「アクセル代表!?」
俺の姿を見たシャドウミラー地球支部……正確にはオルフェンズ支部地球支部? いや、それだと分かりにくいな。オルフェンズ世界地球支部の方が分かりやすいか?
とにかく地球支部の者達が驚いた様子で立ち上がる。
……何人か周囲の様子を不思議そうにしていたり、他の者達から遅れて立ち上がったりしている者がいるが、それは恐らく地球で新たに雇われた者達だろう。
地球支部には相応の人員を送っているものの、それでも人数が足りなかったりする事はある。
その為、地球支部でも人を雇うのは許可している。
勿論、問題のない人材をだが。
雇ってみたら、実はどこかのスパイだったという可能性はある……というか、以前シーラからの報告でそういうのがあった筈だ。
具体的にはどの所属なのか喋らないまま死んでしまったらしいが、今の状況を考えるとSAUのスパイだったのかもしれないな。
「さて、これからお前達には少し付き合って貰う。鉄華団の地球支部が使っている場所に乗り込んで、ラディーチェを捕らえる」
そう言うと、何人か……ラディーチェの件で情報を上げてきていた者達が、やっぱりかといった納得の表情を浮かべる。
恐らくラディーチェの様子から、何かあると思っていたのだろう。
あるいは、ラディーチェには注意するようにというこちらの指示から、怪しいと思っていたのか。
「そんな訳で……」
「ひぃっ!」
言葉の途中で、俺は空間倉庫から取り出したナイフを、懐から抜いたように見せ掛け、投擲する。
悲鳴を上げた男は、悲鳴と共に手にしていた情報端末を落とす。
「その前に、そいつを捕らえろ。妙な動きはさせるな」
俺の指示に、火星から派遣された者達は素早く動く。
不幸中の幸いだったのは、悲鳴を上げた男が火星から派遣された男ではなく、現地雇用の者だった事だろう。
まぁ、火星から派遣された者達というのは、つまり元ブルワーズだ。
そうである以上、俺という存在について十分に知っている。
そんな中で裏切るというのは、まず有り得ない。
……いやまぁ、火星から離れたからということで羽目を外して裏切るといった可能性は否定出来ないが。
「申し訳ありません、アクセル様」
火星から派遣された男が、深々と頭を下げてくる。
代表から様になっているのは、スパイ……より正確にはラディーチェと繋がっている者がいた為だろう。
最初からラディーチェと繋がっていたのか、それとも雇われてからラディーチェと繋がったのか。
その辺は俺にも分からない。
分からないが、裏切り者であるのは間違いのない事実だ。
とはいえ……
「気にするな。失態ではあるが、同時に利益もあるしな」
俺がここに来たのは、ラディーチェとジャスレイの繋がりを見つける為。
なければ、証拠を作り上げる。
そう考えると、ラディーチェと繋がっている者を確保出来たのは悪くない。
最悪、こいつにラディーチェとジャスレイの繋がりについて吐かせればいいしな。
「じゃあ……取りあえず縛って逃げ出さないようにしておいてくれ。ああ、それとないとは思うが、自殺とかもされないように猿轡も忘れずにな」
ラディーチェと繋がっているとはいえ、さすがに自殺してまでその繋がりを隠そうとは思わないだろう。
あ、でもラディーチェに人質を取られているとか、あるいは決して人に話せないような秘密を握られているとか、そういう事であれば、もしかしたら自殺を選ぶという可能性もあるのか?
まぁ、猿轡をしておけば、問題はないだろう。
「よし、行くぞ。……鉄華団の方にはこっち以上に人が残っていないから、そう大きな騒動にはならないと思う。ただ、それでもラディーチェはテイワズの出身だ。もしかしたらそれなりに強いという可能性もあるから、注意しろ」
いっそ、俺1人で行動した方が手っ取り早いのかもしれないが。
とはいえ、鉄華団の使っている部屋には誰が残っているのか分からない。
鉄華団から派遣された者達は、その大半がSAUとの戦いに参加している筈だ。
そうである以上、いてもラディーチェや、あるいは地球で雇った者達の可能性が高い。
そうなると、当然だが俺の事を知らない訳で……そういう意味では、やっぱり最初にこっちに来たのは正解だったな。
ラディーチェと繋がってる奴も確保出来たし。
そうして俺達は鉄華団の使っている部屋に向かう。
「何ですか? 貴方達は……シャドウミラーの? 一体そんなに大勢でどうしたのですか?」
ラディーチェが急に部屋の中に入ってきた俺達を見て、一瞬動揺した様子を見せるものの、すぐにそう言ってくる。
当然だが、俺は前もってラディーチェの顔を知っているので、見間違う筈もない。
「やれ」
ラディーチェの言葉を無視し、そう命じる。
すると俺と一緒に来た者達はすぐに行動に移る。
「ちょ……一体なんの積もりですか!? 私が誰か、分かっているのですか!? 私は、テイワズから派遣されてきた……」
あっさりと押さえ込まれたラディーチェが、必死になってそう叫ぶ。
もしかしたら鍛えているのかと思っていたが、全くそんな事はなかったな。
完全に事務職の専門で、身体は……精々が健康維持をしている程度か。
「お前がテイワズから……正確にはJPTトラストのジャスレイの手によって派遣されたのは知っている」
「……アクセル代表……」
ここでようやくラディーチェは俺の事に気が付いたのか、そう声を発してくる。
ラディーチェにしてみれば、まさか今この時、ここに俺がいるとは思ってもいなかったのだろう。
システムXNによる転移なんて、全く想像も出来なかっただろうし。
いや、その件については別にラディーチェを責めたりはしない。
そもそもこの世界において、転移能力とかそういうのがあるとは普通は思わないだろうし。
「ああ、お前の飼い主である、ジャスレイの敵であるアクセル・アルマーだ」
そんな俺の言葉に、ラディーチェは唇を噛む。
事務員として、俺の言葉の裏にあるものを読み取る事が出来たのだろう。
「飼い主、ですか。私は上から命じられてテイワズから出向してきただけです。何も後ろめたい事はありません」
「……さて、どうだろうな。まずはお前の使っていた机を調べさせて貰うぞ」
「待って下さい! 一体、何の権利があってそのような事をするのですか!」
「シャドウミラーを率いる者として、こちらに害を与える存在がいるのなら、それを見逃すつもりはない。それに……どんな権利があるのかというのなら、この件についてはマクマードから許可を取っている」
「……な……」
マクマードの名前に、ラディーチェは言葉に詰まる。
まさか俺の口からマクマードの名前が出てくるとは、思っていなかったのだろう。
無理もない。マクマードはテイワズを率いる人物なのだから。
ラディーチェがジャスレイの手の者であっても、ジャスレイとマクマードでは、当然ながらマクマードの方が立場は上だ。
「そんな訳で、権利という意味では問題ないな。おい」
俺が指示を出すと、ラディーチェを押さえ込んでいる者以外の者達が、ラディーチェの机を調べ始める。
ラディーチェがどの机を使っているのかは、部屋は違っても同じ建物で仕事をしている以上、理解している筈だ。
「それとラディーチェの部屋にも人をやれ。そっちにも何か証拠があるかもしれないからな」
「分かりました」
何人かが、ラディーチェの部屋に向かう。
そんな様子を見たラディーチェが、深刻そうな表情を浮かべていた。
マクマードが出て来たのがそれだけ予想外だったのか、もしくは机や部屋に何らかの証拠が残っているのか。
その辺は実際に調べてみれば分かるだろう。
ラディーチェの危機管理能力にも影響してくるが。
「アクセル代表、机の方には特にそれらしい書類はありません。ただ……コンピュータの起動にパスワードが必要です」
その言葉にラディーチェを見る。
だが、ラディーチェは俺から視線を逸らすだけだ。
どうやら素直にパスワードを教えるつもりはないらしい。
「一応聞いておく。ここで素直にパスワードを教えれば、ある程度はお前の将来について考えてもいい」
そう言うも、ラディーチェは無言のままだ。
なるほど。
とはいえ、このようなタイプについては俺もそらなりに詳しい。
懐から取り出したように見せ、空間倉庫から拳銃を取り出し……
パンッ。
軽い音が部屋の中に響き……
「ぎゃ……ぎゃあああああああああああああああああああっ!」
右肩を撃たれたラディーチェの口から、悲鳴が上がる。
パン、パン、パン。
続けて3度の銃声。
そしてラディーチェの右手には同時に3発の銃弾が命中した。
「ぎゃあっ、ぎゃっ、ぎゃあああああああああああああああああああっあああああああああああああああああっあああああああああああああああああっ!」
この手のタイプというのは、想像力が欠如している。
今のような状況で俺の指示に従わなかった場合、どうなるのかは容易に想像出来るだろうに。
あるいは想像は出来ても、まさか本当にそのような事になるとは、自分が撃たれるとは思っていなかったのか。
そして、だからこそ……自分がエリートだと思っているからこそ、今までこのような経験がなく、実際に撃たれた事によって激痛に絶叫する事になる。
部屋の中にいた、鉄華団の者達……現地採用の者達は、俺の様子を見て理解出来ないといった表情を浮かべている。
まさか、いきなりこうして発砲するとは思ってもいなかったのだろう。
とはいえ、撃ったのはラディーチェに現実を思い知らせるという意味の他に、その心を折るという目的もある。
ラディーチェの心が折れれば、こちらの言葉を素直に聞くだろうし。
そんな訳で……
「これを使うか」
未だに悲鳴を上げ続けているラディーチェをその場に残し、ラディーチェの机の前まで移動する。
俺が近付くと、机を調べてた者達が場所を空ける。
普通に考えれば、この部屋のように多くの者が使う場所に、自分の裏切りの証拠となるような物を残しておくとは思えない。
それを示すように、ラディーチェの机にあるのは普通の……仕事の書類でしかない。
ラディーチェもそのくらいの危機管理はあるのだろう。
だとすれば、書類が残っているとすれば部屋だろう。
後は……このパスワードが掛かっているコンピュータか。
仕事で使うコンピュータである以上、パスワードを設定するのはおかしな事ではない。
おかしな事ではないが……同時にそれは、自分のコンピュータを他の者が見られないという事を意味してもいる。
そこに油断をすれば、何らかの裏切りの証拠があるという可能性は十分にあった。
そんな訳で、拳銃に続いて俺が取り出したのはシャドウミラーの技術班が作ったハッキングツール。
何気にこれ、今までかなり活躍してるんだよな。
接続端子は当然のように合わないものの、このハッキングツールは液体金属によって、接続端子が違っても何の問題もなくハッキングが出来る。
それを示すように、ハッキングツールを突き刺した瞬間、あっさりとパスワードは解除される。
「がああああっ……何で……何でぇっ!」
パスワードが解除されたのを見たのだろう。
ラディーチェが血の涙を流してもおかしくないような声で叫ぶ。
「何でというのは、どうやってパスワードを解除したかという事か? それとも、その手段があるのに、何故撃ったのかという事か?」
その言葉に、ラディーチェの顔が苦痛と屈辱に歪む。
どうやらこの様子を見ると、机に書類とかで裏切りの証拠は残っていないが、コンピュータの中には何らかのデータはあるらしいな。
「で、どうする? これが最後の忠告だ。素直にこっちの指示に従うのなら、殺さないでやる。もっとも、あくまでも殺さないだけで、お前には全てが終わった後は火星でハーフメタルの採掘をやって貰うがな」
「そ……それは……」
「一応言っておくが、これはお前を守る為でもあるんだぞ? 今、戦場に行ってる連中が、お前の裏切りを知ったら、どういう風に動くと思う? 間違いなく殺されるだろうな」
「ひっ、ひぃっ!」
まぁ、ラディーチェと一緒に仕事をしていた鉄華団の者達にしてみれば、それこそ裏切り者のラディーチェは殺すべきだと思ってもおかしくはない。
分かりやすい例で言えば、アリウムだろう。
シャドウミラーや鉄華団に正面から喧嘩を売ってきたアリウムは、それで鉄華団の人員に被害を出したという事で、命によって償わされている。
そう考えれば、ラディーチェも同様の結果になってもおかしくないし、オルガ達もそれを望むだろう。
それは分かる。分かるのだが……それでも殺してしまえば、一瞬で終わりだ。
落とし前として気分はすっきりするかもしれないが、言ってみればそれだけだ。
それなら、一生鉱山で採掘作業をさせた方がいい。
少しでも採掘作業を行い、それで与えた分の損害を返済させる。
採掘作業はそれなりに過酷なので、事務員として生きてきたラディーチェには厳しいかもしれないが……死んだのなら、それならそれで構わない。
鉄華団も納得するだろうし。
「どうする? 死ぬか、生きるか。……選ぶのはお前だ」
そう聞く俺に、ラディーチェはここで殺されないことを選択するのだった。