「じゃあ、設計変更は受け入れて貰えたの?」
ニナの言葉に頷く。
「ああ、クレナも俺の要望を受け入れてくれた」
クレナとしては、出来れば設計の変更は避けたかったのだろう。
だが、そのMSを受け取る俺の要望というのは強く、最終的にクレナも受け入れたのだ。
もっとも、設計の変更をするから完成までの時間が延びるとは言われたが。
これについては残念に思うが、同時に仕方がないとも思う。
ビーム砲を1本……いや、両腕の内側に装備する以上、2本か。
2本を装備する為に設計を変更する事になるのだから。
ただ、素人意見ではあるものの、ビーム砲を装備するのにそこまで大規模な設計の変更はいらないのではないかと思える。
大規模な設計の変更ではなく、微調整でどうにかなるのではないかと思う。
あるいはビーム砲を装備することによって重量の設定を変更することによって、試作4号機をベースにしたMSはより高性能な物になる可能性も否定出来ない。
「そう。……後で何か言われるかもしれないわね」
少し憂鬱そうな様子で言うニナ。
ビームサーベル兼ビーム砲については、ゼフィランサスで開発された。
つまり、ニナが開発した訳だ。
「クレナの性格を考えると、その辺についてはそこまで気にする必要はないと思うけどな」
「そう……だといいんだけど」
ニナのその言葉は、何か意味ありげな感じがする。
とはいえ、だからといって深く関わるのは避けた方がいいだろう。
「とにかく、今はまずゼフィランサスの完成を急いでくれ。テストパイロットをするにも、いつまでもパワード・ジムだけって訳にもいかないだろうし」
「……分かってるわ。そっちの方は問題なく進めてるから大丈夫よ。それより、ラビアンローズではルセットに会った?」
「ああ、会ったぞ。シミュレータでだが、ステイメンを操縦してみた」
「……そう。どう思った?」
「悪くない。いや、純粋に宇宙での運用だけに特化してる分、宇宙ではゼフィランサスよりも性能は上だろうな。特に腰の左右にあるバインダーはかなり良い。出来ればゼフィランサスにも採用して欲しいとは思うくらいには」
そんな俺の言葉に、ニナは複雑な感情を浮かべる。
納得、反発、喜び、悲しみ……それ以外にも幾つか。
「難しいか?」
「そうね。設計上の制約の問題で少し難しいと思うわ」
これは事実なのか、それともゼフィランサスに対する愛着故なのか、俺には分からない。
ニナはゼフィランサスを『私のガンダム』と呼ぶくらいにはガンダムに入れ込んでいるのだから。
そうなると、対抗心からバインダーを付けないという可能性もあるだろう。
本人がそれを理解した上での言葉かどうかは、また別の話だが。
「そうか、分かった」
それ以上ニナに突っ込むのは止めておく。
ゼフィランサスは、あくまでも連邦軍に引き渡されるガンダムだ。
……実際には、資料としてルナ・ジオンに渡され、ルナ・ジオンからシャドウミラーに渡される事になるのだが。
それはゼフィランサスだけではなく、試作2号機と試作3号機も同様だ。
ただ、シャドウミラーの場合はガンダム開発計画のMSはあくまでも資料的な意味で欲している。
ゼフィランサスにバインダーが付けばより性能は上がるものの、開発責任者のニナがそれをしないと言うのなら、無理にとは言わない。
……試作4号機をベースにして開発されているMSについては、バインダーはどうなんだろうな。
しまったな。クレナにその辺についても聞いておけばよかった。
「ニナ、クレナに連絡する時、試作4号機をベースに開発しているMSについても、どうせならバインダーを付けて欲しいと連絡してくれないか?」
「……また設計変更を頼むの? 所長も仕事は忙しいから難しいと思うけど。ああ、でもビーム砲の件を考えると、まだ設計変更はしていない可能性が高いから、どうにかなるのかしら? とにかく、話は分かったわ。連絡はしてみるけど、採用されるかどうかは微妙なところよ?」
ニナに言葉に、俺は頷く。
とはいえ、試作4号機は強襲用のMSだ。
バインダーを使った運動性の高さというのは、強襲用としては利点になると思うんだが。
とはいえ、バインダーがあるからといってMSの性能が向上するとは言い切れない。
MSの設計というのは、全体のバランスを見て行うものなのだから。
そう言う意味では、ゼフィランサスにバインダーを付けないのもその辺りの理由なのかもしれないな。
「まぁ、これについてはあくまでもアイディアの一つといったところだが」
腰のバインダー……そう思い、ふと思い浮かべたのは、SEED世界のフリーダムだ。
明確なバインダーという訳ではないが、レールガンだったか? それが腰に折り畳まれた状態であり、折り畳まれた状態ではスラスターとしても使えるとか、そんな感じだったと思う。
思うが……フリーダムと同じようにするのは難しいだろうな。
今は無理でも、将来的には……と思わないでもないが。
「まぁ、それならいいけど。……ただ、それなら所長が採用しなくても怒らないでよ?」
「分かってる。俺を何だと思ってるんだ?」
そう言うと、何故かニナは呆れの視線を向けてくる。
あれ? 今のでそういう視線を向けられる要素があったか?
そう思いもしたが、ニナの事だから何かあってのことなのだろうとは思う。
「まぁ、クレナの件はそれでいいとして。……いい加減、ゼフィランサスの製造が進まないのか? 新型のパーツについては、パワード・ジムでもう大体性能を調べたんだろう?」
「そうだけど、それでも簡単に出来るような事じゃないのよ。シミュレーションでは問題がない筈なのに、何故か部品の一部が干渉したり」
「……一応、試作0号機は作ったんじゃなかったか?」
これが初めてMSを作るというのなら、初めてだからこそ上手くいかないというのはあるかもしれない。
しかし、曲がりなりにも一度はMSを……それもガンダムを作ったのだ。
であれば、完全にではないにしろ、幾らかノウハウがあってもおかしくはないのではないか。
もっとも、試作0号機は聞いた話だと1号機から4号機までの全ての性能を1機で実現しようとした結果、ポンコツに近い出来になったらしいが。
それによって、0号機をコンセプト事に分けて4機のガンダムを作る事になったらしいし。
もっとも、その中の試作4号機はコンセプトがゼフィランサスと被ってる部分が多いからということで、連邦軍からストップが掛かったらしいが。
そう考えると、試作0号機の製造はあまり参考にならなかったのかもしれないな。
とはいえ、それでも相応のノウハウは得たと思うんだが。
「そうね。それに連邦軍が開発したMSのデータも貰ったし、ジオン軍のMSは実物を貰ったりもしたわ」
「……それなのに、まだ無理なのか?」
「残念ながらそうなのよ。もっとも、だからといって何も出来ていない訳じゃないけど。悪いところは治して、良いところは取り入れてといったように、順調に進んでいるのは間違いないわ」
その言葉を、一体どこまで信じたらいいんだろうな。
そう思ったが、ニナの様子を見るとそれなりに満足そうな様子を見せているし、嘘って訳じゃないんだろうな。
「話は分かった。なら、俺が出来るのはパワード・ジムの実験をしながら、ゼフィランサスが完成するのを待つだけだな」
「あ、それがその……」
「ニナ? どうした?」
俺の言葉に、ニナは何か言いにくそうな様子を見せる。
ニナの性格から考えると、これはちょっと珍しいな。
そんな風に物珍しげな様子でニナを見ていると、ニナは少し困った様子をしながら口を開く。
「実は、パワード・ジムについてなんだけど……上からの命令で、近いうちに地球に降ろす事になったの」
「は?」
ニナの口から出た言葉は、俺にとっても完全に予想外なものだった。
「本気か?」
「ええ、元々その予定はあったのだから。アクセルも知っての通り、ゼフィランサスは汎用MSよ。宇宙でも地上でも運用出来るわ。……もっとも、宇宙用なら宇宙用に、地上用なら地上用に装備を換装する必要があるけど」
その言葉で、ニナの言いたい事……つまり、何故地上にパワード・ジムを持っていくのかを理解した。
「つまり、ゼフィランサスが……正確には地上用の部品が、きちんと性能を発揮するかどうかを確認する為、と」
「そうなるわね。地上でのゼフィランサスの運用を考えると、これは絶対にやっておく必要がある事なのよ」
ゼフィランサスの開発責任者であるニナにそう言われると、俺もその言葉には反論出来ない。
いや、反論はしようと思えば出来るだろうが、だからといってそれが意味を持つのかというの、また別の話だろう。
今回の一件は、ガンダム開発計画を進める上で絶対に必要なことなのだから。
「分かった。それには納得したけど、そうなるとゼフィランサスの新型パーツをパワード・ジムで確認するという実験はもうやらない訳か?」
「残念ながらそうなるわね。実際、もうそういうのが必要な部品も殆どないし」
「それなら、まだ情報の少ない地上でのデータを収集したいと?」
「ええ。ゼフィランサスの完成は完璧にしたいもの。それはアクセルも理解出来るでしょう?」
「そうだな。完璧か完璧ではないかのどちらかと言われたら、やっぱり完璧な方がいいと思う」
ゼフィランサスはもう1機製造され、それがルナ・ジオンを通してシャドウミラーに譲渡される。
いや、この場合は献上という表現の方が正しいのか?
ともあれ、そうしてシャドウミラーに渡されるMSである以上、最適な状態になっているのが助かるのは間違いない。
ゼフィランサスに実際に乗るということは多分ないだろうが、もし乗る事があっても、その時はやはり完璧な状態の方がいいだろうし。
「でしょう? だから……その、アクセルには悪いと思うけど、パワード・ジムについては諦めて貰うしか」
「そう言われると、俺も反対は出来ないな。ただ……そうなると、本当に俺がやるべき事はなくなるぞ? 試作2号機の方で何かやったりするのか?」
「ううん。あれは第2研究事業部……アナハイムの中でもジオン出身の人達が集まっているところが中心となっているから。……動力炉の件では、私も協力してるんだけどね」
試作2号機については、俺もそこまで詳しくはない。
ゼフィランサスとステイメンについてはそれなりに詳しいんだが。
「そう言えば、試作1号機はゼフィランサス、試作3号機はステイメン。……正確にはオーキスと合体してデンドロビウムだったな。試作2号機のコードネームは何なんだ?」
「サイサリスよ」
「サイサリス……それも花の名前か?」
ゼフィランサスはタマスダレという花の学名で、花言葉は清い愛や期待。
デンドロビウムはランの花の一蹴の学名で、花言葉は我が儘な美女。
ちなみにデンドロビウムを構成しているステイメンはおしべで、オーキスはランの花、らしい。
この辺はニナやルセットからの聞き覚えだから、そんなに間違ってははいないと思う。
「ええ。サイサリスはホオズキの花の学名で、花言葉は偽りよ」
「それはまた、何とも……」
ゼフィランサスの花言葉である清い愛はともかく、期待はガンダム開発計画の試作1号機に対する期待として理解は出来る。
デンドロビウムの我が儘な美女も、MAとMSを融合したかのような機体構成であると考えれば、その意味は何となく理解出来た。
だが……試作2号機であるサイサリスの偽りってのは……何か意味ありげだな。
「一体何でそういう名前を?」
「私に言われても分からないわ。さっきも言ったけど、試作2号機……サイサリスは第2研究事業部がメインで開発してるんだもの」
ジオン系の出身の者達か。
そうなると、もしかしたら俺にも知り合いがいるかもしれないな。
1年戦争中、俺は何だかんだとジオン公国の兵器メーカーの者達と会ってるし。
「そうなると、もしかしたら今の状況に思うところがあるのかもしれないな」
そう言いつつも、無理もないか? とも思う。
ジオン公国にあった兵器メーカーの有能な者達はルナ・ジオンが引き抜いている。
当時は対立していたメーカーという事で、ディアナという1つの会社にしても色々と問題があったのだが、それも今は解決している。
そんな中、ルナ・ジオンに引き抜かれなかった者達の道は幾つかある。
愛国心故にジオン共和国に残るか、アナハイムに引き抜かれるか、連邦軍に引き抜かれるか、あるいはそれ以外で野に下るか。
そんな中でアナハイムに引き抜かれるというのは決して悪い選択肢ではない。
ないのだが、それでもルナ・ジオンに引き抜かれた者達に対して思うところがあってもおかしくはない。
そんな者達が作った、偽りの花言葉を持つサイサリス……これは何かあるのでは?
そう俺が思っても、決しておかしくはないだろう。