「さて、少し早いがそろそろ時間だ。行こうか」
美鶴がそう言う。
部屋の中でゆかり、里中、美鶴、俺で話していたのだが、時計を見ると既に5時近い。
約束の時間は明確に決めてはいないものの、夕方ということになっていた。
それを思えば、美鶴の言うように少し早いが、そろそろ大広間に行ってもいいだろう。
早ければもう既に誰かが来ているかもしれないし、もし誰かが来てなくてもそこで話をして待っていればいいんだし。
そんな訳で俺達は大広間に向かったのだが……
「あ、皆さん。こんにちは」
そう鳴上が挨拶をしてくる。
その側には菜々子がいて、義理の母となった早紀の姿もある。
他にも花村とクマが巽と何かを話していた。
「ふむ、どうやら少し来るのが遅かったようだな」
美鶴としては、自分が招待した者達である以上、やはり最初に自分が大広間にいて、客を待っているべきだと思ったのだろう。
律儀な性格は美鶴らしいが、だからこそ美鶴って感じがするのも事実なんだよな。
「別にそこまで気にしなくてもいいだろ。……そう言えば聞くのは忘れてたけど、山岸とかの元SEES組は来るのか?」
マヨナカテレビの一件が起きた時、丁度タイミング良く……いや、悪くか。ともあれ、他の場所でもそれなりに大規模なシャドウの事件が起きており、有里とかはそっちに対処していた。
だが、それでも何人かはマヨナカテレビの一件にも協力していたんだよな。
そもそもゆかりだって、SEES組なのは間違いないし。
だから、今日の宴会にはその連中も来るのかと聞いたのだが……
「いや、来ない。伊織は少し来たがっていたが、バイトがあってな」
そう言い、俺を見てくる美鶴。
なるほど、そのバイトってのはシャドウミラー関係か。
伊織は恋人の治療、荒垣は自分の治療の見返りとして、シャドウミラーでペルソナのデータ取りとかを行っている。
どうやら、それがちょうど今日だったらしい。
もしかしたら意図的にそういう風にしたのかもしれないが。
何しろ現在の技術班は、オルフェンズ世界の技術の解析で忙しい。
エイハブ・リアクターの製造技術についても既にマクギリスからは報告されているし。
そんな中で……こう言ってはなんだが、ペルソナを調べる事に意味があるのかという思いがそこにはあった。
あるいは、ネギま世界の魔法のように詠唱が出来ないといったような特殊な例外を除き、誰でも使えるというのであれば、ペルソナを研究する価値もあるかもしれない。
だが、今のところの研究では、ペルソナはあくまでもペルソナ世界の人間にしか使えないという事になっている。
その唯一の例外が、俺だ。
とはいえ、それは俺がペルソナを召喚出来る訳ではなく、刈り取る者と召喚の契約を結んだ事によって、いつでも刈り取る者を呼び出せるという感じなのだが。
ただ、これ……実は普通にペルソナを召喚するよりも随分と有利だったりする。
例えば、マヨナカテレビの一件で覚醒し、ペルソナを召喚出来るようになった者は、現実世界ではペルソナを召喚出来ない。
あくまでも出来るのは、TVの中の世界でだけだ。
そしてニュクスの一件でペルソナ使いになった者達は現実世界でもペルソナを召喚出来るものの、それでもずっと出しておくのは難しい。
それに対し、俺が召喚の契約を結んだ刈り取る者は、俺の陰にいるのでいつでも呼び出せるし、呼び出してしまえば影に戻るまではかなり自由に行動出来る。
……まぁ、俺と召喚の契約を結ぶには、あくまでも俺の血に耐える必要があるしな。
俺の血に耐えられた数少ない存在が刈り取る者で、その上で俺の血に耐えきった事で強化もされている。
どうせなら、技術班にはネギま世界の召喚魔法を研究して欲しいと思う。
「バイトがあるのなら仕方がないか。……そうなると、基本的に集まるのは稲羽市関係の者達だけだな」
そうして会話をしているうちに次第に人が集まってきて……
「おう、俺が一番最後か。悪いな、仕事がちょっと長引いた」
その言葉通り、一番最後に姿を現したのは堂島だった。
いやまぁ、本当の最後という意味ではりせがいないのだが、りせの場合は芸能人である以上、あくまでも来られたら来るという事だったので、仕方がない。
「遼太郎さん、お仕事ご苦労様」
入って来た堂島に、早紀がそう言って近付いていく。
何と言うか、まさに若妻といった感じだな。
……あ、花村が煤けた表情を浮かべている。
無理もないか。早紀は元々ジュネスでバイトをしていて、その時に花村と親しくなったらしいし。
とはいえ、早紀にしてみればいい友人といった感じだったらしいが……花村にしてみれば、男女間の意味で好きになった。
なのに、その相手は友人……の叔父に持っていかれたのだから。
これがあるいは、友人の鳴上とくっついたのなら、花村もまだ納得出来ただろう。
だが、くっついたのはその叔父。
もっとも、早紀が幸せそうにしているのを見ると、花村も素直に諦めるしかないのだろうが。
「おお、アクセル」
「久しぶりだな」
堂島が俺を見て、嬉しそうに笑いながら近付いてくる。
なお、堂島が来たという事で、大広間には料理が運び込まれ始めていた。
「ああ。無事だとは聞いていたが……こうして直接会って、ようやく安心したよ」
「こっちは何も問題なかったから、気にするな」
心配を掛けた堂島……いや、他の面々にも悪いとは思うが、伊耶那美大神によってこの世界を追放されたお陰で、俺はマーベルとシーラと再会出来たし、オルフェンズ世界に行った事で新たな恋人のクーデリアと遭遇し、他にも多数の技術やら何やらを入手出来た。
そういう意味では、俺は伊耶那美大神に感謝をした方がいいのかもしれないな。
もっとも、伊耶那美大神が俺に感謝をされて喜ぶかどうかは、また別の話だが。
「そうか? ……まぁ、アクセルの事だ。俺には分からないような何かがあるんだろうけど」
「否定はしない。ちなみに、もし知りたいのなら、教えてもいいぞ? その場合、ずっぽりとこっちに嵌まって貰うが」
冗談半分でそう言う。
それはつまり、半分は本心だという事だ。
堂島が特に何かが優れているという訳ではないものの、常識人枠として考えれば当たりの部類だろう。
だが……予想通り、堂島は首を横に振る。
「いや、遠慮しておく。俺は警察を辞めるつもりはないしな」
「……やっぱり足立の件か?」
そう尋ねると、一瞬だけ憂鬱そうな表情を浮かべ、頷く。
足立透。それは堂島の相棒にして、マヨナカテレビの事件を起こしていた真犯人だ。
実際にはその裏に伊耶那美大神がいたのだが。
伊耶那美大神の件は置いておくとして、堂島は自分の相棒だった足立が事件の犯人だった事に思うところがあるのだろう。
刑事というのは、基本的にコンビで動く。
……とはいえ、堂島と足立がコンビを組んでいたのはそんなに長い間じゃないらしいが。
それでも相棒は相棒ということで、堂島は足立の件で思うところがあるのだろう。
「ああ」
「そうか。なら、これ以上は誘わない。お前はペルソナとかそういうのの事は忘れて、平和な人生を楽しんでくれ。……若くて新しい妻も貰ったしな」
「……むぅ」
早紀の事でからかうと、堂島はどう反応していいのか分からなくなったのか、そっと視線を逸らす。
この件でもっと突っついてもよかったのだが、残念ながらその前に食事の準備が終わってしまう。
「アクセル、そろそろ始めたいと思うのだが、構わないか?」
美鶴の言葉に、堂島はあからさまに安堵した様子で自分の席……鳴上や菜々子、早紀のいる場所に戻る。
逃がしたか。
そう思うも、この件は後で突っつけばいいだろう。
「そうだな。じゃあ、そろそろ始めるか。……こういうのはあまり向いてないんだが」
美鶴の言葉に、俺は自分の席に向かいそこで立ったまま口を開く。
「さて、皆。今日は集まってくれて何よりだ。マヨナカテレビの一件で色々とあったし、俺もこうして無事に戻ってこられた。伊耶那美大神によって飛ばされた場所では色々とあったが……とにかくこうして無事でここにいる。本当は少し前に戻ってきていたんだが、色々と忙しくてそれどころじゃなかったが、そっちも一段落した」
そこまで言って、話を聞いている面々の様子を確認する。
俺としては、ぶっちゃけ似たような事は今まで何度か経験している。
それに全く知らない場所に転移するというのは、ゲートを使ってこれまで何度も繰り返してきた。
そういう意味では、そこまで気にする必要もないと思うのだが、それを知らない者達にしてみれば、俺が一体どういう経験をしてきたのかと、興味や心配……それ以外にも、様々な視線を向けていた。
うーん、やっぱりもう少し早く来るべきだったか?
オルフェンズ世界でゲートが使えるようになって、それで何だかんだとガンダム開発計画に関わるようになったのだが、それなりに暇な時間があったのは間違いない。
そういう意味では、もっと前に稲羽市に来る事が出来たのだが。
ただ、オルフェンズ世界の騒動が一段落してからこっちに来たかったのも事実。
「そんな訳で、来るのが少し遅くなったが……こうして無事に戻ってきたというのを知らせると共に、心配をしてくれた面々に感謝の気持ちを込めてこういう場を用意した。……そんな訳で、諸々を祝して……乾杯!」
『乾杯!』
俺の言葉に続き、他の面々もコップを掲げ、あるいは隣にいる相手とコップをぶつける。
とはいえ、乾杯はしたものの、ここにいる殆どの者は未成年だ。
それに堂島も酒ではなくウーロン茶を飲んでいた。
そうして、それぞれが色々な話をするのだが……
「アクセルさん、本当に無事でよかったです」
鳴上が俺の側にやってきて、そうしみじみと言う。
鳴上はマヨナカテレビの一件の原作の主人公だ。
それだけに、俺の事を心配していた……というのもあるのかもしれないな。
勿論、本人には自分が主人公だという理由は全くないので、偶然かもしれないが。
「連絡が遅くなって悪かったな。……それで、鳴上の方はどうなんだ?」
「まぁ……その、上手くやってます。ここでの経験があったので」
それはそれでどうなんだ? と思わないでもない。
ここでの経験というのはマヨナカテレビの一件についてで、それがあったからこそ新しい場所で上手くやってるというのは……それはそれでどうなんだ? と思わないでもない。
それでも上手くやっているというのなら、俺がそれについて何かを言ったりする必要はないだろうが。
「そうか。なら、いい。……今日はわざわざ来て貰って悪かったな」
鳴上の転校先から稲羽市までは、電車で移動するにしても、車で移動するにしても、相応に時間が掛かるのは間違いない。
それでこもこうしてやって来てくれたのだから、感謝するのはおかしな話ではない。
「いえ、他の皆に会いたかったですし。それに、菜々子の事も気になってましたから」
何となく……本当に何となくだが、鳴上の今の言葉は後者の、菜々子の事が気になっていたというのが正しいように思える。
とはいえ、それはそんなにおかしな事ではない。
マヨナカテレビの件の時から、鳴上は菜々子を可愛がっていた。
菜々子もまた、鳴上を実の兄のように慕っていた。
まさにシスコンというのが正しい鳴上だ。
寧ろ今日の件は、俺の無事を知らせるのと、心配させたのを感謝して宴会をするというのを楽しみにしていたとは思うが、それを理由に菜々子と会う為にやって来た……という一面があってもおかしくはない。
「俺が見る限り、菜々子は幸せそうだけどな。新しい母親の早紀にも懐いているようだし」
そう言うと、鳴上が微妙な表情になる。
無理もないか。
自分が妹のように可愛がっている菜々子の新しい母親が、自分よりも1歳年上の、しかも学校の先輩だった人物なのだから。
……まぁ、それでも花村よりはマシだと思うが。
鳴上と話ながら花村に視線を向けると……ん? あれ、堂島とイチャつきながら菜々子の世話をしている早紀を見ても、そこまでショックを受けてるようには見えないな。
無理をしてるのか、それとも失恋を受け入れたのか、あるいは時の流れが癒やしたのか。
その辺は俺にも分からないが、花村には幸せになって欲しいものだ。
「そうですね。結婚式の時から安心はしてましたけど、それでもやっぱりこうして見ると、しみじみと良かったなと思います」
結婚式か。
今更だけど、俺も参加したかったな。
とはいえ、俺が出るとそれはそれで問題が起きていたような気がしないでもない。
それこそどこからともなくシャドウが現れるとか、そんな感じで。
そうして話していると……ん?
不意に大広間に1人が入ってきたのを見て、驚く。
何故なら、その人物は……
「りせ!?」
不意に出た俺の言葉に、宴会をやっていた面々もそちらに視線を向ける。
するとそこには、サングラスと帽子で変装をしていた、りせの姿があった。
「アクセルさん……おかえりなさい」
そう言い、りせは俺を見ながら笑みを浮かべるのだった。