「あれがラビアンローズか。……なるほど、薔薇……というか、花の形をしてるな」
映像モニタに表示されたラビアンローズの姿を見て、感想を素直に口にする。
現在俺がいるのは、ナスカ級の中。
本来はフィフス・ルナでクレナが戻ってくるのを待つ予定だったのだが、ラビアンローズで開発中の試作3号機の方で何か問題があったらしく、暫くは戻ってこられないとニナを経由で連絡があった為だ。
どうしたものかと考えていたところ、オサリバンからラビアンローズに行ってみてはどうかと提案され、現在ナスカ級でラビアンローズに向かっていた訳だ。
『アクセル代表、ラビアンローズから着艦許可が出ました』
ラビアンローズの独特な光景に目を奪われていると、ブリッジからの通信が入る。
「分かった。じゃあ、中にラビアンローズに着艦してくれ」
『はい。ただ……』
映像モニタ――ラビアンローズが映っているのとは別の奴――に表示された艦長が少し言いにくそうな様子で言葉を濁す。
「どうした?」
『はい、実はフィフス・ルナで色々と情報を集める機会があったのですが、その時に少しだけこのラビアンローズについても聞いたんですが、このラビアンローズには連邦軍の駐留部隊がいて、そのトップが……』
「評判が悪い、と?」
『ええ。典型的な強硬派らしいです』
「……なるほど」
以前……誰から聞いたのかはちょっと忘れたが、強硬派とか地球至上主義とか、そういう、とにかくスペースノイドを見下している者達が集まっているとか、そういう事があったな。だとすれば、ラビアンローズにいるって奴もそういう関係なのか?
『特にアクセル代表はガンダム開発計画のテストパイロットをしている、ルナ・ジオンの所属という事になっています。そういう相手なら噛みついてきてもおかしくはないかと』
「まぁ、その時はその時だ。いざとなれば、コーウェンやゴップに投げればいいし」
幾らこっちに噛みつこうとしても、コーウェンやゴップといった上層部に注意されれば、どうしようもないだろう。
まぁ、そうなるとそうなったで、何で俺がそういう者達と知り合いなのかといった疑問を抱いたりもするだろうが。
何しろ今の俺は、シャドウミラー代表のアクセル・アルマーではなく、ルナ・ジオン軍所属のアクセル・アルマー中尉だし。
「相手が権威に弱いタイプだったら、俺の姿と名前でシャドウミラーの存在を匂わせるというのもありだな」
今の俺の姿は10代半ばの姿だが、それでもこのUC世界で知られているシャドウミラーの代表であるアクセル・アルマーと似ている。
年齢が若いので本人だとは思わないだろうが、それでも外見が似ていて、名前が同じとなると、どうしても関連性を疑うだろう。
無難なところでは、兄弟といったところか。
俺からは何も言わないが、それで向こうがそういう風に誤解をしたのなら、それはそれで構わない。
『分かりました。……何かあった時の為に、すぐ出港する準備はしておきます』
船長の言葉に頷く。
このナスカ級には、当然ながらMS隊が待機している。
ルナ・ジオン軍で運用する為に改修された結果、9機のMSを運用出来るようになっている。
UC世界においてはMS3機で1小隊なので、ナスカ級1隻で3小隊を運用出来る訳だ。
しかも運用するMSは、ガルバルディβ。
ルナ・ジオン軍の最新鋭量産機だ。
指揮官やエース機が使うギャン・クリーガーに比べると性能は劣るものの、一般兵が操縦する上では十分な性能を発揮する。
ラビアンローズに駐留している連邦軍のMS隊がどのような戦力なのかは分からないが、ナスカ級とガルバルディβなら一方的にやられるという事はないだろう。
何事にも絶対というのはないので、もしかしたらアムロ級のエースパイロットが配備されているという可能性もあるが。
「頼む。何かあったら、俺もすぐに対応する」
折角ラビアンローズという非常に珍しいドッグ艦を見たというのに、気分が台無しだな。
強硬派ってのは、何とも。
そんな風に思いながら、俺はナスカ級がラビアンローズに接続するのを見ているのだった。
「アクセル中尉、よく来てくれましたね」
ナスカ級から下りると、俺を出迎えたのはクレナ。
また、その近くには1人の女がいる。
クラブ・ワークスの制服を着ているし、何より顔立ちの整った美人であるのを見れば、それが誰なのかは容易に想像出来る。
ただ……クレナとその女がいるだけで、ナスカ級の艦長から連絡のあった強硬派の軍人がいないな。
「ああ、色々と相談したい事があってな。……それで、そっちは?」
クレナと会話をしつつ、もう1人の女に視線を向け、尋ねる。
するとその女は俺の視線を感じたのか、笑みを浮かべて口を開く。
「ルセット・オデビーです。試作3号機の担当をしています。よろしく、アクセル中尉」
そう言い、手を出してくるのだが……何だ? 最初から妙に友好的だな。
それが悪い訳ではない。
これからの事を考えれば、こうして友好的な方がやりやすいのも事実。
だが……それでも、俺が特に何かした訳でもないのに友好的なのは、少し疑問だった。
「アクセル・アルマーだ。試作3号機については興味深く聞いてるよ」
何しろ、重装フルアーマーガンダム7号機を参考にしたと思しき機体だ。
1年戦争でそれを使っていた俺にしてみれば、それに興味を持つなという方が無理だろう。
「あら、クレナ所長から聞いた話によると、アクセル中尉はニナの試作1号機に首ったけと聞いてますが?」
ルセットがからかうように言ってくる。
この様子を見る限りでは、別に本気でそう思っている訳ではないのだろう。
「クレナに最初に紹介されたのがニナだったしな。それに、試作3号機はフィフス・ルナじゃなくて、このラビアンローズで開発しているんだろう? なら、フィフス・ルナにいる俺が関わるのは、やっぱりゼフィランサスの方になる」
「そうでしょうね。……まぁ、試作3号機のパーツもパワード・ジムで試して貰ってるから、不満はないけど」
「え? そうだったのか?」
ルセットの言葉に少し意外な思いを抱く。
てっきりパワード・ジムで色々と試しているのは、ゼフィランサスのパーツだとばかり思っていたのだが。
「そうよ。もっとも、その大半は試作1号機のパーツなのは間違いないけど。ただ、中には試作3号機のパーツと共用しているパーツもあるし、それこそ試作3号機だけのパーツがあるのよ」
そういうものかと納得する。
ただ、言われてみれば納得出来る事であるのは間違いなかったが。
パワード・ジムはあくまでもガンダム開発計画のMSに使うパーツの実験をする為のMSだ。
今までは関わっているのがニナだったから、そのニナが開発しているゼフィランサスのパーツだとばかり思っていたんだが、試作3号機のパーツを試していてもおかしくはない。
「それより、出迎えは2人だけなのか?」
「ええ、そうだけど……何か?」
クレナがそう返してくるが、何となく演技臭いな。
「いや、ナスカ級の艦長から、ラビアンローズに駐留している連邦軍のトップは色々と噂のある人物だと聞いてたからな。てっきり俺が来た事でちょっかいを出してくるかと思ったんだが」
連邦軍の軍人、それも強硬派に所属する者にとって、ルナ・ジオンというのは憎悪すべき対象だ。
何しろ連邦から月を奪った相手だと、そのように認識されていてもおかしくはないのだから。
だからこそ、そのルナ・ジオンの軍人――という事になっている――俺が来たら、ちょっかいを出してきてもおかしくはなかった。
そう思ったのだが、その相手が出て来る様子がない。
「ああ、ナカト中佐ね。彼なら自分からアクセル中尉に会いにくるような事はまずないと思うわ」
「そうなのか? いや、こっちとしてはそれで助かるけど。なんでまた?」
今まで俺が接してきた強硬派なら、連邦軍の軍人という立場を……それもクレナの言う通りなら中佐という階級で、中尉という事になっている俺よりも明らかに偉い。
だからこそ、その階級差を利用してちょっかいを出してくると思ったんだが。
「色々と理由はあるわ。まず、ナカト中佐は強硬派の中でも徹底してスペースノイドを見下してるから、公式な理由でもない限り自分からわざわざスペースノイドに……それもルナリアンに会いたいとは思わないとか、他にはアクセル中尉はガンダム開発計画のテストパイロットである以上、下手にちょっかいを掛けるとコーウェン中将に目を付けられる可能性があるという事、他にも幾つかあるけど……」
「いや、それだけ聞けば十分だ」
ナカトというのは、話を聞く限りではかなり面倒な奴らしい。
それは間違いないが、向こうから絡んでこないのなら、こっちとしても問題はなかった。
ナカトにしても少佐でしかない自分が中将に目を付けられるというのがどういう事を意味してるのかは十分に理解している筈だ。
だからこそ、ここで俺にちょっかいを出すようなことはしようとは思わないらしい。
無理もないか。中将であるだけじゃなくて、コーウェンはレビル派を引き継いだ人物だ。
レビルが死んだ事で派閥から抜けた者も多いらしいが、それでも連邦軍の中でも有数の派閥を率いる人物であるのは間違いない。
ナカトがどこの派閥に所属してるのかは分からないが……いや、待て。もしかしてナカトもコーウェンの派閥に所属していたりするのか?
このラビアンローズはアナハイム所属だが、ガンダム開発計画の試作3号機の開発をしている場所でもある。
そんな場所に駐留する連邦軍のトップであるという事は、コーウェンの派閥だからこそなのではないか。
これはあくまでも俺の予想でしかない。
だが実際にそれが正しい場合、ナカトが俺にちょっかいを出すという事は考えなくてもいい……かもしれない。
もっとも、フィフス・ルナまで悪評が伝わっている人物だけに、そういうのとは関係なくちょっかいを出してくる可能性も否定は出来なかったが。
「取りあえず、向こうからちょっかいを出してこないのなら問題はない。……それで、俺がここに来た理由だが」
「何でもMSの開発の件でという事だけど」
「ああ、これだ」
そう言い、俺はニナから渡されたディスクを渡す。
それには俺がニナと話した内容……ビームガン兼ビームサーベルを試作4号機をベースにした、報酬として俺に渡すMSに組み込む為の案が入っている筈だった。
通信か何かでその辺を知らせるといった方法もあったのだが、俺に報酬としてMSを渡すというのは、あくまでもアナハイムとルナ・ジオンの間での話だ。
傍受されると不味いことになるのは間違いない。
だからこそ、こうしてわざわざラビアンローズまでやって来たのだから。
「そう。じゃあ見せて貰うわね。ルセット、アクセル中尉の相手をお願い出来る?」
「はい、所長。分かりました。……じゃあ、行きましょう。ちょっとアクセル中尉にやって欲しい事があるのよ」
そう言い、腕を引っ張るルセット。
豊かな双丘が腕に押し潰される柔らかな感触があるが、ルセットはそれを気にしている様子はない。
いや、これは寧ろ分かっていてやってるな。
いわゆる、当ててんのよ状態だ。
クレナに言われたからサービスをしているって訳ではないだろう。
ルセットが言うように、やって欲しい事というのが関係しているのか?
どうするべきかと一瞬迷ったものの、すぐに問題ないだろうと判断する。
俺がラビアンローズに来る理由になった仕事はもう終わっている。
後はクレナがあのディスクを見て、ビームガン兼ビームサーベルを手首の内側に装備するか、そして手首の外側に装備する機関砲をどうするか。
その辺りについては、クレナの判断次第だ。
MSの設計については詳しい知識を持つクレナが、どうしてもビーム砲と機関砲が干渉して、同時に使う事が出来ないと言うのなら、残念ながら俺もそれを諦めるしかない。
だが、設計の変更でどうにか出来るのなら、その辺についてはクレナの技量次第だろう。
その辺については、正直なところあまり心配していなかったりする。
クラブ・ワークスの面々からも尊敬はされている人物なのだから。
「分かった、分かったから。それで、一体何をやって欲しいんだ?」
「それは到着してからの秘密よ。ニナばかりにアクセル中尉を独占させておくのはずるいもの。少しくらい私がお零れに与ってもいいわよね?」
「……何か、勘違いしてないか?」
何となくルセットの言葉からすると、俺とニナの関係を誤解しているように思える。
俺とニナはあくまでも仕事上でのパートナーであって、ルセットが思っているような関係ではないんだが。
そう考えるも、ルセットは俺の話を全く聞く様子もなく、腕を抱きしめたまま引っ張っていく。
どうにかしようと思えばどうにか出来るのだが、それをやるとルセットを怪我させてしまうしな。
そんな訳で、俺も大人しく引っ張られていく。
……決して、ルセットに押し付けられた胸の感触に負けた訳ではない。