「さて、そろそろいいか」
俺はASRSを解除し、まだ暴れているハシュマルに近付く。
そんなニーズヘッグの姿に気が付いたのか、まだ数機だけ残っていたグレイズが動揺し、機体の動きを止める。
無理もないか。ニーズヘッグは大きさこそオルフェンズ世界のMSよりも小さいものの、その外見はまさにラスボス……あるいは裏ボスや隠しボスといったような、圧倒的な迫力を持っているのだから。
だからこそ、グレイズのパイロットも格の違いを本能的に理解し、動きを止めたのだろう。
あるいは……本当にあるいは、もしくは万が一の希望として、ニーズヘッグを味方のMSであると認識した可能性もあるが。……ないか。
乗っている俺が言うのもなんだが、ニーズヘッグはとてもではないが正義の味方といったようには見えないし。
それでもグレイズのパイロットと……それとまだ生きている基地の人員にしてみれば、新しい敵が増えたというより、味方であるという期待を抱いてもおかしくはない。
だが、残念ながらその期待は砕かせて貰う。
「ハシュマル、そろそろ終わりだ。火星に戻るぞ」
そんな俺の指示に、ハシュマルはピタリと動きを止める。
外部スピーカーから聞こえてきた声だけに、当然ながら基地にいる面々にも聞こえている筈だ。
そして言動から、俺がハシュマルを従えているというのはきちんと理解出来た筈だ。
それでもと、グレイズの1機が動こうとしたところで、ヒュドラの先端にあるビーム砲を発射する。
ただし、狙ったのはグレイズではなく、地面だ。
精神コマンドの直撃も使ってないので、まともに当てても効果はなかっただろうが。
ただ、それでもここで命中させると、追い詰められたネズミが牙を剥く事になりかねない。
窮鼠猫を噛むって感じで。
そんな訳で、今のビーム砲はあくまでも牽制の一撃でしかない。
ただし、これ以上何かしようものなら、その時は当てるが。
そんな風に思ってると、ハシュマルがプルーマを体内に収納していく。
結構な数のプルーマを生みだしていたが、大丈夫なのか?
そうも思ったが、戦場には結構な数のプルーマの残骸が転がっていた。
プルーマの性能はギャラルホルンのMWとそう違いはない。
そうである以上、撃破されるのもそうおかしな話ではなかった。
ただし、プルーマと同等、あるいはそれ以上に撃破されたMWの残骸もそこら中に転がっているが。
やはり有人機というのが、被害を大きくした理由だろう。
ぶっちゃけ、ハシュマルがいればプルーマは大量に作れる。
それでいて、アリアンロッド艦隊のMWと同程度の性能を持っている訳で、正面から戦った場合、向こうの被害が大きすぎる。
それでプルーマを減らしても、ハシュマルがまた増産するし。
ハシュマルとプルーマは、かなり使い勝手がいいのは間違いないが……ただ、ハシュマルに比べてどうしてもプルーマはいまいち頭が悪いというか、柔軟性に欠けるというか。
まぁ、プルーマはMAのサブユニットという扱いだし、そう考えれば仕方がないのかもしれないが。
そんな訳で、生き残ったプルーマが次々とハシュマルの中に収納されていくのを眺める。
……とはいえ、ハシュマルは巨大ではあっても、あくまで物理的な存在だ。
例えば俺の持つ空間倉庫とは、全く違う。
物理的に収納出来なくなれば、それ以後のプルーマは諦めるしかない。
本来ならこっちの手掛かりになるような物を置いていくのは厳禁なんだが、それも場合による。
今回はMAがこの基地を襲撃したという証拠を残す必要がある以上、プルーマの残骸は置いていってもいいだろう。
プルーマについてはギャラルホルンも知っているので、その残骸から新技術を手に入れる……もしくは厄祭戦で失われた技術を発掘する?
そんな感じには多分ならないだろうし。
もしなっても、どのみちギャラルホルンは……正確にはプルーマを回収したラスタル達の栄華は今日で終わる。
なら、このまま……ああ、いや。そうだな。
「ハシュマル、回収しきれないプルーマでまだ動ける個体には、この基地施設の中を破壊するように命令しろ。生き残りがいたら反撃してくる奴は殺しても構わない」
そう指示を出す。
ラスタルを少しでも焦らせるには、そうした方がいいのは間違いないと判断しての事だ。
この基地の生き残りにとっては不幸な事だが、そもそも今までギャラルホルンという上流階級の、更に最精鋭のアリアンロッド艦隊というエリートで美味しい思いをしてきたのだ。
であれば、このくらいの試練があってもいいだろう。
それにあくまでも殺すのは反撃してくる者達であって、逃げる相手は襲わないように指示している。
また、プルーマの動ける範囲はこの基地の敷地内だけである以上、最悪この基地の敷地から出れば問題はない。
……もっとも、少し頭が回って冷静になれば、その辺りの条件については理解出来るだろう。
そうなると、この基地の敷地の外からMWやMSで攻撃をする可能性もあるが……その時はその時で、俺としても特に構わない。
どのみち置いて行くプルーマは破壊されるのが前提のものだし。
俺の指示に従い、ハシュマルが収納出来なくなったプルーマが再度基地の攻撃を始める。
それを見ながら、俺はニーズヘッグのシステムXNを起動させるのだった。
「さて、ハシュマルは後はここで待機だ。特に問題はないと思うが、何かあったら自衛は許可する」
火星に戻り、そうハシュマルに指示を出す。
シャドウミラーオルフェンズ世界支部にいたハシュマルが、短時間とはいえ、いきなり消えたのだ。
ギャラルホルンの火星支部の戦力……ハシュマルを監視していた者達は、一体何があったのかと動揺してもおかしくはない。
それでも幸運だったのは、火星支部はマクギリスの派閥がトップを務めているし、下にいる者達もマクギリス派の方が多いという事だろう。
勿論、中にはラスタルの派閥の者もいるだろうから、完全に安心出来るといった訳ではないのだが。
そんなラスタルの派閥の者達が、今回の一件でこれ幸いとこちらに攻撃をしてくる可能性は十分にあった。
その時は、ハシュマルに反撃して貰えばいいだろう。
『アクセルさん、一体何がどうなってるんですか!?』
戦場に向かおうとした、ちょうどそのタイミングで通信が入る。
これがギャラルホルンからの通信なら、恐らくは無視しただろう。
だが、拠点に残してきた部下からの通信となれば、さすがに無視をする訳にはいかない。
「ちょっとハシュマルを連れてアリアンロッド艦隊の本拠地を叩いてきただけだ。俺はまたすぐに戦場に戻る。アリアンロッド艦隊も自分達の本拠地が襲撃されたという情報が入ってるだろうから、混乱しているだろうし」
『アリアンロッド艦隊の本拠地って……いえまぁ、アクセルさんの事なので、そういうものだと納得するしかないですけどね。ああ、それとアクセルさんがノブリスと交渉をした件、上手く進んでいるようです』
「ノブリスとの交渉? ……ああ、ネガティブキャンペーンか」
一瞬何を言ってるのかは分からなかったが、すぐに思い出す。
元々は、ラスタルの陣営からノブリスに接触があり、俺達のネガティブキャンペーンを火星で流すように要求された一件。
だが、ノブリスはそれを断った。
いや、正確には断ったんじゃなくて、のらりくらりと、どうとでも受け取れるような返事をしたんだったか?
それから、そういう事があったと俺に伝えに来た訳だ。
別にそれは、ノブリスが俺に忠誠を誓っているからとか、そのような理由ではない。
単純に、俺達……シャドウミラー、鉄華団、テイワズ、マクギリス派が、ラスタル達に勝利すると判断したからこその行動だろう。
もし俺達が負けると判断していれば、恐らくノブリスはラスタルからの提案に乗っていた筈だ。
そうなれば、ネガティブキャンペーンはラスタル達じゃなくて、俺に向けられていただろう。
『はい。どうやって集めたのか、アリアンロッド艦隊の後ろめたい内容をこれでもかと放送してます』
「蛇の道は蛇って言うしな」
ノブリスも裏の世界では武器商人として非常に有名な人物だ。
それだけに、アリアンロッド艦隊の情報を入手するのも難しくはないだろう。
そしてドルトコロニーの一件であったり、あるいはアーブラウとSAUを戦争させたガランの一件だったりと、他にも色々とアリアンロッド艦隊は後ろ暗い事も多い。
ノブリスはそれを大々的に公表したのだろう。
……とはいえ、それはちょっとやりすぎのような気もするが。
俺達にとって有利なのは間違いない。
だが、今回の一件を誰が企んだのかというのは、それこそ知ろうとすればそんなに難しくなく知る事が出来るだろう。
そうなれば、当然ラスタルの派閥の者達にとって、自分達に不利な行動をしたノブリスの存在は許容出来なくてもおかしくはない筈だ。
ノブリスもその辺は十分承知の上での行動だろうから、何かあった時の対処方法については考えているのだろう。
それが、ホワイトスターに避難するというのであれば、こっちも許容は出来ないが。
『そうでしょうね。そのお陰で、クリュセでも結構な騒動になってますよ』
「……騒動に? 一体何でだ? 放映された内容は、あくまでもアリアンロッド艦隊の醜聞だろう? なら、火星にはあまり関係ないと思うが」
これでギャラルホルンの火星支部にいるのがラスタルの派閥なら、あるいはそれが原因で騒動が起きてもおかしくはない。
……いや、その場合はそれこそ放映されている番組を即座に中止させるか。
それでも応じなければ、MWを始めとした戦力を派遣してもおかしくはない。
しかし、火星支部はマクギリス派の者だ。
であれば、アリアンロッド艦隊の醜聞で何故クリュセが騒がしくなるのか。
その辺が俺には全く分からなかった。
『シャドウミラーや鉄華団が、アリアンロッド艦隊と戦っているからでしょうね』
「あー……そっち方面での騒動か」
自分達のいる火星に拠点のあるシャドウミラーと鉄華団が、醜聞を公表されたばかりのラスタルやアリアンロッド艦隊を相手に戦っている。
そうなると、それこそ……そう、愛国心と表現すべきか? そういうのによって、俺達を応援するという意味で騒いでもおかしくはなかった
「なら、騒いではいても、そこまで大きな問題にはならないな?」
『だと、いいんですけど』
あくまでも俺達を応援しているのだから……と思ったが、ふと何かで見たサッカーの熱狂的な応援をする、フーリガンだったか? それを思い浮かべる。
どこの世界での話だったのかはちょっと忘れたが、フーリガンの存在は国によっても大きな騒動になっていた筈だった。
クリュセの……いや、ノブリスの影響力を考えれば、それこそ火星全てに放映されているのだろう映像は、非常に大きな力となり、それだけに暴走する可能性も十分にあった。
そうならないようにする方法も、何か考えなくてはいけないだろう。
とはいえ……その辺については、まず今の戦いが終わってからの話だ。
それまでは……
「クーデリアに出て貰え。下手に放送の内容で暴走しないように、クーデリアなら何とかなる筈だ」
元々が革命の乙女として広く名前を知られているクーデリアだ。
であれば、クリュセ以外の……アーブラウ以外の植民地となっている場所でも、クーデリアの名前は広く知られているだろう。
だからこそ、ここでクーデリアに出て貰えば、興奮している者達も落ち着く筈だ。
……万が一の話だが、クーデリアが出た影響で余計に暴走しそうな気がしないでもないが、その時はそれこそクーデリアによって落ち着かせて貰う必要があるだろう。
『彼女に? ……分かりました。アクセルさんが言うのなら、向こうも引き受けてくれるでしょう』
「恐らくな。それに、今回の件はある意味クーデリアも無関係という訳じゃないし」
クーデリアが社長をしているアドモス商会は、シャドウミラー……ホワイトスターの方のシャドウミラーとの窓口だ。
マクギリスの派閥が勝利すれば、その時にアドモス商会は広く、それこそ大袈裟でも何でもなく、オルフェンズ世界中にその名前を知られる事になるだろう。
だからこそ、前もってある程度シャドウミラーとの関係を匂わせておくというのは、決して間違いではない。
『そうですね。……今の戦いが終わると、アドモス商会は本気でかなり忙しくなりそうですし』
「それは否定しない。だからこそ、今のうちに名前を売っておくのは必要な訳だ。革命の乙女じゃなくて、シャドウミラーとの窓口のアドモス商会の社長という立場で」
その辺をしっかりとしておけば、将来的にはある程度マシになる……かも?
もし失敗したら、その時はその時でまた別の方法を考えればいい。
そんな風に思いつつ、通信を終えると俺は再びシステムXNを使って戦場となっている宙域に向かうのだった。
「って、何だこれ……マジか」
その宙域に転移した俺が見たのは、ちょうどマクギリスの艦隊に何かが撃ち込まれ、それによって艦隊が大きなダメージを受けているという光景だった。