宇宙空間を飛ぶコアファイターⅡ。
その機動性と加速性はかなりのものだ。
本来なら、コアファイターというのはアムロが乗っていたガンダムに付けられた脱出装置だった。
MSの開発について絶対的に遅れている連邦軍にとって、ガンダムに搭載された学習データを持ち帰るのに必須の脱出装置。
ジオン軍がMSを開発する中で脱出装置によるコスト増を嫌って排除したのとは真逆の選択。
ジオン軍はコストを落とす為に脱出装置を排除した結果、多くのパイロットが戦闘で死んでいった。
もし脱出装置をザクを始めとしたMSにつけていれば、1年戦争末期のように、パイロット不足で最新鋭MSのゲルググを学徒兵に操縦させるというような事はなかっただろう。
もっとも、これについては結果論でしかないだろう。
もし脱出装置をMSにつけていたら、パイロット不足はマシになったかもしれないが、コスト増によってMSの数が足りなくって戦力不足になるといった結果になっていた可能性も否定は出来ないのだから。
それに連邦軍も、ガンダムを始めとしてコアファイターを搭載したのは本当に少数の機種だけで、ジム系とかには脱出装置はなかったのだから。
そう考えれば、コアファイターを脱出装置として全機に組み込むというのは難しかったのだろう。
ともあれ、そんな脱出用と……後は普通に戦闘機として、偵察とかそういう風にホワイトベースでは使われていたコアファイターだが、それをベースにして開発したのだろう、このコアファイターⅡは純粋に戦闘機として考えてもかなりのものだ。
また、当然ながらアムロが乗っていたガンダムと違って学習用コンピュータの類はなく、あくまでも脱出用……敢えて挙げるのなら、アムロの使っていたコアファイターと違い、MSのスラスターとして使うので、コスト的に考えてもアムロのコアファイターよりも低い。
とはいえ、MSのスラスター……それも汎用型で、限りなく人に近い動きをするゼフィランサスのスラスターだ。
当然ながらコアファイターⅡの機動力はかなりのものになる。
これ、俺だからスラスターを全開にしても問題なく操縦出来ているけど、連邦軍に引き渡された後で操縦をする事になるパイロットの事を考えると、リミッターを掛けた方がいいのかもしれないな。
決められたコースを飛びつつ、そんな風に思う。
『アクセル、標的を出してもいいかしら?』
そう聞いてくるニナの声がどこか弾んでいるように思えるのは、きっと俺の気のせいではないだろう。
無理もないか。
ゼフィランサスで一番苦労したのは、コアファイターⅡだとか言っていたしな。
そうやって苦労したコアファイターⅡがようやく完成してこうしてテスト飛行出来ているのだから、開発者にして、ゼフィランサスに強い思い入れを抱いているニナにしてみれば、喜ぶなという方が無理だった。
「ああ、構わない。俺もそっちは気になっていたし」
コアファイターⅡ唯一の武装である、ビームガン。
これはコアファイターⅡの武装であると同時に、ゼフィランサスと合体した時はビームサーベルとして使える代物。
同時に、俺がこのガンダム開発計画のテストパイロットをする報酬として受け取るガーベラ・テトラにも装備をして欲しいと頼んだ代物。
……もっとも、まだ発展途上の技術でビームサーベルとしてはともかく、ビームガンとして使うとなると、威力はかなり低く、MS戦においては武器として使い物にならないらしいのだが。
それでも……
「そこ!」
こちらに漂ってきた標的に向かい、トリガーを引く。
コアファイターⅡから放たれたビームガンのビームは、あっさりと標的に命中する。
標的として用意されたのは、そんなに頑丈ではない。
だからこそビームガンのビームが命中した程度で標的は破壊されたのだ。
もしこれがMSの装甲とかを利用した標的なら、命中はするだろうし、ある程度のダメージも与えられるだろうが、結局はその程度で終わってしまうだろう。
そんな風に思いながら、次から次に出てくる標的を撃破していくのだが……これ、左のビームガンの調整が少しずれてないか?
今は俺のステータスのお陰で手動補正をしているが、ロックオンした状態のままで撃つと、左のビームガンだけが少し逸れる。
「ニナ、トラブル……というか、設定ミスだ。左のビームガンの照準がずれている。狂っているって程じゃないが、ロックオンしてから撃っても真ん中には当たらない」
『え? ……分かったわ。その辺は後で再調整をするから、今はまずテストを続けてちょうだい』
ニナが少し困ったような……いや、怒った様子でそう言ってくる。
無理もないか。
ニナにしてみれば、コアファイターⅡのテストはゼフィランサス完成の第1歩だ。
なのに、そのテストをメカニックの怠慢でケチを付けられたのだから。
せめてもの救いは、左のビームガンの照準は完全に狂っているという訳ではなく、あくまでも少しずれているといった程度だった事か。
その為、コアファイターⅡのテストを続けるのが不可能という程ではないのだ。
……その分のツケは俺に来る訳だが。
とはいえ、この状況でやらない訳にはいかない。
そう思いながら、コアファイターⅡのテストを続ける。
次々に出てくる標的を、ビームガンで撃破していく。
やってやれない訳でもない。
「っと、フェイントじゃないんだから」
標的を撃破した瞬間、そのタイミングを待っていたかのように再度標的が現れる。
それに少し驚きつつも、トリガーを引く。
放たれたビームが見事に標的を貫いた。
そうして一通りテストが終わったところで、フィフス・ルナに戻る。
すると格納庫では、ニナとニックが待っていた。
何でニックが?
少しだけそう思ったが、ビームガンの件を思い出し、恐らく調整をしたのがニックなのだろうと予想する。
コックピットから下りると、近付いて来たメカニックにコアファイターⅡを操縦して気が付いた事を言う。
それが終わってからニナとニックのいる場所に向かう。
「お帰りなさい、アクセル。……ニック」
「……すいません。調整する時にミスをしたようで」
ニナに促され、ニックが謝ってくる。
この様子を見ると、どうやらやはりニックがビームガンの調整をしたらしい。
「次からは気を付けろよ。今回はあくまでもテストだから問題なかったが、実戦の中で照準が狂っていたら、それが理由で撃墜される事になるかもしれないんだからな」
そんな俺の言葉に、ニックは真剣な表情で頷くのだった。
「さて、それでコアファイターⅡのテストの件だけど、詳しい話をして貰える?」
ニックの謝罪が終わったところで、ニナがそう言ってくる。
ニックは現在、コアファイターⅡのビームガンの調整を改めて行っていた。
今回のやらかしのせいで、次からはニックの後にしっかりと確認する人員を増やすという事で話が決まったのだ。
これはメカニックとしては自分の技量を信用されていないという事で、人によっては屈辱と思ってもおかしくはない。
だが、ガンダム開発計画の試作1号機、ゼフィランサスの最重要部分であるコアファイターⅡのビームガンの照準が狂っていたというのは、ガンダム開発計画のメカニックとして致命的……とまではいかないが、かなり大きなミスだ。
それでもこの程度だったのは、あくまでも片方のビームガンの照準だけが狂っていたからなのだろう。
ニックもこうしてガンダム開発計画のメカニックに選ばれる存在だ。
アナハイムの中で優秀なメカニックなのは間違いないのだろう。
であれば、ただでさえフィフス・ルナでガンダム開発計画を進めている関係上、出来るだけ人数を減らしたくないクラブ・ワークスとしては、今のような状況にするしかなかったのだろう。
「そうだな。コアファイターⅡでまず特筆すべきは、機動性だ。ゼフィランサスのメインスラスターを担っているだけあって、その辺は文句ない」
そう言うと、ニナの顔に満足げな笑みが浮かぶ。
私のガンダムと呼ぶ程に入れ込んでいるゼフィランサスだ。
そのゼフィランサスのコアファイターⅡを俺に褒められ、嬉しく思わない筈もない。
ただ……
「機動性が高いのは事実だし、俺は問題なく操縦出来たけど、連邦軍のパイロットが今のゼフィランサスを操縦出来るかどうかは微妙なところだな。いや、操縦はしようと思えば出来る筈だ。ただ、スラスターを全開にするとか、そういうのが出来ないだけで」
車の操縦に例えれば分かりやすいか。
俺の場合なら車のアクセルをベタ踏みし、エンジンを全開にするといったことが出来るが、他のパイロットならアクセルのベタ踏みをすれば間違いなく事故るといった感じで。
勿論車の操縦をするからといって、アクセルをベタ踏みするという事は滅多にないだろう。
道路を運転する上では信号があり、前を走っている車がいて、車線も片側1車線というのが珍しくないのだから。
だが、これがコアファイターⅡのように宇宙を……もしくは空を移動するとなると、話は違ってくる。
この一件が大きな意味を持つのは間違いなく、だからこそスラスターを全開にするというのは珍しくないのだ。
「なるほど、パワード・ジムの時と同じ感じね」
「パワード・ジムの一件とは、微妙に違うと思うが」
パワード・ジムが地上で満足にデータ取りが出来ていないのは、宇宙での実験においては俺が操縦していたからというのが大きい。
混沌精霊として高い……それこそ人間とは比べるのが間違っているといった身体能力を持っている俺と、テストパイロットとはいえ、人間でしかない現在のテストパイロット。
その違いはどうしても大きくなるのは当然だろう。
ニナを含めたクラブ・ワークスの面々も、俺がデータ取りをする事に慣れているから、地上から送られてくるデータには満足していない訳だ。
もっとも、現在のテストパイロットをしている者が操縦出来るように設定をし直す必要もあり、それが影響もしてるのだろうが。
「そう? 同じだと思うけど。……コアファイターⅡにしろ、ゼフィランサスにしろ、アクセルが操縦をしてくれると良い数値が出るんだけど」
そう言い、息を吐くニナ。
MSオタクにして、ゼフィランサスを半ば自分の子供とでも思っているようなニナだ。
そんなニナにしてみれば、トリントン基地でパワード・ジムのパイロットをしている人物に任せるよりも、俺に任せた方がいいと思っているのだろう。
「地上での運用試験か。……正直なところ、俺が参加しても悪くないと思うんだけどな」
何しろ、このガンダム開発計画は間違いなく原作が存在する。
それは俺にとって半ば確信を抱いてすらいるのだが……宇宙でこうして開発をしている時には特に何が起きたりもしなかった。
だとすれば、何か事件が起きる……つまり原作が開始されるのは、間違いなくゼフィランサスとサイサリスが地上でテストをしてからになるだろう。
なら、俺がそれに介入するには、やはり俺も地上に行った方がいいのも事実。
……とはいえ、ジオン軍残党が活発に動いてるのが宇宙でとなると、地上だけでなく宇宙にも原作が関係してくるという可能性は十分にある訳で。
悩みどころだな。
「本当? なら、どうにかならないか所長に手を回してみるわ」
「……何だか、妙に嬉しそうだな」
「だって……ゼフィランサスとサイサリスの地上での運用試験となると、当然私も行く事になるのよ? メカニックの人達も一緒にいるけど、やっぱり顔見知りは多い方がいいじゃない」
「ああ、なるほど」
ニナの言葉に、なるほどと頷く。
ニナもフィフス・ルナで働いている以上、軍人とはそれなりに接する機会がある。
だが、フィフス・ルナにいる軍人は……こう言ってはなんだが、お行儀のいい者達が多い。
ヤザンのような例外もいるが。
何しろ、フィフス・ルナではガンダム開発計画が行われている以上、その責任者でもあるコーウェンが大きな影響力を持っている。
その為、アナハイムの面々が快適に仕事が出来るようにするのは当然の事だった。
ましてや、クラブ・ワークスはポーラのような美人が揃っている。
ニナは……ニナは……いやまぁ、顔立ちだけなら間違いなく美人だ。それは間違いない。
だが、ニナの場合は性格がな。
MSオタクであり、そして何よりゼフィランサスを半ば私物化している程だ。
それを思えば……いやまぁ、うん。ともあれ、クラブワークスと問題を起こさないようにとコーウェンが考えるのは当然の事だった。
「何?」
「……いや、何でもない」
女の勘か、はたまた俺の視線が露骨だったのか。
ともあれ、ニナは俺に向かってそう聞いてきたので、俺は何でもないと首を横に振る。
だが、それでもニナは俺に疑惑の視線を向けており……俺はそれを何とか誤魔化すべく、コアファイターⅡについての話をするのだった。