三日月とアトラの間に子供が出来たというのは、俺を驚かせるのに十分な衝撃を持っていた。
というか、俺の知ってる限り……いや、印象でだが、三日月が女に興味があるとは思えなかったんだが。
となると、アトラの方から積極的に三日月に言い寄ったのかもしれないな。
幸い……と言ってもいいかどうか微妙だが、鉄華団にはメリビットがいる。
そのメリビットはオルガに言い寄って恋人になり、今日結婚というゴールインを迎えることになった。
メリビットからどうやってオルガと結ばれたのかという話をアトラが聞けば、それを聞いたアトラがどのように行動するのか、想像するのは難しくはない。
……ただ、アトラはメリビットよりも性急に事に及んだのだろう。
あるいはそこまでしないと三日月を繋ぎ止めることが出来ないと思ったのかもしれないが。
とにかく、三日月とアトラの間に子供が出来たのは嬉しい事だろう。
ただ、何となく微妙な気持ちを抱きつつ、結婚式場に入る。
「アクセル、こっちよ」
その声に視線を向けると、そこにはクーデリアとフミタン、アミダ、ラフタの姿があった。
どうやらあのテーブルに俺と名瀬が座り、6人で1つのテーブルという扱いらしい。
ちなみにフミタンもクーデリアやアミダと同じくドレスを着ている。
「待たせたか?」
「ううん。まだ結婚式も始まっていないし、それは構わないんじゃない?」
言葉を交わしつつ、用意された椅子に座る。
「それよりも……ねぇ、アクセル。聞いた? アトラさんと三日月の間に子供が出来たって」
「ああ、さっきオルガから聞いてきたよ。……正直なところ、かなり驚いた」
「あんたもかい?」
俺の言葉に、アミダはどこかからかうように、アミダが名瀬にそう尋ねる。
「そうだな。まさか三日月の方がオルガよりも先に子供を作るとは思わなかったよ」
「その件、どのくらいの者達が知ってるんだろうな?」
会話をしつつ、式場の中を見回す。
身内だけの式にすると言っていたオルガだったが、結局それなりに大きな式場であるこの場所で結婚式をやる事になった。
とはいえ、来ているのは殆どが身内であるというのは違わない。
例えば取引先程度の義理しかない相手とか、そういう者達は呼ばれてないのだ。
本当に身内だけで集まって、それでもこの広さの式場が必要なくらいには、オルガの身内というのは多くなっていたのだろう。
……もし大々的に結婚式をやろうとした場合、それこそこの数倍、場合によっては十数倍の広さの式場は必要だっただろう。
それでも足りていたかどうかは、分からないだろうが。
とにかく、ここに来ているのが身内だけである以上、三日月とアトラの間に子供が出来たという話を知ってる者がそれなりにいてもおかしくはないと思う。
三日月の場合、聞かれればあっさりと話しそうだし。
もっとも、それは同時に聞かれなければ話すようなことはないという事を意味してもいたが。
「どうかしらね。私が見たところ……知ってる人は結構いそうだけど」
アミダの視線の先にあるのは、俺達のテーブルからそう離れていない場所にあるテーブルに座る、三日月とアトラ、後は昭弘とラフタも同じテーブルに座っている。
三日月と昭弘、三日月とラフタ、昭弘とラフタ、アトラと三日月、アトラと昭弘はそれなりに相性がいいだろうが、アトラとラフタはあまり相性が良いようには思えないんだが。
まぁ、アトラなら何だかんだと上手い具合にやりそうだけど。
そんな風に考えていると、やがて結婚式が始まる。
司会が色々と挨拶をし……やがて新郎新婦が登場する。
そう言えばこういう時は新婦の父親とか、そういうのが一緒に来たりする……いや、それは結婚の誓いをする時か?
ちなみに今回の結婚式ではそういうのはない。
いわゆる神前式というのでもないしな。
そもそもの話、このオルフェンズ世界で宗教ってどうなっているんだろうな?
火星では教会や神社、寺……そういうのを見た覚えはなかったが。
あるいは厄祭戦のドサクサで宗教も規模を縮小したのかもしれないな。
前世の記憶を引き継いでいる為か、俺にとって宗教というのはあまり好ましいものとは思えない。
クリスマスを楽しんだり、新年を祝ったり、葬式や結婚式とかそういうのには宗教が必要だろうというのは分かるが、言ってみればそれだけだ。
そういう意味で、俺のメンタリティは未だに日本人なんだよな。
神様転生しておいて、何を言ってるのかと言われればそれまでだが。
……いや、寧ろ神様転生をしているからこそ、そんな風に思えるのかもしれないな。
そう思っている間にも式は続いていく。
俺も含めて何人かが簡単な挨拶をする。
これも、もし身内だけの式じゃなければ、お偉いさんが延々と演説していたりするんだろうな。
そして……
「今日は、来てくれてありがとうよ。俺はこうして幸せを手に入れた。次はお前達の番だ。いいか、絶対に……嫌だと言っても幸せにしてやるから、覚悟しておけよ! 乾杯!」
『乾杯!』
オルガのその言葉は、結婚式の挨拶、乾杯の音頭として考えれば、決して褒められたものではないのだろう。
だが、鉄華団を率いる者としての結婚式と考えれば、そう悪くはないものだった。
実際、結婚式に参加している者の多くは鉄華団の団員なのだが、そんなオルガの言葉に嬉しそうな様子で手にしたコップを掲げている。
……ちなみに、当然の話だが俺のコップに入っているのは酒ではなくウーロン茶だ。
ここで俺が酒を飲んだりしたら、一体どうなるか分からないしな。
そうして乾杯をすると、料理が次から次に運ばれてくる。
ただ、鉄華団の中には以前地球に行った者達以外で魚貝類については苦手意識を持っている者もいて、そのような者達は肉とか野菜とか別の料理を頼めるようになっている。
そうした中で、結婚式に参加した者達は次々とオルガに挨拶をしに向かう。
身内だけという事もあってか、全員が純粋にオルガやメリビットを祝福する者達だ。
これが身内以外の者達も参加していた場合、純粋に祝うのではなく、顔繋ぎであったり、商売の話をしたりといった事もあるのだろう。
そんな風に思いつつ、俺はクーデリアとフミタンを引き連れてオルガとメリビットのいる場所に向かう。
「オルガ、メリビット、おめでとう」
「兄貴……ありがとうございます」
「アクセルさん、それにクーデリアさんやフミタンさんも。……ありがとうございます。私がこの人と一緒になれたのは、アクセルさんがいたからです」
そう言うメリビットの言葉は、決して大袈裟ではない。
仕事とかなら、オルガはかなり大胆に動く事が出来るが、それが恋愛関係になると話は違ってくる。
以前、オルガが俺に相談をしてきて、俺がその背を押したので、最終的にこの2人は付き合う事になり、そして今日という日を迎えられたのだ。
そういう意味では俺が……そう、ある意味仲人に近い存在だと言ってもいいのか?
「弟分のオルガが幸せになるんだ。俺も骨を折った甲斐があったよ」
そう言うと、メリビットは嬉しそうに笑みを浮かべる。
そしてクーデリアやフミタンとメリビットが話し、俺とオルガが話す。
「それにしても……大丈夫か?」
そう心配したのは、オルガの顔が薄らと赤く染まっていたからだ。
嬉しさや興奮というのもその赤さの理由ではあるのだろうが、それよりも大きいのは酔いによるものだろう。
オルガは俺程極端に酒に弱い訳ではないが、それでも決して酒に強くはない。
一般的に見た場合、間違いなく弱い方に入るだろう。
そんなオルガに対し、挨拶に来た者達の多くは酒を注いでいく。
そしてオルガはその酒を飲み続けているのだから……いや、これ本当に大丈夫なんだろうな?
今日は結婚式……つまり、初夜だぞ?
初夜で新郎が泥酔したら……うん。これからの結婚生活でメリビットに完全に尻に敷かれるな。
そうならないように祈っておこう。
「あ、あはは。大丈夫ですよ。これくらいの酒なら何とか」
俺の心配に気が付いているのか、いないのか。
とにかくオルガはそう言ってくる。
見たところ、今はまだ……強がりという訳ではないみたいだが。
とはいえ、このまま結婚式が続けば駄目になりそうな気もするが。
ちなみに実際には俺の認識だとこれは結婚式というよりも披露宴に近い訳だが……まぁ、オルフェンズ世界においては、こういうのが結婚式だと言われればそうだろうと思うし、オルガの性格的にもこういう方がいいと思ったのだろう。
「まぁ、分かってるだろうけど無理をするな。初夜で酔っ払っていたら、これからずっと言われ続けるぞ」
初夜という言葉に、オルガが酔いとはまた違った意味で頬を赤くする。
あれ? ……おい、もしかしてオルガとメリビットって、実はまだそういう行為をしていないとか、そういう事だったりするのか?
……メリビットの積極性を思えば、既に体験済みだとは思うんだが。
まぁ、その辺は特に突かなくてもいいか。
そう思いながら、俺はオルガとの話を続けるのだった。
『ありがとうございます、シノさん。いやぁ、シノさんの1人劇場は面白かったですね。……では、次の出し物です。次は、新郎の兄貴分、もうこの場に知らない人はいないでしょうが……アクセル・アルマー代表です!』
司会の言葉に、俺が前に出る。
すると、式場のいる者の多くの視線が俺に向けられていた。
一発芸を見るには、ちょっと視線の力が強すぎるんじゃないか?
そう思ってしまうのは、俺の気のせいではない筈だ。
俺は右手を前に出す。
右手の動きに、式場にいるほぼ全員の視線が集まり……次の瞬間、俺の右手は白炎と化し、そこから無数の炎獣が生まれる。
これは別に戦闘ではなく、あくまでも一発芸だ。
その為、生み出される炎獣はどれも小動物や小鳥、あるいは子犬や子猫といった愛らしい炎獣達。
それらの炎獣が、一斉に式場の中を走り始める。
「きゃああああああっ!」
突然上がる悲鳴。
一瞬、ミスったか? そうも思ったが、よくよく見ればそれは悲鳴は悲鳴でも黄色い悲鳴だった。
確か、元シャドウミラーの事務職の女。
その女が尻尾の大きなリスの炎獣を見て、嬉しそうにしている。
他の場所でも同じように、炎獣を見て嬉しそうな様子を見せている者達の姿がそこにはあった。
「どうやら一発芸は見事に成功したようだな」
「一発芸って……兄貴……」
俺の呟きを聞き取ったのか、少し離れた場所にいたオルガが、呆れた視線をこっちに向けていた。
ちなみにそんなオルガには、炎獣達が群がっている。
メリビットの方にも、同じく多数の炎獣が集まっていたが、メリビットはその炎獣を嬉しそうに撫でていた。
攻撃をする訳ではないので、炎獣の身体を構成している白炎は、触れても少し暖かいと思える程度の温度になっている。
まさしく、幻想的な光景。
そのまま10分程が経過したところで、俺は指を鳴らす。
パチンという音と共に、式場の中にいた炎獣はその全てが消滅した。
「ああ……」
何人かが、撫でていた炎獣が消えた事に残念そうな声を上げるのが聞こえてくるが……まさか、炎獣をずっと出しっぱなしにするという訳にもいかないしな。
いやま、やろうと思えば出来ない訳でもないが。
X世界において、ティファの護衛として炎獣を渡した事があったし。
『あ……ええっと……その……凄い、そう、凄いとしか言いようがない光景でした』
炎獣が消えた事で司会もようやく我に返ったのか、そんな声が式場内に響く。
先程よりも多くの者達から熱い視線を浴びているが……いやまぁ、うん。
炎獣というのは、それだけ驚くような存在だったのだろう。
そんな風に驚かれ……うん、俺の後に一発芸をやる奴の難易度が飛躍的に高まってしまったのは、正直なところ悪いとは思っている。
どうせなら、俺の一発芸は一番最後にして貰えばよかったのかもしれないなと思いながら、俺は結婚式を楽しむのだった。
「アクセル代表、お久しぶりです」
結婚式が終わった翌日、俺の姿はUC世界のハワイにあった。
俺を迎えに来たガトーの言葉に頷き、口を開く。
「ハワイの方で特に問題はないか? 宇宙では、ジオン軍残党の動きが活発になってるって話だったが」
「はい。ジオン軍残党も、ハワイが我々の領土であるというのは十分に承知しているからでしょう。寧ろ厄介なのは、連邦軍の方です」
「強硬派か」
連邦軍でハワイにちょかいを出してくるというのは、俺にとってもそれくらいしか予想出来ない。
そして俺の予想が正しいと示すように、ガトーが頷く。
強硬派が動き始めたのは、ジオン軍残党の行動と関係があるのか。
まぁ、それがなくても、ルナ・ジオンは強硬派に嫌われているしな。
「何かあったら対処は任せる」
「は!」
そう言い、敬礼するガトー。
そんなガトーに案内され、その晩はハワイで泊まることになったのだが……
「は? 嘘だろ?」
夜、そろそろ寝ようかという時間……トリントン基地にいるニナからの緊急の連絡があり、サイサリスをジオン軍残党に盗まれたという報告が入ったのだった。