これからも楽しんで貰えるような話を作っていきたいので、よろしくお願いします。
評価もまだまだお待ちしています。
ダインスレイヴが放たれようとしている。
その通信を聞いた瞬間、俺は前に出る。
『ちょっ、アクセル!?』
スレイのそんな通信が聞こえてくるが、俺はそれを無視し、ニーズヘッグのスラスターを全開にして前に進む。
元々、ニーズヘッグは高機動型の機体として設計されている。
エナジーウィングとグラビコン・システムによる重量低下。
他にもテスラ・ドライブとT-LINKフライトシステムの双方がツイン・ドライブとして機動力の強化に繋がっており、ニーズヘッグの最大の特徴であるヒュドラにもそれぞれテスラ・ドライブが内蔵されており、フレキシブル・スラスターとして運用も可能だ。
それらの全てを全開にすれば、当然ながらニーズヘッグは圧倒的な速度で移動が可能だ。
……もっともそれらを全開にする事によって受けるGは、それこそ生身で受けた場合は即死するだろうし、シャドウミラー持つ技術であるISCがあっても即座に限界を超える。
最低でも魔力や気による身体強化……それもかなり高度なレベルで身体強化出来なければ、耐える事は出来ないだろう。
もしくは、混沌精霊の俺のように物理法則を無視するような力を持っているか。
そんな風に考え……しかし、ニーズヘッグの速度であっても、かなり距離が離れていたということもあり、ダインスレイヴの発射を防ぐ事は出来ない。
ダインスレイヴを放つMSは、維持軍の中でも最後尾にいて、俺達は降伏勧告の後で革命軍の方に戻っていた。
この宇宙の戦場では、この距離は圧倒的だ。
それでもニーズヘッグならもしかしてと思ったのだが、どうやら甘かったらしい。
「T-LINKシステム、フルコンタクト!」
ダインスレイヴを放つのを止める事が出来ない以上、やるべき事は1つだけだ。
T-LINKシステムのフルコンタクトをした瞬間、俺の感覚に放たれたダインスレイヴの砲弾……というか、矢? そんな形の物を察知する。
「フルバースト!」
一瞬にしてT-LINKシステムは俺の意思を察し、行動に移す。
一斉に放たれるニーズヘッグの武器。
ヒュドラ1基辺りに3門のビーム砲があり、それが6基で18門のビーム砲。
ヒュドラに組み込まれている、ランツェ・カノーネ2門にT.T.キャノン、メガ・バスターキャノンとブラックホール・ランチャー、そしてグレートグランドマスターキーによって放たれた魔法。
頭部ビームバルカンに、ファントム。
それらが一斉に放たれる。
……他にもエナジーウィングや尻尾といった武器もあったりするのだが、エナジーウィングはミロンガ改に装備されている物と違い、近接用のビームサーベル的な感じの武器として調整されている。
尻尾は言うまでもなく、至近距離の相手にしか攻撃出来ない。
そんな訳で、射撃武器のフルバースト――ニーズヘッグ最大の必殺技であるラグナロクや、広域破壊用にフレイヤは使われていないが――によって放たれたそれぞれの攻撃は、一斉に放たれたダインスレイヴの弾頭を次々に撃墜していく。
ダインスレイヴの速度を考えると、普通は弾頭その物を迎撃するといった事は不可能に等しい。
だが、T-LINKシステムによる把握と、命中や射撃、技量といったステータスの値、そして混沌精霊としての能力によって、ダインスレイヴが発射された後に、その弾頭をそれぞれ個別に撃墜するといった事は、俺にも出来たのだ。
また、不幸中の幸いと言うべきか、ダインスレイヴの弾頭は高硬度レアアロイで出来てはいるが、回数制限はあれども、ビーム兵器を無効化するナノラミネートアーマーが使われていなかった事だろう。
もっとも、ナノラミネートアーマーはあくまでもエイハブ・リアクターと同時に運用するのが前提であり、そういう意味ではダインスレイヴの弾頭として使える訳ではないが。
ともあれ……1秒にも満たないような短い時間で一斉に発射されたニーズヘッグの攻撃は、ダインスレイヴの弾頭の全てを撃墜する事に成功する。
「ふぅ……」
コックピットの中で安堵の息を吐く。
T-LINKシステムを使い、ファントムをヒュドラまで戻す。
取りあえず、ダインスレイヴによる被害は出なかったな。
ダインスレイヴは威力は非常に強力なものの、結局のところレールガンだ。
それだけに弾速は素早いが、ニーズヘッグと俺の組み合わせのように、それに反応出来るのなら、対処も難しい事ではない。
そうして安堵したものの、すぐにマクギリスに通信を入れる。
「マクギリス、聞こえているな? ダインスレイヴの弾頭は全て撃ち落とした」
『感謝するよ。……まさか、このタイミングで撃ってくるとは……』
『今のは、私の意思ではない! ダインスレイヴを撃つように命じたのは、ネモ・バクラザン、エレク・ファルク、イオク・クジャンの3人の意思によるものだ! それを示す為に、私は自分の手でこの3人を処断しよう!』
マクギリスが全てを言い終えるよりも前に、不意にそんな通信がオープンチャンネルで割り込んで来る。
そして映像には、アリアンロッド艦隊の兵士と思しき者達が3人を取り押さえている光景があった。
そして、銃を手にしたラスタル・エリオンが、再び口を開く。
『私は、降伏するべきだと言っていた。しかし、それを許容出来なかったこの3人は、ダインスレイヴを撃つように命じたのだ! 私は悲しい! 降伏をしようと思った私の意思を無視し、自分の欲望の為にこのような事をするとは! 事、ここにいたって私はマクギリス・ファリドの言葉が正しかったと、そう思わざるをえなくなった!』
……それはちょっと無理がないか?
ラスタルの演説を聴きながら、そう思う。
ラスタルの目には涙が浮かび、それは見た者に今のラスタルの言葉が真実だと思わせるには十分な説得力を持っている。
ただし、それはあくまでもラスタルの演技だと俺は思う。
話の流れ的に無理があるし。
……あるいはラスタルにしてみれば、先程のダインスレイヴによる一斉射撃によってこっちに大きなダメージを与えられるような事があれば、そのまま戦いを続けようと思ったのかもしれない。
だが、そんなダインスレイヴの一斉発射は失敗した。
だからこそ、ラスタルはそれを命じた者達を切り捨てたのだろう。
いや、そもそも本当にあの3人がダインスレイヴを撃つように命令したのか?
イオク以外の2人も、名前からしてセブンスターズの一員だろう。
最終的にラスタルに味方をした、事なかれ主義の2家の当主がああいう名前だった気がするし。
ともあれ、ダインスレイヴの攻撃が失敗したから、それを命じた者達を切り捨てる決断をしたといった可能性が高い。
『んんん! んんんー! んんんんんんんんんんんん、んんんんんんんんん!』
ラスタルの言葉を遮るかのように、聞こえてくるそんな声。
一体誰の声だ? と思ったら、その声の主は戯け……イオクだった。
猿轡によって、声を出す事が出来ないようになっているイオクは、必死になって頭を振り、何かを叫んでいる。
それこそ猿轡のせいで、一体何を言いたいのかが全く分からないが。
とはいえ、何となくイオクが何を言いたいのかは分かる。
イオクはラスタルの部下として活動していた。
そしてラスタルに深い忠誠心を抱いていたのも、間違いのない事実。
そんなイオクが、ラスタルに切り捨てられたのだ。
あるいは、戯けと呼ばれるイオクだ。
自分がまだラスタルに切り捨てられているとは、思っていない可能性もある。
……そう言えば、他の2人もそうだが、映像モニタに表示されているイオクの部下が見えないな。
普通なら護衛とか側近とかそういう感じでいてもおかしくはない筈なんだが。
あるいは、イオクの側近は夜明けの地平線団との戦いやハシュマルとの戦いの時に死んだから、いなくても仕方がないのかもしれない。
だが、他の2人は違う。
事なかれ主義だけに、自分の命だけは守りたいと思ってもおかしくはない。
なのに、護衛がいないのは……考えられる可能性としては、ラスタルが今のような状況に持っていく為に、邪魔な護衛を排除していたという感じか?
そんな風に考えている間にも、ラスタルとマクギリスの会話は続いていた。
『では、降伏をするという事でいいのだね?』
『あのような勝手な事をされては、貴公の言葉を信じざるをえないのでな。まさか私に知られないように、ダインスレイヴの発射をさせるとは思ってもいなかった』
嘆き悲しむ様子のラスタル。
だが、そんなラスタルに対し、イオクは……そしてもう2人も、必死になって何かを叫んでいた。
猿轡のせいで、相変わらず何を言ってるのかは分からないが。
ただ、目が血走っているのをみれば、余程の事を必死に訴えているのだろう。
『ダインスレイヴについては、後程詳しい話を聞こう。私が用意した訳でもないのに、何故かこちらからダインスレイヴが撃たれた件についても説明を聞きたいところだし』
『その件については、私がこの3人に好き勝手にやらせた責任がある。だからこそ、私は敗軍の将として責任を取ろう』
そう言うや否や、パンパンパンと、3発の銃声。
同時に、猿轡を嵌められて捕らえられていた3人の頭部に穴が開き……そのまま崩れ落ちる。
「マジか」
映像モニタの光景に、思わずそんな風に言ってしまう。
証拠はないが、恐らく……いや、ほぼ間違いなく、今のラスタルの行動は3人にダインスレイヴの件の責任を押し付けたものだろう。
ラスタルの能力を考えれば、証拠の品とかも既に処分され、自分に繋がりがないようにしてるのは間違いない。
『貴様っ!』
ラスタルの行動に、マクギリスが思わずといった様子で叫ぶ。
まぁ、その気持ちも分からないではない。
マクギリスにしてみれば、ダインスレイヴの件であったり、ガランの件であったり、夜明けの地平線団の件であったり、MAの件であったり。
そんな諸々で理由を付けて、ラスタルを処分したかったのだろう。
だが、ラスタルはそれらの全てを自分が射殺した3人に責任を被せた上で殺したのだ。
……もっとも、事なかれ主義の2人はともかく、イオクは哀れだったな。
事なかれ主義の2人とは違い、最初からラスタルを慕っていた。
なのに、その慕っていたラスタルに責任を被せられ、スケープゴートとして殺されたのだ。
あるいは、本当にあるいはの話だが、もしかしたらラスタルは最初から何かあった時、それこそ今のようなことになった時、自分の身代わりにする為に仲間にしていたのかもしれないな。
でなければ、マクギリスからも戯けと呼ばれるイオクを、わざわざラスタルが仲間にするとは思えないし。
これはあくまでも俺の予想で、もしかしたら本当に仲間として認めていた可能性はあるが。
少し聞いた話によると、先代のクジャン公は相応に有能な人物だったらしいし。
……有能であっても、子育てや教育の才能はなかったから、イオクのような戯けが出来上がったのだろうが。
ともあれ、俺にしてみればイオクは恨みこそあれど、助けたいとは思わない。
そういう意味では、慕っていた人物に切り捨てられたと言われても特に気にはしなかった。
『敗軍の将として、自らの責任は取る。これが、私の責任の取り方だ』
『……詳しい話は後で聞こう。ともあれ、降伏をするつもりならすぐにでも全軍に通達をするように』
『分かっている、そのつもりだ。しかし……まさか、君が昔から欲しがっていたバエルを手に入れるとは思わなかったよ』
何気なく呟くラスタルだったが、昔から……か。
マクギリスは最初こそイズナリオの稚児という立場だったが、その有能さから養子として扱われ、後継者となった。
スラム街出身という出自をどうしたのかは気になるが……当時ファリド家当主で、性格はともかく、純粋に能力という点では有能だったイズナリオの事を考えれば、スラム街の孤児を自分の血縁……遠縁の出身とかそういう風にするのは、そう難しくはないのだろう。
ともあれ、そうしてファリド家の次期後継者となったマクギリスだけに、同じセブンスターズの相手という事で、小さい時からラスタルと何度か会ったことがあってもおかしくはない。
その時、恐らくバエルを欲しいと口にしたのだろう。
『覚えていたとは……私は自分がやるべき事をやったまで。エリオン公も、この戦いで負けた以上は今までのような事は出来ないと思って欲しい』
『死刑かな? それでも私は構わんよ。自分のやるべき事をやってきたという自負はあるのだから』
その言葉は少し意外だった。
維持派を率いていた事もそうだし、ガランの件もそうだが、ラスタルは最後まで自分が生きるのを優先するとばかり思っていた。
あるいは、ラスタルが死んでもエリオン家の跡継ぎがいて、問題ないと思っているのかもしれないが。
『その辺りはこの後の交渉やこれまでの一件を考慮して決めるとしよう』
マクギリスのその言葉に、ラスタルは真剣な表情で頷くのだった。