地球に向かっていたコロニーを、ソーラ・システムの照射の爆煙に紛れて空間倉庫に収納する。
つまり宇宙空間にあった爆煙が消えた後、そこにはもうコロニーの姿はなかった。
……さて、バスク、あるいはジャミトフはこの状況をどう思うんだろうな?
ソーラ・システムによってコロニーが破壊されたとは、幾らなんでも考えないと思う。
何しろ、もしソーラ・システムでコロニーが破壊されていれば、どうあってもコロニーの残骸が大量に出る筈なのだから。
だが、俺が空間倉庫に収納した以上、当然ながらそんな物はない。
バスクやジャミトフにしてみれば、一体何が起きたのか全く理解出来ないだろう。
ましてや、デンドロビウム共々ノイエ・ジールを……正確にはそれに乗っている俺を殺したと思っていたところで、普通に俺が生きているのを見た時、どう思うのかは本当に楽しみだ。
とはいえ、その辺をきちんと演出するにも、まずはルナ・ジオン軍と合流する必要があるんだが……どうするべきか。
シーマのナスカ級は俺が確保したコロニーを月に運ぶ為に移送してるし。
最終的には茨の園に運ぶって話だったが……ああ、それなら俺が入手したコロニーも茨の園に使ってもいいかもしれないな。
元々、茨の園ってのは廃棄されたコロニーとかを使ってるらしい。
そこに普通に使えるコロニーが1基に、俺が入手した、ソーラ・システムによって2度焼かれたはしたものの決定的な崩壊をしていないコロニーが1基。
これを使えば、茨の園の居住環境とかもかなり改善するような気がする。
茨の園についてはルナ・ジオンの拠点となるのは間違いないものの、それを連邦軍に知らせるかどうかは別の話だ。
……もっとも、強硬派だけを見ていればそうは思わないかもしれないが、連邦軍も別に無能が揃っている訳ではない。
連邦軍の中にも有能な人物は相応に存在するし、そのような有能な人物なら茨の園についての情報もいずれ入手出来るだろう。
デラーズ・フリートの多くは忠誠心や信念といったものによって結ばれているものの、だからといって全員がそういう訳ではない。
この戦いにおいても連邦軍に降伏した奴もいるだろう。
あるいは、キシリア派にしてみれば戦力を増強させる為に今回の一件を仕組んだ以上、デラーズ・フリートが拠点として使っていた場所は、そこにデラーズ・フリートの残党――ジオン軍残党の残党というのも妙な表現だが――が集まるのも面白くないから、連邦軍に茨の園をどうにかして貰おうと連絡をしてもおかしくはない。
キシリア派に戦力の余裕があるのなら、あるいは茨の園を自分達の拠点として使おうとしてもおかしくはないが、今のキシリア派にそこまでの戦力はないだろうし。
なら、茨の園はやっぱりルナ・ジオンが貰った方がいいのは間違いないだろう。
そんな風に思いつつ、未だに残っている爆煙に紛れ、さっきから使っている装甲板を離さないようにして移動する。
ルナ・ジオン軍からも、ペズンから監視する為の部隊を派遣してもおかしくはないだろうから、出来ればそこに接触したい。
あるいは……本当にあるいはの話だが、海賊と遭遇したりして、それを乗っ取ったりしたいな。
そんな風に思っていると、早速民間船を発見する。
いや、あれは……民間船じゃないな。
より正確には民間船ではあるが、どこかに行く為のシャトルとかそういうのではなく、ジャンク屋だ。
それも船にある会社のマーク……こういうのも社章と呼ぶのかどうかは疑問だが、とにかくそれはブッホ・ジャンク社のものだった。
ブッホ・ジャンク社というのは、ルナ・ジオンともそれなりに関係のあるジャンク屋だ。
ジャンク屋と一口に言っても、その規模は様々となる。
例えば、ルナ・ジオンにおけるジャンク屋というのは、その多くが個人……もしくはせいぜいが数人でやっているといった程度でしかない。
それに対し、ブッホ・ジャンク社は普通に会社で数百人……いや、千人規模だったか? ともかくかなりの規模で行っているジャンク屋だった。
何故俺がブッホ・ジャンク社について一定の知識を持っているかといえば、以前……まだルナ・ジオンが出来てすぐの頃、ブッホ・ジャンク社がルナ・ジオンに接触してきたのを知っていた為だ。
まだルナ・ジオンが出来たばかりの頃というのを考えると、ブッホ・ジャンク社の判断はかなり素早い。
今でこそ多くの企業がルナ・ジオンに接触してきているものの、ブッホ・ジャンク社はその中でもトップクラスに早かった筈だ。
……また、接触してきた企業の中でも、実際に月に支社を持つという会社は少ない。
月に支社を持つという事は、当然ながらその支社も月にある他の会社と同じく量産型Wやコバッタによって、違法行為をしていないかどうかをチェックされるという事なのだから。
そして違法行為をしていれば、当然ながら農場行きとなる。
だが、そんな中でもブッホ・ジャンク社は普通に月に、そしてクレイドルに支社を持っており、その上で量産型Wやコバッタの査察とかを受けても違法行為はしていない優秀な企業だ。
そのブッホ・ジャンク社がこの場に来たというのは……まぁ、その理由は分からないでもない。
ジャンク屋である以上、派手にMS戦が起きたこの宙域はこれ以上ない程に仕事をしやすい場所なのだから。
勿論、あの艦が月を拠点にしているとは限らない。
ここは地球の近くだし、他のコロニーや……あるいはフィフス・ルナにはアナハイムを始めとして多くの企業が誘致されているので、ブッホ・ジャンク社もフィフス・ルナに支社がある可能性は十分にあって、そこから派遣されてきた可能性も十分にある。
ともあれ、この船と接触する必要があるか。
……パイロットスーツ、空間倉庫の中に収納しておいてよかったな。
そう思いつつ、俺は空間倉庫から取り出したパイロットスーツを着る。
船の中で着るのならともかく、こうして宇宙空間の中で着るというのは違和感がある。
とはいえ、まさか混沌精霊としての力を隠すような事をしないで、そのままブッホ・ジャンク社の船に接触する訳にもいかないし。
そんな風に思いながらパイロットスーツを着終わると、船に向かう。
当然、船の方でも自分達に近付いてくる俺の存在に気が付いたのだろう。
格納庫に続くのだろう扉が開き、そこを示すようにランプが点滅する。
素直にそこに入ると……そこには、警備兵と思しき銃を持った2人の男が立っていた。
無理もないか。
誰から聞いたのかちょっと忘れたが、ジャンク屋をやっていると結構危険な目に遭うらしい。
具体的には、見つけたジャンクの所有権を争って他のジャンク屋と対立したり、あるいは海賊やジオン軍残党と遭遇したり。
勿論、そういうのに遭遇するのはジャンク屋だけではなく、コロニー間を移動している船や地球と宇宙を行き来する船も海賊やジオン軍残党と遭遇する機会はある。
だが……ジャンク屋の場合、求めるのは当然ながらジャンクだ。
そのジャンクというのも、それこそ戦闘機やMS、軍艦といった物であったり、中には資源用に小惑星を確保したり、破壊されたコロニーの残骸を確保したりもする。
そんな中、特に最初に上げた戦闘機、MS、軍艦といった物は、海賊やジオン軍残党にとっても、その部品は自分達の使っている兵器の補修部品であったり、予備部品であったり、性能を上げる為の強化に使ったりといった事で欲したりする。
特に海賊やジオン軍残党の場合、そういうパーツを正規のルートで購入出来ない以上、危険を覚悟の上で連邦軍の軍艦を襲うか、もしくは連邦軍の基地を襲うしかない。
そのような危険を避けたい場合、最終的に辿り着くのがジャンク品だった。
だからこそ、ジャンク品を集めに来るジャンク屋は、海賊やジオン軍残党にとって商売敵でもある。
ましてや、ジャンク屋同士なら仮にも同業という事で暴力沙汰にはなっても、相手を殺すといったことはない……訳ではないが、意図的に殺すというのは少ない。
それに対して、海賊やジオン軍残党は最初から殺す気で攻撃してくるとかなんとか。
ブッホ・ジャンク社の者達にしてみれば、俺を海賊やジオン軍残党の一味かもしれないと思っても、おかしくはない。
『悪いが、武装を解除して欲しい』
警備兵の1人が俺にそう言ってくるが、俺は武器を持っていない。
いや、勿論空間倉庫の中には大量に武器が入っているし、それを抜きにしても素手で十分人を殺せるだけの実力を持っているのだが。
「見ての通り、武器らしい武器は持っていない。MAから脱出する時に武器を持ち出す余裕もなかったしな」
取りあえずそういう事にしておく。
すると警備兵達は俺の言葉に訝しげな表情を浮かべる。
無理もないか。
これがMSなら、まだ向こうも納得出来ただろう。
だが、MAとなれば……存在は知っていても、実際に見た事がない者もいる筈だ。
実際にはルナ・ジオン軍にはケリィ率いるMA隊があったりするのだが。
ただ、当然ながらMAはコスト的な問題であったり、操縦方法がMSと大きく違っていたりという事もあり、そこまで規模は大きくない。
……それでもMAを部隊単位で運用でしているというだけで、特別なのだが。
『その……よろしければ名前を聞かせて欲しい』
俺がMAを操縦していたという事で、向こうの態度は多少和らぐ。
ブッホ・ジャンク社の者達がどこまであの戦闘を把握していたのかは分からないが、MAについてとなると、派手に動いていたのは俺のノイエ・ジールとエリックのデンドロビウムだけだ。
……うん? そう考えれば、俺がMAに乗っていたと口にしても、ノイエ・ジールに乗っていたパイロットだとは把握出来ないんじゃないか?
もしかしたら、デラーズ・フリートのエリックである可能性もあるんだし。
「ルナ・ジオン軍所属、アクセル・アルマー中尉だ。今回は救助を感謝している」
いっそムウ・ラ・フラガとでも名乗ろうかと思ったのだが、ノイエ・ジールに乗っていると言ってしまった以上、ムウの名前を名乗っても間違いなく混乱するだけだ。
あ、でもそうだな。俺がそうだったように、ドラッツェをMAと勘違いしていたら……別にどうしてもそういうことをしたい訳じゃないのだが。
ともあれ、ルナ・ジオン軍の中尉だと名乗ると、先程和らいだ雰囲気が更に友好的なものとなる。
ブッホ・ジャンク社の者にしてみれば、ルナ・ジオンは友好的な国という認識なのだろう。
実際、ジャンク屋というのは世間から良い目で見られない事も多い。
そんな中、ルナ・ジオンでは相応の対応をしているので、それがブッホ・ジャンク社の者達にとっても嬉しいらしい。
『ルナ・ジオン軍の方でしたか。……MAに乗っていたと聞きましたが、よく無事にここまで来られましたね』
ブッホ・ジャンク社の船がいるのは、戦場の外側だ。
警備兵にしてみれば、戦場からここまでやってくるのはとんでもない幸運だと思ったのだろう。
まさか、俺が生身でも宇宙を移動出来るような能力を持ってるとは分からないらしい。……当然か。
「幸運だったからな。それで、出来れば月……それが無理なら、ペズンまで送って欲しい。勿論、その場合は政府から相応の報酬は出ると思うけど……どうだ?」
『申し訳ありませんが、自分達はあくまでも警備兵でしかないので。その辺については、上の者に決めて貰う必要があります』
「なら、その辺の伝言を頼む」
『はい。えっと、アクセル中尉でしたか。アクセル中尉にはその……出来ればゆっくりとして貰いたいのですが、この船にはそういう場所はあまりなくて……』
「なら食堂かどこかで待つよ」
そう言うと、警備兵は安堵した様子で俺を案内する。
なお、途中でパイロットスーツを脱ぐと、警備兵に驚かれた。
現在の俺の外見は10代半ばなので、それも無理はないか。
そんな若い……それこそ子供と呼んでもいいような相手が、MAに乗っていてそれが撃破され、機体を脱出してこの船までやってきたのだから。
「えっと……その、一応、本当に一応聞くけど……ルナ・ジオン軍の中尉で間違いないんだよな?」
恐る恐るといった様子で警備兵が聞いてくる。
口調も数秒前とは違っていた。
「ああ、勿論だ。ペズンなり月なりに行けば、俺の身分照会は出来るから安心してくれ。……この場所からだと、やっぱりペズンが近いか?」
「……分かった。じゃあ、食堂に行く……あー、その。うちはジャンク屋で、気性の荒いのが揃ってるから、絡んでくる奴もいるかもしれないけど、その時は……」
「問題ない。適当に対処するから」
「本当に大丈夫なのか?」
この警備兵、人が良いな。
そう思いつつ、俺は警備兵に問題ないと頷くのだった。