「そうか」
「驚かないのか?」
バニングが俺の言葉にそう言ってくる。
アルビオンの展望デッキ。
そこで俺はバニングと2人で話をしていた。
なお、護衛のノリスは少し離れた場所で待機している。
そんな中、バニングから出て来た言葉が自分が……いや、コウやキースも含めた3人が、ニムバスが奪ったサイサリスの追撃任務に志願したというものだった。
だが、それを聞いた俺は特に驚いた様子がなかったのもあってか、バニングはそんな風に聞いてくる。
「そうなるだろうと予想はしていたしな」
これは半ば事実だが、半ば嘘でもある。
実際にそうなるだろうとは思っていたものの、それはコウが原作主人公であると判断したからというのが大きい。
もしコウが原作の主人公であるという認識がなければ、恐らくはバニングから話を聞いて驚いただろう。
この辺は原作の知識の有無……というより、ガンダム開発計画の原作があるのだろうと予想出来ているのが大きい。
「そうか。……それで、だが」
「ん? まだ何かあるのか?」
てっきりコウが追撃任務に志願した……つまり、ゼフィランサスのパイロットに正式に決まったという話を持ってきたのかと思ったんだが、どうやら違ったらしい。
少し言いにくそうにしながらも、やがてバニングは口を開く。
「その、だな。実はシナプス艦長から俺がMS隊の指揮を執れと言われたんだが……」
「ああ、なるほど」
バニングの言いたい事は理解出来る。
バニングにしてみれば、自分よりも明らかな強者である俺がいるのに、自分がMS隊の指揮を執るというのが後ろめたいのだろう。
とはいえ……
「それは別に構わないだろう? 俺は今回こうして協力しているとはいえ、結局のところ所属はルナ・ジオンだ。連邦軍に所属するアルビオンのMS隊の指揮を執るというのは、問題があるだろうし」
これで、例えばルナ・ジオンと連邦が友好国……いや、同盟国であれば、少し話は変わるかもしれない。
いや、変わるか?
アルビオンにしろゼフィランサスにしろ、連邦軍の最重要機密であるガンダム開発計画の成果物だ。
それを運用する以上、友好国や同盟国でもない……それどころか、連邦軍の中で勢力を拡大してきた強硬派にとっては半ば敵国であるルナ・ジオンの、しかも大尉であるバニングよりも階級が低い中尉である俺にMS隊の指揮をさせるかと言えば、さすがに無理だろう。
ゴップ辺りならその辺について許容するかもしれないが、連邦軍上層部の多くの者にとって、それは決して許容出来ない事だろう。
もしそんな中で俺にMS隊の指揮を任せるという事になれば、それは寧ろアルビオン隊が作戦に失敗して、その原因をルナ・ジオン軍に所属している俺に押し付けるとか、そういう風に思えてしまう。
……もっとも、下手をすればジャブローに核攻撃が行われるかもしれない事態に、そんな事を考えているような余裕は、とてもではないがないだろうとは思うが。
それに何より、自分で言うのもなんだが俺は凄腕だ。
MS隊の指揮を執るよりも、普通に戦力として使った方が有効だろう。
それこそ俺1人でMS数機分どころではない働きが出来るのは間違いない。
実際には、それ以上の働きが出来る自信があったが。
「いいのか?」
俺の言葉に、意表を突かれたような表情を浮かべるバニング。
どうやらバニング的には、MS隊の指揮を自分がやるという事で、俺が不満に思うと考えていたらしい。
「別に構わない。これがルナ・ジオン軍の行動となれば話は別だが」
そう言うものの、当然ながら実際には別に俺はルナ・ジオン軍の所属ではなく、あくまでもそう見せ掛けているだけなので、もしルナ・ジオン軍でMS隊として行動するにしても、恐らくMS隊の指示は他の……もっとそういうのに慣れている者に任せるだろう。
そもそも所属がどうとか言ってるものの、俺が本当の意味で所属している……というか、率いているシャドウミラーであっても、大規模な戦いの時の指揮はコーネリアに任せて俺は単独行動してるし。
そういう意味では、やっぱり俺は指揮を執るのではなく、自分が真っ先に敵に突っ込んでいくのが向いてるんだよな。
……普通に考えて、1国の代表がそういうのをするのはどうかと思わないでもなかったが。
「そうか、分かった。……感謝する」
「別に感謝されるような事じゃない。寧ろ感謝するのなら、モーラ達メカニックに感謝した方がいいと思うぞ?」
このアルビオンで運用出来るMSは6機。
そしてバニング、コウ、キース、モンシア、ベイト、アデルで6人。
それにプラスして、俺とノリスのMSも運用するのだ。
つまり、本来なら6機の運用を前提としているアルビオンで、8機のMSを運用する事になる。
メカニック達は、今頃その辺りの調整で大わらわだろう。
6機のところ8機となるのだから、格納庫もかなり狭苦しくなるだろうし、いわゆるメンテナンスベッドの類も余分に搬入する必要がある。
「そうだな。何か差し入れでも考えておこう。……もっとも、今のトリントン基地の状態を考えると、それどころじゃないのかもしれないが」
ニムバス達がサイサリスを奪う時の陽動として行われた襲撃。
それによってトリントン基地が受けた被害は洒落にならないものがある。
そんな中でメカニック達に差し入れをしようとしても、そもそも差し入れする物がない。
こういう時に何を差し入れするのかは人によって違うのだが……まぁ、甘いものとか、そういうのが無難なところだろう。
それもケーキのような食べるのに皿やフォークが必要になるのではなく、仕事をしながらちょっと摘まめるような、クッキーとかそういうの。
……ちなみに、以前何かの表紙で見たのだが、ホワイトスターでムラタがショートケーキを箸で食べている写真なんてのがあった。
ケーキを箸って……いやまぁ、ムラタに合ってるかどうかと言われると、恐らく合ってはいるのだろうが。
ただ、それでも……うん。色々と驚いた覚えがある。
ムラタらしいと言えばらしいのだが。
「甘いもの、か。……確か以前何かで貰ったクッキーの詰め合わせがあったから、それでも持っていこう」
「そうしてやれ。……それにしても、今更だがアクセルがガンダム開発計画に関係してるとは思わなかったよ」
「本当に今更の話だな。……まぁ、俺にとっても自分がここまでこの件に関わるとは思ってなかったが」
ガンダム開発計画については、以前から少し聞いてはいた。
それでもまさか自分がテストパイロットになるとは思っていなかったのだ。
……もっとも、アナハイムがガーベラ・テトラを報酬として渡すと言ってきたのが、俺が参加した大きな理由だったが。
そう言えば、ガーベラ・テトラ、どうなったんだろうな。
ゼフィランサスとサイサリスの件が片付いた以上、現在急ピッチで製造が進められてもおかしくはないと思うが。
「アクセルがいれば、ガンダムも奪われなかったんだろうが……それが悔しいよ」
「それについては……向こうの運が良かったとしか言いようがないな」
俺がオルフェンズ世界でオルガの結婚式に参加する為、この世界を留守にしている時に襲撃されるとは思わなかったし。
もっとも、俺はこれをニムバス達が何らかの方法でその情報を知った上でトリントン基地を襲撃したのではないかと疑っているが。
でなければ、幾らなんでもタイミングが良すぎるし。
「アクセルがこの件に協力してくれるのは、俺にとっても助かる」
「気にするな。成り行きというのもあるし……何より、モンシア達が乗っているジム・カスタムを貰えるというのは大きいからな」
新型のMSを入手出来るというのは、大きい。
シミュレータで見た限り、ジム・カスタムはゼフィランサス程ではないが、かなり動けるMSだった。
ただ、このジム・カスタム……乗ってるパイロットからの評判はいいんだが、他の者の評判が……
いやまぁ、悪いって訳じゃないんだが。
何でも『特長がないのが特徴』という、そんなMSらしい。
ジム系MSの中でも、個人的には好きなフォルムをしてるし、モンシアが乗ってるのを見た限りでは決して悪くはないと思うんだが。
特徴がないのが特徴というのも、別に悪い評判って訳ではないし。
量産型の汎用MSとして考えれば、特徴がないのが特徴というのは寧ろ褒め言葉だろう。
ジム・カスタムを開発した者達が、それを聞いて喜ぶかどうかはまた別の話だったが。
「俺の機体も含めて搬入される筈だが……それが具体的にいつになるのかは分からないな」
バニングもまた、ジム・カスタムには興味津々らしい。
聞いた話によると、バニングはニムバスの追撃をした時にはジム改に乗っていたらしい。
ジム改も悪くない機体ではあるが……やはりジム・カスタムに比べれば劣る。
とはいえ、左遷先として知られるトリントン基地のMS隊という事を考えれば、ジム改でも問題はなかったのだろうが。
「というか……今更、本当に今更の話だが、何でバニングはトリントン基地にいたんだ?」
不死身の第4小隊という異名からも分かるように、バニングは1年戦争で相応に活躍した。
MSパイロットとしての技量は高く、それこそ第一線であってもやっていけるだろう。
……もっとも、今となっては第一線であっても戦うのはジオン軍残党とかだろうが。
明確な敵は現在のところ存在しないし。
もしくは、連邦軍にとってはルナ・ジオンやジオン共和国が敵国か?
もっともルナ・ジオンはともかく、ジオン共和国は戦力が制限されているし、兵器メーカーもルナ・ジオン、アナハイム、連邦……それ以外にも色々と引き抜きがあったりして、新型MSを開発出来るような状況ではない。
いや、そもそも新型MSの開発は禁止されてるんだったか?
ともあれそんな訳で、ジオン共和国は連邦軍にしてみれば敵ではないという認識だったりする。
……もっとも、現在のジオン共和国はガルマが率いていて、そのカリスマ性で国は纏まっている。
戦力的にも白狼の異名を持つシン・マツナガを中心にドズル派の者達が集まっているので、ニュータイプとかそういう特筆すべき戦力はいないものの、古強者と呼ぶのに相応しい者達が揃っているので、そこまで侮れるような相手ではないのだが。
とはいえ、ルナ・ジオンという明確な……それこそ後ろ盾となっているシャドウミラーを考えると、連邦軍以上の戦力を持つ国が仮想敵国として存在してるので、そういう意味ではジオン共和国は安心なのかもしれないな。
そんな風に思っていると……
「失礼します、アクセル中尉、バニング大尉、シナプス艦長が艦長室に来て欲しいとの事です」
ブリッジクルーのシモンが俺の前までやってくると、そう声を掛けてくる。
「シナプス艦長が? ……分かった、俺もアクセルもすぐに向かう」
バニングの言葉にシモンは敬礼し、立ち去る。
「そんな訳で、シナプス艦長が用事らしい。何だと思う?」
シモンの後ろ姿……特に腰の辺りを見ていたバニングが、そう聞いてくる。
モンシア程に露骨ではないが、バニングも女好きなのは間違いないんだよな。
シモンは顔立ちも整っており、いかにも出来る女……少し古い表現になるが、キャリアウーマン的な感じだ。
それこそニナと同じような感じか。
もっとも、ニナはMSオタクという……人によっては欠点と見なすこともある特徴を持っていた。
それに対して、シモンはそういうのがない。
いや、シモンと接する機会がそう多くある訳ではないので、実は何らかの欠点があっても俺が知らないだけなのかもしれないが。
「バニングはともかく、俺まで呼ぶと考えると……ニムバスを追跡する為の情報が入ったとか、そういう感じじゃないか? 具体的にどこなのかというのは分からないが」
ここがオーストラリアだとすると、東南アジアとか、その辺の可能性が高いか?
東南アジアはジャングルのある場所が多い。
ジオン軍残党が隠れるには、これ以上ない場所だ。
それにゲリラの類も多い。
ゲリラにしてみれば、連邦軍もジオン軍残党も好ましい相手ではない。
だが、何らかの取引であったり、もしくはより大きい敵である連邦軍と戦う為にジオン軍残党と一時的にしろ協力するという可能性は決して否定出来ない。
……もっとも、俺が知っているニムバスの性格を考えると、同じジオン軍残党ならともかく、地元のゲリラと手を組むとは思えなかったが。
寧ろかなりのプライドの高さから考えると、ジオン軍残党であってもキシリア派以外の相手と手を組むとは思えない。
まぁ、これはあくまでも1年戦争の時にちょっと知った程度の情報だ。
1年戦争が終了して3年ほどが経過している今であれば、ジオン軍残党として苦汁を舐めているニムバスの性格が以前と同じとは限らない訳だ。
そんな風に思いつつ、俺はバニングと話しながら護衛のノリスも連れて艦長室に向かうのだった。