俺の目の前には、ゼフィランサスの姿がある。
ようやく完成した、ガンダム開発計画の試作1号機。
既に9月に入っているが、一応完成そのものは予定通りらしい。
ただし……不具合がないかどうかをチェックしたりする必要があるので、正式なロールアウトはもう少し先になるらしいが。
アナハイムにしてみれば、このガンダムは初めて自分達で作ったMSだ。
勿論、ジオニックを始めとしてジオン公国の兵器メーカーから結構な人数を引き抜いていたので、MSの製造ノウハウはある。
あるのだが、それでもやはりアナハイム独自でMSを作るというのは違うのだろう。
俺にしてみれば、それはそれで構わないとは思えていたが。
「どう?」
自慢げな……本当に嬉しそうな笑みを浮かべ、ニナが言ってくる。
まぁ、その気持ちも分からないではないのだが。
ニナにしてみれば、ゼフィランサスはガンダム開発計画で作られるMSの中で最も思い入れのある存在なんだろうが。
「ああ、素直に凄いとは思う」
これはお世辞でも何でもなく、俺の正直な気持ちだ。
ゼフィランサスは、別にこれが初めて見るという訳ではない。
完成予想図は見せて貰っていたのだから。
こうして出来上がったゼフィランサスは……まぁ、完成予想図とは微妙に違うところもあるが、基本的にはそのままだ。
また、アムロが乗っていたRX-78-2の後継機だけあって、色も青、白、赤という、いわゆるトリコロールカラーだ。
ちなみにこのトリコロールカラー、正式な意味はフランス語で3色というもので、一般的にトリコロールカラーと言われるとフランスの国旗の色である、青、白、赤の事を指す。
……とはいえ、何でアムロの乗っているガンダムはフランスのトリコロールカラーを使ったんだろうな。
V作戦の中にフランス人がいて、それによる影響なのかもしれないな。
これはあくまでも俺の予想なので、実際はどうなのか分からないが。
「でしょう? ……もっとも、これから暫く各種チェックをしていく必要があるんだけど」
「その辺については、本職の連中に任せるしかないな。ちなみに、俺が手伝うような事はあるか?」
「パイロットの設定を……と言いたいところなんだけど、アクセルの数値に合わせると、とてもじゃないけど普通のパイロットには使えないでしょう?」
「……まぁ、それは否定しない」
パワード・ジムの一件を思えば、そういう風に言われても俺としては否定出来ない。
実際、トリントン基地ではパワード・ジムの件で色々と苦戦しているようだし。
あれ、分かりやすく言えば、普通のパイロットがアムロ仕様のアレックスを操縦しようとした感じ。
それでもかなり手加減をした言い分なのは間違いなかったが。
そんな訳で、俺に丁度いい感じでゼフィランサスの設定をするのは難しいという事になる。
とはいえ、それでも調整しなければならない以上、ある程度は手加減をして……表現が悪いな。一般的なパイロットが操縦出来るようにして、各種設定をする必要があるだろうが。
その辺については、仕方がない。
このゼフィランサスはあくまでも連邦軍に納入される機体なのだから。
一般的な設定にしても、俺は普通に操縦出来るし。
あくまでも、限界のデータを取りたいとか、そういうのを目的とした場合は、パワード・ジムに乗った時のようにする必要があるのだが。
それに……アナハイムとルナ・ジオンの契約によって、ゼフィランサスとかは1機ずつルナ・ジオンに納入……いや、この場合は献上という表現の方が相応しいか?
とにかくそうなる以上、いざとなったらそっちのゼフィランサスを俺向きにすればいい。
ただ、俺がゼフィランサスに乗る機会があるかどうかは微妙だが。
もしこのガンダム開発計画における何らかの騒動が……原作のイベントが起きて俺が介入する場合、俺が乗るのはガーベラ・テトラになるだろうし。
もっとも、ガーベラ・テトラもまだ完成はしていないのだが。
向こうもかなり終盤になっているらしいので、あまり心配はいらないのだろうが。
「とにかく、ゼフィランサスが完成したのは間違いないわ。……それでなんだけど、以前言ったかどうかちょっと覚えてないけど、ゼフィランサスとサイサリスがロールアウトしたら、アルビオンに乗って地球のオーストラリアのトリントン基地に向かう事になってるのよ」
「あー……聞いた事があるような、ないような?」
「アクセルも行くわよね?」
「トリントン基地にテストパイロット……もしくは、ゼフィランサスを受領するパイロットがいるんじゃないのか?」
ゼフィランサスに具体的に誰が乗るのかは分からないが、スペックだけを見ても今の時点でもUC世界において最高峰の性能を持っている。
勿論、どこか一点ではゼフィランサスよりも性能が上のMSもあるだろう。
だが、それでもゼフィランサスの総合性能以上のMSとなると……探すのはちょっと難しい。
それこそゼフィランサスと渡り合える性能を持つとすれば、サイサリス、ステイメン、ガーベラ・テトラといったところか。
なお、デンドロビウムにしたのではなくステイメンにしたのは、あくまでもデンドロビウムの本体はステイメンだからだ。
いやまぁ、デンドロビウムの設計コンセプトがMAである以上、ステイメンではなくオーキスの方が本体と言ってもいいのかもしれないが。
「いるでしょうけど、その相手が私のガンダムを安心して預けられるかどうかと言われると微妙なところなのよね」
「……まぁ、うん」
相変わらずガンダムを私物化してるな。
それだけゼフィランサスに思い入れがあるのは分かるが、だからといってそれで本当に大丈夫なのか? と思わないでもない。
クレナやオサリバンといった上層部が特に何も言っていない以上、ニナが自分の仕事をしっかりやるのなら、それで構わないと思っているのかもしれないが。
その辺についてはアナハイムの内部事情なので、俺は迂闊に関わらない方がいいだろう。
「アクセルはどう思う?」
「そう言われても、トリントン基地に誰がいるかとか、そういうのは分からないしな。ただ、オーストラリアと考えると……」
オーストラリアはコロニー落としの件もあって、連邦軍の中では左遷先……というのは少し大袈裟かもしれないが、決して出世コースの者達が配属される場所ではない。
そんな基地だけに、ガンダム開発計画という連邦軍の重要機密で開発された最新鋭機のMSのパイロットとして相応しい人物がいるかとなると……微妙なところだろう。
勿論、それも絶対という訳ではない。
例えば腕が立つものの上に反抗的なパイロットといったような者なら、厄介払いとしてトリントン基地に配属されるという可能性も否定は出来ない。
……もっとも、そういう問題児扱いのパイロットが連邦軍の最重要機密であるガンダム開発計画で開発されたMSのパイロットに選ばれるかどうかは微妙なところだが。
「そうよね? アクセルもそう思うわよね? ……何でトリントン基地でテストを行う事になったのかしら?」
「それこそ僻地だからこそだろうな」
そのような場所だからこそ、ゼフィランサスとかを実際に動かしても見つかりにくい。
……もっとも、もしかしたらゼフィランサスによる行動でニュータイプが見つかるかもしれないという思いもあるのかもしれないが。
何しろ、オーストラリアは1年戦争のコロニー落としの時にリタ、ヨナ、ミシェルという奇跡の子供達と呼ばれる3人を生みだした地でもある。
その3人は現在ルナ・ジオンのニュータイプ研究所アルテミスにて保護され、実験に協力しているが。
アムロやシャア、そして何よりルナ・ジオンの女王であるセイラの存在によって、連邦軍や連邦政府がニュータイプを恐怖し、克服するべき対象と見ている者がいる。
それだけに、リタ達をルナ・ジオンに奪われたのには思うところがあってもおかしくはない。
だからこそ、ゼフィランサスを……ガンダムをトリントン基地で使う事により、ニュータイプを発見しようという考えがあってもおかしくはない。
「ニナ、ゼフィランサスってニュータイプ用のMSって訳じゃないよな?」
「今頃何を言ってるの? 私のガンダムはニュータイプじゃなくても、その性能を活かす技量があれば問題なく乗れるようになってるわよ。それに……そう、アレックスだったかしら? 連邦軍のニュータイプ用MSは。あのアレックス程過敏な反応速度は持っていないけど、より人間に近い動きが出来るようになってるわ。そういう意味では、ニュータイプ用と言ってもいいかもしれないわね」
「それは……まぁ、そうか」
ジオン軍におけるニュータイプというのは、ブラウ・ブロやエルメス、ジオングといったような特殊な武器を使えるようにするのが最優先された。
つまり、そのような能力を持つMSやMAがニュータイプ用の物となる。
だが、ニュータイプ研究でジオン軍に遅れを取っていた連邦軍にしてみれば、ニュータイプ用MSというのはニュータイプ特有の高い反応速度にMSが対応出来るという物になる。
ニナが言ったように、アレックスがその最たる物だろう。
個人的にはジオン系のニュータイプ用MSやMAの方が好みではあるのだが。
勿論、1年戦争で勝利した連邦軍は、俺達と同じようにジオン軍のニュータイプ研究についての各種データを入手はしているし、恐らくは俺達が見逃した……もしくは逃げ切ったフラナガン機関の研究者を確保したりもしているだろう。
それに1年戦争中にフラナガン機関からの亡命者を確保したりもしていたし。
……もっとも、クルスト・モーゼスだったか? そいつは1年戦争中に死んだが。
ただ、クルストと一緒に亡命してきた研究者も何人かいたという話で、そちらは今もまだ連邦軍で研究を行っている筈だ。
そんな訳で、1年戦争が終わってジオン軍が負けた今となっては、これからは連邦軍の方がニュータイプ研究は進むだろう。
ルナ・ジオンを抜かせばだが。
ルナ・ジオンのニュータイプ研究所、アルテミス。
ここにはフラナガン機関の中でも性格的に問題のない研究者達が集められているし、クスコ、マリオン、シャリアといった有能なニュータイプや、それ以外にも奇跡の子供達を始めとしたニュータイプが被検者として研究をされている。
勿論、その研究内容はフラナガン機関のような非人道的なものではなく、被検者達が快適に暮らせるような研究となっているが。
個人的には被検者達が自分から進んで実験に協力するような環境にした方が、総合的に見て研究はスムーズに進むと思う。
そういう意味では、アルテミスの研究環境の方がいいだろう。
「ニュータイプ用のゼフィランサスとか、開発する予定はないのか?」
「ないわね」
俺の問いに、これ以上ない程にきっぱりと答えるニナ。
どうやら本当にそのようなつもりはないらしい。
「そもそも、アナハイムではまだそこまでニュータイプの研究は進んでいないわ」
「……そこまでって事は、少しは進んでいるのか?」
「どうかしらね」
あ、今のは間違いなく誤魔化したな。
ニナの様子から、それとなく理解する。
ただ、そうして誤魔化すという事は、恐らくだがアナハイムでもニュータイプの研究はしてるのだろう。
いや、アナハイムという企業の性格を考えると、純粋なニュータイプ研究という訳ではなく、ニュータイプ用MSとかそっちの研究といったところか?
とはいえ、その件についてはニナの性格から考えて、これ以上追及しても無駄だろうとは思うが。
この話は続けない方がいいだろうと判断し、話題を変える。
「それでゼフィランサスがロールアウトしたら、宇宙での動きを確認してみるという判断でいいのか?」
「え? ええ、まぁ、そうね。とはいえ、宇宙空間でのデータ収集はそんなに長い時間は出来ないわよ。すぐに地上に降りるんだから」
「なら、俺はその短い時間でしっかりとデータが取れるように頑張るよ」
そう言いつつ、先程の内容……ゼフィランサスのパイロットの問題について考える。
いっそ、アムロ辺りを出してくればいいんだが……それは無理だろうな。
ルナ・ジオンの件もあって、連邦はニュータイプという存在を酷く恐れている。
ルナ・ジオンの存在は俺がこの世界の原作に介入して起きた事だと考えると、多分原作ではアムロはニュータイプとして警戒はされていたのかもしれないが、それでも今よりはマシだったのかもしれないな。
そう考えると、俺はアムロにとって悪いことをしたのかもしれない。
……そもそも連邦がニュータイプに恐怖を覚える云々以前に、俺はアムロにトラウマを植え付けてしまった過去があるしな。
そういう意味では、アムロにとって俺は疫病神なのかもしれない。
うん、今度会った時は少しアムロに優しくしてやった方がいいのかもしれないな。
そう思いながら、俺はニナとの会話を続けるのだった。