トリントン基地からアルビオンが出撃する。
俺はその光景を、アルビオンの中から見ていた。
ニムバス率いるジオン軍残党の襲撃によって受けたトリントン基地の被害は、今こうして見ている中でも俺がトリントン基地に来た時とそう違いはない。
……どこから持ってきたのか、ザクタンクによって瓦礫を撤去している光景すら見える。
「凄いわね、あのザクタンク。……知ってる? ザクタンクというのはそういう名称で登録されているけど、基本的に同じ外見という機体はないのよ」
窓から外を見ていた俺に、ニナが近付いてきてそう言う。
……離れた場所ではモンシアが恨めしそうな視線を向けているが、それについては気にしないようにする。
モンシアにしてみれば、ニナとお近づきになりたいが、俺がいるのでそうも出来ないといったところか。
「知ってるよ。ザクタンクは基本的に現地改修機だしな。……いや、リサイクルMSと呼んだ方がいいか?」
「そうなのよ。だから、ザクタンクは見ていて面白いMSなのは間違いないわ。……アクセルはよくザクタンクについて知ってたわね?」
「あのな、忘れてないか? 俺はこう見えても1年戦争に参加したMSパイロットなんだぞ?」
「……あ、そう言えばそうだったわね」
数秒の沈黙の後、ニナは驚きながらもそう言ってくる。
この様子を見ると、どうやら本当に忘れていたらしい。
突っ込みたい。思い切り突っ込みたいが、今の俺の外見を考えるとニナの言葉も分からないではないのも事実。
これがせめて、20代の姿ならそんな風にも言われないのだろうが。
もっとも、そうなったらそうなったでルナ・ジオン軍のアクセル・アルマー中尉ではなく、シャドウミラーを率いているアクセル・アルマーだとニナには見抜かれてしまうだろうが。
「それで、ニナは何でここに? ゼフィランサスの方はもういいのか?」
「ええ、今の状態で出来る修理はもう終わったから。後は……そうね。補給を受けた時にパーツを受け取って、それからになるわ」
「オービルもそれまでは自由な訳だ」
「ええ、そうだけど……何? 昨夜、私とオービルがアルビオンに残ると聞いてから、随分と気にしてるみたいだけど」
「……いや、何でもない」
そう言いはするが、俺の中ではオービルは半ば黒に近い灰色だ。
トリントン基地にアルビオンが来たその日……しかもサイサリスに核弾頭が積み込まれたのを見計らったかのように、ニムバスはサイサリスを奪取した。
そもそも、ニムバスはどうやってトリントン基地に侵入した?
幾らトリントン基地が左遷先のような場所であったとしても、連邦軍の基地なのは違いないのだ。
それも、核兵器を保管してる場所でもある。
警備が相応に厳しいのは間違いないのに、一体どうやってニムバスは基地内に侵入したのか。
……まぁ、本当に警備が厳しいのは核兵器を保管している場所であって、基地全体ではまさかトリントン基地が襲撃される事はないと思って気を抜いていた兵士も多かったかもしれないが。
ともあれ、そういう意味でもオービルは怪しい。
そして何よりも怪しいと思ったのは、やはりオービルがアルビオンに残った件だろう。
勿論、ニナが残ったのを見れば分かるように、アルビオンに残っただけで怪しいとは言わない。
言わないが、しかしニナの場合はゼフィランサスに強い執着を持っている。
それこそ、我が子とでも言いたげに。
また、MSオタクであるというのも、その辺については関係してるだろう。
だからこそ……そう、だからこそニナが残ると言われても俺は納得出来たが、それならオービルは何でだ?
ガンダム開発計画に参加しているのは間違いないが、だからといってアルビオンに残る程にガンダム開発計画に執心していたかと言えば、それは否だ。
とはいえ、それはあくまでも俺の予想でしかない。
場合によっては、妄想と呼ばれてもおかしくないだろう。
状況証拠すらない、完全に俺の予想なのだから。
あるいは、この世界には原作があると理解しているので、原作のある世界ならそういう風になってもおかしくないのではないかという思いもそこにはあったが。
「そう? まぁ、オービルは腕の立つメカニックなんだし、いてくれれば助かるのは間違いないけど」
「そうかもしれないな」
そうニナに返すが、オービルが非常に怪しい存在である以上、補給で俺のMSが来ても、オービルには触って欲しくない。
もしオービルが俺の予想通りジオン軍残党のスパイ、あるいはそこまで露骨ではなくても、そういう連中に情報を売って金儲けをしていたりした場合、俺が邪魔になるからといってMSに小細工をする可能性は十分にあったのだから。
オービルもフィフス・ルナにいた以上、当然ながら俺がMSを操縦する光景は見ているし、ガンダム開発計画の関係者である以上、各種データも見ている筈だ。
そうなると、俺がニムバスの追撃でMS戦力として加わるのはオービルにとって明らかに都合が悪い。
ニムバスが、あるいは他のジオン軍残党が捕らえられた時、その口から自分の名前が出る可能性がある。
だからこそ俺がMSで戦えないように、何らかの故障を装って俺が出撃出来なくさせるといった可能性は十分にある。
……それどころか、もっと最悪のパターンとしては時限爆弾か何かを仕掛けておいて、俺をMSごと爆破しようとするとか。
もっとも、俺は混沌精霊で物理攻撃はそれこそ核兵器の類であっても、効果はない。
それこそ生身で核兵器を使われた中心地にいても、無傷で生還するだろう。
とはいえ、当然ながらオービルはそんな事を知らない。
それに俺が無傷であっても、ジム・カスタムが失われるのは痛かった。
もっとも、MSの整備というのは1人でやる訳でもない以上、爆弾の類を仕掛けても他のメカニックに見つかるだろうが。
「ともあれ、今はまずアフリカに行くのを優先しないとな。……ちなみに、本当にちなみになんだが、もしジム・カスタムを受け取ったら、それを簡単にだが改修したりとかは出来るか?」
「え? それは……どうかしら。物資の問題もあるし、アフリカに到着するまでの時間はそんなに余裕はないから。……まぁ、アフリカに到着しても最初はコアファイターⅡを使った偵察が主になるだろうから、時間はあるかもしれないけど」
ジオン軍残党が攻めてくれば、ジム・カスタムやジム・キャノンⅡも迎撃に出るだろうが、そうでなければMSが偵察に出るといった事はない。
あるいはジオン軍残党の拠点らしき場所を見つけたのなら、いつ襲撃されてもおかしくはないようにMSで強行偵察をするといった可能性もあるかもしれないが。
今はまず、その怪しい場所すら見つけられていないのだから。
「改修は無理となると……調整は出来るよな?」
「……アクセルの言う調整って、普通の意味の調整じゃないのよね?」
フィフス・ルナでの俺のMSの操縦……特に新型パーツのデータ取りでどういう数値を出したのかを知っているニナだけに、俺に対してそんな風に聞いてくるのはそうおかしな事ではなかった。
「そうなるな。普通の範囲じゃなくて、可能な限り機体の反応速度を上げたい。1年戦争の時にちょっと触ったアレックスとかは、悪くない反応速度だった」
それでも俺が本気で操縦しようとすれば、MSは俺の反応速度についてこられない。
しかし、そんな中でもアレックスはMSの中では悪くなかった。
他にもピクシーとかも悪くなかったな。
「アレックス……アレックスね。そう言えば、アクセルは知ってる? モンシア中尉達が……いえ、アクセルがこれから乗る予定のジム・カスタムだけど」
何故モンシアの名前を出してから、俺の名前に言い換えたのかは、聞かない事にしよう。
もしモンシアがそれを知ったら、間違いなく悲しむだろうし。
「ジム・カスタムがどうした?」
「オーガスタ研究所で作られたMSで、そこにはアレックスの技術も流用されているらしいわよ」
「……そうなのか?」
ニナの言葉に驚いたが、考えてみればそうおかしな事ではない。
オーガスタ研究所にしてみれば、1年戦争の時にアレックスを開発したのだから、その技術を活かそうとするのは当然だろう。
……ニナがアレックスについて知っていたのには驚いたが。
アレックスは1年戦争当時、かなり機密度の高い機体だった。
それをニナが知ってるのは……MSオタクだからなのか、それともガンダム開発計画で必要になると連邦軍から渡されたデータにそれが入っていたのか。
その辺については、生憎と俺にも分からない。
普通なら後者だと思うのだろうが、何しろニナだ。
MSオタクとして、どこにどういう繋がりがあるのか分からない。
そんな俺には理解出来ない繋がりから、アレックスの情報について仕入れていても、俺は驚かない。
いやまぁ、マジか? という思いがあるのは間違いないが。
「ええ。オーガスタ研究所の中ではかなり重要視されているようね。きちんと体系化されて、MSの技術として流用出来るようになってるらしいわ」
「……なるほど」
それはつまり、ジム・カスタムはアレックスの後継機という事に……はならないか。
寧ろ、ガンダムに対するジムのように、アレックスに対するジム・カスタムといったところか。
これはあくまでも俺が受けた印象なので、実際のところどうなのかは分からないが。
ただ、恐らくはそう間違っていないと思う。
「だから、それなりに性能はいいと思うわよ? ……まぁ、それでアクセルがストレスなく操縦出来るかと言われると、素直に頷けないのも事実だけど」
「つまり、結局設定は必要な訳だ。さっき言ったように、俺用に」
「そうね。そして残ったアナハイムの人員は私とオービルだけど、その辺は私の担当になるでしょうね。他にも色々と意見を聞く必要があるとは思うけど」
ニナはシステムエンジニアであっても、メカニックではない。
メカニック的な仕事も出来ない訳ではないが、それでもやはり本職には劣るといったところなのだろう。
「分かった。じゃあ、ジム・カスタムが来たら任せるよ」
そんな俺の言葉に、ニナは任せなさいと笑みを浮かべるのだった。
そしてトリントン基地を出発してから数日……アルビオンは無事アフリカに到着していた。
現在は数機のミデアと合流しており、補給を受けている。
そのミデアは、俺用のジム・カスタムも運び込んでいた。
勿論俺用のジム・カスタムだけではなく、バニングが乗る為のジム・カスタムであったり、キース用のジム・キャノンⅡであったり、ゼフィランサスの部品であったりとか、武器弾薬に日用雑貨等々。
色々な、本当に色々な補給物資を受け取っていた。
少し意外だったのは、キースのジム・キャノンⅡだ。
いやまぁ、コウが今回の任務に志願した以上、そのコウの友人のキースが参加するのも分かってはいたが……何となくMSに乗ってるってイメージがなかったんだよな。
もっとも、原作的な意味で考えればキースが今回の任務に志願するのはそうおかしな事ではないのかもしれないが。
とはいえ、ならキースが何に乗るのかと言われると……うん。
ちなみにトリントン基地を襲撃された時と、その後で追撃を行った時にキースが乗っていたのは、ザク……正確にはザクⅡF2型だったらしい。
一応キースもテストパイロットという事で、相応の操縦技術はあるんだろうが、それでもザクⅡF2で今回の任務は厳しいだろう。
そういう意味では、ジム・キャノンⅡが搬入されたのは悪くない話の筈だ。
あるいはジム・カスタムでもよかったのかもしれないが、キースは決してMSの操縦に自信があるというタイプではない以上、前線で戦わせるよりも後方から援護した方がいいだろうし。
それに、このアルビオン隊において後方から援護出来るのはアデルだけだ。
モンシアとベイトと一緒に行動してる時ならともかく、俺、バニング、コウ、キースの4人が新たに加わるとなると、援護用のMSは他にも必要になったのだろう。
そう考えると、このキースがジム・キャノンⅡに乗るのは自然な事といったところか。
もっとも、ジム・キャノンⅡはジム・カスタムと同様に現在の連邦軍の中では最新鋭MSだ。
ザクⅡF2を操縦していたキースに、ジム・キャノンⅡが使いこなせるかと言われれば正直なところ微妙ではあるが。
純粋に機体性能が違うというのもあるし、それをなしにしても汎用型のMSであるザクⅡF2と援護射撃用のジム・キャノンⅡとなると、その機体特性も大きく違う。
まぁ、それでもキースもテストパイロットである以上は相応の技量があるのだろうし……うん、多分大丈夫だとは思っておこう。
駄目なら駄目で、バニング……は、今はまだ骨折が治ってないから無理だから、同じジム・キャノンⅡに乗ってるアデル辺りに訓練を任せるというのもありだろう。
そう思いながら、俺は格納庫に運び込まれるMSを眺めるのだった。