ウラキのゼフィランサスと、モンシアのジム・カスタムによるシミュレータでの模擬戦。
俺は原作主人公だろうという事で、ウラキが勝つ方に賭けていた。
だが……シミュレータの内容が映し出されている映像モニタでは、コロニー落としで地球に落ちたコロニーの残骸の中での戦いで、ウラキが周囲の様子を確認せずにゼフィランサスのスラスターを吹かしたところ、コロニーの残骸の外壁部分に思い切り機体をぶつけてしまい、それによって動きが止まった。
「コウ!」
映像モニタを見ていた眼鏡を掛けた気の弱そうな男……キースが叫ぶ。
無理もないか。
動きの止まったコウのゼフィランサスは、ベテランであるモンシアにとってはいい獲物でしかない。
「行けぇっ、モンシア!」
悲痛に叫ぶキースとは裏腹に、ベイトはやる気満々といった様子を見せていた。
俺がウラキに賭けたのと同じように、ベイトはモンシアの勝利に賭けている。
そんなベイトにしてみれば、映像モニタの光景はまさに自分の勝利だと、そう思ったのだろうが……次の瞬間、ゼフィランサスがスラスター……いや、排気ダクトか。それを全開にして大きく空気を放つ事によって、映像モニタが土埃に覆われる。
元々、オーストラリアというのは乾燥した空気を持つ。
そんな中で……しかも4年前に落ちたコロニーの中でそのような事をすれば、土埃が周囲一帯に舞い上がるのは当然の事だった。
……シミュレータでそこまで再現してるのは、素直に凄いと思ったが。
ともあれ、このウラキの行動はモンシアにとっても完全に予想外だったらしく、持っているライフルの銃口を慌てて動かす。
そのまま撃てば命中していたんじゃ?
そんな風に思った俺は、決して悪くはない筈だ。
排気ダクトを全開にしたとはいえ、まだゼフィランサスは地面に座り込んだ状態であったのだから。
予想外の事態に、モンシアが動揺した……といったところか。
この辺、モンシアは甘い。
いや、そのような状況を作ったウラキを褒めるべきか?
ウラキはMSオタクとしてゼフィランサスの性能についても深く理解していたのだから、排気ダクトを使って一体どれだけの土埃を巻き起こせるのかというのを、咄嗟の判断で行ったのだろうし。
モンシアにとっては完全に予想外の展開だったのだろう。
ジム・カスタムの動きが止まる。
どこに向かってジムライフルを撃てばいいのか、分からなかったのだろう。
「あーあ」
モンシアの行動に自分でも知らずにそんな声を漏らす。
ゼフィランサスが土煙を起こしたとはいえ、だからといってゼフィランサスが消えた訳ではない。
土煙を起こした瞬間に発砲していれば、もしかしたらゼフィランサスを撃破出来ていたかもしれないし、それが無理でも多少は損傷を与えた可能性があったんだが。
だが、モンシアの躊躇がウラキに勝機を与えた。
土煙の中から姿を現したゼフィランサスは、ジム・カスタムに体当たりをしてコロニーの残骸を破壊し、外に出る。
結果……コロニーの外壁とゼフィランサスに挟まれたジム・カスタムは、そのまま地面に倒れ込む。
地面に倒れても、ジム・カスタムがジムライフルの銃口をゼフィランサスに向けていたら、また話は違ったかもしれない。
だが残念ながら、銃口はゼフィランサスではなくあらぬ方向を見ており……ゼフィランサスはビームライフルの銃口をジム・カスタムのコックピットに向け、トリガーを引き……それでモンシアのジム・カスタムは撃破判定となるのだった。
「嘘だろ……」
大逆転の大穴。
まさにそんな感じの結果となって、それを見ていたベイトの口からはそんな声が漏れる。
ベイトにしてみれば、いわゆる鉄板だと思っていたのに、それが見事に外れた形だ。
信じられないし、信じたくないのだろう。
そんなベイトの肩に手を伸ばす。
「さて、ベイト。今回の賭けは俺の勝ちという事でいいよな?」
「ぐ……うう……分かったよ、畜生! 俺の負けだ! モンシアの馬鹿が、何であそこで……」
不満一杯といった様子だったが、それでも素直に自分の負けを認めるベイト。
とはいえ、賭けてはいたものの具体的に何を賭けるのかというのは決めていなかったな。
「なら、これで貸しが1な。今度何かで返して貰うから、そのつもりでいてくれ」
「……アクセルに借りを作るのかよ……」
嫌そうに、本当に心の底から嫌そうに言うベイト。
無理もないか。
自分で言うのもなんだが、もし俺がベイトの立場であっても、恐らく同じように思うだろうし。
「賭けに誘ってきたのはベイトだったし、俺が無理にウラキに賭けた訳でもないからな」
「……分かってるよ」
ベイトが不満そうに言うと、丁度そのタイミングでモンシアとウラキがシミュレータから出てくる。
ウラキはどこか戸惑った様子だったが、モンシアはそんなウラキを睨み付けていた。
モンシアにしてみれば、この結果は納得出来なかったのだろう。
……まぁ、無理もない。
モンシアとウラキではMSの操縦技術という意味では間違いなくモンシアの方が上だったのだから。
だが、そんな中でもウラキは勝った。
ゼフィランサスの性能の差というのも、この場合はあるだろう。
MSの性能差が絶対的な戦力差となった、まさに好例なのは間違いない。
ただし、それを込みで考えても普通ならウラキが勝つのは不可能だった筈だ。
それでもウラキが勝てたのは、最後の土煙の件のように咄嗟の判断であったり、あるいはモンシアが最初からウラキを見下していたりといった点が大きいが……この世界の原作について知っている俺にしてみれば、まさに原作主人公の力と考えてもいいだろう。
今の模擬戦が始まるまでは、ゼフィランサスを操縦したという事で恐らく主人公だろうと思いつつも、まだ確信はなかった。
オルフェンズ世界においても、当初はオルガと三日月のどちらが主人公なのか迷ったが……それと比べると、コウはまだ分かりやすかったな。
何しろ他に主人公となりそうな相手はいなかったし。
他に可能性があるとすれば、バニングかキースくらいか?
だが、バニングは年齢的に主人公とは思えなかった。
いやまぁ、世の中にはバニングくらいの年齢で主人公という作品もあったりするのだが、それでもガンダム系の作品の原作主人公となると、今まで俺が体験して来た経験から、それはないだろうと思えた。
SEED世界、W世界、X世界、オルフェンズ世界。
これらのガンダム世界でも主人公は全員が若かった。
いやまぁ、X世界ではガロードとジャミルのどっちが主人公かで迷ったが。
とはいえ、恐らく俺が経験したX世界は続編とか2とかそういうので、ジャミルは1の主人公だったんだろうなとは、今でも思っているが。
ともあれ、それでバニング主人公説は却下として、キースは……うん。キースはキースで、その性格から違うような気がしたんだよな。
まぁ、アムロとかも最初は気弱……とまではいかないが、決して活発な性格という訳でもなかったし、それはSEED世界のキラも同様だ。
そういう意味では、キースが主人公という可能性も否定は出来ないんだが
「ウラキぃっ!」
ウラキを睨み付けていたモンシアが、やがてそう叫ぶ。
当然ながら、そんな大声を出せば周囲にいる者達が一体何があったのかといった視線を向けるも当然な訳で……
だが、モンシアはそんな周囲の様子など気にした様子もなく、苛立ちを露わにしながら、ウラキに近付いていく。
そんなモンシアの前に立ち塞がったのは……予想外な事に、ニナ。
いきなり目の前に出て来たニナを前に、モンシアの怒りは急速に収まっていく。
まぁ、モンシアは最初ニナを口説こうとしていたくらいだ。
女に弱いというのは、モンシアの短所なのか、長所なのか。
「モンシア中尉、貴方はこの模擬戦でウラキ少尉が勝ったら、ゼフィランサスのパイロットとして認めるという事でしたよね?」
「いや、ニナさん。それは……けど、今のはシミュレータです。実際にMSを使って戦えば、俺がそんな奴に負けるなんざありませんぜ」
そんなモンシアの言葉に、微妙な表情を浮かべるニナ。
無理もないか。
多分、フィフス・ルナで俺と初めて会った時の事を思いだしてるんだろうし。
最初俺の外見からガンダム開発計画のテストパイロットとしては到底認められないと言い、それならと実力を見せる為にシミュレータをやったが、シミュレータはシミュレータで結局は実戦ではないという事になって実機で模擬戦をやる事になった。
それはニナが強硬に言い張った事で……まぁ、それでもニナとモンシアの違いはあるが。
ニナは実際に俺が実力を見せると、予想外なまでに素直に俺をガンダム開発計画のテストパイロットとして認めたが、モンシアの方は自分で認めると言ったにも関わらず、ウラキの事を決して認めるようには思えない。
この辺は大きく違ってくるな。
「男に二言はないという言葉をご存じないのかしら? ……自分の言葉をすぐに撤回するような人、私は軽蔑します」
「そんなぁ……ニナさん……」
ニナの切れ味鋭い言葉によって、モンシアは容易く撃沈する。
モンシアにしてみれば、これは完全に予想外の言葉だったのだろう。
ウラキにとって幸いだったのは、ニナの登場とその衝撃的な言葉でモンシアの意識はウラキからニナに完全に移った事か。
……もっとも、それはあくまでも今だけの話で、ニナがいなければまたモンシアはウラキに絡むのだろうが。
「この件については、しっかりとシナプス艦長に報告させて貰います」
「ちょっ、ニナさん!? 別に俺は何か悪い事をした訳じゃあ……」
「そうですね。ですが、さっきも言いましたが、シミュレータを挑む時にウラキ少尉が自分に勝ったらゼフィランサスのパイロットとして認めるといったような事を言っていたでしょう?」
「ぐっ、それは……」
「歴戦のパイロットであるモンシア中尉がウラキ少尉をゼフィランサスのパイロットとして認めるといった発言をされたのです。ゼフィランサスのシステムエンジニアとして、私はこの件についてシナプス艦長に報告する必要が……」
「パープルトンさん、少しいいですか?」
惚れた弱み……という表現が正しいのかどうかは分からないが、それでもとにかく好みの女という事で言い寄ろうとしていただけに、モンシアはニナに弱い。
そんなニナに一方的に言われていたモンシアだったが、声を掛けてきたバニングに対し、救いの神に向けるような視線を向ける。
モンシアにとって、バニングはやはり頼れる上官といったところなのだろう。
「何でしょう?」
「今回の件、艦長に知らせるのはこちらに任せて貰えませんか」
「……バニング大尉に?」
「ええ。今の戦いを見て、色々と思いついた事があったので」
「それは……」
バニングの言葉に、ニナはどうすればいいのか迷った様子を見せる。
無理もないか。
ニナもトリントン基地には来たばかりなのだから。
ニナとバニングの会話を考えると、面識はあるようだが。
まぁ、ゼフィランサスとサイサリスの地上で運用データを取る為にトリントン基地に下りてきたのだから、それを考えるとトリントン基地のMS隊の中でも優秀なパイロットだったバニングと面識があるのはおかしな話ではない。
そう思っていると、ニナがこっちに視線を向けてくる。
どのように判断すればいいのか、ニナには分からなかったのだろう。
なので、俺はそんなニナに頷く。
この件については、バニングに任せても構わないだろうと判断して。
モンシアが問題児なのは間違いないが、同時にバニングを深く尊敬し、慕っており、それによって頭が上がらないというのも理解はしている。
そう考えると、ここはバニングに任せた方がいいだろう。
……これで、バニングがモンシアを贔屓するような性格ならまた話は別なのだろうが、幸いなことにバニングはそのような性格ではない。
「分かりました。では、この件はバニング大尉にお任せします」
「ありがとうございます」
ニナがバニングの言葉に頷くと、バニングも感謝の言葉を口にする。
それを見ていたモンシアが嬉しそうにしているが……バニングの性格からして、今回の一件を誤魔化すような事はまずしないだろう。
まぁ、その件については俺がどうこう言う必要はない……いや、そうでもないか?
俺とノリスもこのアルビオンでニムバスを追うのだ。
そうなると、アルビオンでゴタゴタがあって雰囲気が悪くなるのは俺にとっても好ましい事にはならない。
もしそうなったら、面倒だが介入した方がいいな。
ニムバスの件については他人事とは言えない。
現時点で一番危険なのはジャブローだが、ルナ・ジオンの領土であるハワイも決して安全という訳ではないのだから。
寧ろジオン軍残党にしてみれば、ジオン公国を裏切ってルナ・ジオンに所属した者達に対しては、それこそ恨みしかないだろうし。
だからこそニムバスが核兵器を使う前に、何としても止める必要があるのは間違いなかった。