コリニー率いる強硬派が連邦軍の中で強い影響力を発し、その強硬派に敵視されているルナ・ジオンからの援軍を1隻ではあるが受け入れた。
「こう考えると、交渉を担当した者は十分な結果を残したと言ってもいいのかもしれないな」
「それを聞けば、モニクも喜ぶでしょう」
紅茶を一口飲み、セイラがそう言ってくる。
「……交渉を担当したのはモニクだったのか?」
「ええ。大分苦労した様子でしたが、何とかその条件を勝ち取ったようね」
「だろうな」
この件については、素直に凄いと思う。
連邦軍も連邦政府もそうだが、基本的には男社会だ。
女もいない訳ではないが、その数は非常に少ない。
だからこそ交渉をするのに女が出ると、それだけで向こうは交渉を打ち切ったり、露骨に下に見てきたりもする。
そんな中でナスカ級1隻だけだが戦力を派遣するという事が出来るのだから、セイラが言うようにモニクは十分に大きな成果を残したと言えるだろう。
「とはいえ、連邦軍にも考えがあっての事ではあるのでしょうけど」
「具体的には?」
「ナスカ級の情報を欲しているのが第1でしょうね。後はルナ・ジオン軍のMSの性能の確認と、パイロットの練度の確認といったところでしょう」
「ナスカ級については分かるとして、MSの性能もか?」
現在ルナ・ジオン軍で使われているMSは、基本的に一般パイロット用のガルバルディβ、エースパイロット用のギャン・クリーガー、後は偵察や長距離狙撃といった要素でヅダといったところだ。
もっとも、これらはあくまでも基本的にの話で、例えばペズンでバーニィが使っているアクト・ザクであったりもある。
それに地上は地上で、ザメルやドム系MS、水陸両用MSや水中用MSといった具合に色々なMSが使われていたりするが。
また、連邦軍やジオン軍……ジオン共和国軍にはない要素として、ヴァル・ヴァロやビグロ系のMAで構成されたMA隊も存在している。
そして地上のハワイでもギニアスが開発したアプサラスが配備されている。
……まぁ、今回は宇宙での活動なので、ハワイで使われているMSやMAは気にする必要がない。
ともあれ、ガルバルディβやギャン・クリーガーが採用されてから、既に数年。
海賊の討伐やジオン軍残党の討伐をやるという事で、連邦軍とルナ・ジオン軍が協力して軍事作戦を何度も行ってきた。
当然ながらその時にそれらのデータは取られている筈だ。
となると、メギロートやバッタ? いや、セイラはMSのデータ収集と言っていた以上、これは違うか。
「ええ、MSの性能もよ」
「……ガルバルディβやギャン・クリーガーについては、向こうも知ってるだろう?」
能力の全てを知っているという事はない。
これが連邦軍なら、あるいは旧ジオン軍であっても、金や女、あるいは脅迫……それ以外の様々な理由から、MSの横流しをする奴がいてもおかしくはない。
だが、ここはルナ・ジオンだ。
そのようなことをしようとすれば、それこそ量産型Wやコバッタが即座に察知するだろう。
……少し方向性は違うが、量産型Wやコバッタのお陰で月での犯罪はかなり減った。
特に企業のトップ、あるいはその取り巻き達が行っていた汚職の類は今はもう行われていない。
そういう意味では、一般人からルナ・ジオンは大歓迎されていたりする。
もっとも、企業の人間にしてみればそういうのは面白くない。
フィフス・ルナとかに進出してるのは、その辺りの理由もあるのだろう。
月で犯罪をする分には量産型Wやコバッタが捕らえるが、それ以外の場所でとなると管轄外なのだから。
そんな訳でMSの実機は勿論、データを奪うといったことは考えなくてもいい。
ただ、考えなくてもいいから警戒しなくてもいいかと言われれば、それは否だが。
何かを企んでいるような者達の場合、常にこちらの裏を掻こうと考え、試行錯誤している。
まさにイタチごっこという表現がこの場合は正しいのだろう。
「それでも、データは多ければ多い程いいんでしょうね。他にも、上手くやれば何らかの理由を付けてナスカ級やMSを確保したいと考えてもおかしくはないでしょうし」
そこまでやるか?
セイラの言葉にそう思ったが、相手が強硬派と考えれば、実際にそういう事をやってもおかしくはないのは事実。
だからこそ、相手を警戒する必要があるのも間違いなかった。
「話は分かった。……まぁ、向こうの思惑はともかくとして、こっちはこっちで相応の対処をすればそれでいいだけだし。そうなると、こっちからは誰を出す?」
ナスカ級は、MSが9機搭載可能だ。
旧ジオン軍が開発した、MS運用艦のムサイ級よりも明らかに上。
……というか、アルビオンですら搭載MSは6機なのだから、ナスカ級が一体どれだけ特別な艦なのかが、分かりやすいだろう。
強硬派が欲してるのは、MSよりもナスカ級なんだろうなと思ってしまう程にはナスカ級は高性能艦だった。
しかもミノフスキークラフトがあるので、地上でも運用可能だし。
「シーマ率いる海兵隊が立候補してるわね」
「シーマが? クリスと一緒にガーベラ・テトラのテストパイロットをやったらしいから、そういう意味では分からなくもないけど」
「その辺もあるでしょうし……やっぱり恋人が心配なんでしょうね」
そう言うセイラの言葉に、どう反応すればいいのか少し迷う。
そういう風に言われて嬉しくない訳ではないが。
「何なら、私も出ようかしら?」
「無茶を言うな、無茶を」
セイラはUC世界において最高のニュータイプ能力を持っている。
それは間違いないが、だからといって最強のパイロットなのかと言われれば、それは否だ。
ニュータイプ能力の強弱とMSの操縦技術は同じ意味ではないのだから。
勿論ニュータイプ能力があれば、MSの操縦に便利なのは間違いないが。
それでもわざわざセイラがMSに乗って前線に……それも最前線に出るというのは、普通ならとてもではないが考えられない。
セイラもMSの操縦についてはそれなりに練習をしているらしいし、相応の技量はあるらしいが。
普通なら最前線に出ないのは間違いないが、それはつまり普通ではない時には最前線に出る必要があるという事だ。
そうなった時の事を考えれば、セイラがMSの操縦訓練をするというのは、俺にも普通に理解出来た。
「……そうね。今のは忘れてちょうだい」
俺の言葉にセイラもあっさりと前言を撤回する。
その割には微妙に不満そうな様子なのは……もしかして、MSを操縦してストレス発散をしたいとか、そういう事だったりするのか?
後でハモンやラル辺りに話をしておいた方がいいかもしれないな。
「聞かなかった事にしておくよ。……ともあれ、俺と一緒に行くのはシーマ率いる海兵隊でいいのか?」
「念の為に無人機を何機か持っていってちょうだい。アクセルやシーマ、それに海兵隊なら大丈夫だとは思うけど、何かあった時に捨て駒として使える戦力はあった方がいいでしょう?」
「分かった」
自分のMS操縦技術には自信があるし、シーマも宇宙の蜉蝣の異名持ちだ。
また、海兵隊もシーマが鍛えているだけあって一般的には精鋭と呼ぶに相応しい技量の者達が揃っている。
だが、それでも何らかの理由で捨て駒にする必要がある時というのは、あってもおかしくはないのだ。
そういう時に、シーマやその部下達を捨て駒にはしたくない。
いやまぁ、俺の場合はそれこそサイサリスの核攻撃を食らっても問題ないのだから、最悪俺が捨て駒になるという方法は十分にあったが。
ただ、それはそれで色々と問題があるし、アルビオン隊と一緒に行動しているという事を考えると、その光景を見せる訳にもいかないだろう。
そんな訳で、捨て駒として使える無人機はある程度必要か。
とはいえ、どの無人機を持っていくかだな。
候補としては、メギロートとバッタがある。
他にもイルメヤもあるのだが、イルメヤは地上用で宇宙では使えないので、除外するとして。
性能で考えるとメギロート一択なんだが、セイラからの情報によると、もしかしたら強硬派がこっちのデータを欲したり、場合によっては接収する可能性もあるとなると……メギロートを出すのは問題だろう。
それならメギロートよりも格下のバッタの方がいい。
バッタもバッタで、メギロートとは違う技術が、そしてUC世界とは違う技術が使われているものの、それでも総合的に見た場合は構造そのものはシンプルだったりするし。
武器もメギロートのサークルレーザーとかじゃなくて、普通にミサイルとかそういうのなので、その辺は問題ない。
まぁ、それはそれで強硬派がそのミサイルのうちの不発弾とかを回収して、自分達の利益になるようにしたいと考えてもおかしくはないだろうが。
「無人機については、アクセルが選んで構わないわ」
まるで俺の心を読んだかのようにそう言うセイラ。
ニュータイプ能力を使って相手の心を読むというのは、セイラにとってはそう珍しい事ではない。
とはいえ……
「言っておくけど、アクセルの心の中を読んだ訳じゃないわよ? アクセルが知っての通り、アクセルには何故かニュータイプ能力が通じないしね」
「その割には、よく俺の考えている事が分かったな?」
「その辺については、それこそアクセルが分かりやすいからとしか言えないわね。それに私がアクセルの心を読めないのは、アクセルも十分に分かっている筈ではなくて?」
そうセイラに言われれば、俺もそうだなとしか返せない。
実際、セイラの言ってる内容は事実なのだから。
ニュータイプ能力で俺の心が読めないのは、単純に俺が人間ではなく混沌精霊だからなのか、それともニュータイプの上位互換である念動力を持っているからか。
その辺はわからないが、とにかくニュータイプ能力で俺の心が読めないのは間違いなかった。
そうなると、セイラが俺の心を読んだかのような発言をしたのは、単純に俺の様子から何を考えているのかを予想したといったところか。
「まぁ、その件は置いておくとして……」
「置いておくのね」
「置いておくとして」
「……はいはい。話題を移してあげる。そうね……ああ、そう言えばゼロ・ジ・アールの事を覚えている?」
「は? ああ、勿論覚えているが」
文字通りの意味で突然話題を変えたセイラ。
だが、その変わった話の内容が俺にとってはかなり予想外だったので驚く。
ゼロ・ジ・アールというのは、アクシズから提供されたMAだ。
水天の涙の件の時に俺が操縦し、その性能を周囲に見せつけた機体となる。
ただし、その高性能に対して操縦は非常に難しく、一般的なパイロットが操縦する場合はある程度機体制御をオートにして自動操縦する必要があった。
つまり一般的なパイロットがゼロ・ジ・アールに乗った場合、相手が一定以下の能力の持ち主なら蹂躙出来るものの、エース級のパイロットの場合は自動操縦の癖を見抜かれたりして、容易に倒されてしまう。
そうならないようにするには、ゼロ・ジ・アールの操縦をする時は自動操縦機能を切って、全てをマニュアルで操縦する必要があるのだが……そうなると、今度はパイロットに掛かる負担が大きくなるので、それこそエース級のパイロットでもなければゼロ・ジ・アールをマニュアルで操縦は出来ない。
だが同時に、マニュアルでゼロ・ジ・アールを操縦した時の性能は圧倒的なのも事実。
「アクシズから近いうちに部隊が派遣されてくるのだけれど、その際にゼロ・ジ・アールの後継機を献上するとの事よ」
「……ゼロ・ジ・アールの後継機?」
いやまぁ、ゼロ・ジ・アールの性能は凄いし、自分で言うのも何だが水天の涙の時に俺が操縦したゼロ・ジ・アールはかなりの……それこそ、獅子奮迅と呼ぶに相応しい活躍をした。
それを思えば、アクシズがゼロ・ジ・アールの後継機を作ろうと考えてもおかしくはない、のか?
「ええ、ノイエ・ジール。ゼロ・ジ・アールはMAとして優れていたのは事実だけど、まだ発展途上の技術とかもあったらしいわ。それを洗練して最新の技術で開発したのがノイエ・ジールらしいわね。このノイエ・ジールは当然だけどアクセルに渡すから」
ノイエ・ジール、か。
ゼロ・ジ・アールの後継機として考えれば、その性能は間違いないだろう。
ゼロ・ジ・アールを見れば分かるように、アクシズの兵器開発技術は非常に高い。
……とはいえ、俺がゼロ・ジ・アールを受け取ったのが水天の涙が起こった0081である事を考えると、それから2年でノイエ・ジールを開発したのか?
もしくは、ゼロ・ジ・アールがルナ・ジオンに……より正確には俺に譲渡された時には、既にノイエ・ジールの開発は進んでいたのかもしれないな。
ともあれ、ノイエ・ジールというMAには期待出来そうだな。
そう思いながら、俺はセイラとのお茶会を楽しむのだった。