「バ……バニング大尉……?」
シミュレータのある格納庫に入ると、俺とノリス……というか、俺達と一緒にいるバニングを見て、ベイトが驚きの表情を浮かべる。
まさかここでバニングが姿を現すとは、思ってもいなかったのだろう。
そして俺に向かってベイトが微妙な表情を浮かべる。
「アクセルの仕業か」
「ああ。ゼフィランサスのパイロットを決める為の模擬戦だろう? なら、それについて意見を口に出来るバニングがこの戦いを見るのは、そうおかしな事じゃないと思うが?」
「……まぁ、そりゃそうだけどよ」
そう言いながらも完全に納得した様子は見せないベイト。
だが、そのベイトの隣にいるアデルは俺に目礼してくる。
いつもはモンシアとベイトのブレーキ役であるアデルだが、今回は俺が介入したことでその辺についてはあまり気にしなくてもよくなったので、その感謝による目礼だろう。
「アクセル、準備は出来たわよ。ゼフィランサスのデータは入力したわ」
俺の姿を確認したニナが、モーラと一緒にこっちに向かってくる。
「そうか、悪いな。……けど、モーラはいいのか? 今は忙しい時だろうに」
俺にとっては半ば他人事に近いが、このトリントン基地はニムバス率いるジオン軍残党の襲撃による混乱からは完全に復帰した訳ではない。
MS部隊は多くの被害を出しているし、襲撃によって破壊された瓦礫の除去であったり、現在はどれだけの人員がいて、動けるのかの確認であったり、死んだ者の遺品の整理であったり。
それ以外にも色々とやるべき事がある中で、ゼフィランサスの修理もある。
そんな中、アルビオンのメカニックを率いる立場のモーラがゼフィランサスを放り出して、こうしてニナと一緒にいるというのは不味いのではないか?
そう思ったのだが、モーラは豪快に笑う。
「あっはっは。アクセル中尉の言いたい事も分かるけど、ゼフィランサスの方は今の状況で出来る事は、もう終わったしね。……アクセル中尉も聞いていただろうけど、ゼフィランサスは最初小破以上中破未満といったくらいの損傷だと思われていたんだけど、実際に破壊されたのは装甲だけで、重要部品は殆ど無事だったんだ」
モーラのその言葉に、少しだけ驚く。
ニムバスを相手にして、しかも士官学校を出たばかりの新米少尉が初陣で……負けたとはいえ、その被害を最小限に抑えたという事か?
いやまぁ、サイサリスを……それも核弾頭を装備した状態で奪われてしまった以上、とてもではないが被害を最小限に抑えたとは言えないが。
ただし、ゼフィランサスに関しては被害を最小限にしたのは間違いない。
……最小限ではなく最善なのは、ゼフィランサスがダメージを負う事なく、その上でサイサリスを奪還する事だったのだろうが。
とはいえ、士官学校を卒業したばかりで初陣、しかもその相手がジオンの騎士の異名を持つニムバスとなると、それを求めるのは難しいだろうが。
「すまない、少し聞きたいのだが構わないか?」
俺とモーラの会話に、話を聞いていたバニングが口を挟む。
「は! 何でしょう、バニング大尉」
モーラが俺と話していたのとは違い、きちんと敬礼をして尋ねる。
モーラの階級は中尉で、バニングは大尉。
それを思えば、バニングにはこうした態度をするのは分からないでもない。
これでもう少し打ち解ければ、また話は違うのだろうが。
「中尉の目から見て、ウラキはガンダムのパイロットに相応しいと思うか?」
「……それは、私には分かりません。ただ、ニナが調べてたデータによると、ウラキ少尉はガンダムの性能を十分に発揮していたとの事です。MSについての理解が深いのが、その理由ではないかと言ってましたが」
MSの理解が深い……まぁ、それは間違った表現ではないな。
もっとも、それはつまりMSオタクであるというのを誤魔化そうとしての言葉なのだろうが。
とはいえ、ものは言いようだ。
実際モーラの説明はバニングにある種の納得を抱かせたらしい。
これは、モーラのウラキに対するフォローなのか?
それとも部下がモンシアにセクハラされまくった件の意趣返しなのか。
まぁ、ウラキが圧倒的に実力が低ければ、モーラもここまでフォローするようなことはなかっただろうが。
「アクセル、それで始めてもいいのよね?」
「ああ、ちなみに模擬戦の様子は映像で確認出来るのか?」
「問題ないわ。向こうのモニタで確認出来るようになってるから」
モーラとバニングが話している横で、俺とニナもまた模擬戦についての話をする。
ちなみに当然ながら、格納庫でこうしたやり取りをしてるので、メカニックや……それ以外にもある程度暇な連中が集まってきていた。
モンシアにとっては、これで勝てば自分の実力をこれ以上ない程に見せつけられるが、もし負けたら赤っ恥だな。
そして……俺の予想では、ウラキが勝利すると思う。
純粋な実力では間違いなくモンシアの方が上なのだろうが、この辺は原作主人公としての実力を見せて欲しいところだ。
「……なぁ、アクセル。お前はどっちに賭ける?」
ニナとの会話が一段落したところで、ベイトがそう声を掛けてくる。
「賭けるのか?」
「ああ、そのくらいはいいだろ。……ですよね?」
「好きにしろ。ただし、やりすぎるなよ」
モーラとウラキについての話をしていたバニングが、ベイトの言葉にそう返す。
「なら……そうだな。ここはウラキに賭けるか」
「……本気か? アクセルもモンシアの実力は分かってるだろう?」
「そうだな。けど、俺がモンシアに賭けたら、ベイトはウラキに賭けるのか?」
「まさか。モンシアに賭けるに決まってるだろう」
「なら、賭けは成立しない。他にも賭ける奴がいて、そいつがウラキに賭けるのなら話は別だけど」
「アデル、お前はどうする?」
「もし賭けるとすれば、やはりモンシア中尉でしょうね」
ベイトの言葉にアデルはそう言ってくる。
モンシアやベイトのブレーキ役のアデルだったが、それでもこういう時はモンシアに賭けるらしい。
いやまぁ、モンシアと行動を共にする事が多いからこそ、モンシアの実力を十分に理解していると言われれば、それまでだが。
「って訳だ。なら、俺がウラキに賭けてもいいだろう?」
「それは構わないが……アクセルは本気でモンシアが負けると思っているのか?」
「普通に考えればモンシアの勝利だろうな。だが、ウラキが乗るのはゼフィランサス……ガンダムだ。MSの性能差というのは、大きいぞ」
ジム・カスタムも、最新鋭量産MSだ。
高性能なのは間違いないだろうが、それでもやはガンダムと比べると一段劣る。
MSの性能はコウが、パイロットの技量ではモンシアが勝っている。
そう考えると、意外とこの勝負は分からない。
「パイロットの技量が違いすぎる。士官学校出たての少尉が、1年戦争で戦い抜いたモンシアを相手に勝てると、本気で思ってるのか?」
「忘れてないか? ウラキはジオンの騎士の異名を持つニムバスを相手に生き残ったんだぞ?」
「それはニムバスが奪ったガンダムを持っていくのを優先したからだろう? もし本気で戦っていれば、どうしようもなかった筈だ」
「そうかもしれないな。けど、それを込みで考えても……それでもウラキが生き残ったというのは間違いない。だとすれば、モンシアに勝ててもおかしくはないと思わないか?」
実際にはそれプラス、原作主人公ならではの何かを期待してるんだが。
とはいえ、このUC世界で主人公となるとニュータイプの事が多いんだが、ウラキは俺と接触してもニュータイプ特有の何らかの反応を示したりはしなかった。
つまりそれは、ウラキはニュータイプではなくオールドタイプであるという事を意味している。
もっとも、オールドタイプだからといって弱い訳ではないのだが。
それを言うのなら、それこそモンシアだってオールドタイプだし。
今は俺の護衛をやっているノリスや、ハワイにいるガトーやヴィッシュなんかも同様だろう。
そんな訳で、ニュータイプだからといって必ずしも強者という訳ではない。
ないのだが、そういうプラスαがなければウラキが勝利するのは難しそうであるのも事実。
まぁ、それでも何とかするからこそ、主人公なのだろうが。
「思わねぇけどな。モンシアが負ける可能性は皆無だ」
「ベイトがそう思うのなら、それはそれで別に構わない。……どうやら始まるようだぞ」
映像モニタが表示され、そこに映し出されたのは……
「あれは、俺達がよく演習をやってる……」
バニングが映像モニタを見て、そう呟く声が聞こえてきた。
「バニング、説明を頼む」
「1年戦争の時にコロニーの部品が落ちた場所だ。この基地でMSの演習をやる時に頻繁に使われている場所だな」
「……コロニーの落ちた地でって感じか」
「上手い事を言うな。……今の状況でそのような事を言うのは不謹慎かもしれないが」
そんな風に言葉を交わしている間に、シミュレータを使った模擬戦が始まった。
最初に動いたのは、ウラキ。
人に近い動きをするのを目的として設計されたゼフィランサスの構造を十分に活かした動きが行われる。
その動きに一瞬戸惑った様子を見せるモンシア。
ゼフィランサスの動きが、モンシアの予想とは随分と違ったのだろう。
なるほど、ニナが言っていたウラキがゼフィランサスの性能を引き出しているというのはこの事か。
とはいえ、ゼフィランサスがビームライフルの銃口を向けると、モンシアもまた即座に動く。
ゼフィランサスの動きに対する戸惑いは、ビームライフルの銃口を向けられた事ですぐに消えたのだろう。
そしてこちらもジム・カスタムのスラスターを全開にして、ゼフィランサスとの間合いを詰めていく。
「ふむ、以前よりも腕が上がっているな」
「そりゃそうですよ、バニング大尉。俺達だって、別に遊んでいた訳じゃないんですから」
バニングの言葉に、ベイトが自慢げに言う。
実際、ベイトもまたモンシアと同じように操縦技術は以前よりも……1年戦争の時よりも上がっているのだろう。
また、乗っているMSの性能が上がったというのも大きい。
ジム・カスタムという高性能機を与えられているのは、モンシアの操縦技術が非常に高いからだろう。
同じ感じで、問題児でもあるが。
そんな風に考えている間にも、モンシアとウラキはコロニーの残骸を盾にしながら撃ち合う。
ただ、それでも戦いが終わる様子はない。
モンシアにとって、恐らくこれは予想外の展開だったのだろう。
それを示すかのように、モンシアはビームライフルを撃ちつつ、コロニーの残骸の中に突っ込んでいく。
外に落ちているコロニーの残骸は、それこそ破片だ。
だが、戦闘のフィールドには巨大な……それこそ、コロニー落としでも壊れなかったコロニーの一部、MSが中に入ってもある程度自由に動き回れるだけの内部空間を持つ残骸もある。
なるほど、ゼフィランサスの特徴でもある人らしい動き。
それによって、ちょこまか動かれるのはモンシアにとって面白くなかったのだろう。
だからこそコロニーの残骸の中という限定された空間の中で勝負をつけようとした訳か。
とはいえ、分かっているのか? 狭い場所に入るという事は、モンシアの乗るジム・カスタムもまた、外のように自由に動くのは難しいのだが。
モンシアの性格を考えれば、そのくらいの事は分かっていると思いたいが……モンシアだと考えると、特に考えもせず、思いつきで行動した可能性も十分にあった。
とはいえ、それでも何とかしてきたからこそ、モンシアは不死身の第4小隊と呼ばれる者達の一員として数えられるようになったのだろうが。
「お、上手い」
ベイトがそう言ったのは、コロニーの残骸の中に入ったモンシアのジム・カスタムが、中に入った途端にスラスターを全開にして上に跳んだからだろう。
上にはコロニーの残骸が結構な数あり、それを盾代わりにしながら、残骸の隙間からライフルの銃口を突き出す。
後はコウのゼフィランサスが中に入ってきたのを狙い撃てば、それで勝利となる。
なるのだが……
「コロニーの残骸だってのを忘れてないか?」
そう俺が呟くと同時に、モンシアのジム・カスタムの乗っていた場所が崩れ、地上に向かって落下していく。
当然ながらゼフィランサスもそんな敵の姿に気が付いてビームライフルを撃つが……
「未熟だな」
1発もビームがジム・カスタムに当たらないのを見て、そう言う。
もしこれが俺なら、それこそ1発で決めただろう。
そういう意味ではモンシアはウラキの未熟さに助けられたな。
そして……モンシアは何とか機体の体勢を立て直し、コロニーの残骸の中で撃ち合いが始まる。
ゼフィランサスはその機動性を活かしてコロニーの残骸の中で素早く動き回るが……さっきのモンシアと同じく、戦場となっているのがコロニーの残骸の場所だというのを忘れているようで……
「あ、馬鹿」
ジム・カスタムと向き合ったまま、後ろ向きに跳んだゼフィランサスだが、コロニーの内壁にぶつかって、その動きを止めるのだった。