コアファイターⅡの実験をしてから少し経ち……その日、俺はニナによってとある場所に案内されていた。
ゼフィランサスの製造で忙しい筈なのだが、それでも俺を案内したのは、ポーラに気分転換でもして来いと言われた為だ。
どうやら趣味でもあるゼフィランサスに熱中しすぎたせいで、そう言われたらしい。
……気分転換で、フィフス・ルナの中にある街で買い物なり食事なりをするのが普通なのだが、ニナが普通な訳ではない。
俺が案内されたのは、フィフス・ルナにあるドック。
アナハイムがガンダム開発計画の為に借りている、MSを製造する場所ではなく、連邦軍が軍艦を製造したり、あるいはメンテナンスや修理をしたりするドックだ。
「ほら、アクセル。あれを見て」
そうニナが指さしたのは……
「ホワイトベース級……?」
そう、そこにあったのは、特徴的な形状をした軍艦だった。
連邦軍で運用している軍艦は、基本的にサラミス級、マゼラン級、後はコロンブス級か。
勿論他にも幾つかあるだろうが、数そのものはそこまで多くはない。
そんな連邦軍が運用している軍艦だったが、ジオン軍の軍艦とは違い、基本的には海で使われている船を模した形状になっている。
そんな中でホワイトベース級だけは、明らかに今までの連邦軍の軍艦とは違う特徴的な形状をしていた。
ジオン軍に木馬と称されたのを思えば、どんな形なのかは容易に想像出来るだろう。
「違うわ。ペガサス級よ。1年戦争時代は色々と混乱もあって、ホワイトベース級やペガサス級と呼ばれていたけど、今はペガサス級で統一されてるのよ。知らなかった?」
「知らなかったな」
これについては、本当に普通に何も知らなかった。
ホワイトベースに乗っていた身としては、ホワイトベース級ではなくペガサス級になったのは残念だったが。
ただ、1年戦争の時に連邦軍がもの凄い混乱をしていたのは、俺も知っている。
何しろジオン軍のMSに対処する為に多種多様なMSが開発されたのだから。
多種多様なMSと言えばジオン軍を思い浮かべるが、連邦軍もそれに決して負けてはいない。
分かりやすい例だと、何がどうなったのかアレックスがガンダム4号機という扱いになっていたり。
ちなみに本当のガンダム4号機というのは、1年戦争中に俺がジャブローであったルースだったか? あいつが操縦するガンダムで、高威力のメガ粒子砲、メガビームランチャーを使うガンダムだ。
それがアレックスと混同されるとか、当時の連邦軍の混乱ぶりがよく分かる。
そう考えると、ホワイトベース級とペガサス級で混同していたのも分からないではない。
あるいは、混同していたのではなくホワイトベース級と呼ぶ者達と、ペガサス級と呼ぶ者達がいて、戦後にはペガサス級と呼ぶ者の方が多くなり、ホワイトベース級はマイナーというか、追いやられていったといった感じか?
まぁ、その辺りの理由はどうあれ、連邦軍において今ではペガサス級と呼ばれるようになったのなら、そういうものかと俺も納得するしかないが。
「なら、俺もこれからはあのタイプの事はペガサス級と呼ぶとしよう。それで、具体的には?」
「ペガサス級強襲揚陸艦の7番艦、アルビオンよ。ガンダム開発計画の為にアナハイムが製造したの」
「それはまた……」
ペガサス級というのは、連邦軍にとってもかなり有益な軍艦だったのは間違いない。
なのに、その7番艦をアナハイムに作らせるというのは、少し驚きだった。
「アナハイムにも軍艦を……それもペガサス級を建造する技術があったんだな」
ルナ・ジオンのディアナでは、主力艦としてどうするべきかと悩みに悩み、最終的にはSEED世界でザフトが使っているナスカ級をベースにした巡洋艦、あるいは高速巡洋艦が作られた。
勿論戦艦としてグワジン級を使ったり、それをベースに後継艦を開発しているらしいが。
そんな中、アナハイムはペガサス級のアルビオンを独自開発したというのだから、それに驚くなという方が無理だった。
「勿論何もないところから開発した訳じゃないわ。ガンダム開発計画の一環だと言ったでしょう? それはつまり、ガンダムの時と同じく連邦軍からデータを貰って、それで作れたのよ。……もっとも、連邦軍もペガサス級のデータを完全には渡してくれなかったけど」
「まぁ……だろうな」
連邦軍にしてみれば、ペガサス級というのは虎の子と言ってもいいような存在だ。
実際、1年戦争においてはそれだけの活躍をしたのは間違いないのだから。
アナハイムにペガサス級のデータを流せば、それがルナ・ジオンに渡るとでも思ったのだろう。
……なら、ガンダムのデータはどうなんだ? と思わないでもなかったが。
ただ、こうして見る限りではその辺は問題ないと判断したのだろう。
本当にそのように判断したのか、それとも最重要機密となるような部分についてはアナハイムにも見せていないのか。
その辺は俺にも分からなかったが。
ともあれ、アナハイムにしてみれば中途半端なデータであっても、アルビオンを開発出来たという事だ。
それは何気に大きな意味を持つように俺に思えた。
ましてや、アナハイムで作ったという事は、ルナ・ジオンにも1隻譲渡されるという事になる訳で、ルナ・ジオン軍で量産すれば……いや、それは難しいか?
アルビオンはあくまでもガンダム開発計画で作られたゼフィランサスを始めとするガンダムの運用艦として設計された訳だ。
だとすれば、当然ながら権利は連邦軍にある。
もしルナ・ジオンがアルビオンを量産するような事があれば、それこそそれを理由に強硬派が攻撃してきてもおかしくはない。
……うん、駄目だな。
どうしてもアルビオンを使わなければならない理由があるのならともかく。
ルナ・ジオンで運用しているナスカ級は、かなりの高性能艦だ。
それこそ例えばアルビオンと比較しても……攻撃力という点では負けるかもしれないが、MSの運用能力では同等か、勝っていてもおかしくはない。
「どう思う?」
アルビオンを見ていた俺に、ニナがそう聞いてくる。
「どうって、何がだ?」
「だから、アルビオン。ゼフィランサスとサイサリスを運用するのに、相応しいと思う?」
「そう言われてもな。外から見ただけだと、何とも言えないな。実際に乗ってみないと」
外見から分かるのは、それこそ俺が乗っていたホワイトベースに連なるペガサス級であるというだけだ。
ただ、ホワイトベースと比べて随分と洗練された外見になっているが。
これについては、ホワイトベースが開発された1年戦争が終結してから3年経っていると思えば、そこまでおかしな話ではない。
性能が最優先だったホワイトベースから、性能と外見を両立させるという事にしたのだろう。
何しろガンダム開発計画で開発されたMSの母艦として使うのだ。
そうなれば、幾ら性能が良くても外見的に問題のある母艦というのは好まれない。
とはいえ……同じ四つ足となると、個人的にはアルビオンよりもSEED世界のアークエンジェルの方が好みではあるのだが。
それを言っても仕方がないか。
「そう? じゃあ、乗ってみる? 全てを見るって訳にはいかないだろうけど、ある程度の場所は見られると思うけど」
「……いいのか?」
思わずそう尋ねてしまったのは、アルビオンもまたゼフィランサスと同じように……あるいはそれ以上に重要機密なのではないかと、そのように思ったからだ。
だが、ニナはそんな俺の言葉に当然といった様子で頷く。
「いいのよ。アクセルはガンダム開発計画のテストパイロットなんだもの。そうである以上、アルビオンを見ても構わないと思うわよ」
「……そうだといいんだけどな」
MSと軍艦。
兵器としては同じでも、一緒には出来ない。
そう考えると、それこそ俺が見学をする許可が下りるのかどうか、正直なところ分からない。
ニナは自信満々といった様子ではあったが。
「じゃあ、ちょっと待っててちょうだい。少し上に確認してくるから」
そう言い、ニナは俺をこの場に置いて通信機を探しにいく。
残ったのは、俺だけ。
俺だけなんだが……これはこれでちょっと不味くないか?
ここは一応連邦軍にとっては重要機密な場所な訳で。
そんな場所に俺がいれば、何も知らない者……連邦軍の軍人にとっては怪しい相手としか思えなくてもおかしくはない。
そう考えていると……噂をすればなんとやら。
連邦軍、それも軍人ではなくMPがこちらに向かってやって来るのが見えた。
ミリタリーポリス、通称MP。つまり軍隊内の警察がMPと呼ばれている者達だ。
偶然こちらに向かっているのではなく、明らかに俺を目当てにして近付いてくる。
あれ? これ……面倒な事になるんじゃないのか?
そう思っていると、数人のMPが俺の前で足を止めると、何か動いたら即座に捕らえられるようにしながら、口を開く。
「ここは関係者以外立ち入り禁止の場所だ。所属と階級を話して貰いたい」
俺が何らかの行動を……例えばこの場から逃げようとしたり、もしくはMPに反撃しようとした場合、即座に反撃しようとしているのを理解し、どうするべきかと考える。
ここにニナがいればともかく、そのニナは現在ここにはいない。
そうなると、俺がこの場にいても問題ない人物だと証明する手段がない。
……考えてみれば当然なんだよな。
ゼフィランサスを組み立てている場所には普通に出入りしていたものの、ガンダム開発計画というのは連邦軍の中でも最重要機密の計画なのだ。
ニナを始めとしたアナハイムの中でもガンダム開発計画に参加している者達と行動を共にしつつ、何よりも俺がガンダム開発計画のテストパイロットという扱いだからこそ、ゼフィランサスを組み立てている場所にいても問題はなかったのだが、ここは違う。
アルビオンを建造しているこの場所は、俺も今日初めて来た。
つまり、この場所で働いている者達……このMP達もそうだが、そんな連中は俺の事を知らない。
極秘計画であるガンダム開発計画の母艦を建造している場所にいる、見た事もない人物。
……こうして考えてみれば、俺を怪しむなという方が無理か。
「俺はガンダム開発計画のテストパイロットをしている、ルナ・ジオン軍所属のアクセル・アルマー中尉だ」
取りあえず自分の身分を話しておく。
もっとも、名前こそ本物だが。ルナ・ジオンの所属とか、中尉とか、そういうのは完全に嘘なのだが。
……MPは俺の名前を聞いて、戸惑っている。
無理もないか。
アクセル・アルマーというのは、UC世界に住む者達にとって決して軽視出来る名前ではないのだから。
だが、この連中が知っているアクセル・アルマーというのは、20代の俺の姿だ。
今ここにいる、10代半ばの俺の姿ではない。
「……アクセル・アルマー中尉? ルナ・ジオン軍の人が何故ここに?」
俺が名乗った事により、少しだけ……本当に少しだけだが警戒を緩めるMP達。
少しだけなのは、俺がルナ・ジオン軍の中尉だというのは、あくまでも俺が自分で名乗っているだけで、それが本当だという証拠が何もないからなのだろう。
とはいえ、ガンダム開発計画の一環であるアルビオンを建造している場所を守っているMPだ。
ガンダム開発計画のテストパイロットとしてルナ・ジオンから派遣されてきている人物がいるという情報は知っていてもおかしくないと思うんだが。
「テストパイロットとしてフィフス・ルナに派遣されている」
「あ……おい」
「え? いや、でも……」
どうやら情報は回っていたらしいが、単純に忘れていただけらしい。
俺の言葉にMP達はそれぞれ小さな声でやり取りをする。
そして、ちょうどこちらに向かってくるニナの姿が遠くから見えた。
青い髪をショートカットにした、生真面目そうな性格の女の軍人が一緒にいる。
……クラブ・ワークスもそうだが、ガンダム開発計画に関わっている女は顔で選ばれてるとかではないよな?
そう思うくらいに、ニナと一緒にやって来た青髪のショートカットの女は顔立ちが整っていた。
何と言うか……生真面目そうな、委員長タイプの顔立ちをしている。
「すいません、その……彼が何か?」
ショートカットの女に目を奪われていると、近付いてきたニナがMP達に向かってそう声を掛けていた。
「貴方は?」
「アナハイムのニナ・パープルトンです」
そう言いながら、ニナは何か……多分身分証とかそういうのなのだろうが、MPに渡す。
MPはそれを確認すると、そこでようやく警戒を完全に解く。
「そうですか。ここでは見慣れない人だったので、少し過敏に反応してしまったようです。申し訳ありません」
「いえ、ガンダム開発計画の母艦を開発している場所ですもの。無理もありません。皆さんのお陰で、私達も安心して仕事が出来ているのですから」
「これが職務ですので。では、失礼します」
そう言い、MP達は敬礼をするとその場を立ち去るのだった。