ウラキがラルの下から解放された……いや、この場合は解放という表現が正しいのか?
ともあれ、ラルによる訓練が終わると、翌日には俺の操縦するガーベラ・テトラとウラキの操縦するフルバーニアンとの模擬戦が行われる事になった。
翌日となったのは、ラルの訓練の厳しさを考えてゆっくりと休憩させる為だ。
ラルの……青い巨星の訓練だ。
しかもラルは自分をゲリラ屋と称しており、だからこそ生身での訓練においてもしっかりと行われる。
ウラキもバニングにそれなりに訓練はされてきたのだろうが、それでもラルの訓練と比べると、子供遊びとまではいかないが、かなり簡単な訓練だっただろう。
「さて」
ともあれ、既に今日は模擬戦の日だ。
そうである以上、俺もガーベラ・テトラの様子をしっかりと確認していく。
……とはいえ、既にガーベラ・テトラはディアナのメカニック達によってしっかりと整備されている。
月の裏の暗礁宙域でテストをした時はともかく、ナスカ級でアルビオンと合流した時は特に戦闘らしい戦闘はしていないしな。
その為、整備とかもそこまでする必要がないのだが……メカニック達にしてみれば、新型機だけに念には念を入れておきたいのだろう。
『アクセル中尉、機体の方は問題ありません!』
コックピットの中で待っていると、ガーベラ・テトラの整備をしていたメカニックからの連絡が入る。
「分かった。じゃあ、そろそろ時間だから退いてくれ」
『はい。……ああ、そうそう。そう言えば聞いてますか? この機体、ガーベラ・テトラですが、アクセル中尉向きに改修した機体を現在作っているんですが』
「……そうなのか?」
それは俺にとって少し……いや、かなり予想外の内容だった。
このガーベラ・テトラは今回が初の戦いとなる。
しかもそれは模擬戦で、それが終わった後でデラーズ・フリートとの初めての実戦となる予定だった。
だというのにもう改修機が作られているというのは、予想外としか言いようがない。
それが嬉しいかどうかと言われれば、間違いなく嬉しいのだが。
『ええ、こう言っては何ですが、このガーベラ・テトラというのはかなり間に合わせの機体という一面がありますから。……まぁ、この機体の出自を考えれば、無理もないかもしれませんけど』
「それは否定しない」
何しろ、このガーベラ・テトラは元々がガンダム開発計画の試作4号機であるガーベラだ。
強襲用というコンセプトがゼフィランサスと一部重なっており、その結果としてガーベラはゼフィランサスに吸収された形となる。
それでもアナハイムとしてはMS技術研究の為にガンダム開発計画の資金を使ってガーベラを作り、そのガーベラを報酬として俺に引き渡した。
ガーベラのまま引き渡すとなるとガンダム開発計画との関連性が疑われるので、現在のガーベラ・テトラに改修して。
つまり、ガーベラ・テトラはそれなりに急いで改修された機体で、ディアナのメカニック達にしてみれば色々と改修出来る場所があるのだろう。
『でしょう? 改修機……ガーベラ・テトラ改は、アナハイムから受け取ったガンダム開発計画の機体の集大成になると思います。……まぁ、それでもオーキスの類は無理でしょうが』
「それについては仕方がないだろうな。……ともあれ、この機体を改修出来るのなら頼む。俺としても、乗っているMSは性能の高い方がいいし」
『分かりました。それを聞けば、他の連中も張り切ると思います』
俺の一言でそこまでやる気が出るのか?
そう思わないでもなかったが、部署は違えど、この連中と同じディアナで働いているクリスから色々と話は聞いている。
ディアナの者達はMSを作る技術に長けている。
それは間違いない。
だが同時に、最高性能のMSを作ろうとした場合、パイロットの負担を無視するかのような一面もあるという。
……ディアナじゃないが、ディアナの技術者達と同じ元ジオン組が揃っているアクシズで開発されたゼロ・ジ・アールなんかがその典型だろう。
スペックを優先させた結果、かなりの高性能なMAに仕上がったのは事実だ。
だが、性能を追いすぎて操縦性を無視……とまではいかないが重視しなかった結果、MAの操縦については半ばオートを前提とした物になってしまった。
それだけではなく、機動性もかなり高かったので、パイロットの耐G能力が高いのが前提となっていた。
俺の場合は混沌精霊なので耐G能力については全く問題なかったし、半オートの操縦についても全てマニュアルで対処出来たので問題はなかったが。
つまり、今のメカニックが言っていたのはその辺を込みでの話なのだろう。
パイロットの事については特に考えたりする必要もなく、どこまでも高性能を追い求められる。
ディアナの面々は俺が混沌精霊であるというのは知らなくても、魔力や気による身体強化とか、異世界人の特性とか、そういうのでUC世界の人間よりも圧倒的に頑強な身体を持っていると知っているのだから。
「そうか。せいぜい頑張ってくれ。……ただ、近いうちにゼロ・ジ・アールの後継機も来るんだろう? そっちの調整の方も手を抜かないでくれよ」
『分かってます。そちらもそちらで楽しみではあるんですけどね。……さて、準備は全てOKです。出撃をどうぞ』
メカニックの言葉に頷き、俺はガーベラ・テトラで出撃するのだった。
月面……それも首都であるクレイドルからは十分に離れた場所。
俺はそこで、フルバーニアンが来るのを待っていた。
既にフルバーニアンの母艦であるアルビオンは離れた場所で待機しており、いつでも出撃出来るように準備が整えられている。
とはいえ、フルバーニアンはまだ出撃してないのだが。
ラルの訓練……扱きか? いや、この場合は訓練という事にしておくか。とにかくその訓練も終えているので、出撃に戸惑うという事はないと思うのだが。
……ちなみに、セイラがウラキと会った件については聞いてなかったな。
まぁ、その辺については今度のお茶会の時にでも聞いておくか。
もしセイラがウラキと接触した時、ニュータイプ能力で危険な何かを読んだのなら、すぐ俺に知らせてくる筈だ。
そういうのがなかったのを考えると、恐らくウラキの中に危険な何かはなかった……そう思ってもいいのだろう。
なら、今はその辺は気にしなくてもいい。
そんな風に思っていると、アルビオンからの通信が入る。
『アクセル中尉、どうやらそちらの準備は問題ないようだな』
映像モニタに表示されたのは、シナプス。
そんなシナプスの言葉に頷く。
「ああ、こっちは問題ない。模擬戦用にきちんと設定もしてるしな」
110mm機関砲のように実弾兵器の場合はペイント弾に、そしてビーム兵器の場合は模擬戦用の設定に変えている。
この状況で戦闘をしても、相手に致命的な損傷を与えるような事はない。
「改修したばかりのフルバーニアンも、大きな被害を受ける事はないから安心してもいい」
『ほう、言うな。ウラキ少尉も以前のままという訳でもない。その力を存分に発揮したら、アクセル中尉といえども勝つのは難しいと思うぞ?』
「ならいいんだけどな。……何しろ、最後に見た光景が色々とアレだったし」
そう言うと、映像モニタに映し出されたシナプスの表情が苦々しいものになる。
シナプスにとっても、あのゲール達との戦闘については色々と……本当に色々と思うところがあったのだろう。
だからこそ、シナプスとしては今回の模擬戦に期待してるのだろうが。
「まぁ、その件はいいとして……それで、フルバーニアンはいつ出撃してくるんだ?」
『すまないが、もう少し待っていて欲しい』
「……何かトラブルでもあったのか?」
ニナが設計した以上、フルバーニアンに異常があるとは思えない。
そうなると、ウラキに何かあったのか。
ラルの訓練で性根を叩き直された筈なんだが。
『その……アクセル中尉にはこう言えば分かりやすいか。モンシア中尉とトラブルを起こした』
「あー……そっちがあったか」
モンシアは元々自分がゼフィランサスのパイロットになるだろうと思っていた。
だが、それをウラキに取られてしまう。
その後も色々と問題があったものの、ある程度はモンシアもウラキを認めたと思ったんだが……宇宙に出たウラキは自分が選ばれた存在だと認識し、それによって鼻が伸びていた。
結果としてゲールとの戦いで伸びていた鼻は叩き折られたのだが、モンシアにしてみればそんなウラキの存在が気に食わなかったのだろう。
キースが宇宙で訓練をしている時も、ウラキはそれを無視してゼフィランサスの設定の計算とかをしていたらしいし。
また、モンシアにしてみれば自分が言い寄っていたニナが俺と付き合っている――表向きだが――のが不満で、その不満もウラキに向けられていたのだろう。
そんな訳で、モンシアにとってウラキは八つ当たりの的な訳だが……いつもはモンシアに絡まれてもそれを受け入れていたものの、今のウラキは違う。
何しろラルの訓練を受けたのだから。
それによって、ウラキにしてみればいつものようにモンシアに絡まれてもなあなあで終わらせるといったことはなく、反論した……んだと思う。
この辺はあくまでも俺の予想であって、実際にそれが正しいのかどうかは分からない。
ただ、恐らくは間違っていないだろうとは思うが。
「そうなると、もう少し時間が掛かるのか?」
『いや、もうトラブルの方は終わったので、そろそろ……うむ、許可する』
俺との会話の途中で近くにいたシモンから何かを言われたシナプスはそう返す。
それが具体的に何を意味しているのかは、俺には分からない。
分からないが、それでも話の流れから予想は出来る。
次の瞬間、アルビオンから出撃してきたフルバーニアンの姿を見て、俺は自分の予想が当たったのを理解する。
『見ての通り、ウラキ少尉が出撃した』
「こっちでも確認した。そうなると、いよいよ模擬戦の始まりだな」
こちらに向かってくるフルバーニアンを映像モニタで確認しつつ、そう呟く。
そんな俺の前に、フルバーニアンがやって来る。
肩の部分にショルダー・バーニア・ポッドがあり他にもユニバーサルブースト・ポッドがあるフルバーニアンと、肩の部分のショルダー・スラスター・ポッドがあるガーベラ・テトラ。
そういう意味ではガーベラ・テトラとフルバーニアンは似てるのかもしれないな。
いやまぁ、宇宙用として考えると、こういう風になるのはそうおかしな事ではないと思うが。
これで全く違う会社が作った宇宙用MSという事であれば、色々と違う場所も多いだろう。
だが、部署は違えども、アナハイムという同じ会社で……それもガンダム開発計画の中で開発されたMSとなると、同じような考えになっても違いはない。
それでも名称が微妙に違うのは……同じような効果を持つにしろ、それは全く同じという事ではないからだろう。
例えばガーベラ・テトラのショルダー・スラスター・ポッドは、肩の部分に埋め込まれている。
それに対して、フルバーニアンのショルダー・バーニア・ポッドは肩にあり、ユニバーサルブースト・ポッドは肩の後ろにあってある程度自由に動かせる。
……そういう意味では、後発に開発されたフルバーニアンのショルダー・スラスター・ポッドの方がユニバーサルブースト・ポッドがある分、性能はいいんだよな。
メカニックが言っていた、ガーベラ・テトラと改修機であるガーベラ・テトラ改。
その時は、その辺りも上手い具合に改修してくれているといいんだが。
『お待たせしました、アクセル中尉』
映像モニタからシナプスの姿が消え、代わりにウラキが映し出される。
当然の話だが、ウラキはパイロットスーツを着ている。
……まぁ、模擬戦であろうとも、実際には何が起きるのか分からない。
そう考えれば、何かあった時の為にパイロットスーツを着るのはそうおかしな話ではないだろう。
「予定の時間よりも少し遅れたが……そっちは問題ないのか? モンシアと少し揉めたと聞いたが」
『はい、問題ありません』
そう断言出来る辺り、ラルの訓練の成果といったところか。
具体的にどういう風に揉めたのか興味がない訳でもなかったが、今はそれよりも模擬戦を行う必要があるだろうと判断し、その件についてはそれ以上は触れない。
「じゃあ、これから模擬戦が行われる訳だが……模擬戦のルールについてはもう知っているな?」
『はい。もっとも普段の模擬戦とはそう変わらないと思いますが』
「その認識で構わない。……準備はいいな?」
『はい』
ウラキの言葉に頷き、再度アルビオンに通信を送る。
「そんな訳だ。合図を頼む」
『では……始め!』
シナプスの声がコックピット内に響き……ガーベラ・テトラとフルバーニアンの模擬戦が始まるのだった。