ゼフィランサスに続き、サイサリスも無事にロールアウトし、現在アルビオンは地球に向かっていた。
その出発を見送った俺は、オルフェンズ世界にいた。
「スーツ姿というのは、あまり慣れないな」
「あら、でもそういう姿も似合っていますよ?」
クーデリアが俺を見て、そんな風に言ってくる。
ちなみにそう言うクーデリアもドレス姿だ。
これから行われる、オルガの結婚式に参加するのだから、さすがに私服という訳にはいかなかった。
……まぁ、身内が集まっての結婚式だから、もしかしたら私服でも問題はなかったかもしれないが。
ただ、それでも礼儀としてスーツを着てきた訳だ。
「クーデリアからの褒め言葉は嬉しく受け取っておくよ」
そう言ってると、こちらに近付いてくる見覚えのある男女の姿に気が付く。
それは、俺と同じくスーツを着た名瀬と、ドレス姿のアミダの2人だ。
もっとも、名瀬は普段着がスーツ姿の時が多いので、ある意味で普段着と言ってもいいのかもしれないが。
ただ、アミダはいつも露出度の高い服装なのだが、今日はきちんとしたドレス姿だった。
薄らとした赤と青のドレスが、アミダの褐色の肌を映えさせている。
「へぇ、似合ってるな」
「ふふっ、そうだろう?」
俺の口から出た賞賛の言葉に、アミダは嬉しそうに笑う。
名瀬もそんなアミダの様子に満足そうだ。
もしかしたら、アミダのあのドレスは名瀬が選んだのかもしれないな。
「そう言えば、他の面子はどうしたんだ?」
オルガと名瀬という組織のトップ同士の仲が良好だということもあり、鉄華団とタービンズの関係も当然のように良好だ。
それだけに身内だけでやる結婚式だとはいえ、タービンズの全員とは言わずとも、鉄華団と関わる事が多かったラフタやアジー辺りは来てもいいと思っていたのだが、ここにいるのは名瀬とアミダだけだ。
俺の問いに、名瀬は少し困った様子で口を開く。
「ラフタは鉄華団の……ほら、あの筋肉に会いに行ったよ。アジーはちょっと風邪で熱を出してな。そこまで酷い状況じゃないが、その状況で結婚式に出たら、他の参加者に風邪を移すかもしれないから休ませてるよ」
「筋肉……昭弘か」
アジーは風邪である以上、仕方がない。
名瀬が言う通り、その状況で無理に結婚式に参加しても、他の者達に迷惑を掛けるだけだろうし。
これが何かもっとこう……絶対に休めないような出来事があったら、アジーも多少体調が悪くても無理をして出てくるだろうが、オルガとメリビットの結婚式はそういうものじゃないしな。
勿論、それは命懸け――というのは大袈裟だが――で参加する必要はないというだけだが、結婚式自体は大きな出来事だと思っている筈だが。
アジーもラフタ程ではないが、鉄華団の面々とは仲が良いし。
「ああ。……知ってるか、兄貴。あの2人は結構いい雰囲気なんだぜ?」
「そうなのか? ああ、でも言われてみればそういう雰囲気があったように思えるな。……ともあれ、まずはオルガとメリビットに会いに行くか」
そんな俺の言葉に頷き、結婚式の会場に入るのだった。
「兄貴達、来てくれたんですね!」
部屋の中にいたオルガが、俺と名瀬を見て嬉しそうに近付いてくる。
オルガの服装は、洋風ではなく和風のものだ。
何だったか……そう、羽織袴? とかそんな感じの服装。
ちなみに別にこの結婚式が和風という訳ではなく、メリビットはウェディングドレスらしい。
まさに和洋折衷といった感じだが、オルフェンズ世界的にはそこまで珍しい事でもないのだろう。
ちなみに、らしいと言ったのは、ここにメリビットがいないからだ。
どうやら新郎と新婦は別々の部屋らしい。
クーデリアとアミダも今はメリビットに会いに行っているので、ここにはいない。
「ああ、オルガの結婚式なんだ。それこそ余程の事でもなきゃ駆けつけるさ。なぁ、兄貴?」
「そうだな。俺の方も今は特に何かこれといったやるべき事はないし」
今の状況で俺がやるべき事となると、ガンダム開発計画だけだろう。
だが、そのガンダム開発計画も、ゼフィランサスとサイサリスをアルビオンに積み込んで、現在地球に向かっている。
連邦軍の護衛も一緒にいるので、最近活発になっているというジオン軍残党が襲撃をするとか、そういう事はまずないだろう。
もし襲撃しても、ゼフィランサスとサイサリスは使えないものの、アルビオンそのものはペガサス級の最新鋭の軍艦だ。
それこそ大艦巨砲主義とまではいかないものの、アルビオンの戦力だけで、意外とどうにかなってしまいそうなんだよな。
また、アルビオンだけではなく連邦軍の護衛……それもヤザンのような腕利きのMSパイロットが護衛にいるのだ。
もしジオン軍残党が襲ってきても、それは最悪の結果しか生み出さないだろう。
そういう訳で、この結婚式が終わったら一度ペズンを経由して地球に下りて、ハワイからトリントンに向かう事になってはいるのだが、今の状況では特に急いでやるべき事もない。
……ゼフィランサスとサイサリスがトリントン基地に運び込まれたら、連邦軍の方で一通りテストをするという話だったから、俺の出番があるかどうかは分からないが。
「そうですか。兄貴達が来てくれて良かったです」
「……本当は親父も来たがってたんだけどな。けど、テイワズのトップが火星に足を運んだとなると、大きな騒動になるのは目に見えてるから、諦めた」
「マクマードの存在感は大きすぎるから、それはしょうがないだろう」
名瀬に向かってそう言う。
とはいえ、マクマードも一度自分の目でホワイトスターを見てみたいと言ってるらしいのは聞いている。
異世界間貿易にはテイワズも大規模に参加しているものの、実際に自分の目で異世界を確認してみたいと思うのは間違いなかった。
……ちなみに、本当にちなみにの話だが、ギャラルホルンは既に火星から手を引いている。
だというのに、結構な頻度でガエリオはホワイトスターに顔を出しては、ワイバーンに乗っているらしい。
以前、気に入ったとは思っていたが、どうやら俺が予想した以上に気に入ってしまったらしいな。
仕事をきちんとしてるのかどうか、気になるが。
ただでさえ、現在のギャラルホルンはラスタルの派閥に所属したセブンスターズのうち、4つの家が取り潰しとなった。
つまり、セブンスターズとは名ばかりで、3つの家しかないのだ。
正式名称ではないが、スリースターズとか呼ばれ始めているらしい。
そんな現在のギャラルホルンだが、内乱によって戦力が大きく減ったので、火星や木星、金星といった圏外圏からは既に手を引いている。
現在火星は火星連合、木星はテイワズ、金星は……金星はどうなんだろうな。何か色々と騒動があったという話は聞いているが、地球を中心に反対方向にあるだけに、詳しい情報は入ってきていない。
ともあれ、圏外圏を手放した事によって、ようやくギャラルホルンはやっていけている状況だ。
……まぁ、そこには異世界間貿易による利益とか、そういうのも関係してるのだろうが。
ともあれ、そうして忙しいギャラルホルンの中で、ボードウィン家の次期当主であるガエリオがホワイトスターに入り浸るというのは、どうなんだろうな。
現在の当主であるガエリオの父親がブチ切れてそうな気がするのは……きっと俺の気のせいって訳じゃないと思う。
一応、ガエリオも異世界間貿易についてとか、そういう理由をつけてホワイトスターにいるのだろうが。
少し意外だったのは、ガエリオが異世界の住人を柔軟に受け入れていた事だろう。
例えば、俺が最初にガエリオと遭遇した時、ガエリオは三日月を見て……正確には阿頼耶識の手術によって首の後ろに出来た突起物を見て、吐き出す程に気持ち悪がっていた。
そういう意味では、エルフであったり、量産型Wであったりといった面々は勿論、普通に異世界の存在を気持ち悪がってもおかしくはない。
異世界の存在を知って考えが変わったのか、それとも思うところはあれど、ワイバーンに乗る為に我慢しているのか。
その辺は俺にも分からない。
分からないが、問題を起こしていないのは幸運だろう。
「まぁ、マクマードが本気でホワイトスターに行ってみたいというのなら、こっちは歓迎するよ。マクマードが喜ぶような物も色々とあるし」
盆栽好きだったり、義理や人情を重視した侠客的な存在であったり、漢字を使ったり。
和風の文化に興味津々のマクマードだ。
ホワイトスターに行けば、厄祭戦で滅んでしまった日本の文化を知る事も出来るし、実際にそれを知っている者達から話を聞いたりも出来る。
また、古き良き和風文化という事であれば、鬼滅世界に行ってもいい。
……エヴァ辺りと気が合うかもしれないな。
「ありがたい。兄貴の言葉は親父に伝えておくよ。親父のことだから、時間が出来たらすぐに来ると思う」
「それは別に構わない。ホワイトスターがどういう場所か、実際に自分の目で直接見るのが手っ取り早いしな。だが……言うまでもないが、マクマードだからといってホワイトスターで何か問題を起こした場合、配慮したりとかはしないからな」
マクマードの性格を考えれば、恐らく大丈夫だとは思う。
思うのだが、それでもホワイトスターという場所では何が起こるのか分からない。
問題を起こせば個人ではなく、その人物が所属する世界全体にペナルティがあると知っている以上、余程の事でもない限り問題は起きないとは思うが。
ただ、それでも万が一を考えれば、名瀬に忠告しておく必要があった。
「分かってるよ。親父も特に何か問題を起こしたりといったことはしないと思うから、安心してくれ」
「だといいんだけどな。……まぁ、その辺についてはある程度信じているよ」
そう言うと、名瀬は頷きを返す。
「兄貴にそう言って貰えると、俺も嬉しいよ」
「マクマードの事は取りあえず置いておいて、今はオルガの事だろう。それで、結婚をするのはどんな感じだ?」
「いやぁ……その、実感がないっていうか。そもそも俺はスラム街で生まれ育ったんでですよ。まさか、自分が結婚とかそういうのをするようになるとは思ってもいませんでしたし」
「あるいは、だからこそだろうな」
名瀬がオルガに向かい、笑みを浮かべてそう言う。
「鉄華団には、スラム街出身だったり、ヒューマンデブリ出身だったりする連中が多いんだろう? そういう連中は、オルガと同じように自分が結婚をするとか、そういう風には思っていない筈だ。そうである以上、お前が率先して結婚して、それで他の連中に幸せになるってのはこういう事だって教えてやれ。……お前のところの、昭弘だったか? そいつもラフタといい雰囲気らしいしな」
「……え? そうなんですか?」
驚きの声を上げるオルガ。
どうやらオルガにとって、ラフタと昭弘の関係については、完全に予想外だったらしい。
オルガは本人が言うように、恋愛とかはあまり詳しくないのだろう。
……実際。オルガがメリビットと付き合うようになったのも、メリビットが積極的に言い寄って、それで最終的にオルガが堕ちたようなものだし。
もしメリビットがそこまで積極的に言い寄ってなければ、恐らくオルガとメリビットが付き合うような事はなかっただろうし、そして今のように結婚するような事もなかった筈だ。
「そうらしいぞ。昭弘の事を思えば、名瀬が言うようにお前が率先して結婚するというのも決して悪くはない筈だ」
「……そう、ですね。俺にはあいつらをここまで連れてきた責任がある。だからこそ、兄貴達が言うように、幸せになるというのを見せてやるのも必要なことかもしれません」
自分に言い聞かせるようにそう言う。
オルガにとって、この結婚式は自分の為であると同時に、鉄華団の面々の為というのもあるのだろう。
ちなみに現在の鉄華団はシャドウミラーオルフェンズ世界支部を吸収合併しているので、スラム街出身やヒューマンデブリ、元海賊といった面々以外にも、普通にクリュセで雇った人物とかもいる。
アインも今は鉄華団の所属だし、俺に絶対の忠誠を誓ったクランクもまた鉄華団で働いている。
クランクの扱いは、正直どうしようか迷ったんだが……ホワイトスターに連れて行くよりも、オルフェンズ世界で活動して貰った方がいいだろうと判断したのだ。
実際、グシオンを操縦するクランクは、バルバドスを操縦する三日月と並んで、鉄華団の最高戦力扱いされているし。
そういう意味では、俺の判断は間違っていなかったのだろう。
「あ、そう言えば……」
「オルガ?」
不意に少し戸惑った様子を見せるオルガ。
そのオルガにどうしたのかと聞くと……
「その、実は俺の結婚の件とは少し違うんですが……ちょっとその……」
少し言いにくそうにしているオルガに、俺と名瀬は目を合わせ、改めてオルガを見る。
オルガはそんな俺達の視線に困った様子で口を開く。
「実は、三日月とアトラの間に子供が出来たみたいで」
それは、俺にとっても驚くべき内容だった。