「なるほど、アクセルとしては反応速度を第一に考えて欲しい訳ね」
「そうなるな。以前のパーツで少しは上がったけど、もっと上がってもいいと思う」
そう言う俺の言葉に、ニナは難しい表情を浮かべる。
「でも、反応速度が敏感すぎると、操縦する時に扱いきれなくなるわよ?」
「ニナの心配は分かるが、ゼフィランサスを操縦するのは、一般的なパイロットじゃなくてエースだろう? なら、ある程度反応速度が過敏であっても対処は出来ると思うが」
「……少し考えさせてちょうだい」
そう言い、ニナは俺から離れていく。
その後ろ姿を見送ってから、俺はパワード・ジムに視線を向ける。
今日もまた、ニナの……いや、クラブ・ワークスの新造したパーツを組み込んだパワード・ジムに乗って、そのテストを終えたところだ。
現在のパワード・ジムには、多くのメカニックが集まり、整備であったり、各種データを取ったりしている。
オルフェンズ世界の方ではまだ忙しいのに、UC世界に来ている余裕があるのか?
個人的にはそう思わないでもなかったが、今のところオルフェンズ世界では不思議な程に何も起きていない。
俺達にしろ、ジャスレイにしろ、イオクにしろ、マクギリスにしろ、ラスタルにしろ、今は次の行動の為にそれぞれ準備をしているといったところなのだろう。
そんな訳で、余裕のある今だからこそ、俺はUC世界のフィフス・ルナに来ていた訳だ。
もっとも、パワード・ジムに追加された部品はそこまで多くはなかったが。
「アクセル、ちょっといいか? パワード・ジムを操縦している時の動きについて、ログだけだとちょっと分からないところがあるから教えて欲しいんだけど」
パワード・ジムを見てると、メカニックの1人が近付いて来てそう聞いてくる。
「ああ、分かった。どこだ?」
「この部分だ。ここでスラスターと一緒にAMBACを使って機体の姿勢を変えてるけど、わざわざそこまでする必要があるか? 普通にAMBACだけだと駄目だったのか? 今回は問題なかったが、推進剤の消費にも関係してくる」
「それは……ああ、確かデブリを回避した時の動きだ。スラスターを使わなくても何とかなったかと言われれば何とかなったかもしれないけど、それでも余裕を持って回避するには両方併用する方がよかったんだ」
「なるほど。……この辺りにもデブリは多いしな。出来れば、その辺はどうにかしたいところなんだけど。少し前にも、連邦軍のMS部隊の奴がデブリを回避出来なくて、コックピットが潰れるような被害があったんだよ」
「それ……大丈夫なのか?」
「ああ。コックピットの方は被害が大きかったが、幸いパイロットは足の骨を折ったくらいで無事だった」
「……骨折を無事と言っていいのかどうかは、微妙なところだと思うが。ともあれ、一度本格的に周辺のデブリを片付けた方がいいんじゃないか? ブッホ・ジャンクとかに頼んで」
ブッホ・ジャンクは、ルナ・ジオンとも繋がりの深いジャンク屋だ。
ジャンク屋と一口で言っても、個人でやっているようなのから、多くの人員を抱えて大規模にやっている者達もいる。
ブッホ・ジャンク社は後者だ。
もっとも、ブッホ・ジャンク社は今もかなり忙しいから、頼んでも引き受けてくれるかどうかは分からないが。
何しろ、1年戦争において地球やその周辺では数え切れないくらいの戦いがあった。
そんな中で、MSや……場合によっては、軍艦とかを確保し、それを売るのがジャンク屋だ。
特にMSや軍艦なんかはいわゆるレアアースやレアメタルとか、そういうのが使われたパーツも多い。
それを回収するだけで結構な金になるし、破壊されたMSや軍艦も、装甲とかそういうのは普通に金属として売れる。
もっとも、MSであればコックピットにパイロットの死体があったり、軍艦の中には酸素不足で苦しみ抜いて死んだり、爆発で胴体が半分吹き飛んだりといった死体があったりするので、精神的な消耗は大きかったりするのだが。
月にもジャンク屋は結構いるが、そういうのが理由でジャンク屋をやっていけなくなった奴とかもいるらしいし。
とはいえ、月の裏側にはかなりのデブリがある。
今のジャンク屋は、そういうジャンク品を確保しては、月に持ち帰り、シャドウミラーに売るといった仕事をしている。
何しろシャドウミラーの本拠地であるホワイトスターには、キブツがある。
デブリとして持ってこられた岩塊とかであっても、キブツを使えば色々な物に物質変換が可能なんだよな。
だからこそ、マブラブ世界でもBETAの死体の処理に困っている時は、キブツに入れる物として引き取っていたんだし。
もっとも、今となってはマブラヴ世界におけるBETAは地球上からは既に殆どいなくなっているのだが。
その代わり、火星からは未だにBETAが届いていたりする。
ただ、UC世界のデブリと違い、BETAの死体は強烈な悪臭がある。
それこそ、何でそこまで……というくらいの悪臭だ。
鼻が曲がるようなという表現があるが、BETAの死体の悪臭はまさにそんな感じ……いや、場合によっては、そんな表現では足りないくらいの悪臭がする。
その為、当然ながら臭いを可能な限り遮断する為、頑丈なケースの中にBETAの死体を入れられるだけ入れて、キブツに投入する時も当然ながらそのケースごと投入する。
こうすれば、BETAの死体の悪臭については気にしなくてもいい。
……もっとも、火星で活動している量産型Wとかがどのように思っているのかは、また別の話だが。
ともあれ、1年戦争であったり、戦後の混乱であったりでスペースデブリが増えたのは間違いない。
「そう出来たら、そうしてるよ。上の方でも金に余裕がないらしくてな。大きなジャンク屋に仕事を依頼するようなら、もっと小さなところに頼むだろうな。……安値で」
「金か。……まだ戦後復興の途中なんだろうな」
戦争が終わって、既に2年以上。
だが、1年戦争において連邦は多くの人命を失った。
他にも俺が言う事ではないかもしれないが、連邦にとって経済的に大きな収入源だった月はルナ・ジオンとなり、観光地として有名だったハワイもルナ・ジオンの領土とされた。
その辺の事を考えれば、連邦政府や連邦軍に資金的な余裕がないのは明らかだろう。
だからこそ、現在の連邦軍はジオン軍から接収したMSを使ったり、1年戦争時代のジムを改修して使ったりしている。
そうは言いながらも、連邦軍再編計画で何故かMSの運用能力がない戦艦を作ったり、ガンダム開発計画を進めたりと、一見すればそれなりに余裕があるようにも思えるのだが。
「そうだな。もっとも、それでも1年戦争終了直後よりは大分マシになってきているんだが」
メカニックと暫く話をしてから、俺は格納庫から移動するのだった。
「あら、アクセル中尉?」
特にやる事もないので、適当にフィフス・ルナの中を歩き回っていると、不意にそんな風に声を掛けられる。
声のした方に視線を向けると、そこには所長と呼ばれるクレナの姿があった。
「クレナ? 珍しいな、ここで会うなんて」
「……ここは私の仕事場なのだから、私がいるのはそうおかしな話ではないでしょう。とはいえ、丁度よかった。少し時間がありますか?」
「え? いやまぁ、パワード・ジムのテストは終わったから、まだ時間はあるけど」
実際にはパワード・ジムに乗った時にどう感じたのか、そういうレポートを提出する必要があるのだが、つまりやるべき事はそれだけだ。
それはどうしても今すぐにやらないといけないという訳ではない以上、クレナの誘いに乗るのはおかしな話ではない。
さっきも言ったが、クレナとはあまり会う機会がないしな。
そのクレナからそんな風に言われると、試作4号機の件もあるので、頷かない訳にはいかなかった。
クレナに連れて行かれたのは、喫茶店。
フィフス・ルナにも、そこまで大きくはないものの、商店街の類はある。
基地施設の食堂とかは、以前ヤザンと何度か使った事があったのだが。
とはいえ、商店街の類があるのは不思議な事ではない。
このフィフス・ルナは連邦軍の基地であると同時に、アナハイムが入っているのを見れば分かるように、色々な企業も進出してる。
ルナ・ジオンによって連邦軍が月を自由に使えなくなったし、それは会社も同じだ。
何しろ月にある会社は例外なく量産型Wやコバッタによって、不正をしないか監視されているのだから。
後ろ暗いところのある者達からは、監視社会だの、プライバシーの侵害だのと裏で言われているものの、後ろ暗いところのない者達にとっては人件費無料の社員がいるようなものなので、歓迎されていたりもする。
勿論、ルナ・ジオンの諜報組織とかは、その辺りを大々的にプロパガンダとして放送していた。
その為、不満を持っている者達も公の場でその不満を口にする事は殆どないらしい。
とはいえ、企業……それも規模の大きな企業ともなれば、多かれ少なかれ何らかの不正はしている。
だからこそ、このフィフス・ルナにはそういう会社の支社とかがある訳だ。
……その中でトップクラスの会社がアナハイムなのは、少し笑えないが。
ともあれ、そうして人が多く集まれば、当然ながら店とかも必要になる。
単純に必要な物を買うというのもあるし、買い物というのはストレス解消にもなる。
何でも一種の狩りのようなものだとか何とか……何かで見たか聞いた覚えがあるな。
とにかく人が多く集まればそういう場所も必要になり、そして俺が今いるような喫茶店のような場所も必要となる訳だ。
「さて、わざわざここまで来て貰って悪かったわね」
「いや、試作4号機の事となれば、こっちもきちんと対応する必要があるしな」
試作4号機というのは、ガンダム開発計画において開発される……予定だったMSだ。
強襲用というコンセプトのMSだったが、汎用の試作1号機……ゼフィランサスと競合しているという事で、試作4号機の開発は中止された。
個人的には汎用MSと強襲用MSというのは十分に差別化出来ていると思うんだが……まぁ、連邦軍やアナハイムの上層部でそう決められたのなら、俺からは他に何も言う事はない。
そういう風になったというだけなのだし、それもあってアナハイムからルナ・ジオンに接触してきたのだろうし。
その試作4号機が、ルナ・ジオン軍がガンダム開発計画におけるパイロットを派遣する条件になっている訳で、同時に俺が今回の件に協力する報酬にもなっている。
そういう意味では、俺は寧ろ連邦軍に感謝をした方がいいのかもしれないな。
「それで、話というのは?」
ウェイトレスが注文した料理と紅茶を置くと、立ち去る。
それを確認してから、俺はクレナに声を掛ける。
「そうね、幾つかあるんだけど……まずはこれから聞きましょうか。現在、試作4号機のメイン武装として2つ候補が上がっているわ。1つは試作1号機のビームライフルを強化したロングレンジライフル。もう1つは試作4号機のプランが出た時に考えられたビームマシンガン。これをどちらにするかだけど」
「どっちもっていうのは無理なのか?」
「やろうと思えば出来るけど、両手にそれぞれライフル系の武器を持つと、近接戦闘の時に問題が起きるでしょう?」
「宇宙でなら、片方を捨てればいいと思うが……まぁ、それも難しいか。とはいえ、俺が言いたいのは両方を一度に装備するという訳じゃなくて、あくまでもケースバイケースでだ。一撃の威力が必要な時はロングレンジライフルがいいだろうし、弾幕が必要な時はビームマシンガンの方がいい」
「……なるほど。そういう意味で。じゃあ、一応両方共作る事に……」
「ちょっと待った」
クレナの口から出た作るという言葉に、ふと思いついた事があった。
「何かしら?」
「例えば、ロングレンジライフルだが、それをモードを切り替えて威力の強いビームだけじゃなくて、ビームマシンガンのようにして使うとか、そういうのは出来ないか?」
「それは……どうかしら。言ってなかったと思うけど、試作1号機のビームライフルには今までのビームライフルと少し違う技術が使われているのよ」
「……具体的には?」
そう聞くと、クレナは一瞬躊躇した様子だったが、やがて口を開く。
「今まで使っていたビームライフルは、拠点となる場所であったり、母艦となっている場所で充電する必要があるでしょう? そうなると、エネルギーを使い切った後でビームライフルは邪魔になるわ。けど、エネルギーをその場で更に充電出来ればどうなると思う? それこそ、普通の銃火器を使う時に予備弾倉を使うかのように、エネルギーを充電出来れば」
「それは……まぁ、かなり便利だと思うけど。それが試作1号機のビームライフルの新技術なのか?」
「ええ、Eパック。そう名付けられた技術よ」
そう言い、クレナは自慢げな笑みを浮かべるのだった。