『異世界! そう言われて、一体何を想像するだろうか。この放送を見ている者の中には、小さい頃にお伽噺としてそのような事を聞いたりした者もいるだろう』
映像モニタに表示されているマクギリスが大袈裟なまでな身振り手振りで演説する。
俺はそれを、アドモス商会の社長室で見ていた。
勿論、ここにいるのは俺だけではない。
このアドモス商会の社長であり、同時に俺の恋人でもあるクーデリア。
そのクーデリアの秘書であるフミタン。
第2秘書のククビータ。
そんな面子で、マクギリスの演説を見ていた。
『また、異世界と言われて恐らく想像する者が多いだろう魔法。これも異世界には存在するのを確認している。そして……これは大事な事だが、魔法というのは基本的に誰でも訓練をすれば習得が出来るという』
ネギま世界の高畑のように、多少の例外はあるけどな。
もっとも、魔法の詠唱が出来ないという高畑の体質は、かなり珍しいらしい。
それこそ数万人に1人、あるいは数十万人、数百万人に1人といったようなくらいの確率らしいし。
もっとも、そうなったらなったで気を使えるようにすればいいだけだ。
そうなれば、もしかしたら咸卦法……魔力と気の合一を使えるようになるかもしれないし。
もっとも、高畑や明日菜はかなり簡単に使っている咸卦法だが、習得するのはかなり難しいらしい。
それでも挑戦する者が多ければ、中には習得出来る者も出てくるかもしれないが。
『そして、異世界……正確には世界と世界の狭間にある、ホワイトスターという、異世界に行く際の中継地点だが、そこは分かりやすく表現すると、巨大なコロニーのような場所となっている。そこにはワイバーン……そう。ファンタジー作品で有名なワイバーンに乗る事が出来る牧場であったり、ドラゴンの剥製のある博物館がある。他にも、交流区画という場所では他の世界からやって来た者達と交流が出来るし、こちらもまたファンタジーではお馴染みのエルフと接する事も可能だ』
マクギリスの演説を見ていたクーデリアやフミタン、ククビータはその表情を不安なものにする。
当然だろう。
このマクギリスの演説によって、異世界に興味を持つ者は莫大な数になる。
そして当然ながら、興味を持てば異世界に行ってみたいと思う者は多い。
……そのような者達が、どうするか。
シャドウミラーとオルフェンズ世界の窓口は、このアドモス商会だ。
そうである以上、文字通りの意味でアドモス商会に客が殺到するのは間違いなかった。
そしてアドモス商会というのはここである以上、その殺到する客の相手をするのはここにいる面々となる。
アドモス商会は火星においては新進気鋭の会社として知られている。
知られてはいるが、だからといって殺到する客の対応が出来るかと言われれば……それは否だ。
それについては当初から予想されていたので、量産型Wを多数配置しているし、コバッタも相応にアドモス商会に貸し出していた。
アドモス商会の価値を考えれば、それこそ力でどうにかしようと考える奴も間違いなくいるだろうし。
その時に対処する為の戦力としても、量産型Wとコバッタは十分に使える。
『また、先程私達も魔法を習得出来ると言ったと思うが、この交流区画で魔法使いと交渉をして、魔法を習うということも出来る。勿論、それ以外にも魔法を習う手段は幾つもあるだろう。……まさに、今まではお伽噺の中にしか存在しなかったが、ファンタジーの世界が広がっているのだ!』
「煽るなぁ」
マクギリスの演説に、思わずそう呟く。
実際、この演説は地球だけではなく月にも、そして木星や金星にも放映されている筈だった。
ギャラルホルンだからこそ、出来る事だろう。
ギャラルホルンの中でもラスタルと対立しているので、完全にギャラルホルンを制した訳ではない。
この演説を行う上でも、恐らく色々と交渉とかそういうのをやり合ってのものなのだろう。
それが具体的にどのようなものなのかは、俺には分からない。
分からないが、それでもこうして演説を行ったという事は、この演説にはそれだけ利益があると判断したのだろう。
……まぁ、実際にこの演説を見ていれば、それだけの価値があるだろうとは思うが。
もっとも、ラスタル達も異世界とかそういうのが夢物語だとか、そういう風に言ってきてもおかしくはない。
『また、異世界と一口に言っても存在する異世界というのは1つだけではない。それらの異世界と、私達は取引を……異世界間貿易をする事も可能となる。これは、私達の世界にとって大きな利益となるだろうことは、誰でも想像が出来ると思う。……ただし、この異世界との取引については、色々と問題がある。その中の1つに、異世界との貿易を行っている者と敵対している者がいるということがある。その中の1つが、私が所属するギャラルホルン……より正確には、ギャラルホルンで私と対立する派閥の者だ。その者は他にもギャラルホルン内部での私の影響力を下げる為に、自分の手の者を使ってアーブラウとSAUとの間で戦争を起こしたりもしている』
ここでそれを言うのか。
ガラン……そしてガランのMSであるゲイレールの中には、ガランとラスタルが繋がっているという証拠があった。
もっとも、明確にラスタル・エリオンという名前を出したりとかはしていないらしいが。
ガランも、その辺については最大の警戒をしていたらしい。
『異世界という、未知の場所。そことのやり取りをするには、私達も一丸とならなければならない。自分だけがよければいいという、そのような者が異世界との貿易に参加すれば、それはつまりこの世界の恥となるのは、言うまでもないだろう』
そこまで言っていいのか?
そう思ったが、自信満々な様子のマクギリスの様子を見れば、ここは一気に攻める必要があると判断したのだろう。
『また、今までのギャラルホルンでは異世界と接触する時に間違いなく問題が起こる。……ギャラルホルンのセブンスターズのファリド家当主である私が言うのもなんだが、ギャラルホルンは傲慢になりすぎた。……勿論、厄祭戦においてMAを倒した事は素晴らしいとは思う。だが、それはあくまでもその当時のセブンスターズの者達の功績だ。今のセブンスターズの者達は、祖先の栄光によって今の地位にいるにすぎない』
「っ!?」
マクギリスの口から出た言葉に、ククビータが息を呑む。
いやまぁ、それも当然の事だろうが。
このオルフェンズ世界において、ギャラルホルンのトップに立つセブンスターズというのは、一種の貴族のようなものだ。
だというのに、その当人であるマクギリスが己の血筋を否定したのだから。
普段表情を変えることが少ないフミタンでさえ、その目を見開いている。
ククビータは、大きく口を開けていた。
それだけ、今のマクギリスの言葉はこのオルフェンズ世界で生まれ育ってきた者達にとって意外だったらしい。
『現在の傲慢なギャラルホルンが、そのまま異世界と接触した場合、どうなるか。それは考えるまでもなく明らかだろう。間違いなく戦闘になる。そして……私達は負ける』
負けると言い切るか。
普通に考えれば、それはこのような演説で言うべき事ではないだろう。
何しろ、それは自分達の世界の方が弱いと、そう言ってるようなものなのだから。
……実際、もしオルフェンズ世界と他の世界が戦争になった場合、オルフェンズ世界は決して弱くはないと思う。
エイハブ・リアクターによる無限のエネルギーがあり、ナノラミネートアーマーによって物理攻撃とビーム攻撃は無効化出来るのだから。
もっとも、無限のエネルギーがあっても推進剤は必須なので、それが切れると動けなくなるが。
ただ、それでも対抗出来る戦力はあるが。
マクロス世界とか。
他にも、それこそ魔力や気で対抗出来たりするネギま世界とか。
ペルソナ世界は……生身での戦いはともかく、MSのような人型機動兵器はないしな。
MWくらいならペルソナを使ってどうにか出来るかもしれないが。
『今の私の話を聞いて、不満に思う者もいるだろう。厄祭戦を制した私達が、そう簡単に他の世界に負ける訳がないと。だが……私達が厄祭戦で勝利したように、他の世界でも同じような災厄から生き延びた者達もいる。そして何より……私達は厄祭戦において、MAを倒すしか出来なかったが、異世界の存在はMAを従える事が出来た。これこそが、異世界の者を見下してはならない理由になるだろう』
「って、おい。それを言うのか?」
ルリとラピスの協力によって、ハシュマルをハッキング出来たのは間違いない。
だが、まさかそれをここで言うとは思わなかった。
実際、これは決して楽観視出来る事ではない。
マクギリスが言ったように、厄祭戦の存在はこのオルフェンズ世界において深く爪痕を刻んでいる。
多くの者は厄祭戦がMAという存在と戦ったというのは分からないものの、知ってる者は知っている内容なのだ。
だからこそ、ここでそのようなことを口にするというのは、俺にとっては予想外だった。
「これは……後で問題になるのではないでしょうか?」
クーデリアの言葉に、俺も頷く。
「そうだな。少なくてもラスタルの派閥はこの辺を突いてくるだろう」
ギャラルホルンというのは、厄祭戦においてMAを倒す為に作られた組織だ。
そうである以上、MAを従えたというマクギリスの言葉は受け入れられないとして、攻勢を強めるだろう。
事なかれ主義の残り2家のセブンスターズの家が、一体どう判断するか。
……普通に考えれば、やはりギャラルホルンという組織の誕生から、MAは撃破すべしというラスタルの派閥についてもおかしくはない。
マクギリスなら当然その辺についても理解してる筈だろうが……いや、待て。理解した上でこのような事を言った?
それはつまり、セブンスターズの中でもまだマクギリスとラスタルのどちらに付くのかを決めていない残り2家をラスタルの派閥に組み込ませる為だったりしないか?
これが例えば、シャドウミラーの戦力がどれだけのものなのかを理解していなければ、あるいは残り2家を自分の味方にしようと考えてもおかしくはない。
だが、シャドウミラーの戦力がはっきりとして、自分達に協力してくれるという目算がある以上、ギャラルホルンのセブンスターズは自分の味方になっている3つの家だけでいいと、そう判断したのではないか。
つまり、この機会に事なかれ主義の2家はエリオン家とクジャン家と共に片付けてしまおうと、そう考えても不思議ではない。
『だからこそ、私はここに宣言する。旧態依然とした今までのギャラルホルンの体質を改革すべきだと。そして改革をするべきだと口にした以上、私が……この、マクギリス・ファリドが先頭に立って改革を行い、そして異世界と友好的に付き合えるようにすると』
その言葉を最後に、マクギリスの演説が終わる。
しん、と。
部屋の中には静寂で満ちる。
そんな中、俺はふと気が付く。
「そう言えば、マクギリスの奴、アドモス商会の名前を口に出さなかったな」
異世界と一体どういう風に接触するべきなのか。
異世界の存在は口にしたマクギリスだったが、実際にどうやって異世界に行くのか。
そして何より、異世界の存在をマクギリスは口にしたものの、実際に異世界がどのような場所なのかという証拠……例えば、映像や写真、もしくは異世界、この場合はホワイトスターだが、そこでしか入手出来ないような物を見せたりはしなかった。
これだと……それこそ、場合によってはラスタルの派閥から異世界が実在するという証明は? といったように突っ込まれると思うんだが。
とはいえ、マクギリスがその辺について考えないとは思わない。
寧ろラスタルの派閥にそう突っ込ませる事こそがマクギリスの狙いなのではないかと、そう思えてしまう。
「そう言われると、そうですね。一体何故でしょう?」
俺の言葉にクーデリアも理解出来ないといった様子でフミタンに視線を向ける。
恐らくフミタンなら分かるのではないかと、そう思っての行動だったのだろうが、クーデリアに視線を向けられたフミタンは、首を横に振る。
「申し訳ありません。一体何故アドモス商会の名前を口に出さなかったのか、私には分かりません。ですが、彼は非常に有能だという評判です。そうである以上、ただ忘れていたという事はないかと。恐らく、何か狙いがあるのは間違いないでしょう」
具体的にその狙いがなんなのかとなると……
「やっぱり、異世界についての窓口は自分が知っているので、それを聞きに来る者達に対して優位に交渉するとか?」
そう思うも、窓口がどこなのかを知れば、その情報はすぐにでも広まる。
優位に交渉とか、そういう事は言ってる余裕はないだろう。
そんな疑問を抱きつつ、その後も色々と話していたのだが……それから数日後、マクギリスがファリド家の血を引いておらず、元々は孤児だったのを小さい頃にイズナリオが稚児としてスラム街で拾われたのがマクギリスであるという情報が流れるのだった。