取りあえずオルガについての説明は何とか誤魔化すと、俺とニナは結婚祝いについての話に戻る。
3人寄れば文殊の知恵というのがあるが、2人でもそれなりに何とかなる……だろう。
俺は様々な世界を経験し、国を率いる身だ。
ニナはまだ歴史の浅いMSについて非常に詳しく、高い知性を持つ。
……客観的な部分だけを抜き出せば、もの凄いエリートのように思えるな。
実際にはあまりそういう自覚はないのだが。
「それで、結婚祝いだが……さっきヤザンに聞いたら、ワインを持っていったって言ってたな」
「ワイン、ね。まぁ、それが無難なんでしょうけど」
頷きながらも、完全に納得した様子ではないニナ。
俺も別の意味でそう思う。
具体的には、メリビットはともかく、オルガはそこまで酒を好きじゃないんだよな。
以前……初めて歳星に行った時も、鉄華団の連中と飲みに行ってベロンベロンになって帰ってきたし。
メリビットはそれなりに酒を好むって誰かから聞いた覚えはあったが。
とにかくそういう理由から、ワインについては俺も素直に頷けない。
どうせなら、オルガとメリビットの両方が喜ぶ物の方がいいし。
それにオルガの結婚は恐らく1度だけなのだから、記念になる物の方がいい。
オルガの兄貴分である、俺と名瀬はそれぞれハーレム状態だ。
だが、オルガは決して女嫌いという訳ではないのだが、それでも女との付き合いは積極的ではない。
……そういう意味では、メリビットは頑張ったんだろうな。
ともあれ、オルガがハーレムを作るとは到底思えない。
シノ辺りなら、そういう事があってもおかしくはないが。
「他には……いっそ、カタログを渡すというのはありかもしれないな」
「カタログ? ……ああ、そのカタログを見て、向こうが注文するって奴?」
「それだ。こっちで下手に選ぶよりも、これなら向こうの欲しい物が確実に手に入るだろう?」
難点を言えば、UC世界でならともかく、オルフェンズ世界でそういうのが出来るかどうか微妙だという事だろう。
地球でなら、あるいはそういう事も出来るかもしれないが、火星だと……
今は無理でも、異世界間貿易によって発展することを考えると、将来的には可能もしれないが。
「なるほどね。それなら無駄にいらない物とかを渡されるよりもいいかもしれないわね」
「そうだな。具体的には新郎新婦の写真が入った食器とか」
「……それって、結婚祝いじゃなくて引き出物とか、そういうのでしょう?」
ニナの言葉に、そう言えばと納得する。
「そうだったか。……ああ、でもちょっと高級な食器とか、そういうのなら結婚祝いとして喜んで貰えるんじゃないか?」
例えば、ブランド物の紅茶のカップとか、コーヒーカップとか。
もしくは、料理に使う皿とかナイフやフォークのセットとか。
「……それ、いいかもしれないわね」
思いつきで口にした言葉は、ニナにとっても悪くない物だったのだろう。
感心したように言うのだが……
「でも、そういうのってどこで買えるのかしら? いえ、そういうお店でなら買えると思うけど、フィフス・ルナにそういうお店はなかったような……」
「ないのか? フィフス・ルナにいる者達が使う商業施設とか、結構あるだろう? そこにはそういうのがあってもいいと思うんだが」
フィフス・ルナでは、結構な人数が働いている。
その中には、軍人以外にもニナのように軍人以外の者達も多かった。
何しろ、フィフス・ルナは連邦が第2の月としたいという思いから整備をした場所なのだから。
これについては、俺も何も言えない。
そもそも連邦の中で巨大な税収を支払っていた月を占拠して建国したのは俺達なのだから。
ともあれ、そういう訳で連邦はフィフス・ルナに目を付けた訳で……ガンダム開発計画を行っているアナハイムだけではなく、他にも色々な企業をフィフス・ルナに集めているのは事実。
それが具体的にどのくらい成功してるのかというのは俺には分からないが。
そうして多くの者達を集めている以上、そのような者達が不自由しないように店を用意するのは、連邦として当然の事だろう。
その中には上司や同僚に贈り物として渡す物を売ってる店とかがあってもおかしくはない。
「そう、ね。……そういうお店もあってもいいかもしれないわね」
「なら、俺は特に今はやるべき事もないし、街中を見てくるか。……ニナはどうする? 暇なら一緒に行くか?」
「あのね……暇って、今の私がそこまで暇じゃないのは、アクセルも分かるでしょう」
そう言うニナの言葉に、俺はだろうと頷く。
実際、現在ゼフィランサスとサイサリスの組み立てが行われており、ゼフィランサスを担当しているクラブ・ワークス、サイサリスを担当している第2研究事業部の双方が忙しい日々を送っているのだが、その中でもニナは双方の機体のシステムエンジニアだ。
そのような状況で忙しくない筈がない。
「なら、俺だけで行くか」
「ちょっと、行かないとは言ってないでしょう?」
「……暇じゃないとか言ってなかったか?」
「それでも、親戚の結婚祝いを選ぶくらいの時間はあるわよ。それに、アクセルからどういうのが売られているのかという話を聞くよりも、そういうのは自分で直接見た方がいいでしょうし」
「まぁ……それはそうだろうな」
百聞は一見にしかずという言葉が示す通り、人から聞くよりも自分の目で直接見た方が確実だし、勘違いの類もしなくてすむだろう。
もし俺が結婚祝いの諸々について見てきたのを説明した場合、俺は自分で納得出来るような事を口にしているつもりなのに、ニナの受け取り方が違っているという可能性は十分にあるしな。
そういう風にお互いに勘違いをしている状況で結婚祝いについての話を進め……その結果として、最後の最後、既に買ってしまって取り返しがつかなくなったところで、初めて勘違いに気が付くという、そんな最悪の未来になる可能性も十分にあるのだから。
「でしょう? だから、折角だし私も一緒に行くわ。……アクセルも、意見は多い方がいいでしょう?」
「それは否定しない。……もっとも、あくまでもそういう店があったらの話だけどな」
俺はそんなに街中に出ないし、ニナもガンダム開発計画に集中しているので街中には出ない。
フィフス・ルナにある街……というか、店はそこまで多い訳でもないので、結婚祝いとして使えるような店があるかどうかは、実際に見てみないと何とも言えない。
そんな風に思いながら、俺はニナと共に街に出掛けるのだった。
「やっぱりすぐには見つからないか」
「そうね。……でも、予想していたよりもお店がたくさんあって驚いたわ」
喫茶店で、紅茶を飲みながらニナと話をする。
結婚祝い……もしくは上司に対する何らかの祝いで使う贈り物を売ってる店を探したのだが、そう簡単には見つからなかった。
そんな中、ニナが少し疲れたという事で、現在俺達は喫茶店で休んでいたのだ。
無理もないか。
ニナはMSの設計とかそういうのはするが、別に身体を鍛えているという訳ではない。
そうである以上、体力的には一般人程度……いや、ガンダム開発計画の関係でそれなりに歩いたりするのを考えると、少しは上なのかもしれないが、言ってみればその程度でしかない。
街中を……それも結構な通行人のいる場所を歩き回るというのは、かなり体力を消耗するのだろう。
もっとも、これがMSオタクとしての何かを買うのなら、ここまで疲れるという事はないのだろうが。
「それで、どうする? 一休みしたら、また歩き回ってみるか?」
「そう……ね。そうするしかないわ。結婚祝いにはあまり妥協したくないし」
街中を歩きながら聞いた話によると、ニナの親戚の男というのは、それなりにニナが可愛がっていた相手らしい。
それだけに、結婚祝いはしっかりとした物を贈りたいとか。
「そう言っても……あ、この喫茶店では紅茶の茶葉を売ってるみたいだから、それを結婚祝いにするというのもありか?」
「え? うーん……それは……まぁ、悪くはないと思うけど」
俺の言葉に理解は出来るが納得はしていなさそうな様子のニナ。
ニナにとっては、出来ればもっとちゃんとした物の方がいいのだろう。
……まぁ、この紅茶の茶葉はそこまで上等って物じゃないしな。
フィフス・ルナで売られている以上、悪くはない。悪くはないが、良くもないといったところか。
元々UC世界ではこういう嗜好品の類は高いしな。
一応コロニーでも農業はやっているのだが、基本的に食料が優先されているし。
それはコロニーでの生活を思えば当然の事だろう。
そんな風に会話をしていると……
「あら? ニナにアクセル中尉。……もしかして、デート?」
喫茶店に入ってきたポーラが俺達を見つけると、からかうようにそう言ってくる。
「ちょ……ポーラ、どこを見たらそんな風に思えるのよ!」
からかう様子のポーラに、焦って……怒りで顔を赤くして言うニナ。
この様子からすると、多分ニナは今まで恋人がいた時がなかったんだろうな。
……いや、あるいは学生時代とかなら恋人がいた可能性もあるかもしれないが。
ニナは性格には若干……若干? まぁ、取りあえず若干という事にしておくが、問題がある。
だが、外見は金髪の知的美人といった表現が相応しい。
その外見に惑わされる男も多いだろう。
もっとも知的美人という点ではポーラやルセットも負けていないが。
「あら、違ったの? テストパイロットとシステムエンジニアが、衝突しながらも愛を育んでいく……そんな映画があったわよね?」
「あのね、現実は映画じゃないんだから」
そう言うニナだったが、この世界が実は原作のある世界だと知ったら、どう思うんだろうな。
しかもガンダム開発計画という、いかにもな計画を進めているとなると、恐らく……いや、ほぼ間違いなく原作に関係してくるだろうし。
ましてや、ニナはガンダム開発計画のシステムエンジニアだ。
そう考えると、ほぼ間違いなくニナは原作キャラの1人なのだろう。
……となると、原作の主人公は一体誰なんだ?
今のところ、まだそれらしい相手とは会ってないが。
もしかして、俺がテストパイロットになったから、原作主人公の出番が消えたとか、そういう事はないよな?
微妙に嫌な予感を覚えつつ、それを振り払うように俺はポーラに向かって口を開く。
「実は結婚祝いを買おうと思ってニナと一緒に店を探していたんだけど、どこにもそういう店が見つからなかったら、今は一休みしてるところだ」
「結婚祝いって……え? ちょっ、まさか、ニナとアクセル中尉が? 付き合わないで、いきなり結婚をするの!?」
「ちょっ、ポーラ、声が大きいってば。それに勘違いしないでよね。私達が買うのは結婚祝いよ? 私達が貰うんじゃなくて、贈る方の」
ニナのその言葉に、ポーラは納得したような表情を浮かべる。
あれ? これってもしかして本気で俺とニナが結婚すると思っていたのか?
てっきりからかっているんだとばかり思っていたが。
「ああ、なるほどね。でも……」
「だから、その意味ありげな視線を向けるのをやめてちょうだい」
ポーラはニナと俺を意味ありげに見ながら、そんな風に言ってくる。
それに対してニナは不満そうな様子だったが、今度は確実にからかうつもりでの行動なのは明らかだ。
「映画なら……ねぇ?」
「だから、これは現実だって言ってるでしょ。全く、ポーラは現実と妄想の区別もつかないのかしら」
「あら、それをニナに言われるとは思わなかったわ」
「どういう意味かしら?」
あれ? 何だか気が付いたらポーラとニナが険悪な雰囲気になってるんだが。
今の話の流れで、一体何でそういう風になる?
「ほら、取りあえず2人とも落ち着け。目立ってるぞ」
そう言うと、ニナとポーラは周囲の様子を確認する。
「あの2人が、あの男の子を取り合ってるんでしょう?」
「羨ましいな、あんな美人2人に……痛っ!」
「へぇ、そんなに羨ましいのなら、私はいらないわよね」
「いやいや、そんな事は言ってないだろ? 俺にはお前だけだって」
何故か痴話喧嘩の声が聞こえてきたり……
「うわ、凄いな。こういうのがあれだろう? えーと……ドロドロの関係って奴」
「あんな美人となら、俺は寧ろ望むところだけどな」
「……まぁ、あんな女2人だしな。っていうか、あの男……っていうか、男の子? その男の子があんな美人を侍らすって……」
うん、何と反応すればいいのか微妙な感じだな。
とはいえ、ニナとポーラにもそんな周囲の会話が聞こえてきたのだろう。
さすがに恥ずかしくなったのか、顔を赤くしながら椅子に座る。
……話の流れで、ポーラもまた俺とニナのテーブルで一緒に座ることになり……
「ご注文の方、よろしいでしょうか?」
俺達の関係に興味津々といった様子のウェイトレスが、注文を取りにくるのだった。