ラディーチェの生け捕りというのが驚きだったのか、オルガの口からそんな言葉が漏れる。
そして1歩も退かないといった視線を俺に向けてくるオルガ。
オルガの気持ちも分からないではない。
何しろオルガにしてみれば、ある意味で恩人である蒔苗や、何よりも鉄華団の仲間のチャドまでもが今回のテロの被害に遭っているのだ。
もしラディーチェがそれを行ったのであれば、オルガとしてはしっかりと落とし前をつけたいと思うのはおかしな話ではなかった。
「落ち着け。俺も別に、ラディーチェを無条件で解放するとか、そういうつもりはない。ただ……今まで決して尻尾を見せなかったジャスレイに繋がる手掛かりの可能性はある。生け捕りにしたら、しっかりと情報を吐き出させる必要がある」
ここでジャスレイの対処が出来るのなら、やっておいた方がいい。
ジャスレイが何を企んでいるとしても、証拠があれば問題はない。
そしてジャスレイが武力で俺に……もしくは俺達に勝てるとも思えない。
あ、でもそうだな。生身での戦いでは俺達に勝てないが、MSを使った戦闘であればどうとでもなると考えている可能性はあるか。
そしてジャスレイは金儲けの才能だけは間違いなくある。
その金を使って傭兵や海賊を雇い、もしくはテイワズ系列の組織の中で武力自慢の者達を呼び寄せるとか、普通にやりそうだしな。
……まぁ、俺達を嵌めようとした件で証拠があり、証人があり、更にはシャドウミラーはマクマードからテイワズと同格の組織だと認められている。
そんな状況でジャスレイに味方をする奴は……うん。まぁ、何かあった時、マクマードや名瀬ではなくジャスレイにつくような奴だというのは間違いない。
そういう意味では、ここでジャスレイだけじゃなくてジャスレイ派を纏めて片付けるというのも悪くはないだろう。
マクマードがそれを受け入れるかどうかは、また別の話だが。
ただ、マクマードもテイワズという組織を率いる身だ。
獅子身中の虫と称するのが相応しいジャスレイをこの機に処分するというのは、これからの事を思えば決して悪くはないと思う。
勿論、金を稼ぐという事には大きな才能を持っているのが間違いないジャスレイを処分するとなると、それから暫くの間はテイワズに資金的な問題が出て来る可能性は十分にある。
あるのだが、それでも獅子身中の虫の例えの如く、内部から喰い荒らされるような事を考えれば、ジャスレイは始末した方がいい。
その辺りについて説明すると、オルガは納得したように頷く。
「なるほど、兄貴の考えは分かりました。けど、今回の一件でジャスレイにまで手を伸ばすとなると、名瀬の兄貴にも話を通しておいた方がいいのでは?」
「……そうだな。そっちの方がいいか。とはいえ、そうなるとゲートやホワイトスターの件についても、この機会に話した方がいいか?」
今まで名瀬やマクマードにその件について話をしなかったのは、あくまでもジャスレイの存在があったからだ。
だが、今回のラディーチェの一件で半ば無理矢理にでも理由を付けて……それこそ証拠をでっち上げてでもジャスレイを片付けるのなら、もうジャスレイについて頭を悩ませる心配はない。
良くも悪くも、ジャスレイはテイワズの中で大きな影響力を持つのだから。
「そうですね。その方がいいかと。俺としても、名瀬の兄貴にゲートとかの件を黙っているのは心苦しいですし」
オルガのその言葉により、取りあえず地球の情報を集めながら名瀬に連絡を取ることにするのだった。
『で、急に話ってのは何だい、兄貴?』
オルガと話した翌日、俺は早速名瀬に連絡を取っていた。
名瀬の側にはいつものようにアミダの姿もある。
「少し話したい事があるんだが……ただ、通信だとちょっとな」
『はぁ? ……とは言っても、俺が火星に行くとなると、結構な時間が掛かるぜ?』
「そうなんだよな。……ただ、通信だと絶対に安全って訳にもいかないだろう?」
『それはまぁ……いや、それだけ重要な事なのか、兄貴?』
「そうなるな。場合によっては、テイワズのこれからにも関係してくる事だ。地球での一件にも関わっている」
そう言うと、名瀬の表情が真剣なものになる。
名瀬もやはり地球の情報……アーブラウとSAUが戦争になる、もしくはもう既に戦争になっているという情報については知っていたのだろう。
地球の情報については、テイワズも放っておけるようなものじゃないしな。
『……ちょっと待ってくれ。こっちで少し回線を変える』
そう言うと、一瞬映像モニタが乱れる。
だが、次の瞬間には既に先程と変わらないような映像になっていた。
回線を変えるとか言ってたけど、そういうのが出来るのか?
いや、テイワズの技術力はMSを独自開発出来る程に高い。……エイハブ・リアクターは無理だが。
ともあれ、そうである以上、盗聴をされないようにするくらいは出来てもおかしくはないのか。
「これでもう安全なのか?」
『完全ではないにしろ、普通の回線よりは大分マシです。……もっとも、後々少し面倒な事になるかもしれませんが』
名瀬が言う面倒というのが、何なのかは俺にも分からない。
ただ、今はこの回線が安全だというのを理解出来るだけでいい。
『それで、兄貴。話ってのは?』
『この回線を使うのは出来るだけ短い方がいいんだ。手っ取り早く頼むよ』
名瀬に続いてアミダがそう言ってくる。
どうやら本当に余計な世間話とかはしない方がいいらしい。
「そうだな。なら……まずは目的から言うか。現在地球で起こっている、アーブラウとSAUの対立だが、これについてラディーチェが裏で動いている可能性がある。……ラディーチェについては覚えているか?」
『ああ、俺が兄貴にその情報を渡したんだから、忘れる筈がないだろ』
「なら、丁度いい。つまり今回の地球の一件は、ジャスレイが裏で糸を引いている」
『は? いや、それはちょっと……無理がないか? まぁ、ラディーチェの件を考えると怪しいとは思うけどよ』
「そう思うのは分かるが、この際にジャスレイを処分した方がいい。それこそ、多少強引な事をしてもな」
『……なるほど、そういう事か』
今の一言でどうやら名瀬も俺が何を言いたいのか理解したらしい。
納得しつつも、難しい表情を浮かべる。
『兄貴の言いたい事……それにやりたい事は分かった。分かったが……』
「ここで迷うと、またジャスレイを野放しにする事になるぞ。ジャスレイが今のテイワズを大きくする原動力の1つだったのは間違いないかもしれない。だが、このままだとジャスレイはテイワズに大きな騒乱をもたらす。それは名瀬も分かっているんじゃないか?」
そう言うも、これはあくまでも俺の予想でしかない。
もしかしたら……本当にもしかしたらの話だが、実は何らかの行動を起こしたりもせず、普通にテイワズの一員として動く可能性も否定は出来ない。
もっとも、もし賭けがあったら、その選択肢は大穴中の大穴って感じだが。
俺が知ってる限り……そしてテイワズで情報を集めた限り、ジャスレイの自己顕示欲とかは強い。
自分がテイワズのトップに立つという事を考えているのは間違いないと思う。
とはいえ、実際にそれを試してみないと何ともいえないのも事実だが。
だからといって、それを試すかと言われると……それもまた、当然ながら難しい。
だからこそ、先手を打った方がいいのは間違いない。
『……分かりました。親父に話をしてみます』
「任せる。……それと、もしこれで決断出来た場合、俺の秘密を教えるとマクマードに伝言を頼む」
『秘密?』
「ああ。秘密だ。ちなみにこの秘密を知れば、お前達にも大きな利益がもたらされるのは間違いない。今のテイワズはジャスレイの才能のお陰で資金には困っていないらしいし、それによってテイワズを大きくしてきたのは間違いないとは思うが、この秘密を知れば、ジャスレイに頼っていた分は問題なく対処出来るようになると思うぞ」
『それは……一体?』
「だから、まだ秘密だ。あくまでもこっちの話に乗ったら秘密を教える」
俺の秘密をどう判断するのか。
それこそ普通ならジャスレイを排除する為に適当な事を言ってるのではないかと思われてもおかしくはない。
だが、それについても名瀬やマクマードであれば、適切に判断するのは間違いないだろう。