俺が名瀬に連絡をしてから数日……地球では本格的にアーブラウとSAUの戦いが始まっているらしい。
そして当然ながら、アーブラウの国軍に協力しているシャドウミラーと鉄華団もその戦闘に協力している。
少し疑問なのは、戦局が一進一退になっているという事だろう。
鉄華団は実戦経験豊富だし、何より阿頼耶識を使ってMSを操縦している。
そしてシャドウミラーも、グレイズという高性能MSを使っているし、操縦技術も決して低い訳ではない。
だというのに、戦闘そのものは何故か一進一退なのだ。
アーブラウが圧勝する……とまではいかないが、それでもアーブラウが有利であってもおかしくはない。
アーブラウの軍人の練度が低いとか?
実際、シャドウミラーや鉄華団の者達と何度か揉めたという話を聞いているし。
まぁ、分からないではない。
アーブラウの軍人にしてみれば、自分達は地球に住んでいるのに、植民地風情の者達の指示を聞くのに不満を抱いてもおかしくはない。
その上で、鉄華団は子供がメインになっているし、シャドウミラーは元ブルワーズ……海賊が多い。
アーブラウの軍人達にしてみれば、その辺りが面白くないのだろう。
以前、兵器を納入に行った時に軍人の中には、実際にどうしようもないと思しき相手がいた。
ああいう連中は少ないと思うが、あそこまで酷くはなくても、同じような奴はいるんだろうな。
「どう思う?」
「……分かりませんね。考えられる可能性があるとすれば、SAUの軍隊を作るのにも、どこかの組織が協力しているとかでしょうか?」
オルガの言葉に、その可能性はあるかと納得する。
アーブラウにシャドウミラーと鉄華団が協力したのだ。
それを見て、SAUがアーブラウの軍事拡張を危険視し、自分達も同様に軍を持つという選択肢になるのはおかしくはない。
実際、現在アーブラウ軍とSAU軍は戦っているのだから。
だが……そうなると、当然ながらSAUもどこかから助言を貰ったり、戦力としてMSやMWを用意する必要があるし、その訓練をする際の教官役も必要になる。
となれば、SAUもどこかからそうした組織の協力を得たという事になるのは……そうおかしくはない。
だがそうなると、問題なのはどの組織かだろう。
一番怪しいのは、やはりと言うべきかラスタルだろう。
勿論大々的にラスタルが動いている訳でもないので、裏から協力をするといった形だろうが。
そして次に怪しいのは……ジャスレイ。
とはいえ、これに関してはさすがにジャスレイの仕業ではないと思う。
ジャスレイが幾ら金儲けに才能があっても、さすがに国の軍隊を用意するだけの金を、マクマードに知られずに動かすのは無理だろうし。
そこまで大規模に行動していれば、それこそすぐにでもテイワズ側で察知出来るだろう。
これが国じゃなくて小さな組織とかなら、また話は別だが。
「考えられる可能性があるとすれば、ラスタルだ。だが……ラスタルにとっても、そこまでする価値があるかと聞かれると、正直微妙なんだよな」
アーブラウとSAUの戦いが起きても、ラスタルは何を手に入れられる?
地球の治安を守る地球外縁軌道統制統合艦隊を率いているマクギリスの不手際を責めて、それによってギャラルホルン内部での革命の影響力を下げる?
いやまぁ、確かにこの戦いが長引けばマクギリスの手腕に疑問を抱く者も出て来るだろうが、費用対効果を考えれば到底割に合わないだろう。
他にも何か目的があれば話は別だが……今こうして考えても、ちょっと思い浮かぶような事はないな。
そうなると、やはりラスタル以外、そしてジャスレイ以外となる。
どこかの海賊でも取り込んだか?
今のところは、それが一番有り得そうなんだよな。
海賊は実戦経験という意味では豊富だし。
それにSAUが後ろ盾になるのなら、海賊稼業をする上で大きな意味を持つ。
であれば、双方が組む可能性は十分にあった。
「戦いが長引く原因……待てよ? 敵が有能じゃない理由で戦いが長引くとすればどうだ?」
「は? それは一体……?」
「敵が有能じゃないなら、味方が無能。……まぁ、話を聞く限りだと、アーブラウの軍人はプライドこそ高いが能力は決して高くない。そういう意味では無能かもしれないが、だからといって戦いが長引くというのは……多分ない筈だ。もしあっても戦場での事故が起きるだろうし」
無能な味方を手っ取り早く処分する方法。
それは戦場のドサクサ紛れに背後から撃つ事だ。
戦いの中なら敵の攻撃で味方が死んだと誤魔化す事も出来るし、何かあっても誤射だったという事にも出来る。
鉄華団の面々はそういうのをやらないかもしれないが、シャドウミラーの場合は元ブルワーズの者達がいるだけに、手を打ってもおかしくはない。
とはいえ、そういうのがあれば連絡が来るだろうし、それがないという事は恐らく違う。
他に考えられる事となると……
「有能な味方が裏切り者だったら?」
「兄貴?」
「これはあくまでも可能性だし、半ば思いつきだ。だが、それでももしかしたら……そう思わないでもない」
「……そうなると、問題なのはその有能な裏切り者が誰かって事ですね。後は誰と繋がっているか」
「そうだな。とはいえ、その辺については地球からの情報待ちだ」
そう口にしたタイミングで、部屋の扉がノックされる。
「アクセル、テイワズから連絡が入ったわ。マクマードさんよ」
マーベルからのその言葉に、俺は笑みを浮かべるのだった。
「こうして俺に連絡をして来たという事は、覚悟は決まったと思っていいのか?」
『ああ。……正直に言えば、ジャスレイの奴に昔から助けられてきたのは事実だ。そうである以上、俺としてはどうにか穏便にと思っていたんだが……』
映像モニタに表示されたマクマードの顔が微かに歪んでいる。
それは通信の回線がどうこうという事ではなく、マクマードが顔を顰めているのだ。
ん? 何だ? この様子だと俺が思っていた以上にジャスレイは何か動いていたのか?
俺の隣で話を聞いているオルガも、こちらに視線を向けてくる。
その視線に頷き、俺は口を開く。
「何があったんだ?」
『どうやらセブンスターズのクジャン家と連絡を取っているらしい』
「……クジャン家?」
クジャン家ってあれか?
夜明けの地平線団との戦いの時に戦いに乱入してきて、俺を攻撃してきた奴。
護衛は全員仕留めたが、女のエースによって戦場から逃げ出した、イオク・クジャン。
仮にもセブンスターズの1つであるクジャン家の当主が、前線に出て来るなよな。
これで例えばマクギリスやガエリオのように操縦技術が高ければ、前線に出るのも分からないではない。
だが、イオクの操縦技術は……それこそ平均以下だ。
ライフルを撃っても、それこそ回避した方がそれに当たるかもしれないと思えるくらいには、腕が悪い。
それでも前に出て来たのは、護衛がいたからというのもあるのだろうが。
とはいえ、結局その護衛も俺によって全員殺されたが……いや、なるほど。
「イオク・クジャンが夜明けの地平線団の戦いに乱入してきて、その時にイオクの護衛を俺は殺した。イオクが部下思いなら、あるいは自分の面子を傷つけられたと思っているのなら、ジャスレイと手を組む可能性は十分にあるのか」
ジャスレイも自分の地位が危ないというのはそれなりに予想している筈だ。
テイワズを率いるマクマードが俺との……シャドウミラーとの関係を深めようしている中で、俺を狙ってきたのだから。
勿論、今までは俺を狙ってもそこにジャスレイが関わったという証拠は一切ない。
しかし、だからといって状況証拠的にジャスレイが一番怪しいのは事実。
そうである以上、俺がジャスレイを排除するのに絶対に証拠が必要という訳ではないのだ。
ジャスレイもそれが分かっているだけに、何とかして俺を排除したい。
そんなところに、自分の側近を殺した俺を憎んでいるイオク・クジャンがいると知ればどうなるか。
イオクにしろ、ジャスレイにしろ、俺を憎み、死んで欲しいと思っているのは間違いない。
そうなると、その2人が手を組むというのはそんなにおかしな事ではないだろう。
『……なるほど。クジャン家の今の当主は人望はあるが能力的には未熟極まりない……言ってみれば無能だという噂は聞いてるが』
俺の説明に、マクマードがそう呟く。
これは、マクマードだから知っている情報なのか、それともある程度の情報収集能力があれば知っている情報なのか……正直なところ微妙だな。
「とにかくジャスレイとクジャン家が手を組んだ以上、マクマードが言ってるように穏便にという風には出来ないか」
『そうなるな。アクセルには迷惑を掛ける』
「なら、俺に迷惑を掛ける前に、ジャスレイを処分しておいて欲しかったんだが。……まぁ、その件はいい。ただ、ジャスレイとの騒動でクジャン家が出てくるような事があれば、なし崩し的にギャラルホルンの内乱も始まりそうなんだよな」
今の状況で一番警戒すべきことは、間違いなくそれだろう。
そうなれば、クジャン家の後ろ盾となっているエリオン家当主のラスタルも出てくるだろうし、そうなるとマクギリス達もそれで退く訳にはいかないだろう。
改革派として行動しているだけに、ここで退けば改革も一気に後退する。
いや、実際にはそうならないかもしれないが、そのような印象を持たれるのは間違いない。
だからこそ、もしマクギリスの派閥が戦いに出るということになれば、絶対に負けられない戦いになる訳だ。
そうなると、ジャスレイの一件から最悪オルフェンズ世界の行く末を決めるような大きな戦いに発展する可能性があるという事か?
うーん、それはまた……いやまぁ、手っ取り早くこの世界の騒動が終わると考えれば、決して悪い事ばかりではないと思っておくか。
『それで、アクセル。名瀬から聞いた話だが……アクセルの秘密を教えて貰えるという話だったが、それはいつ聞かせて貰えるんだ?』
好奇心から……ではなく、真剣な表情で聞いてくるマクマード。
無理もないか。
名瀬には、俺の秘密が明らかになれば、ジャスレイがいなくなった分の影響をカバー出来る的な風に言ったんだし。
名瀬を経由してマクマードがそれを聞いたのなら、こうして真剣な表情で聞いてくるも理解出来る。
とはいえ……さて、いつ秘密について話をするべきか。
ここで勿体ぶると、最悪ジャスレイを切り捨てるというの止める……とまではいかないが、延期をする可能性は十分にある。
マクマードは好々爺といった様子にも見えるが、実際にはテイワズを率いているのだ。
腹黒狸親父的な存在であっても、俺は驚かない。
かといって早く言いすぎると……いや、こっちは悪くないか?
そもそも、ゲートについては普通に火星にあるのだから。
そしてテイワズも火星に情報収集用の人員は派遣しているだろう。
これは別にスパイとかそういう訳ではないし、俺にとってもそれはおかしくないと思う。
そもそも俺も人員に余裕があれば、歳星に人を送ったりするだろうし、
……今は人材不足で、残念ながらそういう事は出来ないが。
ただ、名瀬から話を聞いたり、メリビットが人脈を使って情報収集したのを恋人のオルガ経由で聞いたりとか、そんな風に情報は集めている。
それにシャドウミラーや鉄華団からもMSの改修や修復で人を送ったりしてるし。
MAっぽいのと一緒に発掘されたガンダムも、もう歳星に向かってるし。
ともあれ、ゲートについての情報はそう遠くないうちにマクマードの耳に入ってもおかしくはない。
そうである以上、ここで話しても構わないか。
「そうだな。なら、その秘密について教えるとしよう」
『ほう? まさか、こうもあっさりと教えて貰えるとは思わなかったな』
マクマードが少し驚きながらそう言う。
もっとも、これが本当に心の底から驚いているのか、それともそう見せているだけなのかは、俺にも分からない。
こういう腹芸は俺も得意じゃないしな。
寧ろそういうのは、政治班の仕事だろう。
……まぁ、俺達の正体を教えたら、これからはテイワズとの交渉は俺じゃなくて政治班になるんだが。
「兄貴……」
今まで俺とマクマードの会話を聞いていたオルガが、心配そうに言ってくる。
オルガにしてみれば、こうもあっさりと俺が異世界の存在を知らせるとは思っていなかったらしい。
「心配するな。この件についてはいずれテイワズにも協力して貰おうと思っていたしな。だからこそ、ここでマクマードに俺の秘密を話すのは間違っていないと思う。……それとも、オルガは俺の判断を信用出来ないのか?」
「……いえ、兄貴の事だから、何かあっても最終的にはどうにかなると思っています」
そう言い、オルガは黙り込む。
俺の判断に全てを委ねると、態度で示したのだろう。
「悪いな」
『構わんよ。それで、アクセルの秘密というのは?』
「異世界……というのを知ってるか?」
俺の言葉に映像モニタに表示されたマクマードはキョトンとした表情を浮かべるのだった。