「……え?」
俺の姿を見たバニングは、一瞬信じられないといった表情を浮かべる。
そのまま数秒、やがて俺がいるのが夢でも何でもないと理解すると、慌てて起き上がろうとし……
「痛っ! ……な、何だと……アクセル……?」
無理に起き上がろうとして、骨折した足、もしくは他の場所が痛んだのか、痛みに呻く。
「久しぶりだな、バニング。1年戦争以来か。……ああ、無理をしなくてもいい。事情は聞いてるからな」
そう言うとバニングは痛みを堪えつつも……そこでようやく痛みが収まったのか、改めて俺を見てくる。
「ア、アクセル……一体、何でここに……?」
「それは俺の台詞なんだけどな。何でまた、バニングがトリントン基地にいるんだ?」
このトリントン基地は、連邦軍にとっては左遷先に近い扱いだ。
まさか、そんな場所にバニングがいるとは思わなかった。
バニングとは1年戦争の時、一緒に戦った仲だ。
裸踊りのモンシア……いや、その後の戦いで不死身の第4小隊と呼ばれる事になったんだったか? その不死身の第4小隊を率いて1年戦争で活躍した人物。
英雄……とまでは言わないが、それでも大いに活躍したのは間違いない。
軍人としては出世コース……とまではいかないまでも、順風満帆だった筈だ。
それがまさか、こうしてトリントン基地にいるとは思いもしなかった。
ニナからバニングの名前を聞いた時は、もしかしたら同姓同名の別人なのかと思ったくらいだ。
しかし、実際に話を聞いてみればどうやら同一人物らしいと判断し、こうして来てみると実際その通りだった訳だ。
「いや、その……まぁ、俺も色々とあったんだよ。ん? で、アクセル。そちらは?」
俺と話していたバニングが、ようやく驚きも止んだのだろう。
不思議そうに俺の後ろで待機しているノリスに視線を向けてくる。
そう、今まで黙っていたが、俺の後ろにはノリスの姿があった。
護衛として来ている以上、当然かもしれないが。
何も喋ったりしないのは、俺と知り合いのバニングとの再会を邪魔したくないと思っての事だろう。
「俺の護衛のノリスだ」
「護衛……?」
バニングが訝しげな表情を浮かべる。
バニングにしてみれば、俺にわざわざ護衛が必要なのかという思いがあるのだろう。
それは俺の生身での戦闘力を知っているからというのもあるし、俺がわざわざ護衛を必要とする身分なのか? というのもあるのだろうが。
「1年戦争が終わってから、こっちもこっちで色々とあったんだよ」
そう言っておく。
また、これは別に嘘という訳でもない。
実際に1年戦争が終わってから本当に色々とあったのだから。
ダンバイン世界や鬼滅世界、X世界での諸々や、ペルソナ世界でのマヨナカテレビ。
後はこのUC世界での水天の涙とか。
そんな諸々で本当に色々とあったのだ。
「なるほど。……それで、今このトリントン基地にいるという事は……?」
「ガンダム開発計画のテストパイロットをやっていたんだよ。アルビオンが地球に降下した時は少し忙しくて一緒に行動は出来なかったが……まさか、サイサリスを奪われるとは思わなかった」
「テストパイロットを……? だが、ガンダム開発計画は連邦軍の計画だろう。だというのに、何故アクセルが?」
「アナハイムは月の企業だ。その関連でルナ・ジオン軍にテストパイロットの要望が来たんだよ」
「……何故?」
「色々とあるんだろうな。ともあれ、そんな訳で俺はここ暫くの間はずっとガンダム開発計画のテストパイロットをしていた。もっとも、ゼフィランサスもサイサリスもまだ出来ていなかったから、基本的にはガンダム開発計画用に開発されたパーツをパワード・ジムに装備させて、それでデータを取っていたが」
「ああ、なるほど。あの機体はアクセルが……だから、アレンが……」
そこまで口にしたバニングは、憂いの表情を浮かべる。
バニングの様子から考えて、そのアレンというのがトリントン基地でパワード・ジムを操縦していたのだろう。
そしてバニングの憂いの表情から考えると、サイサリスが奪われた一連の騒動で死んでしまったという事か。
その辺については、俺がわざわざ触れない方がいいか。
「ハワイでニナから連絡を貰った時は驚いたが、とにかくこうして来た訳だ。ノリスが俺の護衛をしているのもそういう理由からだな。何しろ、相手がニムバスだったし」
「……ジオンの騎士……」
悔しげな様子のバニング。
バニングは1年戦争の時にホワイトベースに乗っていたが、ニムバスとの戦いの時はどうだったか。
もっとも、直接知らなくてもニムバスの戦闘データを見る事は出来ただろうが。
追撃戦でバニング達が受けた被害の大きさは理解している。
とはいえ、サイサリスを奪還する為にアルビオンで出撃するとなると、MSの戦力を用意するのは必須だろう。
……その辺はシナプスが任せて欲しいと言っていたので、コーウェンを通じてどうにかしようとしてるんだろうが。
アムロやヤザンといった面々が来てくれると嬉しいんだが、それは望みすぎだろうが。
「俺達は数日……いや、10日前後か? とにかく近い内にサイサリスの奪還に動く」
「俺達という事は、アクセルもその戦力に?」
「そうなるな。とはいえ、今はMSがないから、シナプスを通じてMSを用意して貰ってるが」
「そちらの護衛は? 見たところ、随分と雰囲気があるようだ」
ノリスに視線を向け、バニングがそう言う。
バニングは1年戦争において、多くの死地を潜り抜けてきた。
だからこそ、一目ノリスを見ただけで、ただ者ではないと理解したのだろう。
「ノリスも俺の護衛だから一緒にアルビオンに乗り込む。幸いなことに、MSは持ってきてるしな」
「それなら、アクセルのMSも用意しておけばよかったんじゃないか?」
「俺もそう思うよ」
そう返すが、ハワイで用意出来るMSとなると……それこそドワッジか?
ギャン・クリーガーがあれば、それを持ってきてもよかったが。
ザメルというのは……ないな。
いやまぁ、後方からの援護を行う支援機として考えれば、ザメルは決して悪い機体ではない。
それどころか、射撃を得意とする俺の能力と合わせれば、敵の射程外から射撃を行い、次から次に命中させるといった事も可能だろう。
だが、トリントン基地の者達にしてみれば、ザメルはジオン軍残党が使ってトリントン基地を襲撃し、司令官やその側近達を纏めて殺したMSだ。
とても好意的には受け取れないだろう。
とはいえ、その司令官を殺したザメルは追撃戦で撃破されたらしいが。
また……その辺りについて抜きにするとしても、ザメルは巨大な分、重量もかなりのものだ。
一般的なMSと同じようにアルビオンで運用出来るかと言われれば、正直微妙なところだろう。
重量はあっても、ホバー移動が可能なので機動力という点では悪くないんだけどな。
「まぁ、ともあれ……バニングの様子を見ると、お前もサイサリスの奪還には志願するつもりだろう?」
そう聞くと、バニングは当然だといったように頷く。
「ああ、勿論だ。身体が治ってなくても、参加させて貰おう。……恐らく、あのウラキ達も参加するだろうしな」
「ウラキ……コウ・ウラキか」
その名前については、ニナから聞いたので当然ながら知っている。
ゼフィランサスに乗ったパイロットの名前だ。
それはつまり、このガンダム開発計画の原作の主人公。
ニナの話だと、MSをみる目については認めるものがあるらしいが。
ゼフィランサスを外から見ただけで、推力とか反応速度とかその辺についての予想を口にし、しかも専門家のニナから見ても決して間違っている数値ではなかったらしいし。
また、サイサリスを見ただけで核兵器の運用を前提としたMSだというのも見抜いたらしい。
これは、正直なところかなり凄いと思う。
テストパイロットとしての技量はそこまでではないようだが、知識は間違いなく一級品だ。
技量がないのも、士官学校を卒業したばかりだというのを考えれば、仕方がないのだろうが。
バニングのように、1年戦争に参加したりもしてないだろうし。
「知ってるのか?」
「さっきも言ったが、俺はガンダム開発計画のテストパイロットだったからな。その辺の関係でニナから聞いたよ。……もっとも、ニムバスを相手にするには腕が足りなかったようだが」
「素質はある……と思うんだが」
バニングがそう言うという事は、実際にそういう素質があるだろう。
モンシア達を率いていただけに、素質を見る目は間違いないし。
「そう言えば、不死身の第4小隊の方はどうなったんだ? 他の面々は?」
「1年戦争が終わって、現在は俺とは違う場所で働いている筈だ」
「……モンシアの事だから、調子に乗って痛い目を見てそうだけどな」
そんな俺の言葉に、バニングは微妙な表情を浮かべる。
実際、モンシアの性格を考えれば、そういう事をしてもおかしくはないと分かっているからだろう。
何しろモンシアは、1年戦争中に俺と会った時に絡んで来て、その後で諸々があり、裸踊りのモンシアという異名……いや、これは異名とは呼べないか。とにかくそういう風に呼ばれる事になった。
もっとも、その後で裸踊りのモンシアというのはモンシアとしても、そしてモンシアと小隊を組んでいるバニング達にとっても決して好ましい扱いではなかった事もあり、必死になって戦い、その結果裸踊りのモンシアではなく、小隊全体を纏めてだが、不死身の第4小隊と呼ばれるようになったのだが。
そんなモンシアだけに、調子に乗ってドジを踏んでいる可能性は十分にあった。
とはいえ、不死身の第4小隊と呼ばれるようになった事からも明らかなように、モンシアの操縦技術は決して低くはない。
いや、寧ろベテランとして一線級の実力を持ってるのは間違いないだろう。
下手にそれだけの力を持っているが故に、調子に乗りやすいのが問題だった。
とはいえ、モンシアの性格を考えると、とてもでないがその辺をどうにか出来るとは思えないが。
同僚のベイトも、モンシアを煽るタイプだしな。
アデルが唯一の良心だが、それでもモンシアとベイトを相手にとなると……うん。
「モンシアの性格だと、間違いなく痛い目に遭っているだろうし、始末書辺りを書かされているだろうな。腕はいいんだから、馬鹿な事をしなければ昇進もしやすいんだが」
はぁ、と。
モンシアの事を思い浮かべたのだろう。バニングは大きく息を吐く。
それでいながら、バニングの顔には懐かしそうな色がある。
駄目な子程可愛いというのは、自分の子供だけではなく部下に対しても当て嵌まるといったところか。
にしても、モンシアが昇進……どうだろうな。
それこそ戦時中なら戦果を挙げて昇進も出来るだろうが、1年戦争が終わった今となっては、手柄を挙げて昇進というのは難しい。
いやまぁ、ジオン軍残党の件とかあるから、絶対に無理とは言わないが。
「モンシアの件はともかく、今はこれからの事だ。……もしバニングがサイサリスの追撃に回るような事があったら、その時は多分バニングがMS隊を率いる事になる筈だ」
「そうだろうな。……俺よりもアクセルの方がそういうのには向いてそうだが」
「俺がか?」
1年戦争の時もそうだったが、基本的に戦いが起きれば俺は遊撃隊のような扱いで、単機で……もしくは少数を従えて動く事が大半だ。
それはルナ・ジオン軍のMSパイロットとしてだけではなく、それこそシャドウミラーの戦闘においても同様だった。
そんな俺が、MSの指揮を執るというのは……それこそ、ノリスに任せた方が良いような気がする。
「ああ。……とはいえ、それは上から許可されないだろうが」
「だろうな」
バニングのその言葉には俺も同意する。
連邦軍にしてみれば、極秘計画のガンダム開発計画の機体……それも核兵器を運用する為のサイサリスを奪われただけでも失態なのだ。
それを取り返す為の追撃部隊の指揮を、連邦軍ではなくルナ・ジオン軍に所属――という事になっている――俺に任せるというのは、屈辱でしかない筈だ。
完全に面子を潰された形になるのを考えると、やはりここは連邦軍が……と、そのように思うのは当然だろう。
だからこそ、俺がMS隊の指揮を執るというのは、シナプスが許容してもコーウェンはその立場的に許容出来ないだろうし、もしコーウェンがそれを許容しても他のお偉いさんがそれを責めるだろう。
特に強硬派はルナ・ジオンをかなり強く敵視している。
実際、今まで何度か月の領域に入ってきたりしているし。
それは半ば挑発なのだろうが……結果として、ルナ・ジオン軍や無人機によって捕らえられ、連邦軍に返される事になるので、これ以上ない程に恥を掻く事になる。
それでまたルナ・ジオンを恨むようになるのだから、悪循環というのはこういうのなのかもしれないな。
そんな風に思っていると……
「バニング大尉!」
不意にそんな声が聞こえ、視線を向けると……そこには、いかにも坊ちゃんといった様子の男の姿があった。