ウラキの件が決まると、ハモンは早速ウラキを確保したり、アルビオンに連絡をしたりといったことをする必要があるので、部屋から出ていく。
そうして和やか……和やか? ともあれ食事が終わり、今は紅茶の時間を楽しんでいた。
「それにしても……キシリア派がデラーズと手を組むというのは予想外だったわね」
モニクが不思議そうな様子でそう言う。
モニクは元々ベーネミュンデ機関に所属しており、ベーネミュンデ機関はギレン直轄の組織だ。
その組織に所属していただけに、ギレンとキシリアの関係の悪さを理解しているのだろう。
「私も驚いたけど、あのキシリアの事だ。本当の意味で手を組んだという事はまずないと思うよ。恐らく……いや、確実に何かに利用しようとしている筈さ」
こちらもまたキシリア配下の海兵隊だっただけに、キシリアの性格についてはよく知っているシーマの言葉。
「何かを企む……か。まぁ、キシリアの性格を考えれば当然だろうな」
元々キシリアは、1年戦争の時もキシリア機関と呼ばれる諜報機関を持っていた。
それだけに陰謀の類はお手の物だろう。
そんなキシリアが、ギレン信者のデラーズと手を組むのだから、そこに何かがあるのは間違いない。
デラーズはデラーズで、信望するギレンを暗殺したキシリアを憎んでいるのは間違いない。
それもちょっとやそっとでどうにかなる憎しみではなく、心の底からの憎悪。
そんな憎悪を抱いたままで、デラーズがキシリアと手を組む可能性としては……
「キシリアはともかく、デラーズの方にはエース級のパイロットがいないから、とか? 勿論、ベテランとかはいるんだろうが」
「アクセルの言う通り、キシリアは宇宙突撃軍が殆どそのまま残っている以上、エースパイロットも多いだろうね」
シーマが納得したように言うのは、やはり自分も以前はそのエースの中の1人だったからだろう。
ルナ・ジオン軍の中では、黒い三連星やサイクロプス隊、闇夜のフェンリル隊なんかも宇宙突撃軍出身だ。
そうしてエースの多くを俺達に奪われたものの、まだ突撃機動軍には多数のエースがいる。
元々キシリアが最初からMSを重視していたのも、エース級のパイロットが多数いる――当時は当然ながらまだエースではなかったが――というのが理由なのだろう。
こっちについたが、黒い三連星やサイクロプス隊なんかがその典型だ。
それ以外にも俺が知らないだけで、多数の特殊部隊を有している可能性は高い。
勿論、1年戦争が終わった後もそれらの特殊部隊がキシリアの下にいるとは限らないが。
キシリアと一緒にいるのが嫌だ、これ以上戦いたくない。
そのように思い、抜ける者もいるだろう。
だが逆に、そんなキシリアの下だからこそ集まってくる者達がいる可能性もある。
もっとも、ジオン軍残党が活発に動いているにも関わらず、そういう特殊部隊の噂を何も聞かないのは疑問だが。
なんで特殊部隊のような精鋭を出さないのやら。
特殊部隊を出すまでもないと思っているだけなのかもしれないが。
もしかしたらそういう部隊は虎の子の部隊だけに、今もまだ火星にいるのかもしれないな。
「ニムバスの件もあるし、そうなるとやっぱりキシリアは人材を出して、それ以外はデラーズが……といったところか?」
「その可能性は否定出来ないだろうね。……ただ、デラーズの動きは今でも疑問だけど」
そう呟くシーマに、俺も……そして俺以外の者達も揃って頷く。
実際、あの2人の関係を思えば絶対に上手くいくとは思えないのだ。
だというのに、現実にはこうして上手く事が進んでいる。
これはデラーズとキシリアのどちらかが……いや、どちらもが何かを企んでいると思った方がいい。
「そのデラーズだけど……拠点についてはどうなの?」
話を黙って聞いていたクリスが、そんな風に聞いてくる。
拠点……拠点か。確かにこれだけの大きな動きを見せている以上、そこには拠点が必要となるだろう。
ましてや、新型のMA……というか、ニコイチのMSだったか? まぁ、そういうのを量産するだけの施設が必要となる。
そうなると、それなりの拠点は必要になる筈だった。
「デラーズがソロモンの観艦式を狙っているにしろ、拠点を制圧してしまえばその大元を潰せるか。……いや、あるいはデラーズとキシリアが手を組んでるのはその辺もあるのか?」
「どちらかが拠点を潰されても、残るもう片方がソロモンの観艦式を狙うと?」
「あくまでもそういう可能性があるというだけだけどな」
クリスの言葉にそう返すが……
「どうかしら。キシリアとデラーズでしょう? 相手が潰されても作戦を実行するというより、作戦に乗じて相手を潰そうとしている……そう言われた方が納得出来るのだけど」
モニクがそう自分の意見を口にする。
そんなモニクの意見にはシーマも同様のようで、頷いていた。
「そうだね。あの2人が協力しているだけでも疑問なのに、お互いを思いやって……といったようなことになったら、とてもではないけど信じられないね」
「2人がそう言うのならそうかもしれないが、実際に今こうして協力しているのを思えば……あるいは、2人を繋げる何かがあったのかもしれないな」
その後も話を続けるものの、結局何故キシリアとデラーズが手を組んでるのかは分からなかった。
食事の後のお茶会もそろそろ終わらせるかというところで、ハモンが戻ってくる。
「アルテイシア様、先程のコウ・ウラキ少尉の一件、無事に確保出来ました」
ハモンのその言葉に、セイラが座っていた椅子から立ち上がる。
「セイラ、俺も一緒に行こうか? ウラキと会うのなら、顔見知りの俺が一緒にいた方がいいと思うけど」
「アクセルの気持ちは嬉しいけど、私だけで会った方がいいでしょう」
セイラがそう断言するという事は、ニュータイプの勘か何かが働いたといったところか。
そうなると、この件には俺が関わらない方がいいな。
「分かった。なら、そっちの件は任せる」
「ええ、任せてちょうだい。……とはいえ、これは貸しですからね」
「今度何かで返すよ」
そう言うと、セイラは笑みを……それも普段のセイラからは信じられないような、にっこりとした笑みを浮かべ、部屋から出ていく。
「あーあ」
「……クスコ?」
セイラがいなくなった後、何故かクスコが俺を見てそんな風に言ってくる。
一体何がどうしたんだ?
そんな疑問を抱いて視線を向けると、クスコはそっと視線を逸らす。
セイラに借りを作ったのが不味かったのか?
そう思ったが、今のこの状況ではクスコに何を言っても無駄だろう。
無駄な事はしない方がいいか。
そんな空気を読んだのか、シーマが口を開く。
「さて、アルテイシア様がいなくなった以上、いつまでもこの部屋にいる訳にもいかないだろうし……どうだい、ちょっと街に繰り出してみるというのは」
「賛成。まだ夜とはいえ早い時間だし、色々と見て回るのも面白いでしょう」
モニクがシーマの言葉に賛成すると、誰も反対するようなことはなく……俺達は全員揃って街に繰り出す事になるのだった。
「さて、どこに行く?」
街中を歩きながら、そう同行者のシーマ達に尋ねる。
普段なら夜に街中で遊ぶとなると酒を飲んだりするんだろうが、俺の場合は酒は厳禁だしな。
もし酒を飲んだ場合、俺が気が付いた時に一体どうなっているのか全く分からない。
気が付いたらもう朝で、シーマ達がドロドロのグチャグチャ状態になっており仕事に行けないとか、そういう風になってもおかしくはないし、最悪……酒を飲んだ店が潰れるといった程度であればまだしも、クレイドルに大きな被害が出かねなかった。
だからこそ、それを思えば俺が酒を飲むのは止めておいた方がいい。
だがそうなると、夜の街で遊ぶような場所は多くないんだよな。
これで食事がまだなら、何かを食べるという選択肢もあるのだが。
そうなると、適当に店を見て回るか、あるいはビリヤードとかダーツとかそういうので遊んでみるか……もしくは、映画を見るというのも悪くない。
何しろクレイドルの映画館では異世界の映画が放映されてるので、世の中の……いわゆる映画マニアと呼ばれる者達はかなり興奮してるらしい。
中には映画を目当てにクレイドルに来る者達もいるとか。
いわゆる、異世界の動植物を目当てにした学者達と同じような感じだな。
とはいえ、月まで来るには結構な旅費が必要となる。
地球の場合は、まず何らかの手段で宇宙に上がる必要がある。
最善なのはルナ・ジオンの領土であるハワイから宇宙に上がり、ペズンを経由して月に来る事なのが……そうなるとかなりの金額が必要になるのだ。
一応連邦の所有するシャトルとかを使って宇宙に上がる事も出来るのだが、ルナ・ジオンは連邦とは別の国なので手続きがややこしくなるし、余計な金も必要となる。
ハワイを経由すれば、その辺はかなりマシになるので、ハワイ経由の者が多い。
宇宙ならコロニーから月なのでそこまで高くない――あくまでも地球からの旅費と比べて――のだが。
金額的な問題だけではなく、ジオン軍残党や宇宙海賊の類はルナ・ジオンには手を出さないというのも、安全面で大きい。
何しろルナ・ジオンの所属に手を出せば、徹底的に狩るしな。
そんな訳で、学者や映画マニア、他にも単純に異世界に興味のある者が月に来るのだが、それには相応の金額が必要となるのは間違いない事実だった。
「うーん、ちょっと服を見たいところだね。……なんなら、アクセル好みの下着を買ってもいいよ。今夜、必要だろう?」
シーマのその言葉に、モニクとクリスが真っ先に反応する。
「ちょっと、シーマ。街中で何て事を言うのよ!」
「モニクの言う通りよ。誰かに聞かれたらどうするつもり!?」
そんな2人とは裏腹に、クスコはシーマの意見に賛成らしい。
「あら、夜を楽しむ為のスパイスは重要よ? 黒、赤、紫……どれがいいのかしらね。アクセルって清楚系よりもそっちの方が燃えるでしょうし」
「……それは否定出来ない事実だが、街中で俺の性癖とかも暴露しないでくれないか? 幸い、俺達の会話を聞いている奴はいないみたいだけど」
この中で一番目立つのは、当然ながらセイラと違う意味でルナ・ジオンの象徴であるシーマだが、そのシーマは簡単な変装をしている。
いや、やってることは帽子を被ったり、化粧をちょっと変えたり、アクセサリを付けたりといった程度のものなのだが、それだけで十分に一目だけでシーマだとは分からないような感じになるんだから、女って凄いよな。
……もしシーマが変装しないで今のような会話をしていれば、間違いなく目立った筈だ。
そう、丁度こっちを見ている者達のように……ん?
派手な服装に整った顔。……見るからに水商売風の女の肩を抱いている男。
その男の顔に俺は見覚えがあった。
そう、それは……
「バニング?」
「……お、おう」
どう反応すればいいのか分からないといった様子でバニングがそう声を掛けてくる。
バニングにしてみれば、まさかこんな場所で俺と会うとは思ってもいなかったのだろう。
あるいは、先程のシーマやモニクの言葉を聞いていたのか。
……というか、バニングの足のギブスがなくなってるな。
どうやらもう完治したらしい。
あるいは完治とまではいかないが、ギプスをしなくてもいい程度までは回復してるのか。
「凄いな、アクセル」
何と言えばいいのか迷っていた様子のバニングだったが、そんな風に言ってくる。
この様子だと、やっぱり先程の会話は聞こえていたらしい。
それについては、俺も色々と思うところがない訳ではなかったりするが……うん。その辺については、今は言わないでおこう。
「バニングはこれからどうするんだ?」
「ちょっと酒を楽しみにな」
「そうか」
そんなバニングを見て、ウラキの件を教えた方がいいのか? と思ったが、セイラが動いているし、アルビオンには連絡を入れてるし、何よりバニングはこれからお楽しみである以上、邪魔をしちゃ悪い。
「そっちもこれからお楽しみなのか?」
「取りあえず店を適当に見て回ろうと思ってるよ」
「分かった。じゃあな。お互いに健闘を祈る」
いや、何の健闘だよ。
そう思ったが、バニングの様子を見ればそれが何を意味しているのかは明らかだった。
恐らくバニングもあの一緒にいる女と熱い夜を楽しむのだろう。
だからといって、それを否定するつもりはないが。
男が……それも命懸けで戦っている軍人が、女の柔肌を求めるというのは珍しい事ではない。
だからこそ、その件について何かを言うつもりはない。
……バニングの方は、それはそれで俺に何かを言いたいのかもしれないが結局特に何も言わず、女と共に夜の街に消えていく。
「さて、じゃあ俺達も行くか。……どこに行く?」
そう言う俺の言葉に、クスコは笑みを浮かべて下着屋と言い……まぁ、夜の楽しみを思えばという事で下着屋に向かったのだが……
「アクセル……」
何故か、本当に何故かその下着屋で、俺はモーラと一緒にいたニナと遭遇するのだった。