ウラキのフルバーニアンと、ニムバスのサイサリス。
その2機は、激戦と呼ぶに相応しい戦いを繰り広げていた。
……ウラキの技量ではニムバスと互角に戦うのは無理かもしれない。
そう思ったのだが、見た感じではそれなりにやり合えている。
あくまでもそれなりにであって、ウラキがかなり押されているのは間違いないが。
何故かウラキのフルバーニアンはビームライフルを使わず、ビームサーベルでニムバスとやり合っている。
一体何がどうなってそうなった?
そう思わないでもなかったが、とにかくウラキがニムバスと戦えているのは間違いなかった。
とはいえ、それでもニムバスの激しい攻撃にウラキは押されているが。
そもそも、何故ビームライフルを使わないのか、それが全く理解出来ない。
アトミックバズーカという強力な……強力すぎる武器を持つサイサリスだが、そのアトミックバズーカはMS戦で使えるようなものではない。
いや、そもそもソロモンの観艦式で使った以上、2発目は使えない。
そうなると、今のサイサリスで使える武器は強力なビームサーベルと頭部バルカンのみとなる。
であれば、何故かウラキが使っていないビームライフルを使えば、サイサリスとの戦いを有利に進められる筈だった。
勿論、サイサリスはフレキシブル・スラスター・バインダーがあり、機動性や運動性という意味では決してフルバーニアンには負けていない。
重装甲でありながら、高機動型の格闘戦用MSという一面もサイサリスにはある。
だが、それを言うのならフルバーニアンだってショルダー・バーニア・ポッドやユニバーサル・ブースト・ポッドのお陰で高い機動性と運動性を持つのだから、サイサリスとやり合えるだけの性能を持つ。
……ビームライフルがあれば、更に有利に戦えるだろう。
そう思っていたのだが……
「ああ、なるほど」
戦いの中で偶然こちらに流れてきたのだろう。フルバーニアンのビームライフルがガーベラ・テトラの映像モニタに表示される。
そこには一部が切断……恐らくビームサーベルによって切断されたのだろう痕跡があった。
考えてみれば当然の話だ。
サイサリスを操縦するニムバスにとって、フルバーニアンの攻撃で一番厄介なのはビームライフルだ。
重装甲のサイサリスだが、Iフィールドを装備している訳ではない以上、ビームライフルの攻撃を防ぐことは出来ない。
だからこそ、サイサリスに致命的なダメージを与えられるビームライフルは可能な限り素早く対処する必要があったのだろう。
この辺りの判断力はさすがと言うべきだな。
ここまではニムバスの予想通りに戦闘が進んでおり、このまま戦闘が進めばニムバスが勝利したかもしれない。
だが、ニムバスにとっての不運は、俺がここにいた事だ。
戦闘が行われている宙域に入り、2機のガンダムの戦いに介入出来るようになったところでガーベラ・テトラの背中に装備されていたシュツルム・ブースター・ユニットを排除する。
戦いが終わった後で余裕があれば回収は出来るだろう。
このシュツルム・ブースター・ユニットもガンダム開発計画で開発された装備の1つであるのは間違いないのだから、デラーズ・フリートの手に渡るのは避けたいところだ。
もっとも、この手の装備は別にこれが初めてという訳ではない。
ルナ・ジオンにおいては、1年戦争中にヅダの強襲型であるA型に換装した時、プロペラントタンクとブースターが一緒になったアサルトブースターを使ったりしていたし。
……あるいは、ガーベラ・テトラのシュツルム・ブースター・ユニットはそれを参考にして考えられたのかもしれないな。
そういう意味では、既にそれなりに運用されているのを知ってる以上、同じような装備をデラーズ・フリートが……いや、ジオン軍残党が装備してもおかしくはない。
実際、アサルトブースターやシュツルム・ブースター・ユニットとはちょっと違うが、アフリカのダイヤモンド鉱山跡に潜んでいたジオン軍残党……サイサリスをHLVで宇宙に上げた、あのジオン軍残党の中にも同じような装備をしていたMSがいたらしいし。
まぁ、それでもこのシュツルム・ブースター・ユニットは持ち帰れるのなら持ち帰るが。
「ウラキ、距離を開けろ!」
サイサリスと必死になってビームサーベルを使ってやり合っているウラキに通信を送る。
ウラキがサイサリスから離れたところで、ビームライフル……本来のガーベラ・テトラのビームマシンガンは加熱による冷却が必要なので、持っているのはガルバルディβのビームライフルだが、そのビームライフルを撃ち込むつもりだったのだが……
『うるさい、黙れ! 邪魔をするなぁっ!』
返ってきたのは、そんな怒声。
……あ?
一瞬苛立ったが、すぐに落ち着く。
何となく、本当に何となく状況が分かったからだ。
ウラキにしてみれば、自分の目の前でトリントン基地に侵入してきたニムバスにサイサリスを奪われた。
それこそ、ニムバスと会話すらしたらしい。
その為、ゼフィランサスに乗ってニムバスを追い、撃退された。
その後でバニングの率いる部隊が追撃を仕掛けた結果、バニング、ウラキ、キース以外は殺されている。
パワード・ジムに乗っていたパイロットも死んでいるらしい。
そしてバニング隊以外にもMS部隊がいたらしいが、こちらも全滅している。
更には、その追撃戦においてゼフィランサスはニムバスの操縦するサイサリスによって、大きな損傷を負っている。
ウラキにしてみれば、ニムバスは憎むべき相手……それこそ、宿敵といった存在となる。
それを表に出す事はなかったが、こうして実際に正面から戦うような事になった場合、今まで表に出さなかった感情が爆発したのだろう。
絶対に自分が倒す。他の者の手は借りないといったように。
あるいはラルによる訓練の悪影響……だったりはしないよな?
俺も、今まで数え切れない程の戦場を渡り歩いてきた身として、ウラキが今どのような状態なのかは分からないでもない。
分からないでもないが……だからといって、ウラキの我が儘を聞いてここで俺が手を出さないという事は有り得なかった。
「そうか。なら、俺は俺で勝手にさせて貰う。俺は引けと、サイサリスと距離を取れと言ったぞ?」
そう言い、ビームライフルの銃口をサイサリスに向ける。
ニムバスも当然ながら既に俺の存在には気が付いているだろう。
だが、自分に纏わり付いてくるウラキの存在が邪魔で、こちらには対処出来ない。
「死ね」
その言葉と共にビームライフルを撃つ。
だが、ニムバスはまるでその動きを理解していたかのように、シールドを……その分厚い、核兵器を使った時に使うのだろうシールドに隠れる。……ん?
今、一瞬……そんな違和感を抱くも、操縦する手は止まらない。
ビームライフルから発射されたビームは、シールドをあっさりと貫く。
Iフィールドは無理としても、ビームコーティングの類を使っていれば、あるいは1撃くらいはビームを防げたかもしれない。
だが、シールドはあくまでもアトミックバズーカを……核兵器を使った時の為の物である以上、そのシールドでビームライフルを防ぐ事は出来なかった。
あっさりとシールドは貫かれ……そのビームは、サイサリスに斬りかかろうとしていたフルバーニアンのすぐ側を通る。
頭に血が上っている状況であっても、さすがにビームライフルの一撃に向かって突っ込んでいくような事はなかったのか、ショルダー・バーニア・ポッドとユニバーサル・ブースト・ポッドを使ってサイサリスとの距離を取る。
『邪魔をするなぁっ!』
同時にウラキからの通信が入るが、それを無視。
ウラキについては、取りあえずこの戦闘においては第3勢力的な扱いとして認識しておけばいいだろう。
それで向こうがどのように認識するのかは分からないが、協力するというより利用するべき相手と認識しておいた方がいい。
……とはいえ、このまま放っておくとニムバスがウラキを撃破してしまいかねない。
そうならないようにする為には、ニムバスの意識をウラキから俺に向ける必要がある。
どうする?
一瞬そう思ったが、すぐに何をやるべきなのかを理解し、オープンチャンネルの通信を入れる。
オープンチャンネルにすると、俺とニムバスの会話をウラキにも聞かれてしまうが、向こうの通信帯を知らない以上、こちらとしてはそれを探るよりもオープンチャンネルにした方が手っ取り早い。
「久しぶりだな、ニムバス・シュターゼン」
オープンチャンネルで通信を送った瞬間、ゼフィランサスのビームサーベルの動きを回避したサイサリスの動きが一瞬乱れる。
本来ならゼフィランサスのビームサーベルの一撃を回避しつつ、サイサリスの強力なビームサーベルの一撃をカウンターで放つつもりだったのだろうが、その動きの乱れを見逃さずゼフィランサスは全力で回避する。
『何者だ、貴様』
数秒の沈黙の後、離れたゼフィランサスから更に距離を取りつつ、サイサリスからニムバスがオープンチャンネルで聞いてくる。
さて、これは本当に俺を俺だと認識してないのか。
それとも知っていても、それを表に出したくないから忘れたことにしてるのか。
その辺は俺にもちょっと分からない。
分からないが、サイサリスにビームライフルの銃口を向けながら、オープンチャンネルで返事をする。
「俺の事を忘れたのか? 1年戦争でお前を倒した俺を。あの時は、確かEXAMの一件だったが」
『……貴様……』
今の一言でようやく思い出したのか、あるいは思い出させられたのか。
とにかく俺を俺と認識したニムバスの言葉には、通信越しでも分かる殺気があった。
ニムバスにとっては、これで完全に標的がウラキから俺に移った訳だが……そんな中、ウラキがフルバーニアンのスラスターを全開にして、頭部バルカンを撃ちながらビームサーベルを手にサイサリスとの間合いを詰める。
その一撃は、かなり鋭い。
フルバーニアンの性能を十分に活かした一撃だったが……
『邪魔だぁっ!』
ニムバスが叫ぶと同時に、フルバーニアンの振り下ろしたビームサーベルの一撃を回避しざま、横薙ぎに……って不味い!
サイサリスのビームサーベルがフルバーニアンのコックピットを狙っているのに気が付くと、ビームライフルのトリガーを引く。
放たれたビームは、サイサリスの右肩のフレキシブル・スラスター・バインダーに命中し、破壊する。
その衝撃によってビームサーベルの一撃は本来の狙いから逸れ、フルバーニアンの頭部を切断するに留まる。
だが……次の瞬間にはサイサリスの蹴りがゼフィランサスの胴体に命中し、吹き飛ばす。
あれは、ちょっと不味いか?
サイサリスの蹴りが、フルバーニアンのコックピットがある辺りに命中したように見えた。
ただ、吹き飛ぶゼフィランサスの手足が動いてAMBACによってバランスを取ろうとしているように見えるので、恐らく大丈夫なのだろうと思っておく。
ともあれ、これでウラキのフルバーニアンは戦いから離脱した。
フルバーニアンのパイロットであるウラキは無事だったと思っておこう。
ウラキにしてみれば、自分が追っていた……それも俺の手助けをあそこまで怒鳴って断るような相手との戦いをこんなに早い段階で脱落することになるとは思っていなかっただろうが。
それでも、今の状況ではまだ生きている。
そうであるのは間違いないし、それがせめてもの救いだと思って貰った方がいい。
今のニムバスの攻撃で、ウラキの意識がまだあるのかどうかは分からないが。
もしかしたら、既に気絶している可能性もある。
というか、その可能性の方が高いのか?
そんな風に思いつつ、俺はビームライフルの銃口をサイサリスに……左手が動かず、右肩のフレキシブル・スラスター・バインダーも失ったサイサリスに向ける。
ウラキとの戦いは楽勝……とまではいかないが、そもそも今のサイサリスが、観艦式が行われている中に突っ込んでアトミックバズーカで核攻撃をし、そこから脱出している時にウラキのフルバーニアンと遭遇し、やり合っていた。
その最中に俺のガーベラ・テトラがサイサリスの姿を発見し……と、ニムバスにしてみれば、戦い……それもちょっとやそっとの戦いではなく、激戦の連続だ。
それを思えば、向こうはもう体力や気力を大分消耗しているだろう。
もっとも、だからといってこっちがそれを見逃すつもりは全くなかったが。
「さて、じゃあ……邪魔がいなくなったところで、戦いを始めようか」
『待て。その前に聞かせろ。……何故、貴様は腐った連邦に味方をする?』
少し……いや、かなり予想外な事に、ニムバスは俺に向かってそう聞いてくるのだった。