アフリカでの戦い……アルビオン隊にとっては、HLVを使って宇宙に脱出されたという事で、敗北と言ってもいい戦い。
ちなみに、もしかしたらHLVの発射は囮で、ニムバスによってサイサリスは別の場所に逃げ出したのではないかという俺の予想は、外れた。
当然ながらHLVというのは地球の重力からは脱出出来るが、それまでだ。
宇宙を航行する能力は……ない訳ではないだろうが、それでも限られたものでしかない。
その為、ニムバスを回収しにジオン軍残党が来るのは当然の事であり、コーウェンもシナプスからの連絡があってすぐに宇宙で動かせる部隊を動かし、結果としてサイサリスの回収部隊と遭遇し、戦いとなった。
ジオン軍残党と連邦軍……特に連邦軍の部隊はそこまで精鋭という訳ではなかったらしく、結構な被害を受けたのは間違いないらしい。
ただ、だからといって一方的にやられただけではなく、HLVからムサイ級に収容されるサイサリスの姿が確認され、その戦いの生き残りからの報告でサイサリスがあのHLVに乗っていたというのは確定したらしい。
……なお、シナプスから聞いた話によると、この件で一番喜んだのは予想通り連邦軍の上層部らしい。特にジャブローにいる、いわゆるモグラと呼ばれている者達。
ちなみに、このモグラの中には現在はシャドウミラーやルナ・ジオンと一番パイプが太いゴップも入っていた。
いやまぁ、専門が軍の補給とかそっち関係だから、ジャブローにいるのは当然の話で、自分達のいる場所が核弾頭を持ったサイサリスに狙われないというのは、嬉しいのだろうが。
まぁ、ジャブローは連邦軍の本部だ。
そこを破壊され、そこにいる人員が纏めて消滅した場合、連邦軍の混乱は非常に大きくなる。
そういう意味では、サイサリスが宇宙に脱出したというのは悪くない出来事だったのは間違いないだろう。
ちなみに、サイサリスの確認以外にも未知のMAっぽい感じの機体も数機確認したらしい。
キシリアがMSの開発に熱心だった事を考えれば、1年戦争が終わった後、キシリアのいる火星で新型MSを開発しているというのは、そうおかしな話ではないのかもしれないが。
俺にとってはサイサリスもそうだが、この新型MAの情報もありがたいものだった。
もっとも、それなりに数がいたという事は量産されているという事で……ルナ・ジオンじゃあるまいし、本当の意味でMAの量産というのはそう簡単に出来る事ではない。
つまり、そのMAは性能という点ではそこまででもないのだろう。
実際、連邦軍からの報告によると大型メガ粒子砲や拡散メガ粒子砲といったMAらしい武器は使っていなかったようだったし。
単純に性能を察知されないために隠しているとか、遭遇したのが決して練度の高い部隊ではなかったので、使うまでもないと判断されたのかは分からないが。
「では、アクセル中尉……いや、もう中尉と呼ぶ必要はありませんでしたな。アクセル殿、お気を付けて」
ノリスが敬礼をしながら、俺に向かってそう言ってくる。
アルビオンは宇宙に上がる事になったし、俺も宇宙に行く事にはなったが、その経路は違う。
無理を言えば恐らく俺もアルビオンで宇宙に行く事は出来たのだろうが、別行動をした方が効率的なのも間違いなかった。
「ああ、護衛は助かった」
「……いえ、それ程役には立てませんでしたので」
謙遜するように言うノリスだったが、俺はそんな風には思っていない。
ノリスという、異名持ちではないがそれと同等の力を持つ存在が戦力としてこっちに協力してくれたのだ。
そうである以上、俺にとっては決して悪くない事だった。
恐らくシナプスやバニングに聞いても、俺と同じような事を言うだろう。
「十分戦力になったのは間違いない。昨夜、ギニアスもそう言っていただろう?」
俺がハワイに到着したのは、昨日。
その為、昨日はギニアスから歓迎の宴を催して貰った。
その宴で俺はギニアスにノリスについて話したところ、それを聞いたギニアスは嬉しそうにしていたのだ。
それだけギニアスにとってノリスは信頼すべき相手なのだろう。
実際、ギニアスやアイナにとってノリスは親代わりという一面もあったらしいし。
そう考えれば、褒められて嬉しいのは当然なのだろう。
「……ありがとうございます」
少しだけ照れ臭そうな様子でノリスが言う。
そんなノリスと握手をして、俺はHLVに乗り込むのだった。
「お疲れ様です、アクセル中尉……でいいんですか?」
ハワイから宇宙に上がったHLVは、ペズンからやって来た部隊に回収される。
これはいつもの事で、ペズンは宇宙港的な役割もあった。
俺は声を掛けてきた相手に頷く。
「ああ、それでいい。今の俺はあくまでもルナ・ジオン軍所属のアクセル・アルマー中尉だからな」
シュタイナーに向かってそう言葉を返す。
ペズンの最高戦力であるサイクロプス隊を率いる、ハーディ・シュタイナー。
その最精鋭を率いるシュタイナーは、俺の言葉に困った様子で笑みを浮かべる。
「アクセル・アルマー中尉ですか。……いやはや、分かってはいた事ですが、随分とまぁ……慣れませんな」
シュタイナーにとって、俺はやはりシャドウミラーを率いるアクセル・アルマーであるという認識なのだろう。
「ガンダム開発計画に関わっている間だけの話だから我慢してくれ。それに……まぁ、アクセル中尉としてお前達と接する機会はもうあまりないだろうし」
ガンダム開発計画の一件……より正確には、それが関係した原作の一件。
それがいつまで続くのかは、俺には分からない。
あるいはペルソナ世界で原作知識の消失がなければ、もしかしたらこの原作についても理解出来ていたのかもしれないが。
これはあくまでも恐らくの話だが、このUC世界のガンダムの原作は数多い。
SEED世界では俺が関与した一件と……後はストライクフリーダム、インフィニットジャスティス、デスティニー、レジェンド、後はミネルバ。それにディアナと協力して新型MAを開発しているアドゥカーフ・メカノインダストリー社の一件を考えると、恐らく俺が経験した一件の続編があったのは間違いない。
W世界は……どうだろうな。デキム・バートンの件があったから、もしかしたら俺が関与した一件の続編があった可能性がある。
X世界は俺が関与した一件が恐らく続編で、ジャミルが主人公の前作があった可能性がある。
オルフェンズ世界は、恐らくエドモントンの一件があった後で、ギャラルホルンの内紛ということから2作があってもおかしくはない。もしくは、タントテンポとかの関係もあるので、そちらは外伝作品かもしれないが。
そんな訳で、俺が今まで関与してきたガンダム関係の世界の原作は1つの世界で1作……もしくは2作といったところなのに対し、このUC世界は違う。
今すぐに思いつくだけで、アムロが主人公としてガンダムを操縦した、恐らくこの世界のベースとなる原作。
それ以外にも今回のニムバスが関与したブルーデスティニーの一件、後は俺達に接触してきたので恐らくは原作と全く関係がなくなったアプサラスの一件、ペイルライダーの一件、サイクロプス隊とアレックスの一件、モニク達を救助した一件。他にも色々とあるが……1年戦争が終わった後なら、水天の涙に今回のガンダム開発計画。
1つの世界でこれだけ多種多様な騒動が起きていると考えると、このUC世界こそがガンダム関係の世界の本命というか、ベースというか、中心というか、そんな感じに思える。
勿論、これは俺の単なる予想でしかなく、実際には単なる勘違いである可能性も否定は出来ない。
だが、それでもこれまで多くの原作の世界を体験してきた身としては、このUC世界こそがガンダムという存在の根本的な世界であるというのは、そう間違ってはいないと思う。
「アクセル中尉、どうかしましたか?」
「ん? ああ、いや。悪い。何でもない。ちょっとガンダム開発計画の件を考えていたんだよ」
シュタイナーの言葉に、そう誤魔化す。
「なるほど。……個人的な意見ではありますが、恐らくソロモンで行われるであろう観艦式が危険でしょうな」
「……え? あれ、やるのか?」
ソロモンにおける観艦式。
その行為自体は、前々から予想されていたものだ。
目玉としては、連邦軍再編計画で開発された、バーミンガム級という戦艦のお披露目的な要素もある。
このバーミンガム級、純粋に戦艦としての性能という点では、かなり高性能な艦なのは間違いない。
だが、唯一にして最大の難点は、MSの運用能力を持たない事だろう。
コーウェンから聞いた話によると、このバーミンガム級は未だにMSの有用性を認めない……あるいは認めてもバーミンガム級には必要がないと判断した、大艦巨砲主義の者達によって開発が推進させられた戦艦だ。
この時代にMSの運用能力を持たない戦艦って、役に立つのか?
そう思わないでもなかったし、実際にコーウェンもその辺を心配していた。
いやまぁ、コーウェンの場合はバーミンガム級の開発に連邦軍再編計画の資金が投入された事によって、ガンダム開発計画に使える資金が少なくなってしまったというのが、この場合大きいのかもしれないが。
ともあれ、大艦巨砲主義の者達にしてみれば、バーミンガム級は自分達の妄想を現実にしたかのような、そんな戦艦だ。
そうである以上、それをお披露目する……見せびらかす為に観艦式を計画したらしい。
いや、それとも観艦式が前々から予定があって、そこでバーミンガム級を見せびらかす為に介入したのかもしれないが。
ともあれ、観艦式についてはそういう感じだった訳だが……サイサリスを奪ったニムバスが宇宙に脱出した以上、その観艦式が狙われる可能性は十分にあるのだから、てっきり中止、もしくはニムバスの件が片付くまで延期をするのだと思っていたのが。
「ええ、どうやらやるようですよ。本国の方にも招待状が届いたとか」
「……参加は見合わせた方がいいと思うけどな」
もし俺の予想が正しく、観艦式がサイサリスに襲撃された場合、招待されてルナ・ジオンから人を派遣していた場合、間違いなく巻き込まれる。
「自分にはその辺は分かりませんから何とも言えませんが、気になるのならアクセル中尉が月に戻った時に直接上に話をした方がいいのでは?」
「月に? ここで直接アルビオン隊に合流するんだとばかり思っていたんだが」
「月のディアナから連絡が来てたので」
シュタイナーの言葉に疑問を抱くが、ふと気が付く。
ディアナから連絡が来たという事は、もしかして……
「ガーベラ・テトラが出来たのか?」
「その辺は聞いてないので、私からは何とも。ただ、アクセル中尉が喜ぶようなことがあったというのは間違いないかと」
シュタイナーの言葉を考えると、やはり俺の予想通りガーベラ・テトラが出来たのか?
もっとも、基本的にはアナハイムの第2研究事業部が開発したのをクレハが改修したり調整したりして、それを月に……クレイドルにあるディアナに持ち込んで、それを完成させたといった事なのだろう。
もしかしたら、ガーベラ・テトラとは全く違う何らかの理由があるのかもしれないが。
ともあれ、月に向かうというシュタイナーの言葉に否はない。
アルビオンが宇宙に上がってくるまではまだ結構な時間がある筈だろうし。
その間に、こっちでやるべき事はやっておいてもいいだろう。
……もっとも、もし本当にニムバスが観艦式を狙ってくるのだとしたら、観艦式までにはまだそれなりに時間もある。
ある程度の余裕はある事になるだろう。
もっとも、そうなればそうなったでこっちも色々とやるべき事があるのは間違いなかったが。
「そうか。なら、月に向かうとしよう。このペズンを久しぶりに見て回るのもいいかもしれないと思ったんだけどな」
何だかんだと、俺がペズンに来る機会はそれなりに多い。
特にガンダム開発計画でフィフス・ルナに行く時は、ニーズヘッグを使ってペズンの内部に転移し、そしてペズンからナスカ級に乗ってフィフス・ルナに向かうといった事をしていたのだから。
他にも水天の涙の時とかもペズンを色々と使ったし。
地球のすぐ側にあるペズンは、非常に便利に使えるんだよな。
もっとも、それはそれだけペズンに注意が向けられるという事を意味している。
今はまだ大丈夫だが、いずれ……また何らかの原作の騒動があった時、あるいは原作関係なく連邦軍の強硬派が攻めてくるといった可能性も否定は出来なかった。
「アクセル中尉がペズンに来る機会はこれからもあるでしょうし、その時でもいいかと。……最近は、ペズンで開発している新型MSの開発も少しずつだが進んでいますので、今度はそれを見てもいいかもしれませんね」
そう言うシュタイナーの言葉に、俺は頷くのだった。