こっちに近付いて来たニナ……ルセットとの追いかけっこで荒くなっていた息がようやく落ち着いた様子のニナが、俺とルセットの会話に入ってくる。
……多分、俺とルセットの会話は聞こえていたが、息を整えるのが最優先で何も言えなかったんだろうな。
「Iフィールドについては、私はアクセルの意見に賛成よ。……個人的な事を言えば、MAではなくMSもIフィールドを使えるようになるのが一番だと思うけど」
ニナのその言葉に、確かにと頷く。
Iフィールドはビームライフルやメガ粒子砲に対しては絶対的な防御能力となる。
……ちなみに、ビームライフルとメガ粒子砲、あるいはビームガンとメガ粒子砲といったように言い分けてはいるが、これは実際には同じものだ。
それでも言い分けているのは、単純にその武器の威力や規模によるものだな。
ガーベラ・テトラが装備していたビームガンやビームマシンガン、あるいは一般的なビームライフル。そういうのを標準として、一定以上の威力を持つビーム兵器をメガ粒子砲やメガカノン砲、偏向メガ粒子砲といったようにしている。
そういう意味では、ノイエ・ジールの偏向メガ粒子砲は普通に一般的なビームライフル以上の威力を持っているんだよな。
もっとも、これはあくまでも俺の感想であって、正確な分け方とかもあるかもしれないが。
とにかく、Iフィールドはその手のビーム兵器に対して絶対の盾とも呼べるだけの性能を持つ。
勿論、本当の意味で絶対ではない。
Iフィールドはあくまでもフィールドである以上、そのフィールドの内側に入ってしまえば普通にビームライフルなり、ビームサーベルなり、あるいはそれ以外のビーム兵器なりを使える。
また、Iフィールドはビーム兵器に対しては絶対の防御力を誇るが、それはあくまでもビーム兵器に対してだけであって、実弾兵器については無意味だ。
後は……これはこの世界でやるのはちょっと難しいかもしれないが、Iフィールドというのはその性質上ミノフスキー粒子を使ったビーム兵器でないと弾く事は出来ない。
つまり、他の世界のビーム兵器とかはIフィールドでは防げない訳だ。
……あ、でもそうだな。他の世界のビーム兵器は無理でも、UC世界においてもレーザー兵器とかは一応あった筈だ。それを使えば、Iフィールドを貫通してダメージを与えられるだろう。
後は……まぁ、これは俺にしか出来ないが、精神コマンドの直撃。
実際、デンドロビウムと戦ってる時も精神コマンドの直撃を使ってメガ粒子砲でダメージを与えたし。
色々と穴はあるが、Iフィールドというのが非常に強力なのは間違いない。
ただし、それを使うにはかなりの出力が必要だったり、デンドロビウムを見れば分かるように大型になってしまう。
ノイエ・ジールのように小型化して分散をすれば、MSにも……と思わないでもなかったが、小型化というのはあくまでもMAの認識からであって、それをMSに搭載するのは難しい。
将来的にその手の技術が発展してからなら、もしかしたらMSにIフィールドを搭載出来るようになるかもしれないが……それがいつになるのかは分からない。
あるいはIフィールドの技術が発展するよりも前に、もっと別のビームに対抗する為の技術が発展する可能性も十分にあった。
矛盾という言葉がある。
だが、現状においては圧倒的に矛の方が強く、盾は何の役にも立たない。
せいぜいが素早く動き回ってビームに当たらないようにするか、もしくはビームライフルやビームサーベルを使って相手のビームを撃ち落とすなり切り捨てるなりするか。
もっとも、後者は相当の凄腕……それこそ異名持ちの中でも一握りの者達くらしか出来ないだろうが。
「MSがIフィールドを使う、か。いつかそういう時代は来るだろうけど、それがいつになるのかは微妙なところだな」
「Iフィールドの件はいいとして、デンドロビウムはどうなったの?」
ルセットの言葉で話が元に戻り、俺は少し考えてから口を開く。
「コロニーを破壊する為に、俺は一時的にだが強硬派と手を組む事になった。正確には俺がデンドロビウムを押さえるから、その間にソーラ・システムの準備を完了してコロニーに照射し、破壊するといった事を狙ってな」
「……信用出来るの?」
訝しげな様子で言うのは、ルセット。
ラビアンローズでの一件……ナカトの一件があっただけに、余計にそう思ったのだろう。
強硬派なのに、ラビアンローズを襲ってきたデラーズ・フリート……シーマの古馴染みであるゲール達に即座に降伏……どころか、寝返ったという、ナカトの一件で。
そして実際、ルセットの言葉は正しい訳で……
「結論から言うと、信用は出来なかったな。デンドロビウム……オーキスから脱出してステイメンで俺に攻撃してきたんだが、俺がそれを倒したところでコロニーにソーラ・システムを照射した。……間にいるノイエ・ジール諸共にな。俺はそれに気が付いたから、咄嗟に脱出出来たけど」
実際にはノイエ・ジールを守る為にコックピットから出て、ノイエ・ジールを空間倉庫に収納したタイミングでソーラ・システムが照射され、俺はソーラ・システムの一撃をまともに食らう事になった訳だが……その辺については黙っておこう。
ニナにも俺が人間ではなく混沌精霊だといった話はしてないし。
なら、ルセットに言える筈もない。
「……よく無事だったわね」
しみじみとルセットが言う。
ニナの方は、俺に心配そうな視線を向けていた。
「実際、危なかったのは間違いないけど……何とかな。ノイエ・ジールは現在ペズンで修理中だ」
そう誤魔化しておく。
「それで、デンドロビウムは?」
「俺も自分が逃げるので精一杯だったしな。ステイメンもオーキスも、ソーラ・システムによって消滅したよ」
今にして思えば、あの時にはもうエリックが死んでいたんだし、オーキスやステイメンもそんなに離れた場所にあった訳ではないのだから、そっちも空間倉庫に収納しておけばよかった。
今更の話だが。
「そう……」
様々な感情が入り交じった、複雑な表情を浮かべるルセット。
ルセットにしてみれば、自分の開発したデンドロビウムが消滅してしまった事は残念だろうし、コロニー落としを行おうとしていたのを止めたというのは嬉しいだろう。
他にも色々と俺には理解出来ないような様々な感情によって、この表情がある筈だ。
もっとも、デンドロビウムはこれで本当になくなった訳ではない。
各種データは勿論、実機もルナ・ジオンを通してシャドウミラーに献上される予定になっているし。
「ともあれ、星の屑についてはこんな感じだったな。……シーマ、月に到着するまでは、まだそれなりに時間があるんだよな?」
「うん? まぁ、そうだね。だからアクセルはゆっくりとしているといいよ。色々とあって疲れただろうし」
「そうさせて貰うよ」
実際、コロニー落としを……星の屑を止める件でここまで疲れるというのはちょっと予想外だった
実際にはまだ動こうと思えば色々と動けたりするのだが、星の屑を止めた今、急いで何かをする必要はないし。
あるとすれば、それこそ茨の園に行った時か。
デラーズ・フリートの中で、もしかしたら出撃しないで茨の園に残った奴もいるかもしれないし、もしくは出撃したが星の屑を失敗した者達が茨の園に向かっていてもおかしくはない。
そして……当然ながら、そういう連中は大人しく降伏したりとかはしないだろう。
MSがあれば宇宙で、なければ茨の園の内部での生身での戦闘になる。
どちらにせよ、俺の出番になるな。
ドラッツェの生産ラインの回収とか……こちらはあまり……殆ど……全く期待出来ないが、もしかしたらキシリア派に関する情報が残っている可能性も否定出来ない。
今回の星の屑によって、キシリア派は結構な数のデラーズ・フリートの残党を吸収しただろう。
そうなるといつか……それもそう遠くないうちに、キシリア派が何らかの行動を起こす可能性は十分にあった。
それに繋がる情報を入手出来ればいいんだが。
そう思いながら、俺はナスカ級に用意された部屋に向かうのだった。
コンコン、と。
部屋の扉をノックされる音で目が覚める。
「誰だ?」
『アクセル、私よ。……ちょっといい?』
気配からも分かっていたが、聞こえてきたのはニナの声。
部屋に用意された時計を確認すると、どうやら2時間くらいは眠っていたらしい。
身体の疲れがほぼ全快してるのを感じつつ、扉に……その先に向かって言う。
「いいぞ」
そう言うと共に、ベッドの上に置き上がり、ソファ代わりに座る。
同時に、部屋の扉が開く。
そこにいたのは予想通りニナだったが……俺が予想していたのと違うのは、どこか真剣な表情だった事だろう。
もしかして、俺が寝ている間に何かあったのか?
そうも思ったが、もしそうなった場合、シーマはすぐにこの部屋に連絡を入れるだろう。
つまり、星の屑関係……正確にはそれを阻止した関係で何かがあった訳ではなく、個人的な理由でここに来たのだろう。
個人的な理由……個人的な理由か。だとすれば、もしかして。
そんな風に思っていると、部屋の中の様子を見ていたニナが部屋に入ってくる。
別に部屋の中の様子を見ても、この部屋はあくまでも臨時で借りてるだけの部屋なので、特別に俺の部屋って訳でもないんだが。
私物の類も置いておらず、本当にただ使わせて貰ってるだけの部屋だ。
「そっちに座ってくれ。……士官用の部屋だけど、そこまで広くなくてな」
ナスカ級は、巡洋艦としては突出して大きい訳ではない。
また、ベースとなっているSEED世界でザフトが使っていたナスカ級を改修し、MSの搭載数を多くしたりもする。
そうなると魔法とかそういうのを使ってない以上、船の広さというのは限られているので、どこかに皺寄せがある。
その皺寄せが、部屋の数であったり広さであったりする訳だ。
その為、シーマが使っている艦長室ならともかく、俺が借りたような士官用の個室であっても、そこまで広くはない。
もっとも、俺が借りたのはあくまでも寝る為の部屋なので、部屋の中がそこまで広くなくてもベッドが普通に使えるのなら何の問題もない。
例えばこれで、ベッドも狭くて寝るのにも苦労するのなら、不満を抱いたりもしたかもしれないが。
「別に気にしてないわよ。……アルビオンの方が部屋は広かったと思うけど」
「その辺は艦としての性能の違いというのもあるんだろうな」
アルビオンはガンダム開発計画の為に特別に作られたペガサス級だ。
それに比べて、ナスカ級は最新の巡洋艦とはいえ、あくまでもルナ・ジオン軍で量産された軍艦なのだ。
どうしてもそこに掛けられた金とかでは、アルビオン級よりも劣ってしまう。
……もっとも、軍艦としての性能ならナスカ級はアルビオンにも決して負けていないとは思うが。
「それで、アクセル。私がここに来た理由なんだけど……」
アルビオンやナスカ級について少し話をして、ある程度ニナが落ち着いたところでそう声を掛けてくる。
「ああ。……まぁ、何となく理由は分かっている。俺との件だろう?」
「ええ」
短く答え、頷くニナ。
そしてニナが何かを言おうとして口を開きかけ、結局何も言わないといった事を数分繰り返し……やがて意を決したかのように口を開く。
「私はアクセルが好きよ。それは間違いない。でも……その、私が今まで育ってきた環境……いえ、それはちょっと違うわね。私の性格上、ハーレムの一員となるのは無理だと思うわ」
「……だろうな」
ニナの言葉は、別に特別なものではない。
勿論、UC世界にもハーレムを築いているような者はいるだろう。
だがそれでも、ニナの常識で考えるとそれを受け入れる事は出来なかった。
ただ、それだけの話なのは間違いない。
「……ごめんなさい」
「別にニナが謝る必要はない。俺の状況が色々と普通じゃないというのは、自分で十分に理解しているしな。そういう意味では……こう言ってはなんだが、ニナの方が普通の、一般的な感覚を持ってると言っても間違いではないだろうし」
「でも、その……私はアクセルが好きなのに……」
「無理をするな。ここで無理をして俺と付き合うようになっても、今はよくても、将来的に問題が起きる」
「……そうね。でも……ねえ、アクセル。私はアクセルの恋人にはなれない。だけど、アクセルが好きなのは間違いないわ。この気持ちを切り替える為にも……一夜の思い出を貰えるかしら」
「後々、傷つくだけかもしれないぞ?」
「それでも、私がアクセルを好きなのは間違いないし、この気持ちは決して軽いものじゃないの。だから……お願い」
座っていた椅子から立ち上がり、俺の方に近付いてくるニナ。
俺はそんなニナの姿に覚悟を決め、座っていたベッドから立ち上がると、そのままニナを抱きしめ、唇を重ねるのだった。