模擬戦が始まり、最初に動いたのはウラキのフルバーニアンだった。
いきなりショルダー・バーニア・ポッドとユニバーサルブースト・ポッドを全開にしつつ、ガーベラ・テトラの斜め前に向かって移動する。
そうしながら、手にしたビームライフルを撃ってくる。
ウラキにしてみれば、これで決めるといったようなことは考えておらず、あくまでも牽制の一撃だろう。
当たればラッキー程度に思っての攻撃なのは間違いなかった。
そんな攻撃に当たってやる筈もなく、俺もショルダー・スラスター・ポッドを使ってフルバーニアンと距離を取る。
本来なら急速に近付いて手首の内側にあるビームサーベルを引き抜いてそれで攻撃するといった手段もあったのだが……これはあくまで模擬戦だ。
ウラキにしてみればフルバーニアンになった機体の様子を見たいだろうし、俺もまたガーベラ・テトラできちんと模擬戦を体験したい。
その為、こちらも即座に勝負を決めたりはしない。
とはいえ……
「攻撃をしないとは言ってないけどな」
そう呟き、ガーベラ・テトラの手首の内側、ビームサーベルとしても使えるビームガン……正確にはビームガンとしても使えるビームサーベルなのだが、それを撃つ。
宇宙空間をフルバーニアンのビームライフルとガーベラ・テトラのビームガンのビームがそれぞれ行き交う。
ただし、フルバーニアンのビームライフルは全てガーベラ・テトラが回避し、こちらのビームガンは何発もフルバーニアンに命中しているが。
とはいえ、元々ビームガンはフルバーニアン……いや、ゼフィランサスの時もそうだったが、技術的にまだ未熟で、一応ビームガンとしては使えるものの威力は弱い。
これが至近距離であればある程度の威力も期待出来るのだろうが……まぁ、だからこそ今こうして使っていたりするのだが。
既にフルバーニアンとの通信は切られているので、この状況をウラキがどう思っているのかは分からない。
分からないが、それでも面白くないと思っているのは間違いないだろう。
効果は殆どないものの、ビームガンの攻撃が次々に命中してるのだから。
ウラキにしてみれば、遊ばれていると思ってもおかしくはなく……
「ほら、操縦が荒くなる」
フルバーニアンになって、ゼフィランサスと比べても機動性と運動性は上がっている。
だがそれは、上手く使うのにより技術が必要になるという事でもある。
実際、フルバーニアンの動きはビームガンの攻撃が命中し始めてから雑になっていた。
それでも必死になってこっちにビームライフルを撃ってくるが……当然ながら、ビームライフルのエネルギーも無限という訳ではない。
SEED世界のMSのように動力炉から直接エネルギーを貰えばいいと思うんだが、このUC世界ではその手の技術はあまり発展していない。
いやまぁ、全くない訳ではないが。
その代わり、このUC世界で発達した……発達しつつあるのが、Eパックという技術だ。
フルバーニアンが予備のEパックを取り出し、交換したところに……
「残念」
今まで撃っていたビームガンではなく、手首の外側にある110mm機関砲を撃つ。
狙い通り、フルバーニアンが持つビームライフルにペイントの花が咲く。
これでビームライフルは破壊判定となり、この模擬戦の間は使えなくなった。
多分、模擬戦が終わったらウラキがあのペイント弾の清掃作業をやらされるんだろうな。
そう思っていると、意趣返しというつもりかフルバーニアンが頭部バルカンを撃ってくる。
ショルダー・スラスター・ポッドを使い、急速な加速によって移動しつつ、頭部バルカンを回避する。
頭部バルカンは、やっぱりあれば便利だよな。
ガーベラ・テトラじゃなくて、試作4号機のガーベラの時は頭部バルカンがあったりしたのか?
ガーベラ・テトラ改を作る時、出来れば頭部バルカンを入れて欲しいところだけど……それについては、この模擬戦が終わった後でディアナのメカニックに話をしてみるか。
そう思っていると、ビームライフルを失ったフルバーニアンはビームサーベルとシールドを手にガーベラ・テトラに向かって突進してくる。
ビームライフルを失った以上、向こうにとってはそれしかないのだろう。
そんなフルバーニアンに向かってビームマシンガンを向けようかと思うが……倒すだけならそれでもいいが、今回はあくまでもガーベラ・テトラを使いこなす為の模擬戦だ。
そうである以上、こちらとしてもガーベラ・テトラの近接戦闘は試しておきたい。
そう判断すると、フルバーニアンが放つ牽制の為の頭部バルカンを回避しながら、こちらも間合いを詰める。
右手にはビームマシンガンを持ったまま、そして左手には手首の内側でビームガン本体を射出し、左手で掴みビームサーベルとして起動してだ。
同時に、斬りかかってくるフルバーニアン。
振り下ろされたビームサーベルの一撃をショルダー・スラスター・ポッドを使って回避。
ガーベラ・テトラのすぐ横を通りすぎるビームサーベルの一撃を映像モニタで確認しながら、向こうの隙を突いてビームサーベルを振るう。
真っ直ぐ迫るビームサーベルの一撃を、フルバーニアンはユニバーサルブースト・ポッドを前方に……ガーベラ・テトラに向けて全開にし、後ろに向かって移動する。
この辺はガーベラ・テトラのショルダー・スラスター・ポッドと違ってより進化した形だよな。
そう思いながらも、俺は右手に持ったビームマシンガンでパレット状のビームを複数放つ。
このビームマシンガンは他にも普通のビームライフルとしても使えるが、技術的にまだ未熟だという事もあり、使いすぎると冷却をする必要がある。
そうならないよう、使うにはそれなりに丁寧に使う必要があった。……この辺も、ガーベラ・テトラ改では対応して欲しいところだな。
そんな風に思っていると、ビーム弾が次々とフルバーニアンのシールドに着弾していく。
……俺の狙い通りに。
フルバーニアンの身体に命中させようと思えば、出来た。
だが、模擬戦である以上はしっかりと機体を動かせるかどうか確認する必要がある。
そういう意味で、俺はフルバーニアンのシールドを狙ったのだ。
次々に命中するビーム弾に、シールドは撃破扱いとなる。
フルバーニアンは次の瞬間、こちらに向かってシールドを投擲してくる。
それは……模擬戦のシステム的にありなのか?
そんな疑問を抱くも、こちらにシールドが飛んできているのは間違いない以上、俺としては回避するしかなかった。
だが、回避したガーベラ・テトラに向かい、フルバーニアンが急速に間合いを詰めてくる。
投擲したシールドを目隠しとして、スラスターを全開にしての行動。
なるほど、下手に戦いを長引かせれば、フルバーニアンの状況から考えて勝ち目がないと判断したらしい。
実際、その判断は決して間違っている訳ではなく……だからこそ、俺もガーベラ・テトラを前に出す。
ビームサーベルを構え、近付いて来たフルバーニアンのビームサーベルの一撃を受ける。
しかし……甘い。
ガーベラ・テトラのビームサーベルの一撃を受けたのはウラキの技量としては奇跡的……というのは少し言いすぎかもしれないが、ラルとの訓練のお陰でそういう事を出来るようになったのだろう。
しかし、それでもフルバーニアンの動きを考えると、それが限界。
これ以上の一撃を回避するのはまず無理だろう。
そう思いながら、俺は既に次の行動に繋げていた。
右手のビームマシンガンを手放しつつ、右手の内側にあるもう1本のビームサーベルを射出し、右手で掴む。
同時にビームサーベルを発動しつつ、フルバーニアンに向かって振り下ろし……
「は?」
ビームサーベルの2刀流とでも呼ぶべき攻撃。
これで模擬戦は終わった。
そう思ったのだが、フルバーニアンはMSの動きとは思えないような身体の動きを見せ、右手のビームサーベルの一撃を回避したのだ。
それは、MSの構造的に無理だろうと思わせる、そんな動き。
意表を突かれ……そしてウラキにとって、その絶好のチャンスを見逃す筈もない。
俺にとっての予想外の動きのままこちらに向かってビームサーベルを振るってくるが、既にそこにはガーベラ・テトラの姿はない。
すでにショルダー・スラスター・ポッドを使い、その場から離れており……俺は左右の手を……正確には前腕部に装備されている110mm機関砲をフルバーニアンに向け……
「終わりだ」
次の瞬間、フルバーニアンの胴体……特にコックピット周辺が、ペイント弾で赤く染まるのだった。
「最後のウラキ少尉の動き?」
「ああ。正直なところ、あのビームサーベルの一撃を回避されるとは思わなかった」
模擬戦終了後、俺はニナと共にアルビオンの食堂でお茶を飲んでいた。
……ナスカ級もそれなりに設備は整ってるんだが、こういう生活関係の施設の充実という意味では、アルビオンの方が圧倒的に上なんだよな。
ナスカ級はあくまでも量産された巡洋艦でしかないのに対し、アルビオンは量産を殆ど考えられていない強襲揚陸艦だ。
そうなると、どうしてもアルビオンの方が金が掛かっており、生活施設の充実度もナスカ級よりも上になる。
その代わり、MSの運用能力を含めた総合的な戦闘力では、ナスカ級の方がアルビオンよりも上だとは思うが。
そんな訳で、現在の俺はアルビオンの食堂にいる訳だ。
ちなみに、こうして折角宇宙に出たのだからという事で、現在不死身の第4小隊の面々はキースと訓練を行っている。
そしてウラキは、フルバーニアンに付着したペイント弾の清掃。
……ニナの機嫌が微妙なのは、その辺も大きな理由だろう。
ニナにしてみれば、必死になってゼフィランサスをフルバーニアンに改修したのに、その最初の戦闘……模擬戦だが、それでもあそこまで一方的にやられてしまったのだ。
フルバーニアンに強い……もの凄い思い入れを持つニナにしてみれば、機嫌が良くなれという方が無理だった。
それでも今の俺との会話で、幾らかは機嫌も直った様子だったが。
「ああ、あれね。あの動きは……正直なところ、ゼフィランサスだった時からやろうと思えば出来ていたものよ。ただし、その時のウラキ少尉には機体のコントロールを完全に掌握するのは不可能だったでしょうけど」
「それが出来るようになったのは、ラルの訓練のお陰か。……けど、ウラキはフルバーニアンの性能を最大限に発揮していたんじゃないのか?」
「そうね。でも、今日のあの最後の動きは……うーん、何と言えばいいのかしら。一種の裏技や曲芸……いえ、これはちょっと言いすぎかしら? とにかく、普通の動きじゃなかったのは間違いないわ」
「ガーベラ・テトラでも同じ事が出来るのか?」
「……難しいでしょうね。あの動きが出来た理由は、以前にもアクセルに言ったと思うけど、ゼフィランサス……フルバーニアンに採用された特殊な機構によるものだもの。確かその機構はガーベラ・テトラのベースとなったガーベラには採用されていないから、全く同じ動きが出来ないと思うわ」
「そうか。……確か、その特殊な機構というのは、より人間に近い動きが出来るようになるとかいう奴だよな?」
「そうね」
「あの時のフルバーニアンの動きは、そういう系統じゃないように思えたんだが」
こちらのビームサーベルの一撃を回避した動きは、人間らしい動きかと言われると……正直なところ微妙だとしか言えない。
とはいえ、それでもフルバーニアンを開発したニナが言うのなら、そうなのだろう。
ガーベラ・テトラにはその機構を採用するのは難しいだろうが、現在ディアナで作っているというガーベラ・テトラ改ではそれを採用して欲しいところだ。
この辺についても、月に戻ったらディアナに要望をあげておくとしよう。
こちらの要望はかなり多いので、全てが採用されるとは思わない。
思わないが、それでも採用されたら儲けもの程度に思っておいた方がいいだろう。
「でも、そうじゃないと説明出来ないわ」
「そうだな。俺もそう思っておくよ」
「それはそれとして……」
話題を変えようというのか、ニナが俺に視線を向けてくる。
ただし、その視線には俺を恨むような色がある。
「最後の最後、あそこまでフルバーニアンにペイント弾を命中させる必要があったの?」
「少し力が入っていたのは認める。あの動きを見た直後だったしな」
「……その割には、ウラキ少尉の最後の一撃も簡単に回避したじゃない。全く、出来たばかりのフルバーニアンをあそこまで汚すなんて」
「ともあれ、フルバーニアンも完成した。ガーベラ・テトラも俺が思ったよりも使いやすいMSだった。これでこっちの戦力は揃った訳だ。後はソロモンの観艦式の襲撃を止めるだけだな」
俺の言葉に、ニナは真剣な表情で頷くのだった。