『よぉし、ここは片付いた。アルビオンに戻るぞ!』
オービルを使って俺達を待ち伏せしていたジオン軍残党を倒すと、モンシアは声高にそう宣言する。
……いやまぁ、その気持ちも分からないではない。
ジオン軍残党の作戦にまんまと嵌まってしまったのだから。
待ち伏せについては、罠を食い破ったのでこちらに被害はないものの、それでも罠に嵌まったのも事実。
実際、アルビオンからの通信ではバニングは非常に怒っているという伝言すらされた程なのだから。
そう考えると、モンシアにしてみればここは出来るだけ早くアルビオンに戻ろうと思うのはそうおかしな事ではなかった。
実際、こうしてここにいる俺達が待ち伏せされたのを思えば、アルビオン側もまた襲撃されていてもおかしくはないのだから。
とはいえ、向こうにもベイトとアデルがいる。
それとまだ技量が未熟ではあるがキースもいるし、アルビオンも強襲揚陸艦として相応の攻撃力を持っている。
今回俺達を待ち伏せしていた程度の戦力であれば、撃退するのはそう難しくはない筈だ。
とはいえ、ここで俺達が勝利をしたのだから、向こうに行かないという選択肢はない。
そもそもの話、アルビオンが向かっているのはジオン軍残党の拠点となっているダイヤモンド廃鉱跡だ。
そこにニムバスがいてサイサリスがある以上、その奪還、もしくは撃破の任務を受けているアルビオンとしては当然だろう。
ジオン軍残党の戦力が具体的にどのくらいあるのかは分からない。
この戦いでのことを思えば、ある程度の戦力は消耗させただろうが。
……この一件でここまでの被害を出した以上、もうニムバスに協力したジオン軍残党は、戦力として期待は出来ないだろう。
この戦いが終われば、どのみちジオン軍残党として活動する事も不可能な筈だ。
あるいは、アフリカにはまだ他にも多数のジオン軍残党が存在するので、そちらに合流するのかもしれないが。
ただ、ちょっと疑問なのはニムバスの行動に何故他のジオン軍残党が協力しなかったという事だろう。
サイサリスの奪取はニムバスが動いている……つまり、キシリア派だからとか?
アルビオンのいる方、ダイヤモンド廃鉱跡のある方に向かってジム・カスタムを進ませながら、そんな風に考える。
そうして次第に遠くに戦闘の光が見え始めた。
「うわ、やっぱりアルビオンは襲撃されているみたいだな」
『ぐぬぅ……畜生が! ウラキぃっ! 先に行け!』
『自分が、でありますか?』
まさかモンシアからそのような事を言われるとは思っていなかったのか、ウラキが戸惑った様子で言う。
実際、モンシアのこの指示は俺にとっても少し意外だった。
さっきの戦闘でジオン軍残党を相手に見せたウラキの奮闘が、モンシアに多少は考えを改めさせた……といったところか?
もしくは、バニングが怒っているという伝言を聞いて、ここは少しでも点数を稼ぐ必要があると判断したのか。
その辺りは俺にもちょっと分からなかったが、とにかくウラキに対して先行しろという指示が出たのも事実。
「ノリス、ガトリングシールドの残弾はどのくらい残っている?」
当然ながら、アルビオンに向かう時にノリスはグフ・カスタムの主力武装であるガトリングシールドを回収している。
丘での戦いの時に外したが、グフ・カスタムが射撃武器として使うのにはこれが最適なのは間違いないしな。
『残弾は……3割といったところですな』
3割か。
まぁ、ないよりはマシか。
それにグフ・カスタム用の補給物資もアルビオンには搭載されているので、戦いの最中に残弾0になったら、一度アルビオンに戻って補給するというのはありかもしれない。
そこまでの余裕があるかどうかは微妙なところだが……それでもニムバスとサイサリスを逃すようになるよりは、多少苦労してでも補給をした方がいいのは間違いないだろう。
にしても、ニムバスはダイヤモンド廃鉱跡に逃げ込んでからどうするつもりなんだろうな?
ジャブローを狙うのか、それとも他のどこかを狙うのか……どうするにしろ、またどこか他のジオン軍残党と合流するのか。
「あれ?」
『あん? どうしたんだよ、アクセル』
「あ、いや。何でもない」
ふと、とんでもない……いや、突拍子もないことを思い浮かべて声を上げたが、それを聞いたモンシアの言葉に何でもないと返しておく。
何しろ俺が思い浮かべたのは、本当に突拍子もないことだったのだから。
……そう、もしかしたら、このままニムバスとサイサリスの追撃を続け、逃げ込んだジオン軍残党の戦力を全滅させれば、そこからまたニムバスはサイサリスに乗って逃げ出して別のジオン軍残党と合流する。
それを繰り返せば、効率的にアフリカにいる……あるいは地球にいるジオン軍残党を殲滅出来るのではないかと。
もっとも、ニムバスがそれを許容するとは思えない。
それこそいつ自棄になって核弾頭を使ってくるのか分からないのだから。
核弾頭の被害を考えると、そこまでしてジオン軍残党を潰す必要があるのか? と思ってしまう。
そうしてそんな馬鹿な考えをしている間に、ゼフィランサスは戦闘の起こっている方へ……アルビオンに向かって進んでいった。
さて、そうなると……
「モンシア、俺も先行する」
『はぁ? お前の機体は俺と同じジム・カスタムだろうが? なら、先行するなんて事は……』
モンシアの言いたい事は分かる。
俺の操縦するジム・カスタムは、ニナの手によって俺用に設定を変更している。
そういう意味では他のパイロットにとって扱いにくいだろうが、俺には扱いやすいジム・カスタムとなっているのだ。
だが……それでも、変えたのはあくまでも設定でしかない。
機体の改修をした訳ではないので、性能そのものはそれこそモンシアのジム・カスタムと変わらない。
設定を変える事によって変わってくるところもあるだろうが、それでも誤差の範囲内だ。
そんなジム・カスタムと違い、ゼフィランサスはガンダムタイプで間違いなく現在の連邦軍の中では最高峰の性能を持つ機体となる。
だからこそ、この状況で先に行ってもしっかりと役割を果たせるし、戦力となる事も出来る。
モンシアはそう言いたいのだろうが……
「俺の操縦技術を忘れたのか?」
その辺は操縦技術でどうとでもなるというのが俺の判断だった。
『そりゃあ……まぁ……』
俺の言葉に、モンシアは反論出来ずに納得するしかない。
1年戦争の時の経験と、アルビオン隊として行動するようになってからの模擬戦とか、そういうので余計にそう思ってるのだろう。
「なら、分かるだろう? 俺がそんな事で嘘を言うかどうか。それに……ゼフィランサスは高性能なMSだが、向こうはアルビオンを沈めるつもりで攻撃してくる筈だ。そうなると、援軍がウラキだけだと苦しいんじゃないか?」
本当にアルビオンを沈めにくるかどうかは分からない。
もしかしたら、ニムバスが逃げ出すまでの時間を稼ぐ為に防衛に徹する可能性も、ない訳ではないのだから。
しかし、それでもこういう時は最悪の展開を考えておいた方がいい。
……いやまぁ、本当の意味で最悪の展開となると、それこそアルビオンに向かって核弾頭を使うというのかもしれないが。
もっとも、それはあくまでもアルビオン隊にとって最悪な事で、連邦軍にしてみればここで核弾頭を使ってくれるのなら、寧ろ願ったり叶ったりだろう。
連邦軍にとって怖いのは、やはりいつどこでニムバスがサイサリスの核弾頭を使うのか分からない事だ。
1発だけ……1発だけなのだから、1度使ってしまえば、それで切り札はなくなる。
まぁ、そういう可能性はまずないと思うけど。
ニムバス……もしくはニムバスに指示を出したキシリアだって、何か考えがあってサイサリスを奪った筈だ。
元々キシリアは策略家として有名である以上、その辺はまず間違いないだろう。
実際に何を企んでいるのかは分からないが。
サイサリスを……核弾頭を何かに使おうとしてるのだから、ここで使う事はない。
もっとも、追い詰められて本当にもうどうしようもなくなったら、もしかしたらもしかするかもしれないので、完全に気を抜くといったことは出来ないが。
ともあれ、どのような状況になろうとも俺がアルビオンの側にいた方がいいのは、間違いない事実。
『ああもお、好きにしやがれ!』
モンシアの破れかぶれといったような声が聞こえてくる。
取りあえずこの小隊の指揮を執るモンシアの許可を貰った以上、先に行くとするか。
『アクセル中尉、私はどうすれば?』
「ノリスはモンシアと一緒に来い。グフ・カスタムだと、こっちと一緒に行動するのは難しいだろうし」
『了解しました』
グフ・カスタムもグフである以上、ド・ダイと行動を共にする事は出来るようになっているのだが、肝心要のそのド・ダイがここにはないしな。
こういう事になると知っていたら、ハワイから持ってくればよかった。
もしくは、いっそグフ・カスタムではなく、グフ・フライトタイプを持ってくるというのもありだったな。
グフ・フライトタイプはそこまで長時間ではないが、空を飛べる。
こういう時はかなり便利なMSなのだ。
……今更そういうのを言っても、仕方がないか。
ともあれ、ノリスに指示を出し終えたので俺はジム・カスタムのスラスターを全開にする。
それも上空に向かうのではなく、前方に向かうように機体の動きを調整して。
猛烈な速度で通りすぎて行く景色。
この状態で少しでもミスをすれば、それこそ機体は地面に突っ込んで損傷するだろう。
場合によっては、小破どころか中破……もしくは大破になってもおかしくはない。
操縦難易度はかなり高いものの、効果そのものはそこまで高くはない。
そんな技術だったが、それでも今の状況ではそれなりに使えるのも事実。
見る間にモンシアとノリスのMSとの距離が離れていく。
コックピットのセンサーでそれを確認しつつ、そう言えばリプサラスだったか? ギニアスが新しく作ったというか、技術立証試験機として作った新しいアプサラスは。
それを持ってくればよかったと思う。
とはいえ、リプサラスはアプサラスⅢ程の大きさではないにしろ、アプサラスⅡと同じくらいの大きさはあるので、ファットアンクルに搭載して運ぶのは無理だったが。
今更の話か。
それにリプサラスは技術立証試験機である以上、当然ながら連邦軍にあまりその情報を流したくはない。
特に強硬派がリプサラスについて知れば、間違いなく不満の声を上げるだろう。
それこそ、自分達がサイサリスやデンドロビウムの開発をアナハイムに委託したのを無視して。
……もっとも、ガンダム開発計画はコーウェンの主導で行われている。
強硬派とコーウェンの関係は良くない……どころか、半ば敵対関係に近い。
そうなると、同じ連邦軍でも自分達と一緒にするなと強硬派が言ってもおかしくはないか。
それが通用するかどうかはともかくとして。
そんな風に思いながら進んでいくと、やがて戦闘の光だけではなく、アルビオンの姿も見えてくる。
ミノフスキークラフトによって空を飛んでいるのもあってか、その姿はかなり見つけやすい。
「とはいえ、結構苦戦している感じか?」
それが合っているのかどうかは分からないが、何となくだが遠くから見た感じだとそういう風に思えたのも事実。
だからこそ、今は出来るだけ早くアルビオンのいる場所まで到着する必要があった。
もっとも、既にスラスターを全開にして進んでいるので、今以上には……いや、まだ手段があったな。
幸い、ここには俺だけで、モンシアの姿はない。
また、アルビオンから距離もあるので観測はされないだろう。
もっとも、レーダーの類で俺の操縦するジム・カスタムが急速に……機体限界以上の速度で近付いてくるとなれば、もしかしたら後で色々と聞かれる可能性もあるかもしれないが、今はまずアルビオンまで戻るのを優先しよう。
後で何かを聞かれたら、その時はその時で適当に誤魔化せばいいだろうし。
それで誤魔化せるかどうかは、正直微妙なところだったりするが。
そんな訳で……
「加速」
精神コマンドの加速を使う。
瞬間、ジム・カスタムは不思議な力に包まれ、移動速度が今まで以上に上がる。
アルビオンでレーダーを見ている者がいない事を願おう。
……いや、無理か。
ただでさえ今はジオン軍残党に襲撃されているのだ。
どこから向こうの援軍が来るのか分からない以上、レーダー手はしっかりとレーダーを確認しているだろう。
そうなるとやっぱりジム・カスタムの移動速度を疑問に思っても仕方がないか。
「加速」
精神コマンドの効果が切れたので、再度加速を使う。
何か言われたら、ルナ・ジオンがシャドウミラーから教えて貰った特殊な操縦方法だとでも誤魔化しておくとしよう。
そう思いながら、俺の操縦するジム・カスタムは戦場に突っ込んでいくのだった。