スラスターの推力によって、コックピットの映像モニタの画像がもの凄い速度で流れていく。
宇宙空間を飛び回るガーベラ・テトラの速度は、圧倒的だった。
……ゼフィランサスは結局満足な状態で宇宙での操縦は出来ないまま地上に降ろしたし、そして地上に降ろしてからはウラキが乗っていた。
そういう意味で、俺はガンダム開発計画のテストパイロットでありながらも、実はゼフィランサスには殆ど乗った事がないんだよな。
もっとも、このガーベラ・テトラを見て、実はガンダム開発計画で開発されたMSだと、より正確にはそれがベースになっているMSだとは、分からないだろうが。
「っと」
前方に見えてきたデブリを回避する為に、ショルダー・スラスター・ポッドを使って急激に機体の進行方向を変える。
なるほど、こうして考えるとかなり使いやすい機構なのは間違いないな。
もっとも大推力を一瞬にして使うというのは、当然ながらコックピットにいるパイロットに負担を掛ける。
俺がMSでよくやる、一瞬にしてMSが後ろを向くといったようなのに比べればまだマシだったが、それでも相応に厳しいのは間違いない。
Gに弱いパイロットなら、即座に気を失ったり、そこまでいかなくても操縦にミスが出るのは間違いないな。
そんな風に思いつつ、俺はガーベラ・テトラのスラスターを全開にしながら宇宙空間を飛ぶ。
強襲用をコンセプトとしているだけあって、MSの加速性、運動性、機動性……この全てが今まで乗ってきたUC世界のMSの中でもトップクラスなのは間違いない。
いや、加速性と運動性という点ではピクシーの方が上か?
まぁ、ピクシーは地上用MSなのに対して、ガーベラ・テトラは宇宙用のMSだ。
そういう意味では性能を一緒には出来ないだろう。
そんな風に思いながら宇宙空間を飛び回っていると……やがて、向こうにデブリ帯、いわゆる暗礁宙域が見えてくる。
月とサイド3の間にあるデブリ帯だ。
1年戦争の時に宇宙で破壊された戦闘機、MS、軍艦、それ以外にも様々なデブリが集まる場所だ。
勿論、それ以外……1年戦争以前の物も多い。
コロニーを作った時に出たゴミとか、場合によっては宇宙で事故った船の部品とか。
そんな諸々がここには集まっている。
地球の周囲にはこうして様々なデブリが集まっている場所というのは、それなりにある。
そのようなデブリ帯の中では、月とサイド3の間にあるデブリ帯は小規模な方だろう。
もっとも、小規模とはいえ、それはあくまでも他の場所と比べての話であり、このデブリ帯も相応に大きい。
ジオン軍残党が拠点としているのではないかという疑惑から、調査されたこともあるくらいには大きなデブリ帯だった。
もっとも、結局デブリ帯の中には特にジオン軍残党の拠点はなかったのだが。
まぁ、考えてみればルナ・ジオンのすぐ側に拠点を作るといった事はしないだろう。
……中には、灯台もと暗しを狙ってそういう事をする奴もいるかもしれないが。
ともあれ、このデブリ帯にはそういう連中がいないのは確認されている。
それに、このデブリ帯は月にいるジャンク屋にしてみれば宝の山だ。
小規模のジャンク屋であっても、宇宙船やプチモビの類をレンタルしてここまで来るのは難しくはないのだから。
本当の意味で大きなジャンク屋であれば、このデブリ帯ではなく、もっと大きなデブリ帯のある場所に向かうだろう。
そういう場所には、それこそMSどころか軍艦……サラミス級やムサイ級、場合によってはマゼラン級やザンジバル級とかが損傷の少ない状態で残っていたりもするらしい。
ジャンク屋にしてみれば、そんなのを確保出来れば大儲けとなる。
その為、大きなジャンク屋はそういう……月の近くにあるデブリ帯ではなく、もっとお宝の眠っている大きなデブリ帯に行ったりもするらしい。
もっとも、もっと大きなジャンク屋……例えばブッホ・ジャンクとかなら、デブリ帯ではなく小惑星とかを引っ張ってきて、それを採掘したりといった事をやったりするのだが。
『ちょっと、アクセル? 分かってると思うけど、デブリ帯が近付いて来てるわよ!?』
ガーベラ・テトラに乗ってみる為、現在母艦として使っているナスカ級から、クリスの焦ったような通信。
「分かっている。どうせなら、デブリ帯に突っ込んでみようと思ってな」
『ちょっ、本気!? まだ、ガーベラ・テトラに乗ったばかりなのよ!?』
「俺にそのくらいの事が出来ないとでも?」
そう言うと、クリスは黙り込む。
クリスも俺の操縦技術を知っているからこそ、俺ならそういうことも出来ると、そう考えたのだろう。
『分かったわ。アクセルなら大丈夫だと思う。……でも、何があるのか分からない以上、気を付けてね』
「任せろ」
そう言って通信を切ると、俺はスラスターを全開にしてデブリ帯に突っ込んでいく。
……シュツルム・ブースター・ユニットは装備していないが、もし装備していれば、恐らく俺もデブリ帯に突っ込むような事はしなかっただろう。
操縦技術に自信はあるものの、シュツルム・ブースター・ユニットを装備してとなると、物理的に通れない場所が多すぎる。
「さて、いよいよだな」
笑みを浮かべ、次の瞬間にはガーベラ・テトラはデブリ帯の中に突っ込んだ。
その瞬間、目の前にはMSの頭部程の大きさの岩塊があり、それをショルダー・スラスター・ポッドを使って回避する。
その先にも幾つもの岩塊や何らかの機械部品を思しきデブリがあるが、機体の各所にあるスラスターを使ってデブリを回避していく。
「お、丁度いいのがあったな」
機体を細かく動かしつつデブリを回避しながら進んでいくと、かなりの大きさ……それこそ、MS数機分の大きさの岩塊を発見し、ガーベラ・テトラの機体制御を行い、その岩塊に足から突っ込み……膝の部分を上手く使う事によって衝撃を吸収する。
次の瞬間には踏んだ岩塊を蹴って、速度を増す。
スラスターと機体制御を細かく行いながら、次々に岩塊を蹴っては速度を増していく。
普通に考えれば、デブリ帯の中でこうして速度を上げていくというのは、自殺行為でしかないだろう。
だが、幸いな事に俺にとってはこの程度は問題ない。
……問題ないどろか、まだ余裕一杯といった感じだ。
唯一注意しないといけないのが、機体の反応速度だ。
ガーベラ・テトラではそれなりに改善されているとはいえ、やはりそれなりでしかない。
その為、操縦する時は相応の加減をする必要があった。
そうしてガーベラ・テトラを操縦して、暗礁宙域の中を進んでいき……やがて、俺の操縦するガーベラ・テトラは、暗礁宙域を突破したのだった。
「で、どうかしら、アナハイムから提供されたガーベラ・テトラは」
暗礁宙域でのテストが終わった後、俺は月に戻って政庁にいるセイラとお茶をしていた。
セイラにしてみれば、今回のガンダム開発計画については色々と思うところがあるらしい。
当然か。
ガンダム開発計画のテストパイロットについて話を持ってきたのはセイラからなんだし、だというのに今のような状況になっているとなれば、思うところがあるのもおかしくはない。
俺としては、以前の水天の涙に続いて原作に関与出来たんだから、そこまで不満はないんだが。
「悪くない。いや、大分良い性能だな」
「そう。では、アルビオン隊と行動する時は、それを使用する予定かしら?」
「そのつもりだ。俺にとってはかなり操縦しやすいしな」
強襲用ということで、高い機動性と運動性を持つガーベラ・テトラは、俺向きのMSなのは間違いない。
「こちらからの戦力は……そうね、出せるのはどうにかナスカ級1隻だけよ」
「……少なくないか? いや、サイサリスの件があるから、月も防衛体制となるのは分かってるけど……」
そんな俺の言葉に、セイラは口に運んでいた紅茶のカップをソーサーの上に置き、首を横に振る。
「いえ、余剰戦力という意味ではルナ・ジオン軍にも相応にあります。それに……メギロートやバッタのような無人機もありますから」
「なら。何でだ?」
「……連邦軍からの要望です。最初はこちらの助力は完全にお断りといった様子でしたが、交渉をした結果何とか1隻だけ派遣する事が出来るようになりました」
「本気か?」
この場合の本気か? という言葉は、セイラに対して言ったのだが、実際に連邦軍に向けての言葉だ。
連邦軍にしてみれば、どこからサイサリスが出てくるか分からない以上、戦力というのは多ければ多い程にいい。
だというのに、こちらからの戦力提供を断るというのは……
「コーウェンなら面子とかそういうのよりも、サイサリスの対処を優先する筈だけどな」
「いえ、交渉を担当した者の話によると、連邦軍側から交渉で出て来たのはコーウェン准将の派閥の者ではなく、ジーン・コリニー大将の派閥の者だそうよ」
「ジーン・コリニー……? 誰だ、それは。いや、大将っていうくらいだから階級的に准将のコーウェンよりも上なのは間違いないんだろうが」
今まで聞いた覚えのない名前に、テーブルの上のクッキーに伸ばした手が止まる。
「強硬派がここ最近纏まってきているというのは知ってるかしら?」
「ああ」
「その強硬派を率いている……いえ、纏めている人物だと言えば、分かりやすいかしら」
「……なるほど。けど、そのコリニーとかいう奴にしても、サイサリスの一件を考えると戦力はあった方がいいと思うんだが? というか、ガンダム開発計画の主導はコーウェンだろう? なら。こういう時はコーウェンが出てくるんじゃないのか?」
「ガンダム開発計画を主導していたから、でしょうね。ガンダム試作2号機……サイサリスを、それも核弾頭を搭載した後で奪われたのだから、その責任は重いわ。その関係もあって、現在コーウェン准将の派閥はかなり押され気味よ」
「それはまた……こういう時に、派閥争いをしてる場合か? と突っ込みたくなるのは俺だけじゃないよな? いやまぁ、ニムバスがサイサリスと共に地球を脱出して宇宙に出たからというのも大きいのかもしれないけど。とはいえ、キシリア派は新型MAを開発するだけの力がある以上、油断は出来ないと思うんだが」
ピクリ、と。
セイラが紅茶のカップに伸ばした手が止まる。
そして俺に視線を向け、口を開く。
「MA? それは初耳なのだけれど、どこの情報かしら?」
「ん? 初耳? いや、地球からHLVで脱出したニムバスとサイサリスを回収に現れたムサイ級と連邦軍の艦隊が戦闘になった時、向こうに新型のMAがいたと聞いたが?」
「……ああ、その件ね」
俺の言葉にセイラは何かを少し思い出すようにしながら、口を開く。
「私に上がってきた情報によると、ディアナの方でその機体のデータを分析したところ、それはMAではなくMS……それもザクⅡF2と宇宙戦闘機のガトルを組み合わせたMSということらしいわね」
「……そうなのか?」
セイラの言葉に、俺は自分でも分かる程に意外そうな、そして残念そうな声を出す。
キシリア派が開発した新型MAだと思っていたら、実はニコイチのMSでした。
それもニコイチに使われたのはザクⅡF2とガトルでしたと言われれば、そう反応したくもなるだろう。
「アクセルも知っての通り、ディアナにはジオニック社出身の者達も多いわ。中には当然ながらザク系MS……特に今回話題になっているザクⅡF2の開発に関わった者も多いわ」
自分が開発に関わったMSである以上、ニコイチになっても見逃す筈がない、か。
新型MAかと思っていたら、実はニコイチのMS……うーん……このやるせない気持ちをどうしろと?
「というか、そのニコイチMSの件、よく情報が入手出来たな」
先程のセイラの話からすると、現在連邦軍で影響力を増しているのは強硬派を率いているコリニーという人物の筈だ。
そして強硬派は当然のようにルナ・ジオンを敵視している。
それこそガルマの治めているジオン共和国よりも、ルナ・ジオンの方を敵視しているくらいだ。
その理由としては、やはり国そのものの関係だろう。
ジオン共和国も今は連邦とは別国家として存在しているものの、それは連邦という国に従属しているような国に近い。
また、その独立についても現在の目処としてはUC100年には自治権をそのままにするか、それとも自治権を放棄するかという事の交渉をするらしいし。
ともあれ、そんな訳でジオン共和国は連邦にとって従えている存在という認識だ。
だが、ルナ・ジオンは違う。
連邦の従属国であるジオン共和国とは違い、完全に独立した国だ。
国土こそ連邦とは比べものにならないが、月という地球にとって一番重要な場所を本拠地としており、地球でもハワイという重要な場所を領土とし、ペズンのように地球の側に小惑星の基地がある。
強硬派にしてみれば、自分達と同等の存在というだけで、とてもではないが気に食わないのだろう。