たっぷりと数分の沈黙の後、映像モニタに映し出されたマクマードが口を開く。
『異世界ってぇのは……あれか? この世界とは違う、別の世界って感じの』
「そうだ。……ただ、マクマードが異世界について理解しているのはちょっと意外だったな」
異世界とかそういうのを知るのに手っ取り早いのは、漫画とかゲームとかアニメとか小説とか、そういうのだ。
見た感じ、マクマードがそういうのに興味があるようには思えない。
あ、でもそうだな。映画とかそういうのでなら。
ファンタジー映画とか。
『俺だって若い頃はあったんだよ』
そうマクマードが言ってくるが、それこそマクマードの若い頃というのは、抗争に明け暮れていたとか、そういう風に思えるんだが。
まぁ、それでもマクマードにも青春時代とかそういうのはあった訳で……と、半ば自分に言い聞かせるように納得しながら、口を開く。
「異世界を知ってるのなら話は早い。俺が地球出身だというのは嘘で、異世界からこの世界にやって来たんだ」
……まぁ、俺が生まれたのは地球だったのは間違いないし、そういう意味では地球出身だというのは決して嘘ではないのだが。
『何だと……?』
訝しげな様子のマクマード。
無理もないか。
いきなり異世界だなんだという話をされても、普通はあっさりと信じられないだろうし。
寧ろ、異世界から来たと言って証拠も何もなく、即座に信じたりしたら、その時は寧ろ俺の方が驚くし、場合によっては付き合いを変える必要も出てくるだろう。
「考えてもみろ。俺がマクマードと会った時の殺気をあそこまで露骨に発する事が出来たり、何より魔法というファンタジーな存在が、この世界……オルフェンズ世界と呼称してるが、そのオルフェンズ世界にあると思うか? 俺が魔法を使えるようになったのは、こことは違う世界、魔法の存在する世界での事だ」
『魔法の存在する世界……』
「そうだ。今の俺の言葉を聞けば分かると思うが、俺の国はこのオルフェンズ世界や、今言ったような魔法のある世界だけではなく、色々な世界と接触している」
『そんな事が……?』
「あるんだよ。実際、鉄華団の面々は既に一度ホワイトスター……それが俺の率いる国のある場所というか名称だが、そこに行った」
『待て! 俺の率いる、だと? ……それは冗談か何か、もしくは何かの例えのようなものか?』
俺の言葉を聞いていたマクマードが、目を見開いてそう聞いてくる。
テイワズを率いる者として、こうして驚きを露わにするというのは滅多にないだろうマクマードが。
それだけ俺の口から出た言葉は驚くべきものだったのだろう。
「いや、真実だ。俺はこう見えても、国を……シャドウミラーという、世界と世界の狭間にある国を率いる立場にある。そうだな。分かりやすく言うのなら、大統領、首相、王、皇帝……まぁ、そんな感じの人物だ。国の運営は政治班に任せているが」
『……』
理解出来ないといった様子で黙り込むマクマード。
無理もないか。
マクマードにしてみれば、完全に理解不能の出来事だったのだろうから。
『その、何だ。国を率いる人物が一体何だってこの世界に来てるんだ? それに聞いた話によれば、アクセルは戦いにおいて最前線で戦っていると聞くが、それは国を率いる立場として不味いんじゃないか?』
「俺の国は普通と違うんだよな。それに国の中で最強なのは俺なのも間違いない」
混沌精霊だからとか、そういう件については話す必要はないだろう。
『……まぁ、実際アクセルは単機でギャラルホルンに勝っていたという話も聞いている。そう考えると、間違いではないんだろうが……』
完全には納得した様子ではないが、マクマードがそう言う。
俺が腕の立つパイロットであるというのは、マクマードも知っている。
それこそ、初めて歳星に行った時、模擬戦をやったし。
そんな実績がある以上、マクマードも俺の腕が立つというのを理解しない訳にはいかない。
「そうなるな。……話を戻すぞ。ジャスレイの件だ。ジャスレイがいなくなれば、テイワズの資金的に問題が出て来るかもしれない。だが、それについては異世界との貿易でどうにか出来るんじゃないか? もっとも、基本的にシャドウミラーとの取引については、アドモス商会が一手に担う。テイワズはそのアドモス商会と取引をする形になると思う」
『それは……いや、だが……難しいな。そもそも、アドモス商会はそこまで大きな商会ではないだろう? そんな商会に、異世界との取引を任せるというのは、どうなんだ?』
アドモス商会は、孤児院、農場、ハーフメタルの採掘といったように、様々な事業に手を出している。
そういう意味では、出来てから数年という割にはかなり大きくなっているのは間違いない。
間違いないが、だからといってマクマードが言うように異世界との貿易をアドモス商会に任せるのは難しいかもしれないというのは間違いない。
……あくまでも普通に考えればの話だが。
だが、量産型Wやコバッタを大量投入すれば、対処は可能だろう。
そうなったらそうなったで色々と面倒が起きそうではあるが。
何しろ、MAという存在が明らかになってしまった。
そしてコバッタは……そしてバッタやメギロート、イルメヤは無人機だ。
そうである以上、場合によってはそれらをMAという風に認識してもおかしくはない。
そうなると、アドモス商会が……いや、アドモス商会だけではなく、コバッタを使っているシャドウミラーも問題視される可能性はある。
とはいえ、そうなったらそうなったで、相応に対処をすればいいだけなのだが。
「シャドウミラーには、量産型Wやコバッタというのがある。量産型Wは人造人間で、コバッタは……そうだな、多目的用のロボットだ。それらを使えば、アドモス商会が異世界との貿易を一手に引き受けても、どうにかなると思う」
それにこれはわざわざ口にしないが、量産型Wやコバッタはアドモス商会の防衛戦力としても使える。
コバッタの武器は殆どないが、そもそもロボット……金属で身体が出来ている以上、体当たりとかをするだけでも十分な戦力になる。
そして量産型Wにいたっては、魔法とかもある程度使えるし、生身での戦闘能力も高い。また、武器を持っていなくてもガンドを使えるというのは非常に大きいだろう。
もしアドモス商会を襲おうとする者達がいても、それこそ生身であったり、MW程度なら量産型Wやコバッタで対処出来る。
MSが来れば問題だが……アドモス商会があるのは街中だという事を考えると、エイハブ・リアクターを使っているMSが街中に入ると、それこそアドモス商会が何かをするよりも前に、ギャラルホルンがやって来るだろう。
それに……いざとなれば、シャドウミラーが戦力としてそういう連中の対処をしたりとか、そういうのも出来るし。
『なるほど、それは羨ましいな。機械である以上、横領とかそういう心配をしなくてもいいのは羨ましい事だ』
「……驚いたな。てっきり人造人間やロボットという事で嫌悪感を抱かれるかと思ったんだが」
『アクセルとの付き合いをしているんだ。今更だろう。……とにかく、話を戻すぞ。アクセルの言う通りだとすれば、テイワズはアドモス商会を通して異世界と貿易が出来る訳か』
「そうなる。ジャスレイが抜けた穴を埋めるには十分な利益だろう?」
『そうだな。それは否定出来ん。とはいえ……今更、本当に今更の話だが、もしジャスレイが妙な事を考えなければ、異世界との貿易についてはジャスレイに任せる事が出来たんだが』
「無理を言うな、無理を。それは本当に今更だろ」
ジャスレイは最初から俺を敵視してきた。
最初はジャスレイが嫌っている……いや、敵視すらしている名瀬が俺達を連れて来たからというのが、俺を敵対視した理由だろう。
あるいはタービンズとの戦いで俺達が勝利したので、それによってタービンズの上位組織であるテイワズの顔に泥を塗ったと思ったのかもしれないが。
ともあれ、その辺の関係もあってジャスレイは最初から俺達と敵対的だったのだ。
そうである以上、ジャスレイが俺達と友好的にやって、異世界との貿易を仕切るといった未来は最初からなかった。
これでジャスレイがもっと懐の深い人物であれば……それこそ名瀬から慕われるような性格であれば、また話は違ったのかもしれないが。
それについては、何度も言うようだが本当に今更の話だろう。
『そうだな。すまない。これは未練だ。……ジャスレイの奴も、昔はああいう奴じゃなかったんだがな』
そんな風に口にするマクマードだったが、既に俺の中にはジャスレイを生かすという選択肢はない。
どうしても生かすとすれば、それこそクランクのように鵬法璽を使うとかしないといけないが……そこまでして欲しい人材でもないし。
確かに金を稼ぐという才能についてはあるのかもしれないが、異世界との貿易の件を考えればジャスレイがいなくても十分に稼げる。
勿論、金を稼ぐ才能を持つジャスレイがいれば、普通に異世界間貿易をするよりも稼げるのだろうが……何度も攻撃をしてきた事を思えば、わざわざクランクのように鵬法璽を使いたいとは思わないし。
「ともあれ、ジャスレイがいなくなった後は異世界間貿易に一枚噛ませるから、それで稼いでくれ。後で政治班から交渉人を送るから、詳しい話はそっちと頼む」
そう言うと、マクマードは頷く。
『それで、地球の方はどうするつもりだ?』
「近いうちに地球に行って、一気に戦闘を終わらせる。ついでにラディーチェを確保する必要があるから、ジャスレイの件はそれが終わってからになるな」
『分かった。アクセルに言うべき事じゃねえかもしれないが……気を付けてな』
マクマードには複雑な思いがあるのだろう。
だが、それを表情には出さず、素直にそれだけを言うのだった。
マクマードとの通信をしたその日のうちに、俺はオルガと地球に行く件について話し合っていた。
マクマードとの通信の場には口出しこそしなかったものの、オルガもいた。
なので、余計な前置きはないまま本題に入ることが出来るのは助かった。
「兄貴、それで地球にはすぐに行くって事でしたが……どうやって行くんですか? 船を用意するとなると、どうしてもある程度の日数が……」
「その辺は心配するな。シャドウミラーの……本当の意味でのシャドウミラーの力を使う」
「シャドウミラーの力……?」
「そうだ。今まで俺が使った機体はオルガも知っている限りだとサラマンダーとミロンガ改だった筈だ」
「そうですね。もっとも、基本的にはミロンガ改を使ってましたけど。……というか、今更ですがあの2機ってMSじゃなかったんですね」
「そうなるな。ともあれ、その辺についての区別はそこまで気にしなくてもいい。MSと似たようなものだと思って貰えばそれでいい。……ともあれ、今まではその2機しか使えなかったが、呪いの解呪がされた今、俺はその2機以外にも使える。それこそ、俺が本気で戦う時に使う機体をな。そして、その機体には幾つも特殊能力があるが、その中の1つに転移機能というのがある」
「転移……機能? それは一体?」
「文字通りの転移。例えば、今ここで使えば、火星から地球まで一瞬にして転移……移動出来るというものだ」
「……」
俺の言葉に何も言えなくなるオルガ。
色々と俺について……そしてシャドウミラーについても既に知ったオルガだったが、それでも転移というのはどうやら完全に予想外だったらしい。
その後、たっぷりと数分が経過した後で、オルガが恐る恐るといった様子で口を開く。
「その……一応聞きますけど、それは冗談でも何でもないんですよね?」
「そうだな。いっそ試すか? まずは俺とオルガだけで地球に行ってもいいが」
「あ、いえ。いいです。……でも、それならお嬢さんの護衛を受けた時、何で使わなかったんですか?」
オルガの言うお嬢さんというのは、クーデリアの事だ。
まぁ、あの時にはかなり苦労したから、そう言いたくなる気持ちが分からないでもない。
火星から地球に行くまでの間、かなり苦労をしたしな。
地球に到着したら到着したで、面倒が多かったのは間違いないし。
「呪いの影響だな。ゲートを使えるようになったのも、呪いの解呪が成功したからだ。転移出来る機体……ニーズヘッグも、呪いが解呪されないと使えなかったんだよ」
「そうですか。……呪いってのは恐ろしいですね」
オルガがしみじみと呟く。
実際には、神の呪い……それも神が自分の命を使ってまで使った呪いだからこそ、あそこまで強力だったんだろうとは思うが。
もし普通の――という表現が正しいのかどうかは分からないが――呪いを使われても、俺ならその呪いを防ぐなり、耐えるなりと、出来るだろうし。
「そうだな。だから、オルガも呪いには気を付けろよ。……このオルフェンズ世界には、呪いはないだろうが」
俺の言葉に、オルガはどう反応すればいいのか戸惑うのだった。