「ここが……異世界?」
ゲートを使って転移をしたマクギリスが、周囲を見てそう呟く。
「まさか室内とは思わなかったな」
ガエリオも転移区画を見て、そう呟く。
この2人にしてみれば、これが本当に現実なのかどうか、あるいは幻術か何かでも見せられているのではないかと、そのように思ってもおかしくはない。
石動は何も口にせず、ただ周囲の様子を眺めていた。
とはいえ、それはあくまでも今だけの話だろうが。
「アクセルさん、私とラピスは一度家に戻りますね」
「父、また」
ルリとラピスがそう声を掛けてくる。
「分かった。何か用件があったら連絡をする」
その言葉に頷くと、ルリとラピスは離れていく。
ハシュマルの件があるので、恐らくすぐに連絡をする事になるとは思う。
ただ、これからマクギリスやガエリオ、石動の案内をする以上、ルリやラピスが俺達と一緒にいてもあまり意味がないのは間違いない。
……もっとも、マクギリス達にしてみれば、ハシュマルのハッキングについてとか、聞きたい事はあるだろうけど。
その辺については、後でという事にしよう。
ルリとラピスが量産型Wの用意したエアカーで帰ると、それを見送ってからエリナに視線を向ける。
「さて、エリナ。これからマクギリス達を案内する訳だけど、どこに案内すればいいと思う?」
「そうね、交流区画に、公園、牧場、博物館、魔力スパ……他には、実働班の訓練を見てみるのもいいんじゃない?」
エリナが上げたところは、どれもホワイトスターを見学するとなると目玉となるような場所だ。
「エリナが選んだのはそんな感じだけど、どうする?」
俺とエリナが話している間に、マクギリス達も我に返っている。
それでも口出しをしてこなかったのは、自分達がこのホワイトスターについてはまだ何も知らないからだろう。
「ちょっと待ってくれ。牧場ってのは……何だってそんな場所が選ばれるんだ?」
ガエリオが納得出来ないと言った様子で抗議してくる。
まぁ、それも無理はないか。
普通に考えれば、そのように思ってもおかしくはない。
あるいはこれが視察の類ではなく、ピクニックとかそういうのであれば、牧場に行くのもありかもしれないが。
「そうだな。普通ならそういう風に考えてもおかしくはない。けど、忘れてないか? シャドウミラーというのは魔法が存在する。つまり、ファンタジーな世界とも行き来が出来るんだ」
もっとも、門世界との行き来はもう出来ないし、ファンタジー世界であるネギま世界でも、魔法世界に存在するモンスターとかは普通の手段では持ってくる事が出来ないんだが。
そうなると、他には……ペルソナ世界?
もっとも、タルタロスもマヨナカテレビも、既に攻略してから存在しない。
モンスター……いや、シャドウを確保するのはかなり難しい。
「それは一体どういう事かな?」
ガエリオに任せておけないと判断したのか、マクギリスがそう聞いてくる。
その目には、好奇心があった。
どうやら俺の言葉がマクギリスの好奇心を刺激したらしい。
「ホワイトスター……この場所、つまりシャドウミラーの本拠地だが、この場所にある牧場には牛、馬、羊、山羊といった一般的な動物以外に、ワイバーンもいる。そしてワイバーンに乗って空を飛ぶというのは、人気のアトラクションだ」
「ワイバーン……それは、その、名前通りの存在だと?」
「ああ、ドラゴンとかそういう意味でのワイバーンだ」
「そのような存在が……」
「本当にそんなのがいるのか?」
マクギリスに続き、ガエリオがそう言ってくる。
まぁ、そういうのが存在しない世界で生まれ育ったんだし、実際にワイバーンがいるとかは自分の目で直接見ないと納得は出来ないか。
「いる。そんな訳で、実際に牧場に行ってみるか? 俺がここでどうこう言っても、実際に自分の目で見た方が分かりやすいだろうし」
「……そうしたいところだが、牧場がそのような場所だとすると、他の場所も同じように何か特殊な場所なのか?」
ガエリオと石動は牧場に行く気になっていたようだったが、マクギリスの言葉でこちらに視線を向けてくる。
「まぁ、オルフェンズ世界の常識とは色々と違うところがあるのも事実だな。説明を聞きたいか?」
そう聞くと、当然といったようにマクギリスは……そして石動も頷く。
ガエリオだけは、ワイバーンに興味があるのか牧場に行きたそうな様子だったが。
「まず、交流区画。ここはその名の通りシャドウミラーと関係を持つ色々な世界の者達がいて、商売とかを行っている。つまり、他の世界の品物を購入出来たりする訳だ」
「他の……世界」
「ああ。言っただろう? 俺は他の世界で神の呪いを受けてその世界を追い出されて、最終的にオルフェンズ世界に辿り着いたと。今まで他にも何度も接触した世界があって、その世界とは異世界間貿易を行っている。その名の通り、シャドウミラーが仲介し、このホワイトスターを中継地点として他の世界と貿易を行うというものだ。もっとも、交流区画で行われているのは基本的には個人単位での取引だが」
組織が行う取引については、それなりに手順があるので売りたいです、じゃあ買いますといったように簡単には出来ない。
きちんと担当者が交渉し、それでどのような取引を行うのかが決まる感じになる。
「つまり、私達の世界でもそのような事が出来ると?」
「出来るが、オルフェンズ世界での異世界間貿易における窓口は、アドモス商会に決まっている。もし異世界の品が欲しいのなら、アドモス商会と取引をする必要があるな」
「アドモス商会? それは、確か火星のクリュセにある……」
「そうだ。基本的に1つの世界に窓口は1つだけだ。1つの世界に複数の窓口があると、混乱が起きるだろうし」
「それは……だが、それならギャラルホルンこそが相応しいのではないか?」
まぁ、そう言うだろうな。
実際、マクギリスの言ってる事がおかしいかと言われれば、そういう訳ではない。
オルフェンズ世界において、ギャラルホルンが最も大きな影響力を持っているのは間違いないのだから。
「ラスタルがいなければ、その可能性もあったかもしれないな」
「……なるほど。テイワズがNo.2を切り捨てた理由が分からなかったが、これが理由か」
何故今の話の流れでそう思ったのかは分からない。
しかし、その推測が間違っていないのも事実。
「マクギリス、一体どういう事だ? 何故この件がテイワズに関係する!?」
ガエリオは話の流れが分からず、慌てたようにマクギリスに尋ねる。
「テイワズのNo.2は金を稼ぐという事については大きな才能があった。それはガエリオも知ってるだろう?」
「ああ、データで確認している」
「金というのは、当然ながら組織を運営していく上で必須だ。それを稼ぐ才能のある者は、当然ながら組織でも重宝される。つまり……テイワズにとって、出来れば切りたくない相手だ。だが、実際はやった。それは金を稼げる者がいなくなっても、同じくらい……場合によっては、それよりも稼げる目論見があったからではないか?」
そこまで説明すると、ガエリオもすぐに答えに辿り着いたらしい。
納得した様子で口を開く。
「異世界間貿易……」
ガエリオの呟きマクギリスが頷く。
「そう、金を稼ぐ才能のある者を切り捨てても、問題なく金を稼げる手段がある。だからこそ、切り捨てたのだろう。違うかい?」
「間違ってはいない。No.2……ジャスレイは、マクマードを始末して自分がテイワズのトップに立とうと思っていたしな」
組織のNo.2で、組織に対する強い影響力があり、そして本人も強い出世欲を持つ。
そんなジャスレイにしてみれば、上を……自分の上に一人だけいるマクマードの地位を欲してもおかしくはない。
マクマードも、ジャスレイの心の内は知っていた筈だ。
だが実際にそのような行動を取る事はなかったし、何より金を稼ぐ才能があった以上、切り捨てる事はできなかったのだが……そこに俺が現れた。
しかも、俺が名瀬と一緒に現れたのが理由で、俺に絡んで来た。
元々ジャスレイは名瀬と敵対……いや、ジャスレイが一方的に名瀬に絡んでいたので、その名瀬が連れてきたというだけで俺の存在が面白くなかったのだろう。
結果として、俺とも敵対し……それがジャスレイの運命を決めた訳だ。
マクマードにしてみれば、俺の力を知っている以上、俺と敵対は出来ない。
それにジャスレイの金を稼ぐ才能を考えると、余計に。
そこで俺が異世界から来た存在だと話し、異世界間貿易について説明すれば……あっさりとジャスレイは切り捨てられる事になった訳だ。
「……ちなみにアクセル。その異世界間貿易というのは、私達も交渉に使っていいのかな?」
「別に構わないぞ。ただ、さっきも言ったがオルフェンズ世界においてはあくまでもアドモス商会としか取引をしない。ギャラルホルンがアドモス商会と取引をして、異世界の品を購入するのは自由だ。ただし、言うまでもないがアドモス商会に命令したり、あるいは買収したりとか、そういう事をした場合はこっちも相応の手段に出るからな」
一応、そう釘を刺しておく。
このオルフェンズ世界において、ギャラルホルンというのは間違いなく支配者だ。
そんな支配者が、植民地である火星の……それも革命の乙女と呼ばれるクーデリアが会社を経営しているとはいえ、その会社と同等の条件で取引をする。
この事に不満を持つ者は多いだろうし、そして不満を持てばギャラルホルンの力で無理矢理思い通りにしようと考えても、おかしくはなかった。
ギャラルホルンに所属しているというだけで、自分も偉くなった気になる者は絶対にいる。
そういう連中が暴走した時、マクギリスが知らなかったからといって、ペナルティを与えないとか、軽くするとかは考えていない。
そう説明すると、マクギリスは真面目な表情で頷く。
「分かった、気を付けよう。それで交流区画については分かったが、他の場所は?」
「次は……公園か。交流区画に隣接している公園だが、この公園そのものは普通の公園だ。ただし、そこにはエルフが住んでいる」
「……ちょっと待ってくれ。エルフ? 今……その、エルフと言ったのか?」
ガエリオが確認するように言ってくる。
まさかガエリオがここまでエルフに反応するとは思わなかったな。
「そうだ。ファンタジーに出てくるエルフだ。元々は牧場のワイバーンと同じ世界にいたんだが、そこで色々とあって何故か俺を神と崇めるようになって、俺の拠点であるホワイトスターに引っ越してきた。ゲートの関係で色々と問題があったのも影響してるんだが」
「つまり、その公園に行けばエルフに会えるのか」
「そうなる。言っておくが、エルフに何か妙な行動をした場合、反撃されるからな」
エルフはその多くが精霊の卵に所属している。
機体に乗った戦いも得意だが、精霊魔法を使うエルフ達は生身の戦いでも十分に強い。
それこそガエリオ程度なら即座に負けてしまうだろう。
実働班の面々程ではないが、それなりに生身の訓練も積んでるしな。
「……次の説明を頼む」
「次は、牧場はもう説明したから博物館だな。これはエルフとかワイバーンのいた世界のモンスターとか、そういうのの剥製がある」
以前鉄華団の面々を招待した時、もの凄く喜んでいた場所だな。
シノが昭弘に追い回された場所だ。
「博物館か。そこも興味深いな。そして最後は?」
「魔力スパ。簡単に言えば、温泉だな。魔力泉って奴のスパ施設。遊ぶという意味ではかなり楽しい場所なのは間違いない。もっとも、当然ながらスパである以上は水着着用だが」
「そうなると、そこは難しいな。このような事になると分かっていれば、水着を用意もしてきたのだが」
「いや、普通はこうなるなんて事は想像出来ないだろう」
マクギリスとガエリオの会話に、だろうなと俺も同意する。
元々はMAについての説明とか、そういうのを聞きに来たのだが、そこでいきなり異世界に行く……というのは、とてもではないが想像出来ないだろう。
「一応、スパで水着を買う事も出来るぞ」
「……それは興味深いが、今は止めておこう。ただ、話を聞く限りでは面白そうな場所だ。今度アルミリアを連れて遊びに来ても面白いかもしれないな」
「マクギリス……いやまぁ、それでいいのなら構わないが」
今のやり取りからすると、何かがあるらしい。
とはいえ、その件に首を突っ込んだりしたら、それはそれで面倒なことになりそうなので、止めておく。
見た感じだと、ガエリオは嬉しそうで困ったような、そんな様子。
そしてマクギリスは俺に向かって口を開く。
「実働班の訓練というのはどうなのかな?」
「一応そっちも見ようと思えば見られるけど……どうする?」
そう聞く俺の言葉に、マクギリスは数分考えたところで、口を開くのだった。