「アクセル、準備は出来たわ」
マーベルの言葉に、俺は火星の空を見る。
ノブリスの訪問があってから2ヶ月程。
その間、事態は殆ど動いてはいなかった。
勿論それは、あくまでも表面上の事だ。
水面下ではマクギリスもラスタルも、それぞれ活発に動いていた。
そんな中で特に忙しかったのは、やはりと言うべきか……まだどちらに付くのかをはっきりと決めていなかった、セブンスターズの残り2家だろう。
今日はマクギリスの派閥と接触し、明日はラスタルの派閥と接触しといったように、朝令暮改……いや、この表現は少し違うか?
ともあれ、どっちに付けば勝ち馬に乗れるのかと迷い……最終的には、2家ともラスタルの陣営についた。
これについては、ある意味当然の流れだろう。
マクギリスはギャラルホルンの将来を見据え、無能な人物を残したいとは思わなかったので、自然とその2家に対する扱いは厳しいものになった。
そのような塩対応をされた2家の者にしてみれば、現状維持派のラスタルと協力する方がいいと考えるのはおかしなことではない。
もっとも、もしラスタルが勝っても、最後の最後までどちらに付くのかを決めなかったその2家は切り捨てるような事になると予想出来るが。
その2家がその件についてどのように思っているのかは、生憎と俺にも分からない。
まぁ、敵になった以上は倒すだけだろうが。
そんな訳で、現在俺は出撃の準備を整えていた。
とはいえ、これが恐らくこの原作最後の戦いだ。
そうである以上、シャドウミラーの……オルフェンズ世界のシャドウミラーだけではなく、ホワイトスターにいるシャドウミラーの力も使う気満々だった。
だからこそ、俺とマーベルだけが……そして、事務職の者達や、最低限の護衛としてメギロートやバッタがここには残っている。
……当然ながらハシュマルもここにはいるが、ハシュマルはあくまでも地上用MAなので、宇宙での戦いに使う事は出来ない。
ただ、それはつまり地上でなら使えるという事になる訳なので、ハシュマルには後で出番がある。
その為、ハシュマルをこの基地の護衛として残す事は出来ないんだよな。
そもそもの話、今のこの状況でシャドウミラーや鉄華団の拠点に攻撃をする奴がいるかという問題があるが。
ちなみに鉄華団の基地にもメギロートやバッタといった護衛戦力が待ち構えている。
そんな訳で、もし……本当にもしの話だが、火星にあるPMCであったり、ラスタルの派閥が密かに潜伏させておいた戦力とかが襲ってきても、十分に対処出来るだけの戦力が揃っている。
あるいは襲ってきた者達が俺の予想以上の戦力だった場合、それはそれでホワイトスターからすぐに戦力を呼べるし。
「シーラにはちょっと悪い事をしたな」
「後で、機嫌を取る必要があるから、それは忘れないようにしてね」
マーベルの言葉に頷く。
シーラは現在火星にはいない。
既にスキップジャック級に乗って、鉄華団の面々と共に……そして途中でテイワズの戦力と合流し、地球に向かっている筈だ。
何しろ、スキップジャック級はシャドウミラーの……より正確にはオルフェンズ世界支部の旗艦だ。
そしてスキップジャック級を動かすには、オルフェンズ世界支部の実働部隊が全員必要となる。
……実際にはそれはあくまでも動かせるだけで、性能を完全に発揮出来てはいないのだが、その辺りはコバッタがフォローしており、それによってスキップジャック級本来の性能を最大限に使えるようになっていた。
もっとも、そういう意味ではコバッタをスキップジャック級のメインにしてもいいんだが。
ただ、これから先の事を考えるとそういう訳にいかないのも事実。
今は俺達がいるから何とでもなるが、俺はこの戦いが終わって騒動が一段落したらホワイトスターに戻る。
いや、戻るというか、今も寝泊まりはホワイトスターでやってるんだけどな。
オルフェンズ世界で特にやるべき事がなくなれば……そうだな、他の世界に行くか、もしくはUC世界のガンダム開発計画に関わるか。
その辺はまだ分からないが……多分、ガンダム開発計画だろうな。
何だかんだとゼフィランサスの建造も上手く進んでいるところだし、新技術についても、UC世界としては目新しい技術が多いようだし。
「シーラには……そうだな。後でしっかりと機嫌を取っておくよ。さて、それじゃあこっちも準備を始めるか」
異世界の存在を……そして俺達が持つ力をはっきりと見せつける為に、こちらから出す戦力は実働班と精霊の卵、そして量産型Wの操縦するシャドウと、メギロート、バッタといった無人機だ。
普通に考えれば……いや、普通に考えなくても、これだけの戦力を出すのには非常に大きな金が必要となる。
しかし、ここ最近実働班とかが動いていなかったのも間違いないし、なによりも大きいのは、異世界間貿易によってシャドウミラーは非常に潤っているという事だ。
金というのは貯め込むだけでは意味がない。
使って……循環させてこそ、意味があるのだ。
そういう意味では、今回の件は丁度いい出来事だったのだろう。
それに、金を稼ぐという意味ではキブツがある時点で幾らでも宝石とかレアメタル、レアアースといった諸々を手に入れる事が出来る。
キブツはその世界特有の物質に変換は出来ないが、それはつまりその世界特有の物質でなければ、幾らでも投入した物を変換出来る。
そういう意味では、シャドウミラーが異世界間貿易とかで多少赤字になっても問題はないんだよな。
もっとも、政治班がそういう事を許容するとは思えないが。
「さて、と。マーベル」
マーベルに声を掛けると、こちらに近付いてくる。
そして俺と一緒に影のゲートを使い、ゲートの側に。
既にゲートの側にはシャドウミラーの実働班がいる。
戦艦の類も空中に浮かんでおり、ゲートの近くまで行くと空が見えない程の戦力が集まっていた。
……とはいえ、これでも実は本当の意味での全力という訳ではないんだよな。
量産型Wのシャドウやメギロート、バッタは結構な数いるのは間違いないが、それでも出そうと思えばもっと大量に出す事が出来るし。
「アクセル、じゃあ私はグリムゲルデで待機してるわね」
そう言い、マーベルはグリムゲルデに向かう。
それにしても……オルフェンズ世界での騒動が一段落したら、マーベルの機体もどうにかしないとな。
勿論、グリムゲルデも決して悪い機体ではない。
オルフェンズ世界のMSの中でも、かなり高性能な機体なのは事実だ。
使いこなすのがかなり難しいMSだが、それでも使いこなせばガンダムとだってやり合えるだけの性能を持つ。
だが……高性能なのは間違いないが、それはあくまでもこのオルフェンズ世界での話。
色々な世界の技術を収集しているシャドウミラーの機体と比べると、どうしても一段か二段、あるいはそれ以上に劣る。
もしマーベルがグリムゲルデをまだ使いたいのなら、それこそトールギスⅢやエピオン、アルトロンといったMSと同じように、中身をシャドウミラーの技術で改修する必要があるだろう。
とはいえ、グリムゲルデを使っているマーベルだが、一番慣れているのはやっぱりオーラバトラーなんだよな。
そうなると、技術班の方で所有しているオーラバトラーを使わせてもいいかもしれないな。
勿論、その高性能なオーラバトラーをマーベルが動かす事が出来ればの話だが。
「アクセル」
マーベルの機体について考えていると、そう声を掛けられる。
それが誰の声なのかは、考えるまでもない。
毎日のように聞いている声なのだから。
「コーネリア、そっちの準備はどうだ?」
「見ての通り、問題はない。……とはいえ、精霊の卵まで出す必要があるのか?」
コーネリアが赤紫の特徴的な髪を抑えつつ、ストライクフリーダム、インフィニットジャスティス、デスティニー、レジェンドといった、精霊の卵が使用しているMSを見る。
「何事も経験だしな。……もっとも、精霊の卵にとっては厳しい戦いになると思うが」
精霊の卵が使っているのは、基本的にSEED世界のMSだ。
その中でも最新鋭の強力なMS。
だが……問題なのは、それらの機体は基本的にビーム兵器がメインという事だろう。
これが例えば、UC世界で使われているIフィールドの類なら、フィールドの内側に入って攻撃してしまえば普通にビーム兵器も使用可能だ。
だが、ナノラミネートアーマーの場合は装甲に縫っている塗料とエイハブ・リアクターの効果によるものである以上、ビーム兵器は至近距離……それこそゼロ距離から撃っても通じないし、射撃兵器だけではなく、ビームサーベルの類も同様だ。
他にもレールガンとかの実弾もあるにはあるが……こちらもまた、ナノラミネートアーマーによって効果は薄い。
そういう意味では、精霊の卵は今回の戦い、かなり厳しいだろう。
勿論、一方的に不利な訳ではない。
PS装甲の発展型であるVPS装甲が使われているので、ナノラミネートアーマーとは別の意味で物理攻撃は無効化出来る。
物理攻撃対策という意味では、ぶっちゃけナノラミネートアーマーよりもVPS装甲の方が強い。
オルフェンズ世界のMSが使う質量武器の類であっても、VPS装甲の場合は衝撃はコックピットに通るものの、機体の装甲そのものは問題ないのだから。
そういう意味では、オルフェンズ世界のMSと防御力は互角ではある。
VPS装甲の弱点はビーム兵器だが、オルフェンズ世界においてはビーム兵器なんてMAくらいしか使ってないし。
だからこそ、精霊の卵は勝つ事は出来ないが、負ける事もない。
……まぁ、重力波砲の類を持たせれば、また話は違ってくるのだろうが。
「そうだな。精霊の卵に死人が出ないことを祈るとしよう。……話は変わるが、指揮の方はどうする? やはり私が指揮を執った方がいいのか?」
「そうだな、そうしてくれると助かる」
普通、国のトップというのは戦場に直接出るような事はない。
あるいは戦場に出ても、後方で指揮を執るといったところか。
だが、俺の場合は混沌精霊としての能力もあるし、何より俺の操縦技術があれば純粋に戦力として突出した能力を持つ。
なので、シャドウミラーの実働班の指揮はコーネリアに任せた方がいい。
「ただ、全軍の指揮はマクギリスが行う事になっている。俺達は独自の指揮権を持つ。マクギリスからは要請はあっても命令は出来ない。その辺の調整を頼む」
「分かった。もっとも、その辺りの連絡は基本的にニヴルヘイムのマリューや、シロガネのナタルが行う事になると思うが」
母艦という意味では、円のギャンランド、美砂のワンダーランドもあるが……あの2人は艦長としての能力はあるが、それでもマリューやナタルに比べると劣る。
まぁ、円と美砂は言ってみればナタルの生徒……もしくは弟子のようなものだしな。
以前少し聞いた話によると、円や美砂は色々とふざけているところがあるが、能力は優秀で、だからこそナタルも怒るに怒れないといったようになっているとか何とか。
俺にしてみれば、円や美砂らしいと思うが。
もっとも、美砂はともかく円はそれなりに真面目だったりするんだよな。
つまり、ふざけているのは美砂に引っ張られてそういう感じになっていると思ってもいい。
……美砂にそれを言って、それで納得するかどうかはまた別の話だが。
「一応、相手はギャラルホルンの最精鋭だ。その能力は決して油断していいようものじゃない……というのは、コーネリアには言うまでもないか」
「私が敵を侮るとでも?」
そう聞いてくるコーネリアに、首を横に振る。
コーネリア程、油断という言葉と縁遠い存在はいないだろう。
もしそれでもコーネリアが負けるとなると、それは敵が純粋に強いからこそだ。
そして、そのような相手は……全くいないという訳ではないが、かなり希少なのも事実。
「そうは思っていない。けど、技術班は今回の一件でかなり期待してるしな。もし何らかの失敗をしたら、間違いなく不満を抱く。それだけは避けたい」
「エイハブ・リアクターか。……便利そうな代物ではあるが、マイナスの側面が大きいのも事実だな」
「それは否定しない。世の中の精密機器の全てがハーフメタルで出来ていれば別だろうが、それが出来ない以上、どうしても街中で使えないというのは痛いんだよな。とはいえ、技術班ならその辺を改良出来る可能性もあるけど」
天才と呼ばれる者達が揃っている技術班だ。
エイハブ・リアクターの製造技術を知れば、その辺についてもどうにか出来る可能性は十分にあった。
……もっとも、変な方向に魔改造される可能性も否定は出来なかったが。
「そうなったら、エキドナや茶々丸に頑張って貰うとしよう」
コーネリアの言葉に同意するように頷き……俺は空中に浮かんでいる様々な戦艦を見つつ、ニーズヘッグを空間倉庫から取り出すのだった。